Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (213)
210話 表と裏
(ラグリースと似たようなもんか……)
グリールモルグの近隣狩場は、リプサムと同様にFランク狩場からDランク狩場までが一つずつ並んだ階段構成。
だいたい付近の狩場状況に合わせて町の規模が決まってくるとなると、それだけ人々の糧として、魔物の存在が生活に直結していると強く理解できる。
そしてDランクはもちろん、Eランク狩場でも1種だけだが久しぶりの新種魔物だ。
スキル収集に加えてお金稼ぎも。
どちらも気合を入れねばと、いつものようにおばちゃん――かも分からない人のところへ興味本位で突撃していく。
「ふむふむ。Dランクの《イスラ荒野》が南東に1時間、Eランクの《ワロー丘陵》が北に1時間半くらい。で、ヴァルツ最高位の狩場が北東方面にあるBランクの《エントニア火岩洞》ですね」
「ですよですよ。でも無理はしないで、最初は《ニコロギの森》から始めた方が良いですよ? 《ワロー丘陵》は大人気で凄く混んでいますし、《イスラ荒野》なんて毒を持った魔物でいっぱいですからね?」
「ハハハ……こう見えても僕、実はBランクなんですよ~見た目ショボいんですけどね」
「あれれ、才能に溢れる子でしたか。鎧を着ていないので勘違いしてしまいましたよ。あっ、もしかしてラグリース王国からですか?」
「そうですよ~今日来たばかりなので、路銀でも少し稼いでいこうかなと思いまして」
ちょっと変わった感じのしゃべり方をするタヌキの女性は、凄く丁寧だけど歳はいくつくらいなんだろうな。
獣人は見た目で年齢が読めないし、声質でもピンと来るものがなくてちょっと困ってしまう。
獣人に慣れれば見えてくるものなのか……できれば見た目から情報を得るためにも、早めに判別できるようにしておきたいんだけどなぁ。
んー!
「そ、そんなジッと見られたら照れてしまいますよ? おばちゃん、恥ずかしいですよ?」
「あ、失礼しましたごめんなさい!」
いかんいかん。老化ポイントが存在するのかと、思わずガン見してしまった。
謝罪しつつ、まずは時間もあるしEランク狩場の《ワロー丘陵》で、未討伐の魔物『フォトルシープ』を狩ってみようかと画策する。
資料本の挿絵でもすぐに分かっていたが、なんといっても対象はパッと見がモコモコの『羊』だ。
タヌキおばちゃんも当たり前のように言っていたが、毛に需要有り、肉に需要有り、皮にクソほどの需要有りと……
そりゃもうこの世界じゃモテモテの魔物なんだろうからな。
おまけに丘陵――要は丘ってことであれば、場所によるだろうが遠目からでも魔物を目視できる可能性の高そうな場所だ。
(堂々と暴れるか、それとも周りに配慮しながら狩るか。やり方次第で大きく効率は変わるか――)
「失礼、ちょっと宜しいですか?」
そんな考え事をしながらギルドを出たところで、一人の男に話しかけられた。
何やら聞いたことのあるようなセリフ。
――まさか、もう
監
査
院
みたいなところが?
そう思いながら警戒心を隠しもせずに視線を向けると、その男は意外な言葉を口にする。
「傭兵に興味、ありませんか?」
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
俺は今、ベロイアと名乗る男に連れられて、『傭兵ギルド』なる場所へと向かっていた。
ベロイアは所謂『キャッチ』のような存在で、ハンターギルドで傭兵としての基準を満たしていそうな新顔がいれば、このようにして声を掛けているらしい。
西側でラグリースから訪れるハンター相手に網を張るなら、入口となるこの町だけ目を光らせておけば十分だろうしね。
で、このベロイアという男、早々にこんな発言をしてきたのだ。
「もし少年が本当にBランクハンターなら、今なら傭兵登録するだけで20万ビーケ貰えますよ」
もうこれ以上ないくらいに怪しさ満点の誘い文句である。
まったく、アホなことを……
世間知らずの引き籠りニート時代ならまだしも、一応社会に出て営業時代を経験した男にそんなヌルい手は通じない。
この程度で釣られるわけが―――と思いながら、結局その男についていってしまっている俺はもっとアホなのだろう。
だがしかし、決してお金に目が眩んだわけじゃない。
いや、貰えるなら当面の食費が浮くしそりゃ嬉しいんだけど、結局のところ『傭兵ギルド』というシステムとネーミングにちょっと興味が湧いてしまったのだ。
マルタのギルマス、オランドさんからも、以前デボアの大穴を卒業したBランクハンターが、東に向かい傭兵として雇われているという話は聞いていた。
が、既に交易が再開されて戦争ルートから外れているわけだから、今更躍起になって兵隊集めという話でもないはずなのだ。
となると、お金をバラまいて登録を求めている意味はなに? どんな仕事をこなし、どうギルドは運営されているの?
このように興味が色々と湧き上がってしまうわけである。
そんなこんなで歩くこと5分ほど。
「ここが傭兵ギルドです」
そう言われて見上げれば、建物自体はハンターギルドの半分程度。
入口には初めて見る、剣を持った2本の手が交差しているシンボルマークが描かれていた。
「ラグリースじゃ見たことなかったですね」
「そりゃそうでしょう。あそこはちょっと前まで人間だけの国でしたから」
「?」
今ので理解できる人もいるのだろうが、俺には余計意味が分からなくなる回答だ。
もしや傭兵とは獣人専用?
いやしかし、それならなぜ俺に声がかかる?
そんな疑問を抱きながら中へ入れば、トクンと――自然と興奮を覚えてしまう存在に目を奪われてしまった。
真っ先に目を引いたのは、一階のロビーとも呼べる空間のど真ん中に立つ太く四角い柱。
存在感を示す一辺が2メートルほどのその柱には、それぞれの面に大きな依頼ボードが貼り付けられており、その上部には『護衛依頼』『犯罪者の捕縛、討伐依頼』と。
2面しか見えなかったが、このように分別された依頼が木板に記載されてボードに引っ掛けられていた。
そして何よりも興味を惹かれるのが、受付奥の事務スペースに飾られたかなり大型の木製ボード。
そこには1から40までの数字が順に記されており、その横には入れ替え可能な木板がはめ込まれ、それぞれには個人の名前らしき文字が書かれている。
数字が若いほど、文字の書かれた木板が大きくなるという拘りも見えるな。
「1位『ジオール・メネキス』、2位『バリー・オーグ』、3位『ファニーファニー』……これは、ランキングボードですか?」
思わず口から零れ出た言葉だったが、怪しい男ベロイアは目的を達せられたからか、受付の女性に二言三言言葉を交わしてそのままギルドを出ていった。
条件に合う者をここまで連れてくるのが彼の仕事なのだろう。
「ようこそ傭兵ギルドへ。ギルド紹介をさせてもらうミルフィよ。宜しく」
「えーと、ロキです。まだ参加? 会員? になるか分かりませんが……宜しくお願いします」
「それはもちろん、説明を聞いてからで問題ないわ。それじゃこちらに」
……妙に腰をクネらせた歩き方をする女性だ。
ハンターギルドはそこまで強く押し出されていなかったが、ここの受付嬢を見る限り、傭兵ギルドはかなり容姿と年齢で選ばれている感が強い。
ミルフィさんについていくと建物の奥へ。
以前ハンターギルドで受けた講習と同じような椅子とテーブル、あとは部屋の隅にバケツ程度の木箱が設置されただけの小部屋へと案内される。
ギルドカードでランクを証明し、そこから始まった説明は小一時間ほど。
そこまで難しくはなさそうな傭兵ギルドという仕組みについて概ね理解しつつ、確認の意味で質問を重ねていく。
「ハンターギルドとの違いは独立組織か国営か、あとは魔物か対人かってところですかね?」
「正確にはハンターギルドや商業ギルドと同じ国を跨ぐ独立組織だけど、運営や依頼管理は基本国単位ということね。それと後者は必ずそう分けられているわけじゃないけど、ハンターギルドが積極的に受理しないような依頼を傭兵ギルドが仲介していると思っておけばいいわ」
「それが要人やお店の護衛、あとは犯罪者の捕縛や殲滅絡みですか」
「依頼内容は多岐に渡るけどね。君もBランクハンターなら、この手の積極的に『人』が絡む依頼なんて、馬車の護送依頼くらいしかまず聞かなかったでしょ?」
「たしかに……」
「ハンターギルドの思想は民衆のため。一部の特権階級に与するような政治的利用の可能性があれば依頼を受理しないわ。だからそういった私的な依頼も含めて、傭兵ギルドが”お金”で片付けているってわけ」
「……それは法的にセーフなんですか?」
「傭兵が依頼通りに仕事をこなして捕まるなんてことはないわよ。傭兵ギルドのトップはオズワード公爵だもの」
答えになっていないだろ。
そう思うのは地球人だからであって、この国の人にとってはこれが立派な答えになるんだろうな。
やや俺が不快感を示したことにミルフィさんは気付いたのか。
歳とともに体力の衰えてきたハンターが、実績や短期的に実力を示せば済むような仕事を探す場として活用する。
もしくは現役ハンターがハンター業を終えた後に、契約した店で食事を摂りながらいざという時の荒事に備える。
このように、ケースの多い具体例をいくつか俺に説明してくれる。
護衛や用心棒ならその通りで、どちらにとってもメリットがあり、一定の需要もあるのかなと思う。
だが、ハンターギルドが表であれば、傭兵ギルドは裏。
どうしても地球の知識から、そんな印象も強く受けてしまう。
国営が裏で、民間が表ってのも不思議な話だけどね。
そして、そんな仕事を俺なりのやり方、ペースで活用できるのかどうか――
「ハンターとの兼任はOKなんですよね?」
「もちろん。というより、そうしないと最初のうちは食べていけないわよ? 無名の新人に指名依頼する人なんていないわけだし」
「最初はあの柱に貼り出された依頼を受けながら、コツコツと積み重ねていくわけですか」
「例外的なやり方もあるけど基本はそうね。傭兵としての強さ、実績、依頼の達成率……名が上がり傭兵としての信用を得られれば、それだけ大きな仕事も舞い込んでくるわ」
「その分かりやすい物差しが、あの大きなランキングボードってわけですよね?」
「ふふ、分かりやすいでしょ? あのランキングに載るだけで傭兵としての世界が変わるわよ~? もちろんお金の面でもね」
「まぁ、そうなんでしょうけど」
「そ・れ・に、最初の質問の答えが一つ抜けていたからおさらいよ?」
「?」
「ハンターと傭兵の一番の違い――それは
選
ば
れ
た
者
しかなれないこと」
「……」
「強者が強者にしかできない仕事をこなし、高額な報酬を得る。認められ、求められればどこまでも高額な報酬を――ね? ステキでしょ?」
怖い笑顔だ。
見惚れる人も多そうなその表情を見て、ついそんなことを思ってしまう。
傭兵になれる最低基準はハンターで言えば『Dランク』から。
もちろんハンター歴がなくても実力さえあればなれる――言い換えればハンターの資格をはく奪されようが問題無しということだが、そこからは傭兵としての『
区分け
』は存在しない。
そうお姉さんは俺に説明してくれた。
ランキングボードはあくまで対外用に示した国内の登録傭兵順位。
なので傭兵になった瞬間から周りは全て横並びで、公開されている依頼であれば掛かる制限も一切無し。
稀に依頼主が個別に傭兵を断るケースもあるにはあるみたいだが、基本は早い者勝ちで内容と報酬が見合った依頼を消化していく。
そしてこの、競争心を煽るような仕組み――
「もしかして、傭兵の死亡率ってかなり高くありません?」
思わず尋ねてしまった。
両国間の問題が解決しても続いている、傭兵登録で20万ビーケという金のばら撒き方。
理由があるとすればこのくらいしか思い浮かばない。
それに対してミルフィさんは、
「ハンターよりは高いわよ。その分効率的に稼げるわけだし」
当然でしょ? と。
そのまま言葉が続きそうなほどに、さもあっけらかんと答えてくれた。
そう、これもこの世界では当たり前の価値観。
心にちょっとしたモヤが掛かる俺の方がおかしいのだ。
その後も現状の気になる点を細かく確認していった。
もうこの時点で、俺の腹の中である程度の答えが決まっていたんだと思う。
おおよその国内傭兵総数。
人気、不人気の依頼種別と達成率の傾向。
拠点となる町を変えた時の流れと予測される不都合。
依頼受諾から完了までの流れ、その簡略化の仕方について。
なぜラグリースでは傭兵ギルドがないのか、他国の傭兵ギルドについて。
傭兵ギルドに登録することのデメリット、などなど。
終始余裕があったミルフィさんの顔は途中から引き攣っていたが、そんなのお構いなしだ。
この人は俺をビジネスの相手――ある種カモのような存在として対応していた雰囲気があった。
ならば俺も一切遠慮する必要はない。
俺は俺でこの人を利用し、引っ張り出せるだけの情報を引っ張る。
ご自慢であろうその容姿も、残念ながらもっと上を6人ほど知っているので動じることもない。
結果、俺はその日に傭兵登録をした。
そしてBランクハンターという理由で登録報酬20万ビーケと、中央に穴の空いたバングルを受け取ったのだった。