Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (166)
164話 嫌な予感
ゴ~ン……ゴ~ン……
「ンー……ンヒッ!?……おはようござ……違った、おはよう……」
「おはよう。ロキ、遅い」
「いやいや、いつも起きるのこの時間だから。もしかして、ずっと見てたの?」
「することないから見てた」
「……」
いつかどこかで見た光景。
起きたら備え付けの椅子に座って足をプラプラさせているリアがいた。
当然部屋の鍵は掛けてある。
ほんとプライバシーも何もあったもんじゃない。
「昨日は喧嘩が始まって、どうなるか分からないままだったからなぁ。結局リアが手伝ってくれることになったの?」
「喧嘩じゃない。ただの下界降臨争奪戦。そして私が勝ち残った」
「そ、そっか……とりあえずありがとね。髪の毛跳ねてるけど大丈夫? どこかケガしてない?」
なんか髪を掴まれたような痕跡があるのは気のせいだろうか?
下界降臨争奪戦とやらがどんな内容だったのか、恐ろしくて詳細を聞くことができない。
「ん? たぶんロキの寝癖より酷くないから大丈夫」
「あー俺も朝は毎日酷いからね。水でペタペタっと濡らすだけだけど、一緒に直そっか」
今泊まっているのは一泊素泊まり3500ビーケほどの庶民宿だ。
ハンファレストのように鏡が常設されているわけではないので、地球産の鏡を見ながらペタペタと髪を整え、ついでに魔法で生成した水を顔にぶっかける。
昨夜身体を拭くために借りた桶の上でやれば、いちいち井戸がある宿の中庭まで行く必要もない。
なぜかリアは俺の様子をただ見ているだけだったので、濡れた手でリアの跳ねた髪もペタペタしておく。
(綺麗で細い黒髪だなぁ……このサラサラというかツルツルというか、この不思議な髪質はなんなんだろうか?)
「まだ?」
「うん、もうちょい」
「……そう」
とっくに直っているのにもう30秒ほどペタペタして、俺はまったく満足しないまましょうがなく動きを止めた。
できれば300分くらい触っていたい。
「話し途中で【神通】切れちゃったけど、目的は分かってるよね?」
「うん。帰ってこない人達か、その人達の所持品だった斧を探せばいいんでしょ?」
「そうそう、できれば両方ね。あっ、リアって【探査】のレベル10?」
「10だけど、もっと上の【広域探査】持ってきた。そっちのレベルは8」
「ぶひょぉ……そんなスキル知らないですけど!?」
ふふん、と。
鼻を鳴らして微妙にドヤっている気がする、そんなお顔もめちゃ可愛かった。
どんどんやってくれと応援したくなる。
ありがとうドヤ顔。眼福ですドヤ顔。
「ちなみにその【広域探査】って範囲どれくらいなの?」
「知らない」
「だよねだよね~!……さっ、とりあえず行こうか」
神界で使う機会なんてまずなかったんだろう。
俺も興味のないスキルは詳細を把握できていないので、あまり強くどうのこうのは言えない。
そこら辺を秘密基地で色々実験していけば、女神様達のスキル知識も増えて、この世界にとっても多少なりはプラスになるような気がする。
俺が自分用の書物としてスキル詳細を纏めてもいいしね。
って、そんな大量の紙が無いけど。
二人なのでコソコソと宿を出て、リアはいくつかの建物を経由しながらただのジャンプで。
俺は仮面を被りつつ【飛行】を使って宿屋の屋根に到着後、現地までどう飛ぶかを思案する。
何気にこの時を楽しみにしていたのだ。
公然と行える幸せのボディータッチ。
まさかリプサムから一緒に飛ぶとは思っていなかったけど、女神様が探査系を持ち込むなら俺は飛行担当。
つまりくっついて飛べるわけである。
前か後か。
この返答によって籠の配置を換えなければいけないので、ゴクリと唾を飲み込みながらもどちらがいいかを確認する。
リアならどちらでも大歓迎。
でも、できれば前から抱っこしたい。
さぁ、どっち!?
「後ろで」
「チッ」
「……」
しょうがないので籠を前で抱えて背中を空ける。
「さぁどうぞ!」
バッチこーいと言わんばかりに、俺はおんぶ体勢に入ってリアを待ち構えた。
すると、背中に不思議な衝撃を受ける。
手は俺の両肩にあるのだが、なぜかリアの胸じゃなく足の裏が俺の背中にくっついているような気がする。
なんだ、このわけの分からない体勢は?
俺にドロップキックでもするつもりなのかな?
「このまま地面と水平になるように飛んで」
「は?」
「いいから」
よく分からないものの、歯向かうと俺の肩がもげそうなので、少し足に力を入れて【飛行】を開始。
言われた通り、正面ではなく地面だけを見るように、うつ伏せで寝たような状態のまま空を昇った。
すると、どうしてリアがこの体勢を希望したのかがやっと分かってきた。
「んー……これ、気持ちいい」
「……でしょうね。ってか、俺乗り物みたいじゃん!」
リアは優雅に俺の背中で立ちながら風を浴びている。
対して俺は、まるで魔法のじゅうたん役だ。
飛びながらもサンダルが落っこちないようにと、リアの靴を脱がしながら籠の中に戻しておく。
当初の抱っこか負んぶという構想は崩れ去り、俺との接地面は足裏のみという状況に不満しかない。
腹いせに、飛びながら上下左右に強く揺さぶる。
落ちたら一大事だけど、万が一の時は拾えるくらい【飛行】の操作には慣れたつもりだ。
それにリアなら落ちたくらいで死ぬとは思えない。そもそも【分体】だし。
(ふははっ! この世界には存在しないであろうジェットコースターの気分を味わうがいいッ!!)
そう思ってオラオラと蛇行や急な上昇下降を繰り返していたわけだけど、背に乗っている張本人はなんだか普段見られないテンションで終始楽しそうだった。
人が必死で泣かせてやろうと頑張っているのに酷い話だ。
まぁ……最終的にはリアが楽しそうならそれでいっかと。
そのまま 《ビブロンス湿地》上空を飛行しながら探索を開始した。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
探索開始約30分後。
「どお~?」
「『斧』も『名前』も反応が無い。『セフォー』『ロッゾ』『アマリエ』、あとは『ワンゼ』『エステルテ』で合ってる?」
そう問われ、【飛行】しながらもポケットをゴソゴソ。
忘れないようにメモをした紙切れを見ながら、間違いがないことを告げる。
「マップと視界で確認する限り、たぶんビブロンス湿地って呼ばれる部分はほとんど回ったと思うんだよなぁ。もうこの先は草原地帯だし」
「湿地の外に出た可能性は?」
「それは分からない。けど狩り目的のハンターがわざわざルートを外れて行方不明になるなんて考えにくいし、可能性が濃厚な上位種の魔物が絡んでいたとしても、そんなの普通は狩場にいるもんでしょ。魔物がいなければ餌を食べて強くなれないわけだし」
「それじゃもう食べられちゃったんじゃないの?」
「正直そう思ってはいるんだけどね。でもそうすると、なぜ武器がそこら辺に落ちてないの? ってなるんだ。奥さんはせめて形見でもって言ってたから、武器とか所持品があれば持ち帰ろうかなって思ってたのになぁ」
「んー……分かんないね。一応湿地帯の外周も回ってみたら?」
「そうしよっか。それでダメなら奥さんには申し訳ないけど、策無しってことで今日は諦めよう」
【探査】のレベル1で半径30メートルということは、【探査】レベル10であればまず確実に半径100メートルを超えるはずだ。
そしてさらにその上の【広域探査】ということなら、その範囲はもうkmの話になっていてもおかしくない。
そんな優秀スキルを抱えて、なおかつ湿地帯のマッピングが完成するくらいに移動してもダメなら、もうこのエリアにはいないと判断する他無い。
そこに理由を求められても、会ったこともない人達の心理なんて俺には分かるはずがないし、その旨を正直にレイミーさんへ伝えるしかないだろう。
「一応他の武器も探査にかける?」
「いや、他は剣と短剣に杖だからね。所持率の高い武器種だから、もうそろそろハンターの人達がここで活動し始めるだろうし、普通に持っている人が引っかかっちゃうと思う」
「そっか……あ、引っかかった」
「ん? 『斧』も引っかかっちゃった?」
「違う。『エステルテ』、あと……『アマリエ』。場所は同じところっぽい。あ、『斧』も引っかかったけど、他の人の名前は引っかからない」
「え……マジ? ならとりあえず向かってみるか。案内宜しくね」
「分かった。この湿地を横断するようにそのまま真っ直ぐ」
どういうことだろう?
エステルテとアマリエ……共通するのは杖……あとは後衛職の女性ってとこか。
だとしたら男性陣はどこにいる?
行方不明になったタイミングも違う、異なるパーティメンバーの一部がそれぞれ生存しているとなると、余計に意味が分からなくなる。
【飛行】の時間で言えば5分程度。
リアの案内で辿り着いたのは、当初の探索範囲とはまったく異なる場所だった。
リプサムの西門から北西に伸びる街道をそのまま進み、途中で西側に入るとビブロンス湿地へ辿り着く。
そして二人の所在が示されているのは、なぜかその街道を挟んだ東側。
魔物は生息していないとされる、岩山が目立つ森林地帯の奥地だった。
上空から見ても、針葉樹と思われる刺々しい木々の緑がひしめく中に、灰色の岩肌が剥き出しになった険しい小山や崖がいくつも視界に入る。
パッと見でも人が活動するには厳しい環境であることは間違いなさそうだ。
「あの岩肌が見える崖っぽいところの下。でも外じゃない。中?」
「んん? 中って、崖の中に入るってこと?」
「それは分からないけど、反応は崖の外じゃなくてもっと奥」
「……」
色々な想像が頭を過ぎる。
反応があるのは女性だけ。
人の目に付かず、かつ誰かが遊び半分で入ってくることもなさそうな険しいエリア。
なぜか同じ場所にいる別パーティの人間――
「ねぇリア。試しに、『女』で調べたら他にも反応ある?」
「あ、いっぱい。同じ場所に、たぶん20人以上」
「マジかよ……」
「『男』で調べても10人以上反応がある」
「……」
どうしたものか。
もし俺の予想通りなら、この先はリアに見せたくない光景が広がっている。
正直俺だって見たくない。
けど……さすがにリアまで巻き込んでこのまま帰るってのは無しだろう。
それにレイミーさんにもなんと説明すればいいのか分からなくなる。
ならばせめて――
「リア。この先はあまり良い内容じゃない気がするから神界に帰った方がいい。その代わり今夜ご飯ご馳走するから、何か美味しいもの食べにいこうよ」
「何言ってるの?」
「いや、だからとりあえず俺一人で行ってくるから―――」
「……ロキ、こっち向いて」
「?」
「いいから」
背中に乗っているリアに顔を向けろとか、随分と無茶なことを言う。
物理的に無理なので身体を半回転し、リアを特大籠の中にスポッと収めるような形で正面から向き合った。
「やっぱり」
「なにが?」
「顔、引き攣ってる」
「ッ……」
それはしょうがないだろう。
これから敵になる可能性が高いのはその男達、つまり人間だ。
言葉で済めばいいが、最悪は戦闘に発展する可能性もある。
というか、俺の身形を考えればその可能性の方が高いとしか思えない。
そこをできれば交渉して―――
「人種を殺す覚悟、できてないでしょ?」
「……」
「そうなるとロキが危なくなる。皆から何かあれば守れって言われてるし、一人で行かせるなんて無理」
「で、でもだよ? 戦闘になっても制圧すればいいと思うし、それに万が一リアに人殺しをさせるようなことがあれば……」
「何言ってるの? 私はもう数えきれないくらいの人種を殺してるけど?」
「え……?」
「【神罰】を落とせば状況によっては百万という単位の人種が死ぬ。それでもこの世界が良くなると思えば躊躇わない。ロキよりよほど覚悟はできてる」
思わず、その強い眼差しに息を飲んだ。
でも、俺だって。
「……大丈夫だと思う」
「ほんとに? どっちにしろついてくけど」
「そ、それはしょうがないにしても、女神様達は下界にあまり干渉しちゃいけないんでしょ?」
「うん」
「なら余程のことがない限りは見守るだけにしてよ。俺がこの世界で生きていくなら、今後も必ずブチ当たる問題だろうし……」
「……」
「それに、リアが人を殺す姿って、俺はあまり見たくないよ」
「……うん、分かった」
その後、いくつかの相談をし、リアを籠に入れたまま、目標地点から少し離れた森の中へと下降を始める。
俺の勘違いならそれに越したことはない。
何かしらの事情があって一時避難しているだけなら、サクッと救出して男性陣の行方を確認すればそれで済む。
そんな可能性に幾分かの期待を寄せながら、リアが指で示す崖の方角へと向かって俺達は歩きだした。