Kanna no Kanna RAW novel - chapter (225)
第二百八話 忘れてるかもしれないけど、この物語の主人公って敵対者には割と容赦ないです
ある時は優しく。
ある時は辛辣に。
そしてある時には微笑みながら容赦なく。
俺は生かさず殺さずの中間ラインを攻め込みつつ、俺の首筋に矢を突き立てやがった男を『尋問』した。
「ふむふむ、なるほどね。知りたいことはだいたい聞けたか」
俺は羊皮紙は得られた情報を書き記し、大事に畳んで懐の中に収めた。なお、俺を殺そうとした男──便宜上は『暗殺者』としておくが、そいつは俺の足元で素っ裸になっており、首から下は氷漬けにされながら気絶している。
暗殺者という呼び方にはしたが、どうやら特別な訓練を受けている感じではない。脅したら洗いざらいをペラペラと喋った。
あまりの口の軽さに一瞬だけ嘘を言っているかとも思ったが、男から感じられたのはただただ必死の感情だけだった。知っている限りは喋ったのだろう。
ただし、何をしたかは割愛させてもらう。
「……白夜叉殿」
「お、どうした」
「その……そろそろ我々にも説明をしていただきたいのですが」
「あー、そりゃやっぱり必要だよなぁ」
この氷漬けの男が俺を殺そうとしていた事実は、当の
暗殺者
の口から聞かされていた。だから俺がこの男を尋問している間も一切口を挟まなかった。
俺の案内役兼護衛として同行していた内の一人が、その護衛対象を殺そうとした。その時点で驚愕に値するが、その他にも彼の口からその背後関係を聞かされてさらに目を見開いた。俺には馴染みがないが、どうやら名のある『貴族様』のようだった。彼の配下に話を持ちかけられ、成功時の報酬と好待遇に目が眩んで俺を狙ったのだ。
黙っていた彼らも新たに入ってくる事実に、いい加減に我慢の限界なのだろう。
「察するに……白夜叉殿はご自分の命が狙われているのをあらかじめ知っていたように思えるのですが」
「確証は無かったが、警戒はしてたよ。だから俺はこうして今もピンピンしてるわけだし」
おそらく、この暗殺者以外で兵士の中に俺を狙っている奴はいないだろう。少なくとも現段階で殺気を向けてくる奴はいない。
思っていた以上に早かったが、教えてもいいだろう。
「実は、こいつも王様の依頼の一部なんだわ」
俺の告白に、兵士たちが息を飲んだ。
──これこそがエルダフォス王が俺に命じた追加の依頼だったのだ。
現在、エルダフォスはディアガルとの真なる友好関係を結ぶ流れに入っている。内心にそれに対して反対意見を持っていたとしても表立って、異論を唱えるものはいない。
そりゃそうだ。王が推進している国政を、家臣たちが声高に反対するわけにもいかない。それとなく具申はしているだろうが、その効果がないのは誰の目にも明らかだ。
ただ間違いなく、不満を溜め込んでいる輩は存在している。
そこに来て、俺に王からの直接の依頼がされた
俺が『リクシル草の採取』に成功すれば、エルダフォス王が俺へ向ける──引いてはディアガルへの信用は強くなる。逆に失敗すれば、期待の裏返しでそれまでの築き上げてきた関係に影を落とすことになりかねない。
不満を言うに言えない奴らにとって、この依頼は格好の機会だったのだ。
「で、俺はそいつらを燻り出してその背後関係を聞き出し王様に報告する。これが、今回の仕事の『裏』ってわけさ」
王としては、表では賛同しつつも裏で反対している奴らを把握しておきたいのだろう。もし問題が起これば、この情報を元に脅すもよし、あるいはそれを皮切りに捜査を行い、そいつの地位や財産を没収することもできる。あるいは『知っている』だけでも十分すぎるほど役に立つだろう。
この『裏の依頼』を同行者である兵士達に伝えなかったのは、悪いとは思うが会った時点では
兵士達
が本当に信用できるか判断できなかったからだ。
王からの依頼内容を記した手紙にもそのことは示唆されており、仕方がなく実際に
暗殺
が起きるまでは黙っているしか無かったのだ。
現に、同行した兵士の一人が俺を矢で射抜こうとしたわけだ。俺の判断は正しかったと言えるだろう。
まさか、危険地域に入る手前。初日の夜からこうなるとはちょっと予想していなかった。勿論、警戒は十分すぎるほどしていた。気配探知は常に警戒レベルにまで引き上げており、暗殺防止に用意していた反応氷結界も普段よりかなり多く装備していた。
「そんなわけでまぁ……多分、道中にも色々あると思うからよろしく頼むわ」
俺を狙う『矢』がこれ
一人
で済むとは思えない。むしろこれは序の口であり、明日からが本番のように感じられた。
つまり、俺の命を狙う奴らがどんどん集まってくるわけなのだ。自身への警戒は怠らないが、周囲へのフォローにまでは気がまわりそうにない。各自は各自で自衛してください。
事情説明の後に俺が言い放ったわりと無責任な台詞に、兵士一同の顔が引きつったの