Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (152)
151話 監査員
いつもより少し騒がしく感じる大通りを抜け、宿の自室に戻った俺は情報を整理しながらリルの帰りを待った。
すると30分ほどで、終電間際のサラリーマンのような萎びた雰囲気を漂わせながら、部屋へと入ってくる金髪長身美人が。
「おかえり~って、1日狩り続けても平気な顔してるのに、今日は随分と疲れてるね」
「戻った。何も成果が得られないと疲れるものだな……途中からはご飯のことばかり考えてしまった」
思考が戦闘一色のリルらしい。
フィーリルはどうだったか分からないけど、他の女神様達はそれなりに下界の街並みを楽しんでいたというのに。
これじゃあパルメラ探索の最有力候補はリルになるだろうな~とは思うも、言うとややこしくなりそうだから黙っておこう。
「そんなお疲れのリルに朗報だよ」
「ん?」
「今日は最後の夜だし、狩り同行のお礼も兼ねていつもと違うところにご飯食べ行きまーす!」
「ほぉ……肉か?」
その質問に黙って頷くと、両手でガッツポーズをしながら腰を左右に振っている目の前の女性。
先ほどの疲れた様子などどこかに吹き飛んでいて、現金な女神様だなとつくづく思う。
リルに急かされながら宿を出て、徒歩5分程度で着く大通り沿いのとあるお店へ。
太い木をそのまま輪切りにしたようなテーブルがいくつも並ぶ店内はかなり混み合っており、すでに提供された食事に噛り付いている客も多い。
そんな中で俺達は空いていた1席に座ってメニューを眺める。
「む? あれはなんだ!?」
別の客が食べている肉の塊を見てリルは興奮しているのだろう。
焼いた香ばしい匂いが店内に充満しているし、その匂いだけで俺も自然と腹が空いてくる。
「あれは『ステーキ』っていうんだよ。ギルマスにこのお店を教えてもらってね。どうやらマルタで一番の肉料理屋らしい」
「ほ、ほほぉ……」
「しかも食べたい量をこっちで調整できるらしいよ? 大きいのをドーンと頼んでもいいし、普通サイズを何回かお代わりしたっていい。なんと言っても食べ放題だからね!」
「今更だが最高だなロキッ!!」
リルの要望を聞き、店員さんに俺は大サイズ、リルは特大サイズのステーキを頼んだら、先に来た飲み物で乾杯だ。
明日は昇格試験で比較的のんびりできそうなので、2杯程度なら飲んでも問題無いだろう。
「そういえば、今日町の西側で魔法の実験でもしていたか?」
「うん? 【雷魔法】とか【時魔法】がどんなものかなーって色々やってたけど。なんで?」
「そうか。昼過ぎから町中に断続的な轟音が鳴り響いてな。空は晴天なのに何事かと町が混乱していたぞ? まぁ兵が動いていたくらいで、民が逃げ惑うという感じではなかったがな」
「あっちゃ~……それは申し訳ないことしたなぁ」
「それで、どうだったのだ? 以前の【風魔法】よりも威力はだいぶ上がったのか?」
「それはもう当然! 範囲がかなり広くなったし、あの蟻が飛ばしてきた雷と同じようなのも出せるようになったよ。知力が前と全然違うから、あの時と同じ【風魔法】撃ったって威力は今の方がだいぶ上がってるだろうしね」
「ほぉ! また強くなったか……そうかそうか……」
(あー……)
口をムニムニと動かしては閉じるリルを見て、言いたいことがあるのにその続きが言えないんだなと、それがなんとなく分かった。
リルの本音としては、成長した俺ともう一度模擬戦をしたい。
それが戦ったことの無かった―――
戦
え
な
か
っ
た
戦
の
女
神
様
にとって一番に望んでいることだろう。
しかし一度やらかしている以上、自分からはかなり言いづらい。
もしくは他の女神様に強く止められているなんてことも考えられる。
そして―――……
(俺もさすがにすぐのすぐはキツいなぁ……)
リルの”
も
う
我
を
忘
れ
な
い
“という言葉は信じているけど、それでも腹を貫かれた時の記憶が鮮明に蘇ってしまう。
「「……」」
「お待たせしやした~! ジャイアントワームのステーキ大800gと、同じく特大1.2kgでございや~す!」
「お、おほー! 待ってたぞー!!」
「ん? ワーム……??」
「なんでい。お客さん知らねーでうちの店来たんかい? ジャイアントワームって言ったらオーク肉より上等って有名なんだぜい?」
「そ、そうなんですか……ワーム……ワームね……」
目の前に置かれた焼き目のそそる肉は、一見すれば日本で食べたリブロースやサーロインあたりと似たような雰囲気だ。
それがかなり厚めに切られており、十分過ぎるくらい食べ応えのありそうな肉塊に見える。
匂いは……ウン、かかっているタレのせいもあってか凄く良い感じ。
思わずメニューを見直すも、「ビッグステーキ!」とだけ書いてあって―――
(あっ、右下にミミズみたいな絵と一緒に、ジャイアントワーム専門店って書かれてるし! マジでこれ、デカいミミズかよ……)
「ロキッ! 食べないのか!? 美味いぞ! これは……美味いぞっ!!」
「……なんで二度も言ったの?」
「大事なことだからだ!」
「……」
周りを見渡してもおっさん達は齧り付くように食べているし、この繁盛している雰囲気からしてマズいなんてことはまずないだろう。
となれば邪魔をしているのは、カエルの比じゃないくらいに己に纏わりつく先入観のみ。
(郷に入れば郷に従えだろ? 覚悟決めんかい!……南無さん!)
モグモグ……
「はっ、はへぇ……ナニコレ。ウマッ!! 超柔らかくてすぐ溶けるんですけど! リル! 大変だよ! すぐ溶けちゃうよ!」
「知ってるっ! こいつは見た目以上に口の中へどんどん入っていってしまうぞ。 ロキ、済まないがこれと同じモノをお代わりだ!」
「お、俺も一応頼んでおく! 残したらリルにあげるから食べてね!」
「任せとけ!」
そして約1時間後。
「あ”ばばー……じあわじぇー……」
「もう、食えん……」
結局俺が1.6kgほど、リルが4kgほど食べたところでギブアップ。
特上カルビのように後半くどくて飽きるということもなく、単純に胃が満たされるまで黙々と食べていたような気がする。
この世界のミミズ、まったく侮れん。
「あー……苦しいけど部屋に戻ろっか。今日分かった情報纏めてあるしさ」
「おぉ! それも楽しみにしていたのだ。今日は素晴らしい日―――」
「そのような素晴らしい日に水を差すようで申し訳ありません。少しお時間を頂戴しても宜しいですかな?」
「「ん?」」
声のする方を見上げれば男性が二人。
一人は頭髪の後退がだいぶ進んだ40代くらいのおじさん。
そしてもう一人は30代くらいか?
眼鏡をかけた面長で、神経質そうな雰囲気がなんとなく滲み出ている。
どちらも身形は良いし、どこかの商人だろうか?
そう思って誰何しようとすると、予想外の言葉が若い眼鏡の方から発せられた。
「
異
世
界
人
は共通して良く食べるのかもしれませんね」
「……は?」
この言葉に、思わず素っ頓狂な声をあげる。
(どういうことだ? なぜ異世界人なんて言葉がいきなり出てくる?)
頭が混乱しかけるも、咄嗟に横で立つ二人の男性を見れば、特にその後は口を開くこともなく、俺と、そしてリルの反応を窺うような視線をそれぞれ向けていた。
(……もしかして、カマかけてんのか?)
そう思うも対象が俺だけではなく、リルにも及んでいることをすぐさま思い出す。
これはヤバいと思いながらリルをチラ見すると、目は回遊魚の如く左右に泳ぎまくり、眼球だけで自白していることが素人目に見ても丸分かりである。
(あーこりゃダメだ……リステだったらこうはならなかっただろうに……)
「ふむ。どうやら予想通り、そちらの女性が異世界人ということですかな? そして少年は――……腕の立つ付き人、もしくは他国の諜報員といったところでしょうかね?」
「とりあえずこのような場で話を進めるべき内容ではありませんし、あなた方が宿泊されているハンファレストへ移動しませんか? あそこならゆっくりと話せるでしょう?」
「……」
(……拠点も当然のようにバレている、と。けど俺じゃなくリルを疑っているのか?)
いくつか理由は思い浮かぶ。
だがまず一番大事なのは、この二人組が何者で、何が目的かを確認することだろう。
目的によっては人目の多いこの場が逆に安全なパターンも出てくる。
「……まずあなた達は何者で、何が目的ですか?」
「ふむ……当然の疑問ですな。ならば簡潔にお答えしましょう。私達はラグリース王国の監査院に所属する者です。目的は協力と勧誘。もしかすると少年とは目的が被るかもしれませんが――これでお分かりになりましたかな?」
「……そうですか」
何を強制するでもなく、喋り方も丁寧な正攻法。
それでも、まさか2つ目の町でもう見当違いな異世界人勧誘が始まったのかと。
俺は面倒さを強く感じながら、表で見張りをしていたらしいもう一人の男も加えた三人を引き連れて宿へと戻った。