Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (150)
149話 情報の価値
「ふむ……ということは最深部に辿り着くまで、それこそ片っ端から蟻共を薙ぎ倒したわけか」
「途中漏れがあって背後を取られたこともあったので、全てではありませんけどね。なので道中の蟻討伐数はあまり関係無いんじゃないかなと思っています」
「となると、可能性が高いのは『卵』か?」
「個人的にはそれが一番可能性が高いかなと。仮にクイーンアントの出現時期以外は不人気な狩場だったとしても、さすがに今まで発見されていなかったのには違和感があります。ということは、僕達が他のハンターがやらないことをやったとしか思えないんですよね。もちろんただの運という可能性もありますが……」
これ以外に【招集】を使ったという事実もあるが、魔物専用スキルが出現条件に入っていたらこの世界に9つも【魔宝石】があるとは思えないし、キングアントのスキルに【呼応】は無かったんだから、【招集】で呼ばれて出てきたという線は無しだろう。
「卵を大量に割る、か……普通に考えりゃ、素材目的ならそのだいぶ手前で籠なんざパンパンになっているだろうからな。ロキのように素材を捨てる覚悟で深部に向かわなきゃ、卵を割ろうなんて発想も出てこない。その覚悟を持って挑むのはクイーンアントがいる時だが、そのクイーンアントがいない時も条件に入るとなれば――今まで誰もやっていなくて、かつ有り得そうな話にはなってくるな」
蟻を単純な『
生
物
』として見るなら運だ。
たまたま居たという運の要素以外に何かあるとは思えない。
だがクイーンアントが半年くらいという周期になっていることや、この世界でチラホラと錯覚してしまうゲーム的要素を考慮するなら、キングアントはさながらゲームの『
隠
し
ボ
ス
』ということになる。
となるとキングアントに何かしらの”出現条件”が付いていたっておかしな話じゃないだろう。
それが世界に『魔宝石』が数えるほどしか存在していない理由になっているとも考えられる。
「パーティは2人、クイーンアントの討伐から約3ヵ月、道中の蟻をほぼ殲滅する勢いで倒して、深部の卵を少なくとも100以上は割る。これらをクリアすると中央に黄金色の蟻が現れるかもしれない。あとは色々試してその条件を精査していくのみでしょうね。全てクリアしてもダメであれば運、1度倒せばもう現れない特殊な魔物、もしくは周期が異常に長い。このどれかの証明にもなると思います」
「そうだな。その情報からどう動くか、ハンターに動いてもらうかはこちらの仕事だ。色々と検討してみるとしよう」
「ただ正直に言えば、生半可な戦力じゃ勝てないと思いますよ?」
「ふむ……どんな攻撃手段を持っていた?」
ここからが俺だからこそできる情報提供だろう。
魔物のスキル経験値を得られるということは、魔物がどのようなスキルを所持していたのかがほぼ丸裸になるということでもある。
1体しか倒していないからスキルレベル2以下は今回分からないが、隠しボスということならそんな低レベルスキルを所持している可能性も低い。
せっかく情報に対して対価を貰える取引だ。
伝えたからと言って俺が大きく損をするような話でもないし、濁さなきゃいけない部分は濁しながらも、できる限り詳しく伝えることにしよう。
「まず卵を割っていたら、不意打ちの如く物凄い速さで光線が飛んできました。性質は痺れも発生していたことからまず間違いなく『雷』でしょうね。そして逃げられないようにするためか、【時魔法】でこちらの行動をパーティ単位で遅くしてきます。それらの詠唱はかなり速いので、この蟻は【省略詠唱】を持っていると思った方が良さそうです。気付いた時にはぶっ飛んできますから、標的にされたら逃げられずに死ぬか致命傷を受けると思ってください。
そして行動を遅くさせられたあとは周囲の蟻の卵を一気に覚醒させてきます。この黄金色の蟻自体が明滅すればその合図ですね。中身は成長途中の蟻ですけど、成体と強さに大きな違いがあるようには思えませんし、【鼓舞】を使って広範囲の蟻の能力を向上させているはずです。周囲を飛ぶレヴィアントがこの特殊な蟻を守らせるために幼体蟻を集めますので、覚醒した幼体蟻を殲滅してからでないと手が届かないでしょう。
あとこの黄金色の蟻はレヴィアントと同じで飛びます。ついでに【身体強化】を持っているようですから、小さいですけど普通の地を這う蟻とは別物と思った方がいいです。状態異常系もまず効かないでしょうね」
「………………」
その他にも【魔力自動回復量増加】のスキルレベルが高いから、魔力切れを狙う戦略は無理っぽいとかもあるが――
もうこれ以上は伝えてもあまり意味がないだろうな。
出現条件が終わって一息つきたかったのか、手に紅茶の入ったカップを持ったままオランドさんは完全に固まってしまっている。
顔は真面目そうにしているのだが、目の焦点がいまいち合っていない。
「オランドさん? 大丈夫ですか?」
「あ、あぁ大丈夫じゃないが大丈夫だ……」
「カップを持ちながら死んじゃったのかと思いましたよ」
「……あのだな、ロキ。それ、どうやって倒すんだ……?」
「えっ?」
それを聞かれたって困るよオランドさん。
俺は死んだ方がマシだと思えるような痛みに耐えながら、子分の蟻と必死に戦っていただけなんだ。
倒したのはリルであって、俺自身は一度もキングアントと直接対峙していないし、そもそも気絶している間にキングアントは倒されていたんだから知るわけもない。
思わず俺も紅茶の入ったカップを持ちながら、中空を見上げる。
「すぅー……気合、ですかね……」
「そ、そうか……」
「「……」」
実際二人ともボロボロになりながら、気合で倒したようなものだしな……嘘は言っていないと思う。
その後もいくつか出てくる質問に答えつつ、俺は俺で”隠しボス”の存在や”通常ボス”との違いなんかをやんわりと確認していく。
そしてオランドさんが倒せるか倒せないかは別として、情報内容に納得した頃合いで報酬の話になった。
「これほど有益な情報が聞けるとは思ってもみなかった。改めて、最初に疑ったこと申し訳なく思う。当事者じゃなければこんな細かい情報分かるわけもないだろう」
「あ~それはもういいですよ。ちゃんと取引になったんですから」
「それで報酬だがな。まず確認したいのが、この情報をギルド本部へ伝えても問題無いか? 伝えればハンターギルド全体で周知されることになる」
「情報に対して対価を頂いたんであれば、その情報をどう扱おうとオランドさんにお任せしますが――倒そうと思う者、ライバルが増えるということですかね?」
「そうだな。ここまで『魔宝石』を所持する魔物の詳細情報が出てきたのは初だろう。過去にハンターが『魔宝石』を持ち込んだことはあっても、このような情報が纏まっているケースなど俺は知らないからな。つまりだ、腕に覚えのある各国のハンターはもちろん、普段は表に出てこない強者も新たにハンターとなり、一攫千金を夢見てマルタに来る可能性も出てくるだろう。その代わりギルド本部はこの情報に対して大きな価値を見出すわけだから、報酬額も俺個人の判断とは違ったものになってくる」
「なるほど。オランドさんが情報を欲しがったその先が見えてくるわけですね?」
「あぁ。マルタのハンターギルドがより賑わいを見せ、高ランクハンター共が押し寄せてくる。ギルドマスターにとっては理想だし、それが俺の評価にも繋がるわけだ。当初は俺個人で情報を止めて、マルタのBランクハンター共を纏め上げるか悩んでいたが……話を聞く限りじゃBランクハンターを集めたところでどうにかなるとは思えん」
でしょうね。
幼体蟻が100体200体くらいなら、一斉に押し寄せてきても俺はまだなんとか耐えられた。
この時点で俺個人としてはB~Aランクくらいの能力だと予想しているが、その能力でキングアントをどうにかできるかと言われたら、
ま
っ
た
く
で
き
な
い
と即答してしまう。
あれは止めを刺してさらにレベルが上がった今でも無理。
それが本能的に分かるのだから、Bランクどころか、クイーンアントを倒しにやってくるAランクパーティでもまず無理だろうなというのがなんとなくだが予想できてしまう。
となると、オランドさんで情報を止めれば倒す手立てが見つからないため報酬は少なく、ギルド本部に情報提供まで持っていければ逆に報酬は多いということ。
そして俺のデメリットは情報が知れ渡ることによってライバルが増えることと―――……あとはこれか。
「ハンターギルドの本部とやらに情報が伝われば拡散されるわけですから、いずれこの国にもバレますよね?」
「そこだ。ギルドがわざわざ伝えるなんてことは断じてないが、ハンター達に情報を伝えれば遅かれ早かれここラグリース王国も、そして各国もその情報を知ることになるだろう。だが間違ってもロキの情報が出回ることはない。俺が本部に伝えるのはこの魔物の出現パターンの可能性とその能力、そして『魔宝石』を所持していたということだけだからな。ロキが悩んでいるその『魔宝石』をうちに卸してくれれば俺は現物持って本部に行くことになるだろうし、素材を卸してくれればそいつを持って本部に行くことになるだろう。直接見せた方がより信用度が高まるからな」
「なるほど。なのでオランドさんとしては、できればどちらもここで売却してほしいということですね」
「本音を言えばそうなる。だが無理を言うつもりはない。その時は――ベザートのギルマスにでも証人になってもらうしかないな」
「へ? ヤーゴフさんですか?」
「ん? なんだ知ってるのか?」
「えぇ。僕はベザートから来ましたので」
報酬の件もあれば、どの道これ以上現金を持ち歩くことは難しい。
キングアントの素材を売るならもう使うしかないと思っていたので、ポケットから折りたたまれた書状をオランドさんに渡す。
「これは?」
「ヤーゴフさんからですよ。僕のハンター情報が載っています」
「あいつがDランクハンターに?……って思うのがそもそもの間違いだったか」
ブツブツ言いながらも書状を黙って読み込むオランドさん。
その光景を冷めた紅茶を飲みながら眺めていると、何かに納得したように目の前で頷き始めた。
「……なるほどな。初めから良い意味で特異な存在だったわけだ」
「必死に魔物を倒していただけですけどね。どうしようか悩んでいましたけど、もうその書状はここで使いますので、報酬はそのままギルド預けでお願いします。あと証明にも必要でしょうから、魔石以外の素材はそのまま売りますよ。試せば外殻の硬さである程度の判別もできるでしょうからね。ただ魔石はたぶん記念に自分で持っておくと思います」
「そうか……助かる。素材は前例が無いから適正価格なんてものはないが、白金貨30枚でどうだろうか? どうしても素材自体が小型だから、装備に転用しづらいとなるとこれ以上は厳しい」
「この素材、硬いけど小さいですもんね。白金貨ってなると―――……」
「3,000万ビーケだな。それと今回の報酬自体に5,000万ビーケを考えている。これだけデカい情報だ。ギルド本部からの報酬がそのくらいになる見込みだから、そいつをそのままロキに回す予定だ」
お、おほぉ~……
硬貨の枚数で言われるとピンと来なかったが、情報と魔石を抜いた素材で8000万ビーケとか。
家が建ってしまうんじゃないかと思えるぶっ飛んだ報酬に、金銭感覚がバカになってきた俺でもプルプルと震えてきてしまう。
もしや、この『魔宝石』も売ったら、俺もう一生安泰なんじゃ――
思わず『魔宝石』をジッと眺めてしまうと、オランドさんがこれ見よがしに追撃をかましてくる。
「ちなみにだが、その『魔宝石』をもし売却したら……軽く白王金貨数百枚にはなるだろうな」
白王金貨ってなんだよ……今まで聞いたこともない硬貨だよ……
1枚100万ビーケする白金貨の1個上か? 2個上か? いや、2個上だったらヤバいにもほどがある。
うーん、硬貨に然程興味がなかったらからさっぱり分からん。
まぁ……コレ、小さいし? 持ち運びに苦労しないんだから、お金にどうしても困った時に売ればそれでいいだろう。
将来何かに使えることがあるなら自分で使ってみたいしね。
盗難、紛失した時が一番最悪だが――この世界に貸金庫なんてあるわけないだろうし、記念に持つと決めたならば空間魔法を取得するまで気合で死守しないといけないだろうな。
「はは……まぁ『魔宝石』は僕が貧乏になったらということで。他は合計8000万ビーケで問題ありません。それでお願いします」
「ロキが貧乏になることなぞ無さそうだからな。期待しないでおくとしよう。それとランクだが――」
「ん?」
「もしマルタで実技試験を受けていくなら、Bランクまでは俺がすぐに承認してやれるぞ?」
「お? ほんとですか。実技試験というと、誰かと模擬戦でもするんですか?」
「あぁ。マルタにいるBランクハンターと手合わせしてもらう。勝ち負けだけで合否を判定するわけじゃないが、戦いから適正かどうかを、俺を含めた数人のギルド員が判定させてもらう」
「Aランクになりたいなら、Aランクハンターがいるような狩場のある町に行けってことですかね?」
「そういうこった。相手をできるやつがいないし、俺が元Aランクだが、手合わせしちまったら外から客観的に判定するやつがいなくなるからな」
「ふむふむ、了解です。それじゃあぜひ試験はお願いします」
「ふっ……ここで怖気づくようなら、情報の真偽を再度疑うところだったんだがなぁ」
冗談っぽく言うオランドさんに、もう最初のようなトゲトゲしさは無い。
蟻数体とガチンコ勝負しているハンターが相手なら望むところ。
リルみたいなぶっ飛んだ女神様性能じゃなく、Bランクハンターという世間的にそこそこ強い位置付けにいそうな人と、ぜひ手合わせしてみたかったんだ。
これで俺が現在どの程度なのかもきっと分かるはず。
「楽しみですよ。いつやるんですか?」
「あ~そうだな……早速今日から目ぼしいやつらがギルドに来たら声を掛けておくから、一応明日の朝にでも来てもらえるか? その時詳細は伝えられるはずだ」
「了解です。それじゃ明日は休みにしますかね。蟻の素材は解体場にそのまま置いてありますからお任せします。あと解体場の方々にも今回の件、口止めは宜しくお願いしますね」
手には大事に握り締めた『魔宝石』。
これは夜にでもリルに見せてみるとして―――……さてさて、時刻はまだ午前10時くらいか?
ここからは俺の楽しみにしているステータスチェックと実験のお時間だな!
思わぬ収穫に足取りも軽く、俺はフラフラと飲食店や専門店を物色しながら宿屋へと戻っていった。