From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (85)
第85話 巨人撃破
悠真は攻撃の手を緩めず、すぐさまゴーレムの左足に向かって駆け出す。凄まじい速度で移動したため、ゴーレムは反応できない。
今度は左の‶正拳突き″を石柱のような足に叩き込んだ。
轟音が鳴り響き、ゴーレムの足が大きくヒビ割れる。グラリとよろめく魔物に、悠真はさらなる追撃をかけるため、グッと身を屈めて大地を蹴った。
足元は爆散し、その勢いで飛び上がった悠真は鋼鉄の弾丸と化す。
そのまま巨人の顎に頭突きが炸裂。兜についている角が当たり、顎が割れた魔物は
堪
らず
踏鞴
を踏む。
息をもつかせぬ三連撃。地面に着地した悠真は、眼前の敵を睨みつけた。
◇◇◇
「すげーぞ、悠真のヤツ! あの馬鹿でかいゴーレム相手に押してやがる!!」
戦いを見ていた社長が興奮してアイシャを見る。アイシャは不敵に微笑んで、納得するように頷く。
「確かに……だいぶ力が使えるようになってきてるようだ。だが完全にリミッターが外れた訳じゃない。100%解放できれば、あんなもんじゃないだろう」
「あれでもまだ完全じゃねーのか!?」
社長は呆れるように悠真を見る。悠真はよろめくゴーレムとは逆方向へ走り、距離を取っていた。
「あいつ、なにやってんだ? せっかく畳み掛けてたのに」
困惑する社長とは違い、アイシャはニヤリと微笑む。
「なにか考えがあるようだ。面白そうじゃないか」
悠真は地面を蹴り、ゴーレムに向かって駆けだした。助走をつけた分、勢いに乗って加速してゆく。
そのままゴーレムのどてっ腹目がけて跳躍。
体を丸め、回転しながら突っ込んでいく。『液体金属化』の能力で悠真の体はドロリと溶け、ゲル状の球体になってからスパイクの付いた巨大な鉄球へと姿を変える。
次の瞬間―― 落雷のような音を立て、鉄球がゴーレムに衝突した。
ゴーレムの胸元は衝撃で砕け、岩の破片が辺りに飛び散る。
巨躯の魔物は体勢を維持することができず、グラリと背中から倒れた。
ドスンッと重々しい地響きと共に土煙が舞い上がると、ゴーレムに激突して空中に放り出された鉄球は、再びゲル状の球体に変わり、そこから金属の鎧を纏った人型へと姿を変える。
悠真はクルクルと回転して地面に着地した。
「やった! 悠真が圧倒してる!!」
体を変化させる攻撃方法に社長も目を見張る。アイシャもまた感心していた。
「フフ、自分の能力を使いこなし始めてる。ああなると手がつけられないね」
倒れたゴーレムの体を、悠真は駆け上がる。右手の甲に収納されている剣を伸ばし、破損している胸に殴るように突き立てた。
剣は深々と刺さり、八方に大きな亀裂が走る。
ゴーレムは‶核″を破壊されれば動きを止める。今まで出会ったゴーレムは大抵胸か頭に核があった。
今回もどちらかだろうと思い、全力で破壊しようとしたが――
「うっ!?」
悠真の体がガシリと拘束される。ゴーレムの左手に掴まれていた。
上に持ち上げられ、規格外の握力で締め付けられる。鋼鉄の体がミシミシと音を立てる。
「ぐ、この……」
悠真は体に力を込めた。雄叫びの如く叫んだ瞬間、全身から数百本の黒い突起物が伸びる。
トゲではない。より破壊力を増した長い‶剣″だ。
その剣が手を貫くと、一瞬握力が緩む。悠真は『液体金属化』能力で体をゲル状に変え、ゴーレムの手からドロリと零れ落ちた。
再び『人型』に戻ると、すぐに駆け上がりゴーレムの顔まで行く。
――胸に‶核″が無いなら、頭を狙うまで。
悠真は両手をかかげ、頭上で手を合わせる。合わさった両手は境目を無くし金属の球体となった。
球体はすぐに形を変えてゆき、大きな斧となる。
「うおおおおおおおおお!!」
振り下ろされた斧はゴーレムの顔面に食い込み、顔の半分近くを粉砕した。なおも動こうとする巨人に、今度は首元に斧を叩き込む。
首から胸にかけて岩が大きく割れ、その衝撃でヒビが全身に回る。
それでもゴーレムは死ななかった。ボロボロになった左手でもう一度掴みかかろうとしてくる。
悠真は振り返って、思い切り斧で薙ぎ払う。ゴーレムの手は斬り飛ばされ、手首は回転しながらドスンと地面に落ちた。
悠真は再びゴーレムを見据え、斧を高々と頭上にかかげる。
全身に流れる
血塗られた
鉱石
の赤い血脈が輝きを増していく。体温は上昇し、体の中から溢れ出す力を悠真は感じていた。
――今なら最大限の力が発揮できる。
迷いなく振り下ろした巨大な斧をゴーレムの胸元へ叩き込んだ。凄まじい破壊音、そして洞窟内を駆け巡る衝撃。
ゴーレムの‶核″が胸の付近にあったのか、あるいは体の損壊が臨界点を超えたのか、巨大な魔物は完全に動きを止めた。
体はボロボロと崩れ落ち、砕けた岩の一つ一つが砂へと変わってゆく。
「ハァ……ハァ……やった」
砂の上に立っていた悠真は腕を元に戻し、サラサラと消えていく砂をただ見つめていた。体から力が抜けてゆく。どうやら時間が経ち『金属化』が解けたようだ。
「悠真!」
岩陰に身をひそめていた社長とアイシャが駆け寄って来る。
「やったな。体は大丈夫か?」
社長に言われて自分の体を見渡すが、特に問題はない。
「大丈夫みたいです」
それを聞いたアイシャは笑みを零す。
「あれだけの力を使って支障がないなんて、改めて君の能力に敬服するよ」
「アイシャさん。俺、リミッターの解除って、ちゃんとできてましたか?」
「いや……まだ完全とは言えないな。恐らく通常の倍ほどの力は出ていただろうが、最大限までにはほど遠い」
「そうですか、やっぱり難しいですね」
悠真は苦笑いを浮かべ、ぽりぽりと頬を掻く。
「とは言え、君の鍛えた体の基礎体力。それに鉄や鉛、銀などの身体強化分。そして
血塗られた
鉱石
の十五倍近い‶超パワー″。加えて筋肉リミッター解除による筋力倍化だ。通常時の三十倍以上の力が出てたと思うからね。充分『超人』の領域だと思うよ」
「そんなにですか……」
「まあ、それだけ力が出ると今度はコントロールするのが難しくなるが、それも訓練していけばうまくなるだろう。今後も鋼太郎に鍛えてもらえばいい」
「はい、そうします!」
「おうよ、任せとけ」
社長が「よくやった!」と悠真の頭をわしゃわしゃと撫でている中、アイシャは消えゆくゴーレムの砂に目を落とす。
「あれは……」
アイシャはしゃがみ込み、砂の合間で見つけたものを大切そうに手に取った。
それは今まで見たことが無いほど大きい『銀の魔鉱石』だった。