When I was dying of a high fever, I was given the skill of hatching by the goddess, and for some reason I became the strongest tamer who can subdue phantom beasts and divine beasts. - chapter (32)
第32話 それぞれの思惑
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クラウスたち受験生がアカデミーの生徒を護衛し始めて二日目、状況が大きく動いた。
先日は数度の戦闘をこなすだけで野営地に着き、食事を作り交代で見張りをするという普通の護衛試験だったのだが、一日が経つと生徒の動きに変化が現れたのだ。
基本的に馬車の両側には冒険者が立ち、どちら側からモンスターが接近してきても見逃さないようにしている。この場にいる冒険者はすべてCランクモンスターを単独で討伐できる実力があるので、不意をうたれなければ後れを取ることはない。
ところが、今日になってから、クラウスもブレイズも、そして他の冒険者も一度もモンスターを剣を交えていなかった。
なぜかというと、モンスターが接近してくるなり、馬車の中からアカデミーの生徒たちが魔法を撃ち始めたからだ。
ごく普通の学校に通っている魔導師見習いであれば、魔法の威力も低く、遠くまで飛ばしたり相手を狙い撃つ精度も持ち合わせていないのだが、アカデミーの中から選りすぐられたエリートだけのことはある。
威力精度ともに申し分なく、生徒たちが放った魔法によりモンスターは全滅するので、馬車まで近付けたものは1匹もいなかった。
そんなわけで、護衛なのに仕事を横取りされた冒険者――特に受験生は徐々に苛立ちを募らせ始めていた。
「あー、スッキリした」
今も、ブレイズの頭上からメリッサの声がする。
先程、接近しようとしてきたゴブリンを魔法で作り出した氷の矢で絶命させたばかりだ。
メリッサは聞えよがしに明るい声を出すと、わざと馬車の窓を開けっぱなしにして中にいる他の生徒と会話を始める。
「メリッサ、次は私と席を変わってもらえませんか?」
「いいよぉ、でもあまり倒しすぎちゃうと、護衛さんたちがただ歩いているだけで退屈になっちゃうかも」
メリッサは口元に手を当てクスクスと笑う。事前に生徒たちにも通達が言っているのだ。
今回の行事は国家冒険者の受験生が紛れているのだと。
「ロレイン、次は絶対私だからねっ! こっち側は全然モンスターがこないんだもん」
逆側の窓際の席に座っていたルシアが愚痴を漏らす。先程からモンスターが現れるのは進行方向から見て右手側、ブレイズが担当している。
左側のクラウスがいる方向からは一切モンスターが現れていない。
「わかりましたわ。次にモンスターが現れたら交代して差し上げます」
ロレインがそう告げるとルシアは嬉しそうな声を出して彼女に抱き着いた。
「ちっ、俺たちの試験を何だと思ってやがるんだ……」
ブレイズは苛立つと聞こえないように呟く。
活躍の場がなければ同行している試験官にアピールすることができず失格になってしまう。
焦りを浮かべるブレイズや受験生、アカデミーの生徒との間に確かに軋轢が生まれ始めた頃、
クラウスは口を開くことなくただ護衛の仕事をまっとうし続けていた。
「やはり、今年も始まりましたね」
夜になり、国家冒険者の試験官とアカデミーの教師がミーティングをしている。
この行事は毎年行われているのだが、例年同じような流れになっているのでそのことについて触れている。
「依頼対象が勝手な行動をとるのはよくある話ですからね、身も蓋もない話で申し訳ありませんが、足を引っ張る存在を護りぬくくらいでなければ国家冒険者は務まりません」
実は今回の試験は国家冒険者機構とアカデミーによる仕込みが入っている。
受験生には失格というプレッシャーをかけることで。アカデミー生徒たちには国家冒険者試験の受験生が紛れているということでそれぞれを意識させる。
元々、アカデミーの生徒はエリート意識が強いので、受験生に対抗意識を持つ。
受験生はこれまでと違う、力を保持している厄介な護衛対象に自分で考えて対処しなければならない。
ただの護衛ならば強ければ務まるだろうが、国家冒険者になった場合、国の要人を護衛することになるのだが、権力を持つ人間は癖が強いので円滑な人間関係をつくるような立ち回りも求められている。
「ご指摘のとおり、うちの生徒も問題ありですよ。幼少の頃から家庭教師に英才教育をされて育ったからか増長してますから。お蔭で実力が劣る者のいうことは聞かなくても良いと考え、アカデミーでも好き勝手に振る舞う始末です」
アカデミー代表の教師は苦笑いを浮かべた。
「この野外授業でどちらも良い方向に進むと良いのですが……」
今回の護衛試験は、受験生とアカデミーの生徒両方に苦い経験をしてもらうのが目的だ。
そのために今回の目的地は、古の時代に魔王が君臨していたと伝承がある廃城にしている。
現在、調子に乗って魔法を使っている生徒は辿り着くころには魔力もからっぽだろう。
廃城ではそこら中でアンデッドやレイスなどのモンスターが出現する。
魔法が使えないアカデミーの生徒を背にする護衛はさぞ苦労するに違いない。
その時の姿を思い浮かべた教師はクスリと笑うのだが、ふと真剣な表情を浮かべると今日のことを振り返る。
「そう言えば、一つ気になったんですけど……」
「どうしましたか?」
試験官はアカデミーの教師に聞く。
「いや、今日の行軍でのモンスターの出現方向が随分と偏っていた気がしましてね」
実際、モンスターが接近してくるのはいつも同じ方向だった。これでは例年の半分しかモンスターと遭遇していないということになり、廃城に到着しても生徒に魔力が残っていれば妙な行動を取りかねない。
「まあ、残りの日程で逆に偏るかもしれませんし、こういう試験ではイレギュラーも起こりますよ。安心してください、いざとなれば我々正規の国家冒険者が全力で御守りしますから」
受験生が最低限Cランクモンスターを討伐できるとすると、国家冒険者は15人で協力すればAランクモンスターを討伐することもできるのだ。
万が一も起こらぬように過剰戦力を揃えてきている。
「ええ、王都に戻りましたら美味いワインを出す店を見つけたんです。打ち上げにどうですか?」
「いいですね、受験生とアカデミーの生徒たちの未来を祈って乾杯しましょう」
二人が戻ったあとの話に花を咲かせている上空で、月明かりに照らされ虹色に輝く飛翔体があった。