Kanna no Kanna RAW novel - chapter (8)
第八話 この場合、美女ババアとでもいえばいいのか?
「切っ掛けは偶然。貴方たちがこの霊山をドラゴンで越えようとした時」
いの一番に、めちゃめちゃ寒かった記憶が浮かぶ。
「本来、生身の人間がこの山を越えるのは陸も空も含めて不可能なのよ。肉体的ではなく、この山は魂を凍てつかせる冷気が領域を支配しているの。どれほどの強靱な肉体を持っていても、先に心が死んでしまうわ」
「…………越えちゃったけど?」
「そこの剣士さんはまぁ例外ね。耐性魔術が『精霊術』レベルにまで昇華されてるから」
美女がレアルを指さす。実感がないのか、美女の存在を未だ飲み込めていないのか、キョトンとしたままだ。
「けれども、貴方は違う。たかだかあの程度の炎の魔術で乗り切れるほどに柔い冷気じゃないのよ」
「そうか? さむっいちゃさむかったけど」
「寒いで終わっている時点で、貴方の特異性が証明されているの。でも、だからこそ、私は貴方を見つけることが出来たの」
柔らかく口端をつり上げる笑みは、芸術レベルだった。
「切っ掛けは今話したとおり。後は麓の村人と口裏を合わせて貴方をこの山に誘導したの。途中、ウルフの群に遭遇したときは少しだけ焦ったけど、剣士さんが思ってたより強くて助かったわ。結果的に、貴方たちをこの場に誘導する手助けになったけど」
「村人と顔見知りって…………どーいうことだ?」
「あそこの人たちって、昔から私を何かと敬っててね。お礼に彼らだけは例外的にこの山に入れるようにしてたのよ。彼らの前にでるときはこの姿じゃないけどね」
あの少女が目の前の美女だとすると、村人からのレアルへの依頼も偽りだったのか。
「あ、彼等を責めないでね? あの人たちは私の我が儘につきあってくれただけだから」
「や、そりゃいいんだが」
どうにも疑問だらけだ。
「今更だけど、お姉さんは人間なん?」
「もちろん違うわ。人の定義で表すなら『精霊』かしらね。私たち自身は、己を表す言葉は知らないけど」
精霊ーーーー彼女が言った精霊術の精霊は彼女自身を指すのだろうか。
「なぁレアル。精霊ってなんぞ?」
言葉自体で想像は付くが、この世界での定義がわからない。
「…………通常は、実体を持たぬ自我無き意志の存在を指す」
ようやく落ち着いてきたレアルが簡潔に答えるが、言っていて本人はあまりすっきりしていない様子。
「希に、意志を持った精霊がいるらしいが、人の姿へと変じ、明確な思考形態を持った類など、私は見たことがない」
「でしょうね。本当に自慢じゃないのだけれど、私ほどに自我が確立できるになるまではものすごく長い時間が掛かるの」
「具体的には?」
「千年ぐらいかしら?」
「お婆ちゃんっ!?」
「そうよぉ。こう見えて、私はすっごいおばあちゃんなの」
わざとらしくほっほっほと、年寄り臭く笑う精霊。ノリいいな。
「んで、婆ちゃんはなんで俺たちをこんなすこぶる寒い場所に呼んだんだ?」
「お、おい。堂々と女性を年寄り呼ばわりするのはどうかと思うんだが」
「あらあら、いいのよ。むしろそう呼んでくれるのは、親しみやすいわ。麓の皆は「精霊様〜〜」って。敬ってくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと堅苦しいのよね」
目下最大の謎をぶつけるも、俺の言い様にレアルが突っ込みを入れた。呼ばれた当の本人は、割と気に入った風だ。
「ま、簡単に言えば、そろそろこの場所に留まるのも飽きて来ちゃったってところかな?」
精霊が、地に突き刺さっていた槍に目を向け、俺たちもそれに倣う。
銀光を放っていたあの槍は、今や半ばから折れており、長い柄の半分が地に突き立ったままを残していた。
「…………折れてるんですが?」
「…………折れてるな」
「ちょっとちょっと、他人事みたいに言わないでよ。君が折ったんでしょうよ」
「だってよ、レアル」
「いやいやいや、さりげなく人のせいにするな。明らかに君だろうが。精霊殿も君を指さしているだろう」
確かに触りましたけど、そう仕向けたのは婆ちゃんでしょうが。ってか、アレは本当に指先が軽くタッチした程度だったんだが。
「あ、別に責めてるわけじゃないのよ。むしろ感謝してるわ。私をこの場に縫い止めていたのはこの魔槍だったから。ま、正確には槍そのものに封印されてた訳なんだけど、ここ三百年近く誰にも抜かれないまま放置されてたし、同じ事よ」
そんな豆情報は知らんがな。
「誰もこの場所に来なかったわけじゃないわ。十年に一度か二度ほど、腕自慢やら技自慢の人間がやってきたわ。もちろん、目的はこの槍。この山に人の身で乗り込んできた時点でなかなかの魂の持ち主だけど、結局この槍を抜けた人は皆無。全員、前座のゴーレムに潰されるか、槍に触れたときに魂が耐えきれずに発狂死するかのどちらかだったわ」
「…………おい」
憮然とする精霊の発言に、顔が自覚できるほどに引きつった。下手をすれば、俺もその腕自慢たちと同じ末路を辿っていたのか。
「人の身、とは言ったけど、だいたいの人間が魔術と魔術具で躯全体をガチガチで固めた完全防備でだったからね。防寒具一枚でここまで来た君とは、雲泥の差よ」
「フォローになってねぇからな」
「そんなわけで私はこの山に一人だけずーっと寂しい思いをしていたのよ。たまに麓の山に分け身を送る程度は出来たけど、本体である私自身はこの空間で毎晩毎晩一人で枕を濡らしていたのよ」
枕ねぇし、流した涙も即座に凍りそうだな、と突っ込みを入れたくなったのは秘密だ。
「精霊殿、質問をよろしいか?」
「いいわよ剣士さん。お婆ちゃん、何でも答えちゃう」
軽すぎる精霊のノリに調子を崩されつつ、レアルが疑問を出した。
「貴殿がカンナを選んだ切っ掛けーーつまり、その槍を引き抜くに足る人物と判断したその理由をお聞かせ願いたい。推測するに『魂の強さ』というのが判断基準なのでしょうが、具体的には何なのだろうか」
「それは簡単。彼はーーカンナ君は、この世界でもっとも『純色の魂』を持った人間なのよ。カンナ君ほどに混じりけのない魂は、私は私が存在し始めてから一度しか見たことがないわ」
「純色の…………魂?」
人を無垢な少年呼ばわりはやめて欲しい。これでも思春期まっただ中の青少年だ。実は、精霊の服(?)から覗いている白い太股やら、深い胸の谷間やらに目がいって困るのである。時折、自爆覚悟であの魅惑の双丘に飛び込みたい衝動に駆られている。
俺の場違いすぎる若さ故の衝動を余所に会話はシリアスに続く。
「それが生まれたときからなのか、環境がそうさせたのかは分からないわ。けど一目見た瞬間から、彼こそがこの槍を抜けると確信したの」
精霊がこの一連の騒動を起こした起点が、これだったのか。
純色の魂と言われても、いまいちピンとこない。
「理解しにくいかしらね。ま、いずれは剣士さんにも分かるでしょうね。彼の側にいればいずれは、ね」
意味深に精霊が言うと、一息ついて。
「さすがに抜くどころかへし折ったのは、予想の上をいったけど」
「…………今更だけど、壊してよかったのか?」
「いいんじゃない? 三百年間、誰も抜けなかったんだし。それに、ここ五十年近くは抜こうとする人間も来なかったし。大方、忘れられてたのかしらね」
いい加減すぎね?
「細かいことは気にしない気にしない。もう折れちゃったんだし、今更何いってもどうしようもないでしょ」
「そりゃぁそうなんだがよ」
申し訳ない気持ちは偽り無く、レアルの方を向けば、彼女は彼女で肩をすくめて首を横に振る。あ、こいつ考えるの放棄しやがった。俺も思考を放棄したいんですが。
…………よし、考えるのはやめておく方向で。
ーーーー後々に知るのだが。
この至極ノリの軽い精霊は三百年もの昔、この国を恐怖にたたき込んだ『氷牙の魔神』と恐れられた存在であり、彼女を封印し俺がへし折った槍は、当時の『勇者』が使用していた伝説の魔槍だったとか。
そしてこれよりほんの少し後に。
俺がちょっぴり人間からはみ出る第一歩を踏み出すわけなのだが、これよりもほんの少し後なのである。大事なので二回。だって、その時までは俺は自分がまともな人間だと自覚できたのだから。その間の短い期間を大切な思い出にしたいわけなのです。ノシ。
精霊の言葉が正しいのならば、彼女はこの山における自然現象にある程度の干渉ができるらしい。洞窟の入り口に戻ってみれば、そこを塞いでいたはずの雪の山は半ば以上が崩れていた。俺らが入山した途端の吹雪も、あの雪崩も、実は彼女が意図的に引き起こしたのだ。前者は俺の『資格』の再確認、後者は俺らを洞窟の奥へと導くために。
次の日の明朝に村に帰ると、村人総勢が揃って膝を折り、頭を垂れてきた。俺とレアルは大いに慌てたが、彼等は嫌々に頭を下げている様子ではなかった。
話を持ちかけてきた村人ーー村長だったらしいーーから聞くと、精霊のいっていた今回の真相は、紛れもない事実だという。彼女の分け身である少女が村を訪れてから画策したとのこと。彼等は精霊に従ったとは言え、見ず知らずの旅人を下手をすれば死地に追いやったと罪悪感にかられていたようだ。
とりあえず俺もレアルも五体満足で帰ってこれたし、彼等を責めるつもりもなかった。そのことを伝えると、せめてもの罪滅ぼしと、この村に滞在している間の費用を格安に提供してくれることを約束してくれた。当初は全額負担すると村長がいったのだが、さすがにこれは気が引けたので譲歩してもらった。
その日の晩。
「やー、いいお湯だったわ。お風呂に入ったのって三百年ぶりかしらね」
湯上がりさっぱりした様子の精霊が、水気にしっとりとした髪を吹きながら部屋にやってきた。水も滴るいい女を見事に体現しているが。
「氷の精霊が風呂に入って平気なのか。溶けるんじゃね?」
「いくら年寄りでも、私だって乙女よ。常に身は清くありたいじゃないの。それにあのぐらいじゃぁどれだけ浸かってても溶けないわよ。私を溶かしたければ、地獄の業火ぐらい持ってきなさい」
「物々しいな」
装備の手入れをしながらレアル。なかなかに見られない光景だったので、彼女の作業を見学させてもらっていた。
「レアルちゃんもお風呂入ってきたら、気持ち良いわよ?」
「これが終わったら行くさ。正直、風呂に入ったら今日はもう何もする気が起きなくなるだろうし」
同感である。俺たちは昨日から完璧に徹夜だ。これで気持ちのいい風呂に入ってしまえば、睡魔には勝てないに違いない。
その前に、一応は詰めておきたい話がある。
「んで、どういうつもりだ、婆ちゃん」
「もうそれで通す気か…………」
本人が気に入っているので、精霊の呼称は『婆ちゃん』で確定している。
「ん、何が?」
「どーして三百年ぶりに自由になった精霊が、俺たちと同じ部屋にいるんだよ」
至極自然に普通に部屋に入ってきたので、こちらもナチュラルに会話を続けていたが、実は俺も(おそらくレアルも)かなり驚いていた。確か村長宅に招かれてなかったか? いくら簡素で小さな村でも、こんな狭苦しい二人部屋よりはよほどに上等な部屋を用意されていたはずだ。
「あーだめだめ、ああいう堅苦しいのってどうも苦手で。私はもっとフリーダムにいきたい訳よ、フリーダムに」
ご都合主義に、この世界に来てから言葉にはなぜか不自由していない。おそらく、何かしらの変換が俺とこの世界の住人との間で行われているだろうが、たまに横文字発言がくるとどんな基準なのか気になる。現代日本の造語文化は侮れないのだ。
「あら、考えてみれば当然じゃない? カンナ君は、三百年間誰も抜けなかった伝説の槍を見事に抜いて見せた勇者よ? 少しばかり深いお話がしたくても不思議じゃないでしょ」
「抜いたどころか粉砕だったけどな。ってか、勇者はやめてくれ」
思い出した途端、胸の奥から凄まじい怒気がこみ上げてくる。
「精霊殿、カンナに『勇者』関係の言葉は厳禁だ。出来れば以後は控えてもらいたい」
「…………みたいね。分かったわ。気を悪くしてごめんなさいね」
「や、俺こそ悪い」
事情を知らない婆ちゃんに非はない。詫びてくる彼女に俺は首を横に振った。
「ま、世間話だけじゃなくて、カンナ君にいろいろと『力』の使い方を教えておこうと思ってね」
何?とレアルがこちらに目を向けられるが、俺は反応に困った。
少しだけ婆ちゃんは考えると、おもむろにレアルの右手を取った。
「精霊殿何を…………って、冷たいッ」
レアルが悲鳴を上げながらビクリと肩を振るわせた。可愛らしい悲鳴だったのは俺の胸の内に秘めておく。
「ごめんね。じゃ、カンナ君も」
次に俺の右手を取るが。
「……………………アレ?」
彼女の右手から確かに冷気は感じる。手に触れている部分だけが、極寒の寒さを持っているのだが、俺はレアルのようには反応できない。冷たいと認識は出来るし、温度も体感できるが、それだけだ。悲鳴を上げるほどでもなかった。
「だいたい、水が一瞬で凍る一歩手前ぐらいの温度かしらね」
首を傾げている俺に、婆ちゃんは答えをくれた。それってマイナスうん十度でなかったか? 不意打ちでそんな温度に触れたらレアルと同じく悲鳴を上げそうなものだが。
「そう、レアルちゃんの反応が人間としては通常なのよ」
本当に通常だったら、凍傷になってるけど、と物騒な追記。
「俺が異常みたいな言い方だな」
「特異、という意味では間違いではないわ。ねぇカンナ君、あの洞窟でアイスゴーレムを倒したときのこと、覚えてる?」
半日足らず前の出来事だ、忘れるわけがない。むしろ、あえて今まで考えないようにしていた。レアルも、そんな俺を察して今まで触れてこなかった。
今でも意識をすれば、己の『奥底』に、新しい感覚が芽生えている。
やはり、婆ちゃんが『力』と称したのはコレのことか。
「…………精霊術ってやつのことか」
「そう、精霊にのみ許された理の術法。カンナ君は、人でありながらも、きわめて精霊に近しい力を手に入れたのよ。冷気に耐性がついたのもそのせいよ」
「…………あの時槍から流れてきた『アレ』が原因か」
「君が『得た』のはこの世界を支える理の一つ。私が長い年月封印されていたせいで、あの槍にはそれが染み着いていたの。本来なら、あの槍の所有者がその理の担い手になるはずだったんだけど、ね」
何度も言うが、槍は俺が見事にへし折った。不可抗力だが。
「過程はどうアレ、結果的には君は『氷結の精霊術』を身に宿したの。私が、その力を扱う術を教えてあげるわ」
一週間の滞在期間をおいて、俺たちは村を出発した。
「いいのかね、こんなに食料を分けてもらって」
広々とした草原を横断するか移動を歩く俺とレアル。俺の背中には、食用が満載した鞄。村の人たちが、餞別にと。宿代といい、食料といい、お世話になりっぱなしだった。もしこの先に機会があれば、恩返しが出来るといいのだが。
「気持ちはどうアレ、正直に言えば助かる。路銀はあるが先は長い。食費が浮くだけでもだいぶん楽になる」
レアルの現実的な話も頷けるので、俺はそれ以上は言わない。それなりの金銭は城を脱出するときに(迷惑料慰謝料その他諸々込みで)持ちうる限り頂いてきたが、それ以上の収入があるかは不明なのだから。
当初はすぐさまに出発する予定だったのを、一週間と大幅に期間を設けたのは、幾つかの理由がある。
一つは、追っ手の心配が無くなった事。正しくは無くはないのだが、俺たちが越えた霊山は、婆ちゃんが長年住み着いたせいで人間不可侵の領域になり果てていた。よって、空を行くにも地道に踏破するも不可能になっている。領地の一部にあるその危険地帯を、城の者が知らないはずはない。よって、俺らがその山を越えること、その先にある村に滞在しているはずがないと考えるだろう。捜索範囲を広げるにしても、霊山を隔てた対角上にあるここいら一帯は後回しになる。
急ぎの理由が無くなると、第二の理由。こちらは婆ちゃんの提案通り、俺の『力』をある程度使いこなす為の期間だ。この先の道程は短くないだろうし、その間に雪山で遭遇した時のようにいつ魔獣に遭遇しないとも限らない。レアルにばかり頼ってもいられず、少しでも自衛の手段があるのは間違っていない。
ついでに、レアルからこの世界における一般常識の講習だ。当面は超ド田舎出身の若造で通す予定だが、それにしても万国共通の常識ぐらいは仕入れておかないと、後々トラブルの問題になる。ついでに簡単な読み書きと数字も覚える。さすがに文字は今後も要勉強だが、数字ぐらいは何とか判断付くようになった。
当面の目的地はレアルの故郷だ。
レアルの故郷は、隣国においては首都ともよべる場所で、国王もその場所に陣を取っているとか。王様のお膝元となれば、発展の度合いは国で一番かそれに近しい。つまりはそれだけ人の数も多い。そして、人の多さとはつまり情報の多さにも等しい。
もしかすれば、俺が元の世界に帰る手段が。あるいはそれに類する手がかりが見つかるかもしれない。この事はレアルにすでに承諾を得ており、助力を得られる約束も取り付けてある。
期待はしない、が手探りでも先行く道が見えるなら上等だ。幸いにも旅の道連れがいるの。しばらくは退屈しない道のりになるだろう。
そう言えば、一応婆ちゃんにも俺がこの世界を訪れた経緯を教えた。長く生きているだけあって、何か知恵袋的な情報が得られるかもしれないと思ったからだ。
「ご免なさい。カンナ君を直接助けられる様な情報は持ってないの」
婆ちゃんの申し訳なさそうな顔を思い出す。
「過去に異世界から人を召喚したという話は、何回か聞いたことあるわ。けど、そのどれもが人間の国の内部で行われていたの。だから、あったという事実は分かるけど、その詳しい内容まではちょっとね」
「ちなみに、一番新しく異世界から人が召喚されたのって何時なんだ?」
この質問に答えたのはレアルだ。
「たしか…………三百年前ほどだったと聞くな。公式の記録にも載っているはずだろう」
「そ、そうね。私がちょうど封印される時期だったかしらね」
それまでは軽い調子だった婆ちゃんだったが、急に仕草に落ち着きがなくなる。はて、何か知っているのだろうか。
そんな婆ちゃんに疑問を抱きつつ、追究するのも悪いと思って会話は打ち切られた。
婆ちゃんとの会話を回想してからふと、元の世界に思いを馳せた。ここ数日間の波瀾万丈に考える余裕が無かったのだ。
「有月の奴、妙な事しなきゃ良いがな」
一番に頭の中に思い浮かぶのは幼なじみの事。腐れ縁というか因縁というか、小学生低学年のころからの付き合いだ。俺とは真逆の色々と優秀な奴ではあるのだが、割と残念で問題の多い奴でもあった。トラブルメーカーと言うのはおそらく奴のことを指すに違いない。
続けて浮かぶのは、有月よりは付き合いは短いが、それでも中学のころからの友人である二人の女友達だ。有月を経由した出来事が知り合う切っ掛けで、有月と俺とその四人が大体常に一緒にいるグループだ。
「今頃、あいつ等どうしてんのかなぁ」
少なからずの騒ぎになっているのは間違いないだろうが、どうせ今は何も出来ないので、俺はそれ以上を考えるのをやめた。