Kanna no Kanna RAW novel - chapter (188)
第百七十六話 ルビって本当に便利だと思います
ちょっとまて。ということはアレか。
──世が世ならレアルは一国のお姫様だったってわけかよ。
つか、身近にお姫様が二人いるとかどうなんだよ。別に狙ってたわけじゃねぇんだぞ。
や、まて。ファイマはユルフィリアの王族。
で、レアルはエルダフォス王家の血筋。
クロエの奴は、過去の言動から良いとことのお嬢様である可能性は高いのだが……まさかなぁ。
俺たちが言葉を失っている最中に、フォースリンが口を開いた。
「実はかねてより、失踪していた我が娘──レイリーナの捜索は続けていたのだよ」
その言葉を聞いた俺は「おや?」と記憶を呼び覚ました。
「──や、でも確かリーディアルの婆さんからは……」
「ほぅ……『千刃』から話は聞いていたのか」
千刃──確か
婆さん
の冒険者現役時代の二つ名だったか。
婆さんの話が正しければ、失踪したレイリーナの捜索願いは、その依頼元──つまりは彼女の実家であるフォースリン家から打ち切られたはず。その後は婆さんが個人的にレイリーナの行方を追っていたはずなのだが。
「彼女と個人的な知己であるのならば、ドラグニルで名を上げ始めているというのもハッタリではなさそうだな」
フォースリンが値踏みするような目でこちらを見る。
公人としての自制心か。あからさまでは無かったが、小さな嫌悪感が滲んでいるのを俺は見逃さなかった。
ハーフエルフとはいえ、己の孫娘であるレアルならともかく、紛れもない人族である俺がこの場に居合わせるの快く思っていないのだろう。
だとしても、頭ごなしに侮蔑するような人間で無いのが救いだな。
「確かに、彼女には捜索の打ち切りを告げた。だが、それとは別に我々は我々で娘の捜索を続けていたのだよ」
「あの婆さんだったら、時間さえかければ効果は出たような気がしますがね」
「残念ながら彼女は竜人族だ。知っているだろう。過去にエルダフォスとディアガルが戦争をしていたのは」
フォースリン家は娘との事もあり、リーディアルの事は個人的に信頼していた。
だが、エルフ族の中には竜人族を快く思わない者が多い。当ての無い捜索依頼を続けていれば、やがてフォースリン家に対する不満な噴出する恐れがあった。
「レイリーナと仲良くしてくれた千刃には申し訳なかったが、我がフォースリン家はエルダフォスを支える柱。大事な娘の事とはいえ、私事で政に影響が出ては問題がある」
そこで仕方がなく
千刃
との契約を解除。その後、フォースリン家は独自に娘の捜索を続けていたというわけか。
少し気になる点がある。
レイリーナがエルダフォスの──フォースリン家から失踪したのは、二十年以上も前の話だ。
「……私は産まれも育ちもドラグニルです。その間に、エルダフォスに関わる者からの接触は一度もありませんでした。どうして今頃になって私の存在を?」
俺の考えていたことと全く同じ内容を口にするレアル。
疑問に答えたのはエルダフォス王だ。
「今は降格されたとはいえ、血を分けた実弟の娘だ。エルダフォス王家も裏では捜索に協力していた。そして遂に、信頼できる筋からレイリーナの娘が存在している事実を突き止めたのだ」
「信頼できる筋とは?」
「そなたも宮仕えならば予想できるだろう?」
「……ええ、そうですね」
レアルはあえて深くは問わなかった。
一国を収める王家だ。お抱えの諜報員くらいはいて当然。ただそれを表立って肯定するはずもないか。
俺はふと同室にいるメイドさんに目を向けた。
──やはり、端正な顔たちではあるのだが、胸はぺったんこである。
「知らせを受けた時点で、レイリーナが既に亡くなっている可能性が大きいとも聞かされていた。あの子を探している間、そのことはずっと覚悟をしていのだが……な」
そう言ったフォースリンは深く息を吐き出した。長年探し続けていた娘の訃報に、彼の胸中は決して穏やかでは無いだろう。
「……それで、私をどうするおつもりなのでしょうか?」
話を聞いたレアルは少しの間を置いてから、フォースリンたちに言った。
「もう調べは付いていらっしゃるでしょうが、私の躯にはエルフの血だけでは無く、竜人族の血も流れています。それをどうお考えで?」
例え半身は王家の血族であろうとも、レアルはハーフエルフ。それはエルダフォスでは最も忌み嫌われる出自。
俺としては
竜人族の遺伝子
万歳であるが、エルダフォスの民衆的には
純血エルフ
万歳なのであろう。
や、産まれてくる子が
純血エルフ
であるのが望ましいだけで、
豊かなお胸
には憧れはあるかもしれない。
胸の大小はさておき
。
「確かに、エルダフォスでは何よりも純血のエルフが尊ばれている。王家の血筋ともなれば特にだ」
レアルの問いかけにエルダフォス王が頷き答える。
「ただ……何事にも例外とはつきものだ。純血でなくとも……否、純血で無いからこそ価値ある場合も存在している」
「それはいったいどういう──」
「理由はそなた自身が一番よく知っているはずだ。他ならぬ『父親』の事であるからな」
父親──とエルダフォス王が口にした瞬間、レアルは目を見開き驚く。
「まさか
王
は!?」
「さよう。私も我が弟ディウェルトも知り得ているのだよ。そなたの躯に流れる血筋の半身──その正体をな」
……え、なにさ。どゆこと?