Kanna no Kanna RAW novel - chapter (218)
第二百二話 焼いた餅は醤油砂糖で食うのが鉄板
煌びやかなお披露目パーティーが行われようとも、その翌日にレアルは王城へと赴いていた。
もちろん俺も同行しているわけなのだが。
「………………」
「………………」
フォースリンの屋敷に向かいレアルと合流してからと言うもの全くというほど俺とレアルの間には会話が無かった。最初に今日の予定を確認したのがせいぜいで、後は事務的な言葉を一言二言と交わした程度だった。
「……ねぇ、あの二人ちょっと様子が変じゃない?」
「そうでござるな。いつもならもっと軽口をたたき合ってるでござるよ」
「それに、心なしか二人の距離が遠い気がするし。どう思う、クロエさん」
「さぁ、拙者には全く分からないでござる」
姦しいひそひそ話に、俺はキッと背後を振り向いた。当のクロエとファイマはあらぬ方向を向いて素知らぬふりをする。こいつらも中々に『イイ性格』になってきたな。誰の影響だ、全く。
俺は視線を戻し、それから前を向いて歩くレアルの横顔を見て。
「ん? どうしたカンナ」
「……や、何でもねぇよ」
彼女がこちらの視線に気が付いて声を掛けてくるが、俺は自分の頬が赤くなるのを感じて慌てて目を逸らしてしまった。
実のところ、レアルから何度も声をかけられているのだが、その都度に俺がごまかすようなことを言って会話を打ち切っているのだ。
原因は間違いなく昨晩のあれやこれや。
あの時はテンションの〝タカ〟が外れていたのか、宿泊先の宿に戻って落ち着きを取り戻すと、気恥ずかしさのあまりにベッドの上で頭を抱えて盛大に悶えていた。
俺は乙女か! ……乙女で無ければ童貞でも無いけど、恋愛ど素人の身にはちょっと刺激が強すぎたよ!
一夜明けてからも気恥ずかしさそれらが抜けきらず、レアルの顔を見る度に顔が赤くなり、彼女の顔をまともに見ることもできず、声を掛けられても逃げるような言葉を返してしまう。
しかも、今朝にレアルを見てから胸の奥で妙な『もやもや』が渦巻いている。これがどうにも俺の調子を崩しているような気がしてならない。
俺は悟られぬようにちらりと、レアルを見る。彼女は昨晩のことなど無かったかのように普段通りだ。
もしかしてあれか、俺が一人だけ舞い上がってるだけなのか。それに不安を抱いているって事なのか。
女心って分からないよ、誰か教えて!!
「あの、そんな目で拙者を見られても困るでござる」
「…………お前にこの手の話は無理か」
だって、基本は駄目狼ポンコツだもん。
「あれっ!? 拙者、知らない間に馬鹿にされてるでござるか!?」
そんなやり取りをしつつ廊下を進んでいくと、仕立ての良さそうな服を着た集団と鉢合わせた。おそらくは宮仕えの貴族達か何かだろう。
奇しくも、その先頭を歩いていたのは、俺が昨晩に諍いを起こした相手である第二王子セリアスだった。
「「………………ちっ」」
おい第二王子。人の顔を見るなり舌打ちするのはやめろ。
「いや、カンナも思いっきり舌打ちしてたからね。仮にも王族相手なんだから抑えてよ本当に」
ファイマに指摘された。そうか、舌打ちが重なって聞こえたのはセリアスだけで無く、俺も舌打ちしてたからか。
互いの集団がある程度まで近付くと足を止めた。
セリアスは俺を鋭い視線で一睨みしてから、柔らかな笑みをレアルへと向けた。まさに劇的変わり身ビフォーアフター。
「これはこれはレアル殿。ようこそ御出でなさいました」
「ご無沙汰しております、セリアス殿」
セリアスに対して、レアルが大人の対応をしている。一晩が明けて怒りも大分薄れたのだろうか。
「昨晩は楽しい宴に招待して頂きありがとうございました」
「そう言って頂けると、あの場を催した甲斐があります」
「それと……思い返せば随分とお恥ずかしい場面を──」
セリアスはちらりとこちらに目を向けると、またも険しい視線を向けてきた。
お、やるか?
ここで第二ラウンド、いっちゃうか?
「やめなさい」
殺気をゴリゴリに込めて睨み返していると、ファイマに肩を叩かれて我に返った。ちっ、命拾いしたな。
俺にガチでにらみ返されて、セリアスは怖気付いびびったのか顔を引きつらせた。
以前から思っていたのだが、この世界のお偉方の息子さんたちって、精神耐性とか低すぎやしないだろうか。軽く煽ったり睨みつけたりするだけで過敏に反応する。
セリアスは誤魔化すように咳払いをする。
「──お恥ずかしい場面を、お見せしました。あの後、城の自室に戻って思い返すと、反省する次第です」
「第二王子は勇敢に戦っておられました。なにも恥じる事はありません。堂々となさっていれば良いのですよ」
「美しくも軍を率いるレアル殿にそう言って頂けると、救われるような気持ちになります」
それにしても──レアルとセリアスが会話している場面を側で見ていると、どうにも胸の『もやもや』が大きくなっていく様だった。『不快』と断言してしまっても良いだろう。
いや、昨晩のレアルが暴走気味だっただけで、今の対応が紛れもなく正しいのだ。相手は王族であり、レアルは他国の将だ。慇懃な態度を取るのは至極当然。
だが、非常に『面白くない』のが本音だ。
──もしや、これが噂に聞く『嫉妬ヤキモチ』というやつか。
レアルが落ち着いたと思ったら今度は俺が情緒不安定ぎみになっているのかもしれない。
「────────ッッ!!」
「ひっ……!?」
とりあえず色々と腹が立ってきたので、セリアスを全力で威嚇しておく。レアルとの会話を楽しんでいた王子は俺の殺気に当てられて喉の奥から絞り出すような悲鳴をあげた。
その反応を見てちょっとすっきり。
「だからやめなさいって」
ファイマに後頭部を叩はたかれた。