Kanna no Kanna RAW novel - chapter (36)
第三十三話 ワンワンタイム★
どーしてこうなった。
などと言うと思ったか!
(誰に向かって言っとるんだ?)
自己ツッコミ乙。
…………良い感じに頭が茹で揚がっているなこれ。
「お、お加減いかかでござるか?」
思考が自由気儘に暴走を始めている中、俺の背中を布で擦っているクロエが声を掛けてきた。
「や、良い感じだ」
「それは良かったでござる…………」
良い、と言いつつも彼女の言葉は尻すぼみ。自分から進んで始めはしたが、恥ずかしいのは変わりないか。俺も非常に恥ずかしい。
つーわけで、クロエさんに背中を洗って貰っている最中でござる。
後々にはなるがとりあえず金銭的な貸し借りは先の話で整ったが、心境的には恩返しの先延ばしは心苦しい。今出来る形で少しでも恩に報いたいと考えていたクロエは、俺が一人で浴場に向かうのを目撃したのだ。俺が一人で浴場に入り、かつ他に人間がいないのを確認し、意を決して男湯に突入したのだ。もちろん、男湯側の脱衣場には『準備中』の立て札も忘れずに。これで他の客は入ってこない。
「ヒノイズルでは、来客をもてなす時、こうやってお客人の背中を洗って差し上げるのが風習の一つにあるでござる」
ヒノイズルの日本酷似は凄まじいな。
「これで恩の一端を返せたとは思わないでござる。ただ、拙者がカンナ氏にこの上ない感謝の念を抱いている事だけは知ってほしかったでござる」
顔を赤くしながらも真剣な目で言われれば、俺も無碍にするつもりはない。湯船に浸かる前に体はもう洗ったが、改めて彼女に背中を任せることにした。
「幼い頃に父上の背中を洗って差し上げて以来でござるが、やはり男性の背中とは広いものでござるな」
「俺はどちらかっつーと貧弱な方だ」
「だとしても、女のそれとはまったくの別物でござるよ」
俺が顔を向けていないのと背中を擦る作業に没頭していたからか、クロエの声からは緊張が薄れてきていた。手つきも慣れてきたのか、最初こそぎこちなかったが、今ではスムーズに腕が上下している。俺もだんだんと気恥ずかしさが無くなり、されるがままになる。
それからしばらくは、クロエが布で背中を擦る音だけが浴場に響いた。
「カンナ氏、お訊ねしてもよろしいでござるか?」
「なにさ」
「渓谷での一件、拙者が意識を失った後、他の皆様は操り人形であった拙者を哀れんで介錯を望まれていた。けれども、カンナ氏だけは拙者の命を助けようと提案された。どうして拙者を生かそうと思ったのでござるか?」
「他の奴らに聞いてないのか。俺はただ、人様を操って悦に入ってる奴のシナリオを愉快に潰したかっただけだ」
後はまぁ、黒幕とやらの情報が入ればと期待もあったが、後付けか。
「…………意識を失っている間、拙者には『声』が聞こえていたでござる」
「お前さんを操ってた奴のか?」
「違うでござる。全く別の声でござった。その声は拙者にこう語りかけてくださった」
ーーーー黒幕のシナリオなんざ、俺が愉快に痛快に台無しにしてやる。
どこかで聞いたセリフだこと…………。
「その声が胸の奥から聞こえた途端、拙者を支配していたあの忌まわしき『声』が消え去ったのでござる。そして、徐々に拙者の中から熱が奪われて行くのを感じたでござる」
タイミング的にはアレだ、ファイマが宝石を摘出した段階だな。熱が奪われた云々は、リアルに心臓を冷やして止めてたからだ。
「拙者を助けた方法は既に聞いているでござるが、驚いたでござるよ。まさか生きている内に一度心の臓を止められるとは思わなかったでござる。そして、このそれを再度動かしてくれたのもカンナ氏であると」
「俺だけの成果じゃねぇよ。ファイマが心拍蘇生の知識を持ってたから成功したんだ。正直に言えばアレは博打も良いところ。生きてる人間の心臓を、ろくな医療機器もない場所で止めるなんて正気の沙汰じゃねぇ」
「それでも、結果として拙者は生きているでござる」
「おまえさんが助かる確証は無かった。結果オーライの事実を善意の塊みたいに受け取るなよ」
もし仮に、クロエを助けることで大きなリスクを背負うような状況であれば、俺はたぶん彼女を助けようとはしなかっただろう。犠牲を払ってまで助けるには、俺とクロエの関係は希薄すぎる。善意だけで助けるには材料が足りない。
「…………拙者はあの時死んでしまっても良かったのでござるよ」
「…………そいつはどういう意味だ」
我知らずに声が低くなる。死んでもよかっただと? 折角助かった命を自ら捨てるような言葉に、俺は憤りを覚える。
「誤解無きように言っておくでござるが、命を助けていただいたことは本当に感謝しているでござる。こうして生き長らえた以上、恩を返しきるまではなんとしてでも生き抜く所存でござる」
ヒタリと、クロエの両手が俺の背中に触れた。俺のものではない人間の体温が伝わり、高ぶった感情が収まる。
「正直に言ってしまうでござるが『声』に操られていた時であっても、抗おうとすれば抗えたでござるよ。意に添わぬ命が気に入らなければ、それこそ命を賭して断固の構えを取ることもできたでござる。偏にそれができなかったのは、拙者が卑しくも命を惜しみ、声に従うことを自ら選んだからでござる」
それを責められるほどに、俺は高尚な人間ではない。誇りのために死ね、などと俺は絶対に言えない。
「けれども、あの瞬間だけは違ったでござる。全身を覆う心地よい冷気に包まれたとき、拙者はそれまで抱いていた未練が無くなっていたことに気が付いたでござる。あの優しき冷気に包まれて命を散らすならば、本望でござった」
自ら死を望んだような言い回しに、だが俺は先ほどのような怒りはこみ上げなかった。語るクロエの声には、安らぎすら覚える穏やかさがあったからだ。
「おそらく、ただ命を助けてもらっただけでは、拙者はこの先ずっと『声』に対する恐怖を抱いたままでござったであろう。けれども、あの安らぎを思い出せる限り、拙者は二度とあの『声』に支配されることはないと確信しているでござる。ですから、拙者は改めて、あなた様にお礼を申し上げたかった」
その言葉は、心の奥底から発せられた声だと、俺は心に覚えた。
「…………ところで、背中はもう洗い終わったんじゃねぇの?」
「へ? あ、そ、そうでござるな」
…………………………………………。
「や、そこで停止されても困るんですけど」
「ひゃぅッ!? え、あ、いや、ちょっと待たれよ!」
どうしたんだ。先ほどまでのシリアスは霧散したのか、背後でクロエがあたふたとする気配が伝わってくる。
「…………ぶでござる。…………んなは度胸だと母上が…………。母上もこうやって父上を…………」
なにやらぶつぶつと呟きだしたクロエ。心なしか、その声には鬼気迫るモノが含まれている。今更になってこのシチュエーションが恥ずかしくなってきたのか。
ぶっちゃけ俺は最初から明鏡止水の心で座っている。後ろにいるのは、ござる口調ではあるが素晴らしい肢体を持った女性だ。下手に意識を傾けると、下半身の『ムスコ』が起床してしまう。まだ寝ていてくれ。後でこっそり起こしてやるから。
「か、カンナ氏ッ!」
「ほッ!? え、あ、なんぞ?」
ムスコを寝かし付けている時に急に大声を上げられ、変な声がでた。
「し、失礼するでござるッ」
言葉だけを捉えれば、恩返しの一端もでき、かつ羞恥心も限界になったので浴場を飛び出す前のセリフだ。聞いた瞬間も俺はそう思っていた。
ーーーームニュリと背中に極上の柔らかさを感じるまでは。
あろうことか、クロエは風呂場を出るどころか、俺の背中に抱きついてきやがった。
「え、ちょっとクロエさん、なにやってんのッ!?」
「だ、抱きついているでござるよ」
「そう言う意味じゃねぇよっ」
背中越しに、俺の胸辺りを抱くように腕を回して体を密着させてくる。背中に感じている感触は紛れもなくアレだ。クロエの持つたわわなアレだ。っていうか、柔らかい中にちょいと堅いものがあったりする。お胸の首だ。まさか体に布を巻いてないのかッ。生で接触してるのかっ?!
ワザワザ自分ではぎ取ったのかっ?
「止めろクロエッ、この体勢はいろいろとあれでやばいッ」
「安心してほしいでござる。拙者も拙者でいろいろとアレでやばいでござるから」
「安心の意味を辞書で調べてこいッ! じゃなくてっ!」
「あんまり動かないでほしいでござるッ。その…………擦れてちょっと変な気分になってきたでござる」
「じゃぁ身体離せよッ!」
僅かに身動ぎするだけで、背中の柔らかいモノがムニュムニュと変形し、二つの突起物がクリクリと擦れる度に背筋がゾクゾクする。
「ちょっと、おまえさんマジでどうしたッ!? やっぱり痴女かッ!?」
「やっぱりってなんでござるかッ!? ヒノイズルのおなごは淑女の鑑と呼ばれるほどでござるぞッ」
「淑女の鑑は男湯に突入して裸で野郎に抱きついたりなんかしねぇよッ!」
「拙者の母上はこうやって堅物であった父上を墜としたと豪語してござったぞッ!」
「アグレッシブだなおまえの母ちゃんッ!」
それは年頃の娘に聞かせて良い話なのか。
「母上が言っていたでござるっ! 男の方はこうやって裸で抱きしめてやればイチコロであると! この普段は邪魔で仕方がない胸も、場合によっては最大の武器になると!」
「おまえの母ちゃんはぜってぇに淑女の鑑じゃねぇよ!」
超肉食系だろうよ。
「なにを言うでござるかっ! 母上は良妻賢母の見本のようなお方であると、近所のご婦人方から尊敬を抱かれているでござるっ」
「ここまでの会話の流れでそれを信じろとッ?」
「……………………無理があるでござるな」
「アレッ? ここで素直に肯定すんのッ!?」
「い、いえッ。普段の母上は常に父上の三歩後ろを歩くようなお方なのでござるよ。ただ、その・・・・男女関係の話になるとちょっと・・・・」
昼は清純で夜は野獣か。
…………そんな嫁さん欲しいかもしれないな。
(や、馬鹿なこと考えるなっての)
アホな思考が浮かんだお陰か、茹だっていた頭に僅かばかりの冷静が戻った。それをどうにかたぐり寄せ、俺は表面上だけでも冷静に言葉を発した。
「いい加減にしろ」
言葉に形ばかりだが険を滲ませる。
「こんなことをして貰うためにおまえさんを助けたんじゃねぇよ。お互いに子供じゃないんだ。こっから先は冗談じゃすまねぇぞ」
「…………拙者とて、ただの冗談でこのような恥ずかしい行動ができるわけ無いでござる」
グッと、俺を抱きしめる腕に力がこもる。背中に触れる柔らかな感触の更に奥から、早鐘を打つ鼓動が伝わってくる。けれども、クロエの言葉はそれとは真逆に静かになっていた。
「言葉だけでは、拙者の感謝は返しきれないのでござるよ。たとえ幾千幾万の財宝を積み重ねたところで、到底返せないのでござる」
俺の心臓も、荒れ狂うほどに高鳴っている。鼓動の音が耳にまで届いている。
「言葉ではなく、財だけでなく、あなた様への恩を返す方法を必死で考えていたのでござる。そんな時にふと、母上から聞かされていた父上との馴れ初め話を思い出したのでござる」
で、タイミングを合わせたように、俺が浴場に向かう音に気が付いたのか。後は俺の知ってのとおり、だ。
「最初は背中をお流しするだけで終わるつもりだったでござる。如何に恩を感じていたとは言えその…………夜這いをする度胸は拙者には無かったゆえに」
この状況は夜這いにはいるのか?
「けれども、あなた様への恩の気持ちを再確認してしまえば、躊躇いはいつしか無くなっていたでござる。拙者はやはり母上の娘なのだと自覚できたでござるよ」
「クロエ…………」
「責任を取れ、などというつもりは毛頭無いでござる。カンナ氏とて旅の身であるのは承知の上。けれども、もし僅かばかりでも拙者の気持ちを受け取っていただけるのであれば」
クロエは俺の耳元に口を近づけ、そっと呟く。
「…………今夜、我が身をあなた様に捧げましょう」
脳裏で、何かが軋んだ。
僅かばかりに残っていた理性の糸が、今にも弾け飛びそうだ。
俺は自身の胸の前で組まれていた彼女の腕を解き、身を離した。
「あ…………」と悲しげにクロエが漏らすも、俺はゆっくりと彼女の方へ身体ごと振り返った。
漆黒の瞳と視線が交錯する。既に彼女の顔は朱に染まっていたが、俺の目に宿った情欲の色を見て取ると、それを更に赤らめた。
ようやく、彼女の素肌を全て視界に収めた。
コレまでに紙媒体やネットの世界で女性の裸を見た事は多々あった。俺だって年頃の男だ。いろいろとエロい想像を働かせ、自分だったらこうするああするを妄想して自家発電を行った回数など数え切れない。
だけれども、いざ女性の生身を前にすれば、言葉を失うしかない。
整った顔立ち。くびれた腰つき。ふっくらとした臀部。すらりとした手足。言葉は出ず、だが紛れもない興奮が心身を駆けめぐる。
俺は暴走しそうになる心を必死に押し止める。
最後の防波堤になったのは、皮肉にも豊かな胸元の一点。
染み一つない肌に穿たれた傷跡。
俺の視線の先に気が付いたクロエが、歪んだ皮膚の一部を指でなぞる。
「宝石が埋め込まれていた傷は町の治療術士に治して貰いました。もう痛みはありません」
「けど、傷跡が残っちまったな」
「構いません。私が呪縛から解き明かされた証だと、むしろこの傷跡を誇りに思いましょう。あなた様のお陰で、私は自由になれたのだと」
不意に、クロエの口調が変わっている事に気が付いた。その事に触れようとしたが、問題はないか。あるいは、よりいっそうに彼女に『女性』を感じられる。
「最終確認だ。本当に良いんだな? 一時の感情に流されて、後悔しないか?」
「…………確かに衝動的なモノではありましょう。だとしても、この時この瞬間を後悔することは永劫にありません」
「分かった」
俺は彼女の頬にそっと手を伸ばし、顔を近づけた。クロエは俺が触れると一瞬だけ震えるが、すぐに肩から力を抜き、そっと目を閉じた。
互いに首を僅かに傾け、俺は彼女の唇に己のそれを重ね合わせた。
最初は僅かに触れ合わせるだけの優しい口づけ。
唇を離すと、当たり前だが至近距離にクロエの顔が身近にあった。
上気した頬に潤んだ瞳。俺が口付けしたばかりの柔らかい唇。
「カンナ様…………」
クロエが俺の名を呼んだ。その声の中に、口付けを再度求める色欲が含まれていたのを、俺は確かに感じた。
決定的に、俺の中に残っていた最後の躊躇いが消え去った瞬間だった。唇が触れただけだと言うのに、コレまで感じたことのない高ぶりがこみ上げてきた。
もう一度、身体ごと抱き寄せて唇を重ね合わせる。先ほどよりも強く、深く、長く。クロエの柔らかな双丘が俺の胸板で潰れて密着度が大きくなる。唇の柔らかさと胸の柔らかさに、俺の興奮は天井知らずに上がっていく。
鼻で呼吸をするのも忘れ、息苦しくなった俺は唇を離す。どうやらクロエも呼吸を忘れていたようで、俺と同じく口で息を大きく吸っていた。
互いの呼吸が整ったのを見計らい、三度目の口付け。今度はクロエから求めてきた。俺の背中に手を回し、唇と身体を押しつけるようにして唇を重ねる。
その最中、なんとなしに薄目を開くと、クロエの獣耳がピクピクと動いているのが視界の端っこに見えた。猫じゃらしを目の前で振られた猫のように、俺は興味本位に微動している獣耳に手を伸ばし、やんわりと触れた。
「ひゃうッ」
ビクリとクロエは全身を震わせると、唇を離し何かを堪えるようにギュッと目を閉じた。俺は慌てて彼女の耳から手を離す。
「え? あ、悪い。痛かったか?」
「ち、違います。ただ、獣人やエルフの耳は他の種族のそれよりもかなり敏感らしいので、少し驚きました」
「そっか。いきなり触ってごめんな」
「いえ…………」
クロエは口をもごもごとさせ、やがて恥ずかしそうに。
「む、むしろ触ったままで・・・をお願いします」
「…………了解だ」
口付けを交わしながら、俺は獣耳を優しく揉んだ。水濡れのシットリした毛並みを指先に感じ、フニフニとした柔肉の感触は癖になりそうだ。耳の付け根や先端、内側を擦ると彼女の背筋がその都度に震えた。同時に、唇に吸い付く力も強くなる。
その様子は凄まじい色っぽさを秘めており、我慢が出来なくなった俺は彼女の口内に己の舌を捻り込んだ。
突然の異物の侵入に驚き、目を見開いて身体を離そうとするクロエ。だが逃してはやらない。耳に触れていた手を頭の裏に延ばしてそのまま固定。ついでにもう片方の手でケモミミモフモフを継続。そしてそして、俺はクロエの口の中を『蹂躙』していく。
己以外の熱を感じ取る。火傷しそうな体温と唾液の粘りけを絡め取るように舌を動かす。舌がクロエの口の中を触れ、または俺の指に耳を擦られる度に、ビクリとなる。
しばらくそのまま彼女の口内を堪能すると、また己が息をしていなかったことを思い出す。けれども今度は口を離さず、ゆっくりと鼻で息を吸う。舌も動かすのを止め、クロエの唇の裏側を軽くなぞるに留める。
「…………はむぅ」
小休止の最中、俺の舌先に別の熱が触れた。クロエの舌だ。おそるおそる、と言った感じにツツくように俺の舌を刺激する。
俺は彼女の口内を蹂躙したくなるのを堪えて、やんわりとクロエの舌を舐め返す。またもゾクリとクロエが震えるが、彼女は俺の舌を絡め取る。動きこそぎこちないが、俺のモノを感じ取ろうと丹念に舐める。
動きこそ先程よりも大人しい、だが舌が混じり合う音はそれ以上に浴場に響いた。徐々に互いの舌が激しく蠢く。いつの間にか、俺とクロエは互いの舌を貪るように絡み合わせた。
「ーーーーーーーーーーーーーーッッ」
そして、舌の動きが最高潮に達したとき、クロエの身体が一際激しく強ばった。声にならない悲鳴を上げ、一気に脱力したのだ。
…………今のはもしかしなくても。
俺は彼女の口の中から舌を引き抜き唇を離した。粘りけのある唾液の糸が離れた俺と彼女の舌先を繋ぎ、重力に負けて千切れ落ちる。
彼女は心ここにあらず、といった様子だ。瞳は色を失い口元はだらしなく空いたまま唾液でてらてらと光っている。虚空を見つめると、力なく俺の胸元に倒れてくる。俺はそっと彼女の身体を受け止めた。
「わ、わふぅ…………」
「おい、大丈夫か」
「…………あ、あまりらいろうるらないれる。…………くぅん」
舌が全く機能してないな。意味不明である。一分か二分ほど時間を待つと、脱力から回復したのかクロエは顔を上げた。
「お、お恥ずかしいところをお見せしました」
「まだキスしただけだぜ?」
「か、カンナ様の接吻が激しすぎただけです! あんな…………舌だけで私は…………。わふぅ…………」
「や、悪い。思っていた以上に気持ちよかったからさ、つい」
嘘ではないが、クロエの感じる様子が堪らなかったのが最たる理由だ。アレで欲情しない野郎は不能で間違いない。
「しかも、すごく手慣れている様子が見受けられますし」
「いやいやいや、俺はぶっちゃけ初体験ですが」
「嘘ですっ! …………え、本当に?」
「ホントホント」
「……………………将来が非常に恐ろしい御仁でござるな」
あ、急にござる口調に戻りやがった。
ここで興奮が冷めるのは非常に頂けない。俺は再び情欲の熱を上げるために、少し無理矢理に彼女の唇を奪った。
「わふぅッ!?」と悲鳴を上げるも、クロエは目を潤ませて俺の口付けを受け止める。殆ど迷い無く舌を差し出してきたので、喜んで舐める。そしてすぐに離した。
とても残念そうになるクロエだったが、キスだけで終わらせるわけにもいかない。今夜はまだまだ始まったばかりなのだ。
俺は、俺と彼女の身体の間に挟まり潰れている二つの果実を、下から掬い上げるようにして包み込んだ。片手だけでは収まりきらない巨乳が俺の手の形に押しつぶされる。
「ひゃうッ」
「痛いか?」
「い、痛くはないのですが…………ちょっと驚いてしまって」
「そっか。なら続けるぞ」
「は、はい…………どうぞご自由になさってください」
OKが出たので、俺は心おきなく、だが傷つけないように最大限の気遣いを持って彼女の巨乳を揉みしだく。両手でガッシリと、左右の桃ーーメロンでも可ーーを丹念に…………ひたすら丹念に。
…………あ、ちょっとこれ凄い。
………………………………。
「か、カンナ様?」
…………ずっと揉んでても飽きない。
………………………………。
………………………………。
「え、えと、そんなに私の胸は気持ちいいのですか?」
……………………………………………………。
……………………………………………………。
……………………………………………………。
「あ、でもなんかだんだん私も…………」
…………………………………………………………………………。
…………………………………………………………………………。
…………………………………………………………………………。
………………………………………………………………クニュリッ。
「わふぅぅぅッッッ」
「はっ!?」
俺が我に帰ったクロエの悲鳴は、その胸の頂である桃色の果実をイジったからだ。
危うく悟りを開きそうになるほどの無我夢中で彼女の巨乳を揉んでいた。ぶっちゃけ、揉んでいた最中の記憶があまりない。手に残るのは、極上の柔らかさと、そうでありながらも指を間違いなく押し返す弾力。念願の巨乳に直に触れたのに、何の言葉も思い浮かばない。これほどの感動を表現する事が、俺には出来なかった。
間違いないのは、俺が巨乳好きであったこと。
巨乳好きであったことをこの日ほど誇ったことはない。
それほどに巨乳が大好きであったのだ。
っておい。またクロエがクタってなったよ。またも俺の胸にしなだれてくる。彼女の再起動に数分また要した。
「本当に大丈夫か? 今日はもう止めておいた方が」
「誰のせいですかッ」
はい、俺の
性
です。字が違う。や、あってるか。
少しムクレる彼女が微笑ましく、何度目かになる口付けを交わして機嫌を取る。この段階までくると、クロエもキスにさほど抵抗はなくなり、むしろ積極的に求めてくるようになった。
さてと、唇を頂き胸も堪能すると、いよいよ本番か。いい加減に、俺のアレもバースト寸前である。人生の中でおそらく最高高度と強度を記録している。熱量もメルトダウン一歩手前。
我がムスコを眺めていると、クロエも俺の視線につられてそちらを見やる。と、十分すぎるほどに赤かった頬が更に赤くなった。異性の急所を見たことは幼い頃に父親と風呂に入った時などにあっただろう。だが、『この状態』になった男のソレを見たことは初めてに違いない。
「こ、これが私の中に…………」
「怖いか?」
「正直に言えば少々…………。けれども、ここで引いては女が廃ります」
「それを聞いて安心した」
俺はクロエを膝の上に載せ、力強く抱きしめた。彼女の温もりも、肌の感触も、胸の柔さも全てを感じ取るように。
「クロエ。俺は今からおまえを抱くぞ」
「はい、カンナ様。今から私はあなた様に抱かれます♪」
俺たちは至近距離で見つめ合い微笑んだ。
そして、今夜また何度でも交わすであろう口付けのカウントをまた一つ重ねるのであった。