Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (161)
160話 秘密基地計画
「はい?」
俺の秘密基地案に対して、アリシアは鳩が豆鉄砲食らったような顔して呆けていた。
そんな顔でも美人さんだなぁと思いながらも説明を続ける。
「俺の事情、女神様達の事情。総合的に考えればこれがベストな選択かなって思ってさ」
「そ、それが秘密基地ですか……?」
「うん。要は人目に触れないところに俺が住んで、そこにアリシアや他のみんなも必要なら家を作っちゃったら良いんじゃないかなって。下界に降りてきた時使うそれぞれの拠点みたいな感じ?」
「私達の、家……」
「現状を考えるとアリシアは顔を晒せないし、他の皆もスキルがバレる可能性を抱えている。【隠蔽】を持ち込めば女神様達なら覗かれる心配はないだろうけど、それじゃ目的は果たせないし、何のスキルも使うことができなくなるわけだよね?」
「その通りです」
「それならこの問題は下界の人達がいないところで活動すれば解決するわけだ。町中での転移者探しを継続するなら相変わらずリスクは抱えるけど、それは俺が町中を拠点にしたところで変わらないだろうし」
「……」
「まずは最低限寝られる程度でも家を作って、そこから生活環境が少しずつよくなるように、様々な物をやりたい人達で考えながら作っていけばいい。幸い女神様達は高レベルスキルを所持しているだろうし、人目のつかない所で自由に試せば、アリシアも興味の湧く何かを見つけられるんじゃない? 俺は変わらず色々なところで魔物を狩るから、もし足りない物があっても付近の町から買っちゃえば済む話だしね」
「な、なるほど……」
「もちろん色々必要と感じて試す中で、地球ならこんな物があった、こんなやり方をしていたって、分かる範囲で俺が地球の情報も伝えるよ。アリシアは地球の話を凄く聞きたがるし、そういうの好きでしょ?」
「す、凄く好きです。でもいったいどこにその秘密基地を?」
「それは良い所があるよ。皆が調査を嫌がってそうな場所だね」
「……パルメラ大森林ですか?」
「そう。とんでもなく広いらしいし、調査隊が60日くらい掛けてやっと第二層に到着、人間が確認しているのは第三層までみたいだから、奥地に入ってくる人なんているわけがない。そこかしこに木材はあるわけだし、あとはかなり高そうな山脈が見えたから山の付近にするとか、川の近くにしようとか、どこら辺にするかを皆で相談して決めればいいわけでしょ? 【飛行】があればポイント探しはだいぶ楽だろうしさ。
あとは転移者探しをしたいなら、転移して現地に直接向かえばいいのかなーって。ベザートの人がもしかしたら入ってくる可能性もありそうだけど、俺が飛ばされた付近を秘密基地の拠点にしたっていいだろうしね」
「あの、ロキ君はそれでいいのですか? 他の人種、人間と隔離されるのですよ?」
「俺だって当初はどこかの町に住むんだって当たり前のように思ってたよ? それが元の世界では普通の事だからさ。でもこの世界って、スキルと魔法があればある程度はなんとかなりそうじゃない? それなら自分達で生活基盤をコツコツ整えるのも面白そうかなーって。まぁ秘密基地なんだし、誰にも迷惑をかけず、好きに過ごしやすく遊べる場所を自分達で作るって感じだよね」
「うぅ……でも! そんな面白そうというだけで……」
「それにどこの国にも属したくないって漠然と考えていたけど、結局どこかに定住すれば、それはその国に属しているようなものだなって、今日話したお偉いさんの話を聞いてて思ったのもある。
だったらパルメラ大森林って最高でしょ? 人は森の浅い場所にしか入ってこない、飛べる鳥人ですら奥地に行けば何かに撃ち落とされる。ということはどこの国も手付かずの未開拓地で、誰も占有していないってことなんだろうからさ。危なそうな奥地まで行かなきゃ自由だよ自由!」
ヤバい。
言いながら昔よくやった開拓系ゲームを思い出し、思わず興奮してきてしまった。
こんなの、ドキドキとワクワクしかないじゃないか。
それに一時的とは言え、望んで仙人生活をしていたくらいだ。
ずっとツラそうな強制サバイバル生活ということなら勘弁願いたいが、自分達でやり繰りしながら生活エリアを徐々に広げていくという話なら嫌いじゃない。いや、むしろ好きなくらいである。
「わ、私ドキドキしてきちゃいました……本当にそんなことが実現するなら凄く楽しそうです」
「思い付きにしては我ながら良い案だなって思うんだよね。ただ――そのための土台がいつ整うかだなぁ」
「土台とは?」
問題は無いわけじゃない。
結局俺が抱える悩みの大半は、毎度ここに帰結する。
「俺が【空間魔法】を取得すること。秘密基地から狩場へ転移できないと、世界を巡る旅がまともにできなくなっちゃうでしょ? それに町で調達した物資の運搬にも必要だし」
「私達が代わりにロキ君を目的の場所まで――というのはロキ君が納得しなさそうですね」
「一時的にだったら甘えちゃうんだけど、取得の見通しも立たない状況でいつまでもっていうのはさすがにね」
「……なら、私達ができることはロキ君が早く【空間魔法】を取得できるよう、可能な限り協力するということですよね」
「そう! さすがアリシア! ほんと、何かヒントになるようなことが分かればぜひ宜しくお願いします! もちろん俺も人任せにしないで頑張るからね。そういうのも冒険の醍醐味だし、今度王都に行って情報収集してくる予定だし!」
「……」
「あれ? アリシア?」
「え? あ、ごめんなさい大丈夫です。楽しそうだなって、本当に」
「秘密基地楽しそうだよね~俺はいずれ秘密の工房作ろうかな。敢えて地下に」
「……なぜ有り余るほどの土地があるのに、地下を作るんですか?」
「そこは男の夢というかなんというか――」
ひょんなことから思いついた案。
でも意外と俺のしたいことが詰まっているようにも思えた。
それが女神様達にとってもプラスになるのであれば、この線で本格的に将来を見据えていってもいいかもしれない。
人里から離れた生活というのは勇気がいることだけど、まぁ【空間魔法】さえ取得できれば一瞬で町中だ。
お金に余裕があれば、気に入った町にも家を建てて、その中を転移先にしておけばより安心ってなもんである。
アリシアからも落ち込んだ雰囲気が剥がれ落ち、笑顔の絶えない談話が続いた頃。
「それでどうする? アリシアが人の居ないところでもよければ、数日くらい俺をポイントにして下界観光してもいいけど」
「いえ、こうやってお話しできただけでだいぶ気が晴れましたし、その楽しみは後に取っておこうと思います。今降りてもロキ君の成長を妨げることにしかなりませんから」
「そっか……なら、尚更に早く【空間魔法】を取得できるよう頑張らないとね」
「期待していますよ」
最後に手を振り、俺の視界はマルタの教会。
リアの神像前へと舞い戻ってきた。
(よし、俺のためにも、アリシアや皆のためにも、コツコツ頑張らないとな!)
両手で頬をパシッ! と叩いて気合を入れる。
周りから、「あっ、コイツ懺悔してスッキリした顔してんぞ?」という目で見られ、気恥ずかしさを感じながら俺は教会を後にした。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「緊急案件、第三回女神会議を開きますので集合です」
ロキが去った後、その場でアリシアが独り言のように呟いた。
ここ最近はロキ絡みで頻繁に会議をするようになったので、頭には回数が添えられている。
今回の議長はアリシアだ。
椅子を追加で3脚用意し、ロキの飲んでいたカップを消去。
新たに5つの紅茶が入ったカップを用意し始めると、今まで結界作業やら遅延魔法を掛けていた者達が次々とアリシアの下へ転移してくる。
一人は布団で寝たままぶっ飛んできたが、誰も気にする様子はない。
そんな死にかけリステの枕元に飲み物を置くと、アリシアは残る者が座るのを待ってから口を開いた。
「皆、先ほどの話は聞いていたはずです。まだ決定されたわけではありませんが、ロキ君は
不
憫
な
私
の
た
め
に
、人里離れた僻地で暮らすことを検討してくれています」
先ほどの沈み込んだ表情とは打って変わり、表情に明るさが戻ったのは良かった。
だが、今のアリシアは若干その整い過ぎた顔がドヤッてしまっていた。
だからか。
「なんか今凄く自慢気だったんだけど!?」
「ロキ君が来ただけで随分元気になりましたねぇ~」
「私のスキルが覗かれてしまったのも大きいだろうな。あの時は拠点の宿まで先に調べられていた。人種の住む町を今後調査するにしても、拠点を町中に置いて動くよりは安全度合いが増すだろう。拠点さえバレなければ、そやつらを撒いた後に【分体】を消してしまえばそれまでだからな」
「……リガル、転移者探しは大丈夫なのですか?」
「大通りが広く見渡せる高所で【分体】に【神眼】を使わせている。これが本来の使い方だろう?」
「……何にせよ、ロキ君から『秘密基地計画』という素晴らしい案が提言されました。私はこれ以上ない程の良案だと思っていますが、この中に乗り気でない者はおりますか?」
「「「「「……」」」」」
アリシアは内心、山奥での開拓生活なんて嫌だと思う者が一人二人出てきてもおかしくないと思っていた。
だが、蓋を開けてみれば否定する者は見事にゼロ。
何か、自らが成し得た功績にタダ乗りされているような気がして腑に落ちず、アリシアは再度の質問をする。
「で、では参加希望の者は挙手とその理由を」
すると、続々と上がる声。
「もちろん参加! 私は美味しい作物育ててみたい!」
「まだ何をしようというのはありませんけど~自然の多い環境は好きなので私も参加です~」
「私も参加。魔力が黒いのは何かの予兆かもしれない。監視しながら一緒に遊ぶ」
「パルメラなら周りは魔物だらけだろうからな。しょうがないから私も参加して寄ってくる魔物を薙ぎ払おう」
「ロキ君が……望むなら……私はどこへでも……」
一人やたらと重たいが、総じて皆の意見は肯定。
ならばと、アリシアは皆に向かって今やるべき最重要事項を確認する。
「となれば、皆やることは分かっていますね?」
「どうやったら【空間魔法】を取得できるか、だな……」
「そうです。ロキ君をずっと苦しめている憎き【空間魔法】。この取得方法を解明しなければ、いつになっても楽園への門は開かれません」
いつのまにか悪者になっていた【空間魔法】。
それに突っ込む者は誰もおらず、そして転移者探しが最重要項目から外れていることにも誰一人気付いていない。
夢が広がり過ぎてそれどころではないのである。
「何か、ロキ君のヒントになるようなもの……過去にスキルを与えた転生者以外で、最近【空間魔法】を取得した人種っていたっけ?」
フェリンの問いに、魔法に一番詳しいリアが答える。
「魔道王国の時代なら何人かいたと思う」
「リアが神罰を落としたやつか? 災難の魔導士、懐かしいな」
「災禍の魔導士です。魔道王国プリムスが大陸を席捲していた時代ですね」
「あ~あったね! でもそれって一万年くらい前じゃない?」
「ですね~なので長命種だろうと当時の取得者は全員亡くなっているでしょうし~あの国がせっかく枝分かれしていた多くの古代人種も殺しちゃいましたからねぇ~」
「長命で今も種が確実に残っているのはエルフくらいか?」
「間違いないのはエルフでしょう~あとはどこかに生き残りがいるかどうか~」
「ならばエルフが【空間魔法】の情報を持っているか重点的に探りましょう。あとは古代人種がかつて生存していた時代の土地が分かれば、何か記録が残っているかもしれません」
「私は知らないけど、誰か知ってるの?」
「知らない」
「あやつらはハンターになんてならなかったからな。分からん」
「私もです」
「教会に来ない人達のことは分かりません~」
5人が揃って寝ている女神達の頭脳に視線を向けるが反応はない。
リステは豪快に寝たふりをしていた。
「と、とりあえずエルフの調査を頑張りましょう。あとは【空間魔法】を所持していそうな魔物など―――」
日が暮れることもない神界。
大した進展もないまま、下界は分からないことだらけであるということを改めて理解した女神達は会議を終了した。
結局決まったのは
『エルフの調査を色々頑張る』
これだけ。
今までの永い時、無為無策でただ過ごしてきたことを痛感されられる結果だった。
それぞれが会議の場から散っていく中、下唇を噛みしめ考え込むアリシア。
そこに一人残っていたリアが声を掛ける。
「ロキと話してた時、スキルを譲渡すること考えたでしょ」
「……ほんの少しだけです。それができればどんなに楽かと」
「楽だね。ロキはあまり喜ばない気もするけど」
「私も、そんな気がします」
「……フェルザ様、見てるかな?」
「どうでしょうね?」
なんとなしに、二人して何もない空を見上げる。
曖昧に定められている神界のルールは、どこまでなら見逃してもらえるのか。
そして破ったら、果たして自分達はどうなってしまうのか。
―――二人の思考は、答えの出ない疑問に染まっていた。
ご覧頂きありがとうございました。
本日で第5章が終了、明日ロキの手帳③を挟んだあとに第6章開始となります。
6章の終わりが208話なので、少なくともそれまでは連日投稿予定です。
女神様パートが終了し、本格的に強さと世界の知識を求める冒険が開始されていきますので、そういった内容が楽しめそうな方は引き続きお楽しみください。