Kanna no Kanna RAW novel - chapter (45)
第四十二話 巻き込まれ系主人公も最近結構多い(坊ちゃんとの決闘直前)
突然ではあるが、俺の友人の話をしようか。
…………この出だしは二度目だな。
以前にも話した幼なじみの有月程ではないが、中学からのつき合いの長い二人の女友達がいる。これまで何度か名前が出ていると思う。
柊美咲。空手有段者で元気溌剌娘。
浅葱彩菜。全国模試でトップの成績を持つやはり才媛。
タイプは真逆ではあったが、互いに親友と認め合っているこの二人は周囲の女子からは頭が一つか二つほどに飛び出ているほどに『美少女』をやっていた。まるで職業みたいな響きだが、本当なので他に言いようがない。
元々の素材もあったが、高校に進学してからはそれに更に磨きが掛かり、二年にあがる頃には校内でも人気を二分する程になった。
美咲はボーイッシュでありながらも、身体が女性的な丸みを持ち始め、子供と大人の色気を併せ持つような美しさを。対して彩菜は小柄ではあったが、それでいて可憐さと美しさを際だたせていった。
そんな校内二大美少女と仲良しグループを作っていたのは、某ヘタレイケメンとその幼なじみである俺である。
有月とこの女友達が一緒にいる場面は非常に絵になる。有月は元々人にあまり嫌われない方なので、美咲達と交友関係にあってもそれほど嫉妬の対象になならない。例え美咲や彩菜に好意を持っている輩がいても、有月が相手なら『仕方がない』で納得してしまう。
…………この前振りで後に続くテンプレは察せたかな?
そう。本来なら有月に向くべきであろう嫉妬も含めて、野郎共の妬みがまとめて俺に降り注いで来るのだ。主人公系キャラが身近にいると陥るパターンの典型だな。始末の悪いことに、それが野郎だけじゃなくて女衆からも集めていたりする。こっちは有月関連だな。俺に男色の趣味はないんですが、との言い訳は効果無かった。
中学の頃はそれほどでもなかったが、高校に入学した当初は『体育館裏に呼び出されるイベント』が何度か発生した。その大体が美咲や彩菜に近づくな云々の文句が殆どだったが、時折に物理的な手段に出た奴もいた。前者は殆ど聞き流していたが、後者はしっかりと相手をしてやった。『目には目と歯と鼻と口と骨の数本と性根』が俺の主義である。や、実際にそこまではしなかったが、きっちりかっちりねっちりと心を根っこからへし折り、二度とそんな暴挙に出ないように『お願い』しましたよ。
悪いのは、人の交友関係に口を出し、さらには暴力に訴えようとした相手だ。そのツケは身を持って支払って貰った。お灸をしっかりと据えてやったので、報復手段をとられる心配もなかった。
…………まぁ、しっかりきっちりかっちりねっとりと遣りすぎたので、その悪評が広まり、友達が少なかったのはここだけの話だ。や、有月達以外にも友達は普通にいた。が、大勢と一緒に騒げるだけはいなかったな。少数で超派手に騒いで遊んだことは結構あるが。
話が長くなったな。またこのパターンだな。
なにが言いたかったかと言えば、因縁を付けられて決闘紛いの行為をさせられる展開には慣れているのだ。
主人公ポジじゃ無いはずなのに!
「なにを黄昏ているのでござるか?」
「や、最近は面倒事が多いなぁと」
「…………今回に限って言えば、少なからずはカンナ氏にも原因があると思うでござる。人のことは言えないでござるが」
騒動を起こした後の夕暮れ時、俺達は再びギルドの中になる登録試験を受けた会場にいた。現在室内にいるのは、俺とその隣にいるクロエ。加えて先から続いて竜人の婆さんだ。
「随分と緊張感が無いねぇあんた」
「お坊ちゃんから難癖付けられてるだけで、どう緊張を持てと?」
「貴族様からの決闘を難癖と言い切っちまうあたりが怖いね。その若さでどんな場数を踏んできたんだか、興味がわいちまうよ」
そりゃ、この世界に召喚されて早々に処分されそうになったり、霊山の洞窟で巨大ゴーレムに圧殺されそうになったり、謎の魔術士に爆殺されそうになったりと。
それと比べれば、お坊ちゃまがオコした癇癪から発した決闘など、緊張しろと言うのが無理だ。
お坊ちゃん曰く、名誉を傷つけられたから、その落とし所としてこの決闘を提案したと言うが、本来ならば俺達を貴族の権力を持って断罪したかったに違いない。そう確信できたのは、この決闘を行う人数にあった。
通常、決闘と聞けば一対一の尋常な勝負だ。けれども、今回の決闘は計五人で行われる。俺とクロエのチーム。そして貴族の坊ちゃん本人と他護衛二人のチーム。つまり、ニ対三のこちらが人数的に不利な条件での申し出だったのだ。
や、相手が本当に連携をとれていれば、の話ではあるが。
「その武器。試験の時にはほぼ無手で合格したって聞いたが?」
「これは試験じゃ無いからな」
婆さんが指さしたのは、俺の傍らに突き立てているお馴染み氷の斧だ。試験の際、模擬武器の中には大斧も用意されていたが、刃が潰れているだけで重量はほぼ本物と同等だ。俺の素の筋力で操るには難しい。
一方で精霊術で作った大斧ならば、体積は同じでも扱う分には精霊のお陰で苦も無く振り回せる。
(や、遠距離からガンガン攻めれば楽なんではあろうが)
氷手裏剣他、現在開発中のロングレンジ技を多用すればよほどの相手で無い限り一方的に攻め勝てるだろう。最初は俺もそうしようと思ったのだが、今回は状況が悪かった。他ならぬ竜人の婆さんがこの決闘の立会人になったのが主な原因だ。
「属性を武器として具現化する魔術具か。珍しいもんを持ってるね」
「ご存じの通り、俺は魔力を持ってないからな。このぐらいの補助具がないと色々と不便なんよ」
今回作った大斧はいつもと少し違う。長い氷の柄の半ば辺りに、青い宝石が一つ埋め込んであるのだ。婆さんが指摘した魔術具というのはこれのことを言っているのだがーー実はただの宝石だ。俺が緊急用の金策措置としてため込んでいた宝石群の中から、一つだけそれっぽいものを選んで持ってきたのだ。
婆さんは先日に、俺が魔力を持っていない事実を知っている。悪い人間ではないと思うが、余計な詮索を受けないに越したことはない。それに婆さん自身が言っていたとおり、年期の重ね様は伊達ではない。言葉の端から余計な事実まで引っ張り出されそうで怖いのだ。
この大斧は、なんちゃって魔術具の効果によって生み出された代物だと言うことで押し通し。今後も人前で能力を使うときはこの手口で何とかしていこう。
クロエには既に簡単な事情を説明している。や、精霊術を手に入れた経緯は伏せているが、とりあえず魔力を使わずに扱える魔術、という感じで納得して貰った。彼女には既に目の前で何度も氷を生み出す場面を目の当たりにしているので、最低限は必要だと判断したのだ。
「ところでクロエ」
「なんでござるか?」
「俺はおまえが戦っているところを見たことがないんだが、得意な戦い方ってなんなんだ?」
出会ってそろそろ二週間目になるが、なんやかんやで俺は彼女の戦闘シーンに出くわしたことがない。ファイマ等とまだ一緒にいた最後の馬車旅の時には殆ど魔獣の出現が無かったからだ。クロエが操られていた時は実際に事を構えたが、後に聞けばあれは彼女本来の戦い方では無いとのこと。
こうして肩を並べて戦う以上、一時的にとは言え相棒の戦い方を知っておく必要がある。
「そうでござるな…………改めて言葉にすると難しいでござるな」
「じゃあ、速度重視とか、技巧重視とか、そこらへんは?」
「…………未熟ではござるが、どちらかと言えば技巧重視でござるな。先日にカンナ氏も見ていたので知っているでしょうが、拙者は黒狼の一族でありながらも先天的に魔力が少ないのでござる。故に、他の同族に比べて圧倒的に速度も力も低いのでござるよ」
今に出てきたクロエの説明だと魔力=身体能力に聞こえただろうが、実はこれはあながち間違っていない。俺の魔力云々の話が出た日に、宿に戻る前に『三歳児でも分かる魔力講座』という本を購入したからだ。流石幼児向けであって、字の読解がまだ得意でない俺でもわかりやすい内容であった。
それによると、通常の術式の他にも魔力には人間の身体能力を向上させる力もあるらしい。支援術式のように劇的な効果は発揮しないが、逆に肉体への急激な負担を強いずに自然な形で能力を引き上げる。そして、その上昇効果はその本人の魔力が高ければ高いほど上がり幅が大きい。更に言うならば、その上昇比率には本人の素質も関係してくるのだ。この素質を『魔力の馴染み易さ』。あるいは『魔力親和性』とも呼ぶ。
「黒狼の一族は他の種族に比べて、魔力親和性が飛び抜けて高いのでござるよ。黒狼の強さの大きな要因はこれでござる。けれども、いくら体に魔力が馴染みやすくても、大本である魔力が少なければ意味を成さないのでござる。更に言えば、拙者の適正属性は『雷』。火属性であれば『瞬発力強化』。地属性であれば『筋力強化』の支援術式で速度や力をカバーできるでござろうが、雷属性は目立った支援術式が無いのでござる。なので、ひたすら小手先を磨くしかなかったのでござるよ」
クロエは力のない笑みを浮かべた。それは、己の『無能』に諦めに近い感情を抱いているのだと俺は読みとれた。他ならぬ俺にとって、その心の形は馴染みの深いものだった。
「…………話がそれてしまったでござるな。ま、つまりはそういうことなのでござるよ。レアル氏の様な心強い相棒でなくて申し分けないでござる」
「や、あれは色々と別枠だ。あんな超絶パワーキャラがそうポンポン居られても困る」
「…………そんなにでござるか」
「全身鎧の重装甲兵を真正面から吹き飛ばせるからな」
「それは…………壮絶でござるな」
多分、ヘビー級ボクサーと真正面から殴り合いをしても勝てるんじゃないだろうか。それでいてムキマッチョでなく、むしろ細身で一部分だけ自己主張が激しい衝撃のスタイル。あんなのは一人で十分だ。
しかし、技巧派か。クロエには悪いが、多人数戦闘ならばパワー系やスピード系の仲間が欲しいところだが、我が儘は言うまい。
「んじゃ、俺が護衛の二人を引きつけておくから、クロエは坊ちゃんの相手を頼む」
「拙者がでござるか? こちらは拙者が護衛の二人を引きつけておく役になると思ってたのでござるが」
「技巧重視なら一対一の方が強いだろう。それに一対多は、魔獣相手も人間相手も結構慣れてるからな」
元の世界の経験と、幻想世界で手に入れた勘の良さがあれば、倒せないにしても時間は稼げるだろう。
「分かったでござるよ。速攻で坊ちゃんを倒して援護に回るでござる」
「おう、頼りにしてる」
これ以上の作戦を立てるには、現段階では無理だ。コレより先を望むのならば、クロエと共に場数を踏んで相手の戦い方や癖を覚えないと組み立てようがない。
簡単な作戦会議が終わったのだが、未だに当事者の片割れ陣がやってこない。
「クロエ、護衛の依頼最中に誰か目立った怪我とかしてたか?」
「皆無だったでござるよ。ドラクニルの駅に帰ってきた時点でも、さほどに疲労は溜まってなかったはずでござる」
「じゃあ、何でこんなに時間掛かってんだ?」
「拙者に言われても困るでござる」
では、他の人に聞こう。
「実は今日じゃなくて明日ってオチじゃねぇよな婆さん」
「なわけないだろう。あたしが直々にさっき確認してきたからね。ただ、ちょいと準備に時間が掛かるとは言ってたねぇ」
「準備?」
………………………………。
「まさかお化粧直しとか言わないよな」
「カンナ氏、相手は確かに全員が男性でござったぞ」
「言ってみただけだ」
そんな冗談を口にしていると、会場の扉奥から金属が忙しなく重なり合うような音が聞こえてきた。何事か、とクロエと顔を見合わせる中でもその音は徐々に大きくなり、やがて扉の直前にまでたどり着くとバンッと両開きに入口が開かれた。
件の坊ちゃん貴族の登場なのだが、俺達の関心はその背後に続いていた雇われ護衛の二人に集中していた。
俺がギルドの入り口付近で出くわしたときは、俺と同じく急所に防御を集中し動きを極力阻害しない様に装備された軽鎧。得物もスタンダードな剣と小降りの盾だった。
なのに、会場にやってきた今の姿は、二人とも全身を鋼で覆った甲冑姿。剣こそそのままだったが、盾も大幅チェンジで以前よりも大きさが一回りーーや、二回りは面積を大きくしていた。
ポカンと口をあんぐりさせている俺達の様子に悦には入ったのか、坊ちゃんは癪にさわるにやけ面を浮かべながら、会場の中央へと歩を進める。後ろに続く護衛も鎧をガチャつかせながら続く。あれほどの全身甲冑ならその重量も相当だろうが、そう思わせないスムーズな動きだ。
「ミスリル合金製の鎧だ。ありゃ高い買い物だったろうねぇ」
「ミスリル合金?」
ファンタジーの代表的な金属の名前が出てきたな。や、合金と名が付いているのが気になる。
「ミスリルはそれ単体では鉄よりも柔らかいのでござるが、それを触媒として合金にすることで、通常よりも遙かに丈夫で軽い素材へと変じるのでござるよ」
「…………高いのか、やっぱり?」
「通常の剣の一本を全てミスリル合金で作ると、金貨二十枚は確実にするね。そうさな、あの鎧は一式で多分金貨五十枚は行くね」
日本円で五百万円の鎧か。
「…………お坊ちゃんのお小遣いにしちゃ破格すぎるでしょうよ」
「公爵の財政ってのはそれだけ破格って事さ。覚えておきな」
冗談で言った『お化粧直し』は案外的を外していなかったようだ。
「待たせたな諸君。彼らの鎧の調子がよろしくなかったようでな。雇い主として配下の不備があってはならんので新しい物を見繕ってきた」
いけしゃあしゃあと坊ちゃんは宣う。凄く殴りたい。
「凄く殴りたい」
「しッ! …………カンナ氏、まだ我慢でござるよ」
おっと声に出てたか。
「どうやら、今頃になって怖じ気付いた様だな。この場で泣いて許しをこうのならば考えてやらなくもないぞ?」
俺達の反応が薄いのをなにを勘違いしたのか、見当違いの台詞が飛び出る。この光景はアレだ。小金持ちが資金に物言わせて雇った暴力専門職を後ろ盾に威張っているシーンだ。テンプレだな。
「聞けばそこの男は今日に冒険者になったばかりだと言うではないか」
や、おまえもそうでしょ。
「私か? 残念だったな。私は幼少の頃より、元近衛騎士隊の一員を教師として、剣の鍛錬を欠かさずに行ってきた。今でこそ未だに最低のFランクだが、確実にCランクの実力を持っている。遠からず内にそこまで昇格するつもりだ」
だったら、Eランクの依頼にCランクの護衛とか連れてくなよ。決闘にまで出してくるなよ。装備にそこまで贅沢懲らすなよ!
「…………まだ我慢でござる」
喉まで出掛かった突っ込みは、クロエに肩をたたかれて飲み込んだ。
「クロエとか言ったな。今からでも遅くはない。私の配下となり、その不届き者を成敗する手助けをすると言うのならば、許してやってもよいぞ?」
「前世から出直してこいッ!」
「ッておぉいクロエ! 人に我慢させておいてそれはないだろ! しかも『ござる』が取れてるしッ!」
速攻でブチ切れ、飛びかかろうとするクロエを羽交い締めにする。クロエはまさしく狼のように犬歯を剥き出しにして喉を唸らせた。獰猛な威嚇に坊ちゃんが「ひぅッ」と悲鳴を上げて怯む。
あ、メンタル紙だなこの坊ちゃん。
「ふ、ふんッ! いくら名高い黒狼とは言え、しょせんは獣か。いいだろう。身の程という者をしっかり教え込んだ上で、奴隷にでもしてやろう」
クロエのうなり声に声を震わせながら、そんな盛大な事を言ってのける坊ちゃん。
「…………あのね、言っておくがこの場は賭けるのは身の上じゃなくて名誉だ。勝者が敗者に言うことを聞かせられる、なんて決まりは無いからね。それに、ディアガルじゃぁ犯罪者以外の奴隷を所有することは禁じられてるってぇのを、公爵家の一員であるあんたが知らないわけでもないだろ?」
坊ちゃんの無茶な言い分に、さすがの婆さんも口を挟んだ。
婆さんの言うとおり、ディアガルはーーユルフィリア他の各国もだがーー奴隷制度をごく一部を除いて禁止している。唯一の奴隷は、犯罪奴隷だ。罪の軽い者はある一定の期間を奴隷として過ごし、期間中に問題がないと判断されれば無事に奴隷から解放される。逆に、重犯罪者の場合はどれほどの期間を過ごしても奴隷から解放される事はない。
「おっと。私とした事がつい。申し訳ありませんリーディアル様、今のは失言でした」
婆さんに対して、目上に対する様な礼をする。
「…………あたしの名前は知ってるみたいだね?」
「勿論ですとも。この町であなたの名前を知らぬ者はいないでしょう」
「おべっかは要らないよ。それより、この場の決闘を持って双方の蟠りは全て帳消し。勝敗の如何に関わらず、以後に引きずるのは許さないよ」
「重々承知しております」
物分かりが良い感じに頷いてはいるが、坊ちゃんの顔には「へっ、知るかよこのクソ婆」って書いてある。
婆さんも同じく読みとったようで、僅かばかりに目を細めていたがそれだけに留めていた。
「んじゃ、ルールを説明するよ。勝敗は双方の全員が戦闘不能になるか、こちらがそうと判断した時点で決することにする。戦闘不能者の追い打ち、またはこちらの制止を聞かずに続行しようとしたら反則とする。ま、禁則事項はこの程度かね。後は好きに押し。このギルドには優秀な治癒術士が要るからね。腕がモゲようが足がモゲようが目が潰れようが、完璧に治してやるから」
と、婆さんが指を指すと、何度も顔を合わせた女性職員の方がいつの間にか会場の入口で礼をしていた。
その隣には何故か、見覚えのあるダンディーなお姿が。
「おや、あんたも来たのか?」
「自分が受け持った新人が即座に問題を起こしたのです。気にならない方がおかしいでしょう」
俺と坊ちゃんが登録試験を行った時の試験官だ。
「じゃ、あんたは副審をやりな。あんたの『目』なら見逃しはほとんど無いだろうさ。そのぐらいはいいだろ?」
「承りました」
試験官は頷くと、会場中央で婆さんと対面する位置に着いた。
彼の目線が、俺の傍らに刺さっている大斧に向いた。
「私の時には使っていない得物だね」
「………………………………」
俺は全力で目を逸らす。逸らすといったら逸らす。
「どうやら警戒させたかな」
その心すら見透かそうとする目が怖いのだ。
俺は試験官の視線にビビりつつ、婆さんの開始の合図を待った。