The Hero Who Returned From Another World Becomes an Influencer in the Real World Where Dungeons Have Appeared and Makes Money! RAW novel - Chapter (18)
第18話 海外での仕事(後編)
「わずか一日で、レベル432って……」
「私もレベル436です。他三名も、全員がレベル430を超えています」
「凄いわね、リョウジは」
「そうかな? すでにルーチンワークと化していることだから」
「リョウジはとてつもなく凄いことをしているのだけど、もう感覚が麻痺しているのね……」
無事に、リンダたちのレベルをダークボールを使って上げることに成功した。
五人パーティを合計二百五十億円で強化したら、俺とは違って金銭感覚がセレブなリンダに安すぎないか心配されてしまったけど、代わりにダークボールの素材をすべて貰う契約だと言ったら、それなら安心と言われて、庶民の俺は大きく混乱した。
とにかくに大儲けってことさ。
「ダークボールの素材は、岩城理事長が買い取るのかな?」
なんて思っていたら……。
「我が国のレアアース、レアメタルの在庫は危機的状況にあります。是非とも売ってください。価格はこのくらいで……」
「高っ!」
「今、世界中でどの金属の相場も高止まりなので」
鉱山がなくなった以上、地下資源はダンジョンから採取してくるしかないから、相場が高くなっても仕方がないのか。
特に鉄は、スライムが持つ鉱石に多く含まれているのだけど、冒険者たちが個人個人で集めているから効率が悪く、その相場は大分上がっていた。
リサイクルの比率がさらに上がったという。
他の金属についても、言うまでもないだろう。
なにしろ今では、少量だが日本が金属輸出国になっている有り様なのだから 。
「別に構いませんが……」
「ありがとう! 君のダンジョン探索動画、わかりやすくていいね。モンスターがドロップする鉱石の詳細な説明を出してくれているからありがたいよ。君、アメリカ人にならないかい?」
「はははっ、俺は日本人なので」
「残念だね」
俺は日本人として十六年以上も生きてきたから、そう簡単にアメリカ人にはなれないよな。
英語が話せないわけではないのだけど。
「リョウジ、一緒にディナーに行きましょう」
「俺はお店がよくわからないから案内してくれ」
「いいわよ」
せっかく手に入れたダークボールの素材だけど、すべてアメリカ政府に売却することになった。
他にも色々と頼まれ、あると言うと、日本よりもはるかに高額な代金を提示される。
まさに札ビラで引っぱたくようなやり方だが、なんと言ったらいいか、アメリカ人は回りくどいことはしないんだな。
俺は儲かったからいいけど。
「レベルが上がって強くなったけど、やっぱりネックになるのは弾よね」
リンダの案内で、セレブが通いそうな超高級レストランで夕食をとる。
その席で彼女は、ガンナーの弱点を嘆いていた。
ダンジョンの中では火薬と、アメリカ軍が試験的に導入した小型のレールガンも使えなかったそうだ。
魔力で飛ばすか、カードリッジに魔石を用いた銃弾がなければ、魔銃などただの金属の棒でしかないのだから。
「魔銃と弾丸を代えないと、攻撃力が上がらないというのも弱点ね」
レベルが低かったり、攻撃力が低い冒険者からすれば、撃てば必ず決まった攻撃力が出せる魔銃はありがたい武器ではある。
問題は、レベルが低い冒険者が魔銃の運用コストに絶えられないことなんだけど。
リンダの場合、祖父がアメリカの大統領で実家も大金持ちだからこそ、魔銃を使い続けられたという事情も存在した。
「攻撃力に関しては、なるべく多くの特性を持つ魔銃をアイテムボックス内の銃置き場にストックし、適したものを素早く取り出して使っていく必要がある。その際に必要なのは、力は最低限だけど、素早さや、器用さが必要になる。高威力の長身で重たい魔銃も存在するから、レベルアップで強くなっておくに越したことはない」
「適切な魔銃を取り出せても、弾の装填時間分、時間をロスしてしまうわ」
「弾倉を上手く活用するしかないね」
「魔銃用の銃弾には、火薬のように粉末状にした魔石が使われているけど、扱いが難しくてなかなか量産できないらしいの」
火薬銃の弾薬のように、薬莢に魔石の粉を詰めて発射薬の代わりにするのだけど、粉末にした魔石の取り扱いは難しい。
水で薄めて魔液にすると安定して、化石燃料のようにすぐに着火するようなこともないのだけど。
魔銃の銃弾は雷管の製造も面倒で、火薬銃のように安く早く作れなかったのだ。
「となると、弾倉に入れる銃弾は弾だけにして、魔力と魔石を外付けの魔力タンクに入れる必要があるな。この仕組みを用いた魔銃は、ある程度貫通力の調整ができる」
「本当?」
「ああ、魔銃に外付けする魔力タンクに特別な仕組みを施してあると、魔銃を発射する時、発射した本人が銃弾に篭める魔力量をコントロールできるんだ」
弾の大きさや材質の他に。
通常弾、散弾、完全被甲弾、ソフトポイント、ホローポイント、ダムダム弾、破片侵襲弾など。
その時の状況や、戦っているモンスターに適した銃弾を選び、発射する際に魔力タンクから適した量の魔力を使用する。
少なすぎれば威力が落ちるし、多すぎれば魔力の無駄だ。
モンスターの体を必要以上に破壊してしまい、素材の買取価格が落ちてしまうことだってある。
「リョウジは、魔銃も使えるの?」
「作れるし、使えるけど。剣を振って魔法を放った方が強いから、普段はそんなに使わないかな」
ガンナーって格好いいけど、討伐効率が下がるんだよなぁ。
「だからガンナーに拘りたかったら、相応の工夫しないと駄目なんだよ。アメリカ人はガンナー好きが多そう」
「アメリカ人は、ジョブでガンナーが出る人が多いのよ」
「民族性かな?」
でも、日本で侍とか出てないからなぁ。
忍者もか。
上級職で、まだ出現していないだけかもしれないけど。
「魔銃や弾薬を作れるようになれとは言わないけど、自分で最低限の整備ができて、小改良ぐらいできるようになった方がいい。明日からそれを教えよう」
「ありがとう、リョウジ」
「なあに仕事だからな」
そして翌日から、俺も魔銃を使ってモンスターを倒すことにした。
リンダに指導するためだ。
「どこかで見たような銃ね」
「自衛隊の64式小銃が一度ダンジョンに取り込まれ、魔銃化したものだ。アメリカでもそういうものがドロップしているんだろう?」
「そうね。最初は世界中どの国も、ダンジョンに軍隊を送り出したから。アメリカのダンジョンでも、たまにドロップするわね」
「そういうものを自分で改良してあるんだ」
今日の俺は、銃剣をつけた64式小銃型の魔銃を装備していた。
ただ、すでに一緒にドロップした弾薬は撃ち尽くしていた。
そこで、セラミック製の弾丸のみを銃身に順次供給するマガジンの改良と、発射時に使用する魔力量を思念だけで自由自在に供給できる外付けの魔力タンクを追加し、それが射撃時の邪魔にならないようにしてある。
銃剣は長めのものがついており、モンスターの接近を許した時には、これで応戦できるようなっていた。
銃剣はオリハルコン製なので、弾がなくても一定の攻撃力を確保してあった。
「例えば……あのスライム」
魔銃の試射を見せるため、俺はリンダを連れてロッキー山脈ダンジョンの一階層にいた。
少し離れた位置にいるスライムに照準をつけ、一発銃弾を発射する。
見事スライムに命中したが……スライムを貫通しなかった。
「魔力タンクから送り出した魔力の量が少ないと、威力が足りなくてスライムすら貫通できない。逆に……」
続けてもう一発、同じスライムに向けて銃弾を発射した。
またもスライムに命中するが……。
「スライムが弾けた!」
「これは魔力を込めすぎだね。弾丸は自作した純セラミック製の通常弾丸だけど、それでも魔力を込めすぎると、モンスターはああなってしまうんだ。魔石と鉱石は探せばあるけど、スライムの粘液は飛び散ったら拾いにくい。丁寧に拾っていたら時間がもったいないので、これは失敗したとみなしていいだろう」
「獲物の種類、距離、銃弾の種類も加味して、どのくらい魔力を込めればいいのか、ちゃんと考えながらやらないと駄目なのね」
「最初は、自分がこのくらい込めようと思った魔力量と、実際に魔力タンクから供給された魔力量との間に多少の誤差が出てしまう」
「どうすれば解決できるの?」
「PRGのように数字が見えないし、『魔力を5込めよう』などと操作できるわけじゃない。自分で沢山撃って感覚を掴んでいくしかない。ガンナーは様々な状況に対応するため、多くの銃や弾丸を揃えないといけない。体で覚えなければいけないことが多い」
「大変なのね」
「魔銃を使ってるうちに、ここをもう少しこうした方が使いやすい、とか出てくる。他人に任せると、お金はともかく時間がかかる。ガンナーには最低でも弾薬を製造したり、銃を改良できる才能があるはずなので、そちらも覚えていかないといけないな」
「リョウジはできるの?」
「できる。まずは魔銃の整備の仕方と、弾丸、弾薬の作り方かな。魔力タンクと自身の魔力が尽きた時、魔力を梱包している弾薬を沢山持っていれば、いざという時に己の命を救うことになる」
その弾薬を使えば、自分自身に魔力がなくても魔銃を撃てるからだ。
「……」
「どうかしたのか? リンダ」
「私、たまたまジョブがガンナーだったのもあるけど、ガンナーには短所が多すぎて、それなのにアメリカ人は拘り過ぎるからダンジョンの探索がなかなか進まないのだと批判されるのが嫌だった。だから頑張って国内レコードを持つまで努力したのだけど、リョウジを見ていたらまだ甘いんだって実感してしまったわ」
「それは、これから努力すればいいだけのことだ」
「あなたは、日本人とは思えないほどドライね」
それは、十年間も異世界に召喚されていたからだろうな。
向こうの世界で日本人らしくしていると、とにかく損をしてしまうのだ。
十年ひと昔とはよく言ったもので、嫌でもそういう風になってしまう。
「一階層からやり直しだ。どのモンスターに、その弾丸でどのくらい魔力を込めれば効率よく倒せるのか。体で覚えてくれ。夜には魔銃の整備の仕方、弾丸の作り方も教える」
「わかったわ」
リンダへの指導と、全米のダンジョン攻略と動画撮影。
これを予定どおり二ヵ月で終わらせることはできたのは、疲労回復の魔法と魔法薬を利用して一日一時間睡眠を続けたからであろう。
あまりやりすぎると、あとで『ボ―――ッ』としてしまうから、多用は厳禁だったけど。
「合格だ。これからも精進してくれ」
「やったわ、魔銃を改良できるようになったわ! ライフリングの部分をミスリルでコーティングすると、命中精度と貫通力が大幅に上がるのね」
「弾丸にコーティングしてもいいんだけど、コストがなぁ……」
「戦闘が終わった後に発射した弾丸を探しに行くのもどうかと思うし、なかなか見つからないと思うわ」
「セラミックの弾丸は材料が土だから、これを何発も撃った方がいいかも……」
「リョウジ、どうかしたの?」
「さすがにちょっと眠くなってきた。いくら疲労が治癒魔法と魔法薬で回復しても、短時間睡眠を続けると弊害があるなぁ……」
「リョウジ?」
リンダには悪いけど、今日はちょっと眠らせてもらおう。
「もう、しょうがない人ね」
最初は見た目が貧弱なこともあって、リョウジの実力を疑っていたのだけど、彼は本物だった。
全米にあるダンジョンをすべて攻略して動画を撮影してしまったし、ガンナーである私よりもはるかに魔銃の取扱いに詳しかった。
契約の範囲内だからなんて言いながらも、私に丁寧に教えてくれて。
「やっぱり男は、口よりも行動よね」
リョウジとこの二ヵ月一緒にいて、余計にそう思うようになっていたわ。
この私を放置して寝てしまうような人だけど、でもそれは大きな仕事をやり遂げたからで。
お祖父さんも事業を成功させて、政治家になって、ついには大統領にまでなった。
「似ているのかも。アメリカ合衆国大統領の孫娘に膝枕をさせて気がつかないなんて……。とんでもない男だけど……」
これからも、リョウジに言われたとおりに頑張るわ。
それと、お祖父さんに日本に留学する許可をもらいましょう。
私はもう飛び級で大学を卒業しているし、リョウジを手に入れるためだと言えば、お祖父さんも駄目とは言わないでしょうから。