Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (169)
167話 甘えた考え
俺のせいだ……
だからこそ、これから起きる出来事に目を背けるわけにはいかなかった。
部屋内に響いた破裂音。
その直後、リアの肩に手を掛けていた腕を残し、パルムと呼ばれた男の胸部周辺から上は消失していた。
まるで内部から爆破でもされたかのように、大量の血液だけが周囲に飛散しているだけ。
本当に、言葉通りの消失だった。
何をどうやってその結果が生まれたのか、俺を含め誰も理解できていない。
ポタリ、ポタリと、壁面に飛び散った血が滴り落ちる音を聞きながら、ただ茫然と、皆が赤く染まったリアの左手を見つめていた。
そんな男達に向かって、リアは凍えるような視線を向けていく――
先ほどとは一転し、男達の怒号と奇声が飛び交う中―――ふと、最初のゴブリン戦が頭を過ぎっていた。
あの時俺は、腑抜けた考えのせいで頬を殴られ爪を立てられ、無駄に傷を負った。
ゴブリンが亜人なんて、今考えれば「何言ってんだコイツ?」と、笑ってしまうような理由を作ってまで殺すことを躊躇ったんだ。
人型に近い存在を殺すという禁忌感に苛まれて、覚悟がまるで足りていなかった。
リルとの模擬戦にしてもそうだ。
本気で殺されるくらいの状況にならないと、”逃げ”と”許しの得られそうな選択”を考えるばかりで、相手を殺してやるくらいの気概を持つことができない。
そして――結果的に俺はあの時死んだ。
(そうだあの時、決して甘えたことはしないと誓ったはずなのに……成長してないな俺は)
口だけ、臆病者、偽善者……
自分自身を貶める言葉などいくらでも出てくる。
洞穴に入る前、リアに覚悟を問われたにもかかわらず、いざこのような場になってみれば結局一人の命も奪うことはできなかった。
必要の有無より先に、殺さなくても済む言い訳を作って逃げただけ。
リアが手に掛ける姿は見たくないと言っておきながら、結局不殺の制圧なんて自己満足に過ぎない手緩いことをしてしまった結果、俺はただ這い蹲ってリアが後始末する様を眺めているだけだ。
「お、おいアマリエ! エステルテッ!! おまえらハンターだろう!? つっ立ってないでその女を殺せぇええええええ!!」
瞬間、俺の目は見開き、心臓を鷲掴みにされたように、呼吸がピタリと止まる。
これは、男達だけじゃない。
敵意を向けられれば、人でも魔物でも。
『神』に歯向かった代償として死を迎える……
このままでは、二人や子供達も―――
咄嗟に視線だけを向ければ、次々と上半身が消失していく男達を見ていたからか。
命
令
によって拒否ができないであろうアマリエさんとエステルテさんは、
目
か
ら
大
粒
の
涙
を
零
し
な
が
ら
リアの下へと向かっていく。
「…ぁ……ぐ…ぅ……」
全部、俺のせいなんだ……
喉が焼け、声を出したくてもそれは叶わない。
もういいから、十分だから止めてくれと、伝えることすらできやしない。
ただただ何もできない悔しさで、両の拳に力が入る。
自分の甘さと不甲斐なさに、思わずその拳で自分を殴りつけたくなるも、その腕は僅かに上がるだけ。
(なんなんだ……なんなんだよ俺はっ!!)
こんな時でも涙は出る。
何の足しにもならないクソの涙に反吐が出そうになりながら、それでもふと、雫の垂れた拳が握られていることに、半ば放棄していた思考の波が押し寄せる。
(彼女達を、救えるのか……?)
僅かな間の中で、今の自分にできることととできないことを整理し、彼女達を救える方法を模索すれば……
―――――。
どう転ぶかは分からない賭けだった。
それでも、言葉を出せないこの状況で、可能性の見える方法はこれしか思い浮かばなかった。
さらに考え込むような時間はない。
剣は腰にかけたままで、無手の状態。
でも手足に多少の力が籠められるなら……逃げるな。
――やれ。
――やれ!!
――殺れッ!!!!!!!
――【身体強化】――
まずは身体の能力値を強化。
そして、右前方にいる対象を見定めながら、四肢に力を籠め、身体を前方へ―――飛ぶ!
(突進ッ!―――からの飛行っ!!)
――地べたから喉を食い千切らんとする獣の如く飛び出した俺に、痩せこけた男はまったく反応できていない。
それどころが、『
人
質
』という意味の無い行動では止まらないリアに向かって、悲鳴にも近い叫声をあげていた。
「やめろぉおおおおおおおおおおおおおッ!!! ほ、ほんとに殺すぞッ!! オマエのせいで子供達は――――」
(てめぇが死ねよ……ッ!!……噛みつきッ!!)
「死――――ぃギ……ッ!?」
俺はこの男の喉に食らいつき、そのまま吹き飛ばしつつも飛行を継続。
岩壁に向かって叩きつけ、自身に【硬質化】を使用しながら、そのまま身体ごと男の顔を潰すように激突していった。
衝撃で岩壁の一部が崩れ、小岩が上から降り注ぐ中、岩を自ら退かすことができない俺は、埋もれながら確認することのできない結果をただただ祈る。
(痩せこけた男は間違いなく死んだ)
視界には頭部を失った男が映っていた。
しかしこれで解決したわけではない。未だに賭けなのだ。
声が出ず、言葉がしゃべれない状況ではリアを制止することができなかった。
昨晩使用した【神通】はこの場で使用できず、言葉が発せなければ魔法も使えない。
同様の方法でリアの前に転がり込んでも止められるかは怪しく、仮に止まっても今度は『人質』にされている少女達の命が危なかった。
だから、奴隷が関係しているであろうスキルの
仕組み
に賭けた。
術者である主が死ねばどうなるか―――
炸裂音はもう聞こえない。
(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……)
これでダメだったら俺のせい。
どこまでいっても甘い考えでその場を乗り切ろうとした俺のせいだ。
呪詛のごとく心の中で謝罪を繰り返し……
岩が退かされ、松明の明かりに照らされたリアと―――
その背後で心配そうな顔をするハンター二人の顔を見て、俺は安堵と不安から意識が闇へと落ちていった。