Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (107)
105話 ハンター談義
日が沈みかけた頃。
ベザート、マルタ間の馬車停留所とも呼べそうな、広めの空き地に到着した俺達は早々に食事を摂った。
ホリオさんが馬の世話をした後は、以前メイちゃん家から借りたのと同じ着火用魔道具を使って焚火を用意。
その後ろでアマンダさんが木箱をゴソゴソしていたので、何かご飯でも作ってくれるのだろうか? と眺めていたら、渡されたのは例の馬糞モドキだった。
あれれ?
さっき食材が~って木箱ポンポンしてなかったっけ?
アマンダさんがなんか作ってくれると思ってたんだけど?
それに最悪のパターンを想定して、馬糞モドキなら俺も買ってきてるし……
だから思わず聞いた。
「オークってこの辺りにいないんですか?」
もし周辺にいれば、サクッと食材調達でもしてこようと思ったわけだが。
「坊主……いや、ロキ。街道ってのはな、その手の死人が出そうな魔物が出にくいところに作るから街道なんだぜ? もちろんそう都合良く作れなかった街道もあるけどな」
こう正論を言われてしまえばぐぅの音も出ない。
馬糞モドキを見つめると、俺の傷心がさらにエグられる。
が、文句を言ったところでどうにもならないなら割り切るしかない。
結局3人仲良く焚火を囲んでお食事タイム。
やたらと硬くてしょっぱい乾燥肉も一緒に出てきただけマシと思っておこう。
用意してくれた感謝の気持ちを忘れてはなら――って、しょっぱ過ぎるだろコレ!
その後の夜番は、単純に眠くなかったという理由で交代制を提案した。
本来はホリオさんがやる予定だったみたいだけど、それで明日もそのまま御者となると大変そうだからね。
内心、アマンダさんがしっかり寝るまで起きていたいという気持ちもあったりする。
眠くなったら声を掛けると伝え、喜んで雑魚寝に入るホリオさんを横目に焚火の前でボーッと一息。
(完全に寝入ったら、【神通】でリステ様に予定通りマルタへ到着することを伝えて……そのあとはお絵かきでもするかな?)
さすがに女神様を馬車移動に同行させるわけにはいかないので、リステ様の【分体】降臨は俺がマルタに着くまで待ってもらっている。
フェリンみたいに「早く早く!」とは言ってこないが、予定が分かったらちゃんと伝えておいた方がきっと安心もするだろう。
あとは追加の説明書だな。
馬車の乗り心地はなんとなく予想していたが、実際に乗ってみると俺の予想なんざ可愛いものだったということがよく分かった。
それこそ長時間揺られれば、ケツがさらに割れるんじゃないかと思うほどだ。
路面なんて舗装されていないからしょうがないにしても、それ以外にも馬車にサスペンションがついていないことも大きな原因と言えるだろう。
なので油圧サスやエアサスを簡単に作れるとは思わないが、バネのようにクルクル巻かれたオーソドックスなバネサスなら、この世界の文明レベルでもいけるんじゃないかと道中考えていた。
この世界にはよく分からない鉱石もありそうなので、弾力性に富んだ素材ならベストだろうな。
あとはついでに日本式座布団も伝えておくか?
座布団は現在進行形でケツが痛いからだが、まだこの世界に枕はあってもクッションを見たことが無かったので、あったらきっとこの世界のおばあちゃんとかが喜びそうな気がする。
よし、そうと決まれば早めに紙とボールペンを取りに行こう。
あまり遅い時間に馬車へ行けばアマンダさんに悪いし、
夜
這
い
と勘違いさせてしまうと後が怖いからな。
今はとりあえず、一人黙々と何かに集中できるというだけで有難い。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
翌日。
焚火の灯りを頼りに難易度が高いサスペンションの説明書を書き続け、終わったところで交代するのも今更かと、そこからはのんびりステータス画面を眺めていた。
結局今ある『128』のスキルポイントは何にも振らなかったが、何が【空間魔法】と繋がりがあるのか。
考察する上では良い時間だったと言える。
明け方になってアマンダさんが起床してきたので、ホリオさんも起こしてから揃って朝食。
出発して早々、アマンダさんに追加の説明書2枚を渡して、俺は馬車の中で豪快に寝た。
アマンダさんも、夜番を俺がしたことはホリオさんからの説明で把握していたので、快く足元で寝転がる俺を許してくれていた。
追加の説明書でそれどころではなかっただけかもしれないが。
その後、昼前に起床した俺は、何やら各種説明書を見ながら妄想しているアマンダさんには触れず、ホリオさんとハンター談義に花を咲かす。
ホリオさんの出身はマルタの北にあるミールという町のようで、そこだと付近にはFランク狩場に該当する小さい森が一つあるだけ。
なので、さらに北にあるリプサムという町を拠点にかつては活動していたらしい。
リプサムという名は以前ヤーゴフさんから聞いたような気がしたので、「もしやDランク狩場があるところ?」と聞いてみたらビンゴ。
これで俺が次に行くべき町は決まったようなものである。
おまけにリプサムをさらに北へ、いくつもの町を越えれば王都があり、王都からさらにだいぶ北へ行けば、ラグリース王国唯一のCランク狩場もあるとのこと。
ホリオさんはギルドに雇用された王国の南部を周回する御者専門のハンターなので、北側はその程度しか分からんと言っていたが、それでも俺にとっては十分過ぎる情報である。
各所を回る先輩ハンターの話は、次なる目的地がさっぱり分かっていない俺からすれば目からウロコな内容ばかりだ。
そしてそんな話をしていると、数時間に1回程度の割合で魔物が街道にひょっこり姿を現わす。
「おっ、右前方、ゴブリンが出てきたけどどうする?」
これで昨日も含めて”
や
っ
と
“4体目。
「倒してきまーす!」
馬車は御者以外に討伐できる人間がいるなら、ゴブリン程度でいちいち止まったりはしないらしい。
走ったまま御者台から飛び降り、馬がビビってしまう前に馬車の前方にいるゴブリンへ向けてダッシュ。
解体用ナイフでプスッとした後は、水を自前で用意しているわけではないので、無駄使いを避けるため解体せずにそのまま放っておくことにした。
こうして移動中に身体を動かせるのは嬉しいのだが、スキルを持っていないゴブリンしか出てこないし、何より出現する数が少な過ぎて拍子抜けするほど馬車の旅は退屈だ。
せめてこの10倍くらいは出てきてほしいと、一般の方には申し訳ない願いを心の内で呟いてしまう。
「相変わらず鮮やかなもんだなぁ……」
「所詮はゴブリンですからねぇ。護衛依頼って受けたことないんですけど、こんなに楽なもんなんですか?」
「まぁ場所によるとしか言えないが、多くは本当にいざという時用だな。どちらかというと魔物よりは盗賊対策に護衛を雇う商人が多い」
「なるほど~じゃあベザートとマルタの間にも盗賊が現れる可能性もあるわけですね?」
これは身を引き締めねばと思って確認してみたものの、ホリオさんはその問いに笑いながら「ないない」と言いつつ、御者台の後方を指差す。
するとギルドの入り口でも掲げられている、剣と盾と杖が入り混じったマークが幌に描かれていた。
そういえば後部の入り口側や、窓が無い方の側面にもこのマークが描いてあるのは気になっていたんだ。
「このマークを見て襲ってくる盗賊なんてまずいないぞ? 金にならない物しか積んでいないのは向こうも分かっているからな。それにベザートとマルタの間じゃ商人だって積み荷も大したもんは積んでいないし、そもそも視界が良過ぎて盗賊が隠れる場所なんてないだろ?」
「あーたしかに……」
「だから遊んでろって言ったんだ。魔物がたまに出てきたってゴブリン程度。毎回ここの区間は眠くなっちまうから、今回は話し相手がいてくれて助かったぜ」
そう言いながらケタケタ笑うホリオさんを見て、なぜこの人は御者専用のハンターをやっているんだろうか? と、ふと思った。
豪快な欠伸を連発している姿は、とてもこの仕事を楽しんでいるようには見えない。
アルバさんやミズルさんよりは年上に見えるが、思うように身体が動かなくなってきたのだろうか?
それとも単純に楽で割が良い仕事だから?
そう思って、軽い気持ちで聞いた。聞いてしまった。
「ちなみに御者専用のハンターになったのは何か理由があるんですか?」
「……まぁな。現実を知っちまったんだ」
「……現実?」
「若い頃は調子に乗ってたんだよ。期待の新人なんて言われて、トントン拍子でDランク狩場も安定するようになって。で、近場にBランク狩場があるなんて知ったら……どんなところか行ってみたくなるだろ?」
「まぁ、行きたくはなりますね」
「で、想像以上の惨劇に命からがら逃げた。当時のパーティ仲間を何人も魔物に喰い殺されながらな……それからだ。仲間の死が怖くなってパーティが組めなくなった」
「……」
期待の新人……強い狩場への興味……俺と被るところがホリオさんには多い。
「ロキがちょっと怪しいと思ったから話したんだし気を付けろよ? 決して様子見程度でも行くもんじゃない。身の丈に合わない狩場なんか行けば、俺みたいになっちまうからな?」
そう乾いた笑みを零しながら話すホリオさんの話は、たぶんこの世界でもよくあることなんじゃないかと思う。
ハンターという職業を選べば出てくる単純な興味、今までよりも高い収入、高ランクハンターへの憧れ、過剰な自信……その結果、急に降りかかる身近な死。
ギルドがそうならないようにランクで依頼制限を掛けていても、それでも興味本位でどの程度のものなのか、様子を見に行ってしまうハンターはきっと多いのだろう。
俺もゲームでなら間違いなくその一人だった。
そして異世界という今の
現実
でも、その一歩手前まで来ている自覚がある。
死んだら終わりという気持ちと、もしかしたら飛び級でBランクもこの防御力があればなんとかなるんじゃないかと。
上手く安定して倒せれば、急激なレベル上昇と上位狩場らしいスキルを得られ、飛躍的に俺の力は向上するんじゃないかと……
そんな気持ちがせめぎ合っている。
「大丈夫ですよ。ベザートの皆にはまた会おうと約束しましたからね。死ぬような選択を取るつもりはないです」
「ならいいけどな……」
――決して
行
か
な
い
で
す
とは言えなかった。
それに気づいたのか気付いてないのか、ホリオさんもその点を突っ込むようなことはしてこない。
二人して馬車の行き先をのんびり眺め――
「やっと着いたぜ? あれが領都マルタだ」
石造りの高い外壁が見え始めたところで、ホリオさんがそう教えてくれた。