Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (135)
134話 模擬戦
「いたっ!!」
額に強い痛みを感じて思わず飛び起きる。
(なんだ? 何が起きた!? 敵襲!? おおお俺の敵は誰だ!!?)
寝ぼけた頭で必死に辺りを見渡せば、そこには呆けた顔をしたリガル様が立っていた。
「ロキ、朝だぞ?」
「あっ……おはようございます」
急速に冷める眠気。
昨日、というより今日の寝る前、リガル様頼みで二度寝しちゃおうと決めたことを思い出す。
しかし……この痛みはなんなんだ?
かなり強い衝撃を受けたように思えるが――
「ちなみに今、何をしました?」
「ん? 少し小突いただけだが?」
「……」
そう言って人差し指でシュッシュッと、空気を刺す動作をしているリガル様を見て戦慄を覚えた。
(マジかよ……防御力には自信があったのに、あの程度の動きでこの衝撃と痛みなの!?)
筋力値が高いからといって、ムキムキになるわけではない。
それは自分の身体を見ればすぐに分かる。
多少筋肉が付いてきたことは分かるが、それも日々の狩りという運動によって自然に付いた程度のものであり、あくまでステータス上の筋力値とは表面上反映されない内部数値だ。
だからリガル様がこんなにホッソリしていても強いというのは理解しちゃいるが、実際はどれほどの筋力数値があるものなのか。
こんな衝撃を浴びてしまえば強い興味が湧き上がってきてしまう。
だがそんな楽しい考察はのちほどだ。
今はまず朝ご飯が優先と、風呂場で顔を洗って支度する。
「そういえばリガル様は今日も鎧じゃないんですね。それに――それっぽいサンダルも既に履いてるじゃないですか」
「う、うむ。ロキが変じゃないと言ってくれたからな。だからまずは慣れようと思ってだな……?」
「ふふっ、良いことだと思いますよ? この時間なら人も多少はいるでしょうしね」
二人揃って1階へ向かうと、さすがに支配人のウィルズさんはまだ見当たらなかった。
昨日俺と一緒に深夜商談していたわけだし、ウィルズさんはその後の処理も残っていたのだろう。
だが朝のロビーには身形の良い、商人にしか見えない男達がそれなりにいる。
これから仕事や別の町への移動を開始するのだろうが……
その視線がリガル様に向けて突き刺さっているのは、当人ではない俺でも分かってしまう。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……逆に聞きたいが大丈夫なのか?」
「問題ありません。あの目は美貌に釣られているだけですから、変に不安がらないでください」
「そ、そうか……そうか……」
そのままレストランに向かうと従業員さんが案内してくれたので、俺達は指定されたテーブルに座った。
「またここかー……」
「何かおかしいのか?」
「おかしいでしょう。なんで二人しかいないのに、こんな長いテーブル使ってるんですか」
「たしかにな。他はもっとテーブルが小さいのになぜだ?」
「リ……あなたがいるからですよ。昨日の風体を見て、一般のような扱いはできないとここの支配人が判断したんです」
「ふむ……そうかなるほど」
それを嬉しいと思ったのか、急にニヤニヤし始めたリガル様を見てこりゃダメだと心底思う。
きっと神様! 女神様! と煽てられたら、どこまでもお鼻が伸びてしまうタイプの人だ。
この格好でもやっぱり危険かもしれない……
まぁ、これ以上どうすることもできなさそうだけど。
そんな中で運ばれてきた朝食は一昨日の夕食と同じ。
メニューを渡されることもなく勝手に出てくるので、それを皿に分けては渡し、分けては渡しとしていると、綺麗に平らげていくリガル様。
「こないだのお代わり自由はお詫びも含めた特別ですからね? 食べ放題じゃないんですから俺の分も残してくださいよ」
「えぇー……」
フォークでお皿をチンチンしながら抗議する姿を見て、ちょっと可愛いなと思いながらも、負けじと俺も胃袋の中へ放り込む。
今日は大事な日だ。
昨晩の夕食も食いそびれているし、しっかり体力を付けなくては。
そう思ったらメニューを貰い、結局追加オーダーしてしまっている自分がいてビックリした。
リガル様が大喜びしていたのは言うまでもない。
その後は部屋に戻り、いつも通りの狩り用装備を身に纏う。
リガル様はワンピース姿のまま、椅子に座ってその光景を眺めていた。
「その武器は少し質が良さそうだな」
「え? 分かるんですか?」
「【鑑定】を持ち込んでいるわけではないから、まぁなんとなくだがな。私もリステのように、多少ハンター達の記憶を覗くことはある。だから装備の良し悪しが雰囲気でおおよそ分かるのだ」
「へ~さすがですね。見直しました」
「凄いだろう?」
無い胸を張ってドヤッている姿を見ると、なんとも悲しい気持ちになってしまうけど、それでもこれだって昨日まではできなかったこと。
リガル様は日々成長していると思えば、この光景も喜ばしいことなのだろう。
随分お鼻が伸びた状態なので、ここぞとばかりに一つの疑問を聞いてみる。
「ちなみにアクセサリーについては分かりますか? これ、能力効果が『微小』なんですけど、二つ付けてもまったく体感できないんですよ。『中』なら体感できるのかなーって」
「ふむ……分からん……」
あっ、伸びた鼻を俺が縮めるハメに……申し訳ない。
「だが」
「おっ?」
「それなりに強い者は皆、何かしらのアクセサリーを身に着けている」
「それは予想できます」
「そ、そうか……」
マズい。
このままでは筋の通った高いお鼻が陥没してしまいそうだ。
なぜ質問をしている俺がフォローしなきゃならないのか疑問だが、なんとかしなければリガル様のテンションがダダ下がりになってしまう。
「リ、リガル様は戦闘知識の宝庫ですからね! きっと俺が知らないことを山ほど知ってるんだと思いますよ? 俺がまだ気付いていないだけで!」
「当然だろう。いったいどれほどの時間ハンター達を見てきたと思っているのだ!」
「その通りです。なんてったって戦の女神様ですしね! 今日は期待してますからね!」
「任せておけ! 私は戦の女神だぞ! ハハハハーッ!!」
これで良し。
声がデカ過ぎて困るけど、朝の9時近くともなれば普通の人はもう出かけているはずだ。
籠は持っていく必要無いし……装備と貴重品を所持するくらいで大丈夫かな?
腹が減ったらどうせ近場なんだから、一度町に戻ってきちゃっても良いしね。
「さっ、それじゃ行きましょうか。とりあえず人目の付かなそうな場所は見つけてありますから、まずはそこに向かいましょう」
「了解した。ロキについていくとしよう!」
二人揃ってルンルンと。
お互いが知りたいことを知れるかもとあって、俺達は軽い足取りで町中を抜けていった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
俺がボイド湖畔へ向かう時の離陸ポイントに使っていた森。
その手前にある平原の岩に腰掛け、これからのことを考える。
リガル様は只今お着換え中だ。
ワンピースのままでも問題無いと言っていたが、万が一俺の攻撃が当たって怪我でもさせてしまうと申し訳ない。
【分体】だからと言われたって、俺から見えるその姿は当人そのものだし、女神様達のいう魂をその【分体】に移しているとしか思えないからな。
ただこれをそのままストレートに言ってしまえば反発するのは目に見えているので、「鎧姿が見たいです。あとできれば剣も凄く見たいです」と伝えたら、飛ぶように喜んで神界へ戻っていった。
なんとも単純な女神様である。
(それにしても、模擬戦かぁ……)
思わずパイサーさん力作の剣を見つめる。
まさか最初に全力で振るう相手が女神様とは思ってもみなかった。
だが、リガル様は言った。
今の俺の力が見たいから、全力でかかってこいと。
考えてみれば、俺が本当の全力で戦っていたのは初期のパルメラ大森林くらいだろう。
その後は常に安全マージンを抱え、スキルやレベルにノルマを課し、死なないことを前提に立ち回ってきた。
言
い
換
え
れ
ば
温
か
っ
た
。
ノルマをクリアするための作業、作業、作業―――
それを嫌とはまったく思わないが、それでもただその繰り返しだ。
だが、今回は違う。
どう考えても俺よりスキル保有数が多く、かつそのレベルも圧倒的に高く、人間が到達できる範疇での極みと自ら公言しているような人――というより神様が相手なんだ。
しかもそれが殺されないという前提で相手をしてくれるというのだから、今の力量を測るには申し分ない存在だろう。
ならば、全力でやる。
今使用可能なスキルを駆使して、せめて一撃でも加えて驚かせてやりたい。
そんな思いを抱きながら、取得しているスキルやステータスを改めて確認し、何をどの場面で使うのが適切か、脳内で想定していく。
ちなみに現状のステータスがこれだ。
名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>
レベル:17 スキルポイント残:128
魔力量:140/140 (+94) 剣の魔力上昇でさらに+50
筋力: 68 (+66)
知力: 64 (+13)
防御力: 62 (+148)
魔法防御力:62 (+24)
敏捷: 67 (+66)
技術: 61 (+31)
幸運: 67 (+21)
加護:無し
称号:無し
取得スキル
◆戦闘・戦術系統スキル
【棒術】Lv5 【剣術】Lv3 【短剣術】Lv3 【挑発】Lv2 【狂乱】Lv2
◆魔法系統スキル
【火魔法】Lv2 【土魔法】Lv3 【風魔法】Lv4 【水魔法】Lv4
◆ジョブ系統スキル
【採取】Lv1 【狩猟】Lv3 【解体】Lv2 【話術】Lv1 【料理】Lv1
◆生活系統スキル
【異言語理解】Lv3 【気配察知】Lv5 【視野拡大】Lv2 【遠視】Lv2
【探査】Lv1 【算術】Lv2 【暗記】Lv1 【俊足】Lv2 【夜目】Lv4
【跳躍】Lv4 【飛行】Lv4
◆純パッシブ系統スキル
【毒耐性】Lv7 【魔力自動回復量増加】Lv2 【魔力最大量増加】Lv2
【剛力】Lv1 【疾風】Lv1 【鋼の心】Lv1
◆その他/特殊
【神託】Lv1 【神通】Lv2 【地図作成】Lv1
◆その他/魔物
【突進】Lv6 【粘糸】Lv4 【噛みつき】Lv5 【脱皮】Lv3
【光合成】Lv4 【硬質化】Lv4 【物理防御力上昇】Lv4
昨日スキルを一通り確認してしまったので<New>は無いが、3ヵ所に出向いた5日間の狩りの中で、自然にスキルレベルが上昇したのは【算術】のみ。
あとは魔物所持スキルを最低限+α程度に上げたというのが現状だ。
悲しいかな、レベルはまったく上がっていない。
マルタに来て大きく伸びたのは【飛行】や【光合成】の対応ボーナスだった魔力。
あとは【水魔法】【硬質化】【物理防御力上昇】の対応ボーナスだった防御力だな。
防御力だけが相変わらず突出しているが……それでも今朝の出来事を思い返せば、この程度の数値で満足しちゃいけないことはよく分かる。
(ポイントはやっぱり魔物専用スキルかな? あと武器は―――)
そして数分後、やっぱり鎧は着込むのに時間が掛かるのかな~? と思い始めたところで、目の前に霧が発生しリガル様が登場した。
「待たせたな」
「あーいえいえ、こちらもどう攻めるか考えていたので大丈夫ですよ」
無事お着替えも終わったようで、光り輝く豪奢な鎧を着こんでいるし、腰に下げていた剣は既に握り締められている。
「ん?……まさかリガル様も剣使います?」
「見たいと言うから持ってきただけだ。こんなモノ振り回せばロキが大変なことになるだろう?」
そう言って地面に突き刺す姿を見て、心の底から安堵する。
あんな物騒なモノ、俺の鎧なんぞ関係無しで真っ二つにされるとしか思えない。
「私は――そうだな。最初は手を出さないから好きに攻めてみろ。その後に軽くこちらから攻撃を仕掛けて防御面を確認させてもらうとするか。一応【手加減】のスキルを持ち込んでいるから、何かあっても死ぬことは無いだろう」
「分かりました。確認ですが、俺は魔物専用スキルも含め、現状得たスキルを駆使して全力でぶつかる。これで良いですね?」
「もちろんだ。私の知らないスキルがあれば、後で詳しく聞かせてもらうとしよう」
幾分距離の離れたところで対峙し、お互い見つめ合う。
今までの子供っぽいリガル様とは違う、戦いを前にした鋭い視線が俺に突き刺さる。
後は俺が攻撃を仕掛ければ、それがスタートの合図ということだろう。
ふぅ――……
目を瞑り、深く深呼吸して一拍―――
それじゃあ、挑ませてもらうとしますかッ!!
俺は目の前で佇むリガル様へと全力で駆け出した。