Kanna no Kanna RAW novel - chapter (192)
第百八十話 平原の中に突如として現れた山脈と渓谷
──レアルの出生に関する話を聞かされてから一週間後。
「どう、カンナ。似合ってる?」
「ドレス着ると本当に様になるよなぁ、お前」
「
実家
では、ほとんどこんな感じの格好だったものね。慣れみたいなものよ」
エルダフォス王家が手配した宿の一室で、ファイマが身に纏ったドレスを見せつける様にくるりと回る。
「ううぅ……下半身が〝すーすー〟するでござる」
一方、手慣れた様子のファイマとは違い、クロエは頬を赤らめ俯いていた。
彼女も黒を強調としたドレスを纏っており、所在なさげにスカートの裾を押さえていた。
「拙者、あまり似合っていないような気がするでござる」
「俺からしてみたら、普段の格好とのギャップがあって凄く似合って見えるけどな」
「そ、そうでござるか?」
俺が素直な感想を述べると、クロエは安心したようにヘニャリと笑った。相変わらず単純な奴である。まぁ、そこが可愛いのであるが。
「そう言うカンナも似合ってるわね、その格好」
「そうでござるよ! 今日は一段と男前が増しているでござるよカンナ氏!」
「そりゃどーも」
かくいう俺も、滅多に着ない
紳士服
に袖を通していたりする。クロエと同じく、どうにも〝馬子にも衣装〟という気持ちが強いので返しはテキトウだ。
さて、どうして俺たちが着飾っているかと言えば、発端は一週間前。レアルの出生に関してエルダフォス王から聞かされた日のまで遡る。
「早速で悪いが、竜剣には動いて貰うぞ」
「……私に何をさせるおつもりでしょうか」
緊張を孕んだ声を発するレアルに対して、フォースリンの代わりにエルダフォス王が答えた。
「そなたのお披露目だ」
題目としては『種族間の壁を越えた男女愛の末に産まれたご令嬢の帰還』といった具合だ。
主賓はレアル。
そして俺たちは招待客兼主賓の護衛としてそのパーティーに参加することとなったのだ。
招待したのはフォースリンと言うことになっているが、実質王からの要請だ。エルダフォス側からも何人か人を出すことになっているが、それよりも付き合いの長い俺たちの方が寄り適任だろうと言うことになった。
俺としては普段の冒険者装備の方が動きやすいしクロエも同じであったが、
主賓
の側にいる人間が物々しい格好をしていては見栄えが悪いらしく、こうして
衣装
を仕立てて貰ったわけだ。
今の俺たちは、パーティーの会場である王城へと向かう直前。先ほどようやく届いた衣装合わせをしている最中だ。
──何せ、ファイマもクロエも、エルダフォスに住む
女性エルフ
が着る様なドレスでは到底収まらない、
素晴らしい
お胸の持ち主。手直し程度ではどうしようもなく、一週間前の夜中に採寸を計り一から仕立てて貰ったのだ。勿論、経費は
王族
持ち。
俺? 俺なんか既存の服で十分事足りた。
しかし、見知った女性がドレスを着るとこう……。
〝ムラッ〟とくるな。
「──カンナ氏からただならぬ視線を感じるでござる」
「そりゃぁ、こんな美人二人が着飾っているんだもの。男としては色々思うところはあるでしょう」
「ねぇ?」と、ファイマはこちらを挑発するように胸を持ち上げるように腕を前で組んだ。ただでさえ豊かな胸が強調されて困るんだけど非常に眼福なんでどうもありがとうございます。
「む、むぅぅぅぅ……」
鼻の下を伸ばしていると、クロエが不機嫌そうに唸る。と、彼女は彼女で流し目をこちらに向けながら、胸の谷間を強調するように腕を組んだこっちも眼福でございますありがとうございます。
まさにこの場に、巨大な
山脈
と
峡谷が
が出現したのである!
…………いかんなこれは。
ただでさえこの一週間は色々と我慢しているのに、これ以上
攻められたら
俺の紙切れのような理性が水に濡れて溶けてしまう様に消滅しそうだ。
「……少なくとも、エルダフォスにいる間は絶対に手を出さないからな」
「「えー」」
ファイマとクロエが心底残念そうに声を揃えた。
「『えー』じゃねぇわ阿呆。つかこれからパーティーに行くって時にナニするつもりだよ」
「安心して。五分もあれば一発くらい」
「うら若いお嬢様が『一発』とか生々しい発言するんじゃありません!」
「ならば……馬車の中で」
「『ならば』って諦め悪いな!?」
俺のツッコミに、ファイマとクロエが揃って真剣みを帯びた顔になる。
「「正直、私(拙者)たちもカンナ(氏)の紳士服を見てムラムラした(でござる)」」
「真顔で言うことか!? いい加減にしろやこの色ボケどもが!」
「「うひゃぁぁぁっっ!?」」
二人が揃って悲鳴を上げた。氷の礫を具現して、二人の胸の谷間に落としたのだ。これで少しは頭も醒めるだろう。
この後、キスカが呼びに来たので、落ち着きを取り戻した俺たちはエルダフォスの王城へと向かったのである。
「──私も混ざれば良かったかしら?」
「お前はむしろ止める側だからな?」
悔しげに呟いたキスカに、俺はツッコまざるを得なかった。