Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (216)
213話 イスラ荒野
1日限定のおっさん妨害作戦――という名のスキル収集も無事終了し、次にやってきたのはDランク狩場 《イスラ荒野》。
早朝からワロー丘陵以上に見晴らしの良い狩場を眺め、ウンウンと深く頷く。
(うじゃうじゃいるねぇ。やっぱり狩場は空いているのが一番だわ)
このエリアの魔物は3種。
地面に溶け込むような茶色い体表をした、体長2メートルほどの大型トカゲ、ベイプリザード。
そこら辺に転がっている岩のような灰色をし、地中に潜っていることも多いらしいハイドスコーピオン。
そして近づくと急に青紫のガスを纏い始めるポイズンクラウド。
ちなみに3種ともが見事に毒持ち。
そのため一応保険用にポイズンポーションも1個だけ買ってきているが、まぁ狩場ランクを考えればたぶん使うことはないだろう。
毒袋のある鋭利な爪付きの手、幅広く転用が可能そうな厚い皮、毒針のある尻尾に硬い外殻と、それなりに持ち帰れば高値で引き取ってくれる素材もあるようだが――
(換金効率を考えれば、やっぱり魔石オンリーだよね)
そう判断し、移動していたハイドスコーピオンを上空から串刺しにする。
【招集】にはまったく反応が無いし、どう見たって反応があるタイプの魔物でもない。
だからここはコツコツと。
地道に仕留めていく必要のある通常の狩場だが、それでも気掛かりな情報もあったりする。
というより、イスラ荒野だけに存在する謎の注意喚起だ。
上手く利用すれば何か起きそうな気もするが、果たして成功するのかどうか――というより成功したとして、俺自身に旨みがあるのかどうか。
まずは色々試してみますかと。
奥地の誰もいない荒野を縦横無尽に駆け回った。
そして小一時間ほど。
一通りの魔物を倒しながらチラチラとステータス画面を眺め、スキル情報を頭の中で整理していく。
その結果おおよそで分かったのがこのような結果だ。
ベイプリザード
【毒耐性】レベルは不明だけど、ロッキー平原のポイズンマウスと同じくらいのレベル4か、もしかしたらレベル5あるかも
【爪術】レベルは2で確定
ハイドスコーピオン
【硬質化】たぶん経験値の上り幅からするとレベル3っぽい
ポイズンクラウド
【気化】レベル5確定、激熱
【毒霧】レベル2確定
それぞれ10匹ずつくらい狩って判別できたのがこれらのスキルだった。
なのでもしかしたら、他にも判別できていない所持スキルがあるのかもしれないけど、あっても既に俺が取得済。
おまけに経験値上昇では気付けないくらいレベルの低いスキルということになるので、他に何を持っているというところに気を向けてもしょうがないだろうな。
それより重要なのは、相応の経験値を得られるとはっきり分かった確定スキルの方だ。
まず【爪術】、これはかなり意外だった。
得られたことをアナウンスで知るも、探したところでまったく見つからず。
なぜぇ? と一番下までスクロールさせたら、まさかのその他枠にこの【爪術】がいた。
なんかモンクとか武闘家が、爪付きのグローブ着けたりして戦うイメージあったんだけどね。
どうやらこの世界だと『爪』は魔物の専売特許らしい。
まぁそれでも白文字で俺も使えるわけだし、【体術】と繋がりがあるのかは不明だけど……
俺が爪付きグローブや籠手でも装備して戦ってたら、かなり異色の格闘家になれるのかもしれないな。
あとは久々に見る初期値で高レベルスキルの【気化】が熱い。
【毒霧】も【気化】も使用できない魔物専用スキルなので、そこは残念なところだが――スキル名を見ればしょうがないんだろうね。
この辺りまでできたら、もう人間辞めましたってなっちゃいそうだし。
Dランクだけあって魔石もそこそこの値段で売れ、【毒耐性】【気化】はボーナス能力値狙いにうってつけ。
どちらも上手くいけばレベル8までもっていける可能性はあるわけだし……
(うん、イスラ荒野は粘るべきだな)
そう判断した俺は、次の問題。
『ポイズンクラウドを起こしたら、責任を持って討伐しましょう』
そして、
『ポイズンクラウドは大きくなることがあります。見つけたら近づかず、小さくなるのを待ちましょう』
資料本に書かれていたこの注意喚起の意味におおよその当たりをつけつつ、
わ
ざ
と
大
き
く
す
る
こ
と
は
で
き
る
の
か
。
タヌキおばちゃんから逃げずに、ちゃんと確認しておけば良かったなぁと後悔しながら実験を開始した。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
ポイズンクラウドは今までにない、不思議な魔物だ。
というより俺からすれば、魔物なのかも疑わしいような存在だった。
ポイズンクラウドの本体は魔石であり、その魔石は地面に転がっている。
この時点で意味が分からないと思うが、一定の距離まで近づくとその魔石から魔力とは違う――もう少し毒々しい色合いをした青紫の霧を発生させる。
いや、魔石が発生させているのかは分からないけど、とりあえず魔石に霧が纏わりつくのだ。
もちろん可視化されたただの霧なので、そこに目や口があったりするわけではない。
で、もっと近づくと、3~4メートルほどに広がった霧が突如として襲ってくる。
これがたぶんスキルにある【毒霧】なんだろう。
霧は一定範囲内を追いかけて来るので、罠とは違って意思があることは間違いない。
ただあくまで霧であり実体が無いので、剣を振ろうが意味は無く、その本体である魔石を壊せば霧はなくなり死亡判定になる。
なのでポイズンクラウドだけは換金方法も特殊だ。
砕かれた欠片の状態が前提になるので、集めた魔石の重さで換金額が決まると資料本には書かれていた。
欠けた魔石を使って魔道具のライトを付けたりしているし、欠けても価値があるというのは分かるんだけどね。
それでも粉々にすれば回収が厳しくなるので、他の2種と違いなかなか扱いの難しい魔物ということになるな。
そしてそんな魔物が起きたら――つまり、霧を纏ったらちゃんと倒せ。
じゃないと大きくなって危険な存在になるぞ。
でも大きくなったら、今度は小さくなるのを待とう。
この謎解きのような注意喚起がどういう意味なのか、手と足を動かしながらも考える。
放っておけば大きくなるという理屈はまだなんとなく想像できるが――なぜその後に、待てば小さくなるのかがいまいち分からない。
(うーん、とりあえず何匹か起こして放置してみるか)
ギリギリの狩場ならこんな危ないことできないけど、Dランクという余裕ある狩場なら考えるより試した方が手っ取り早い。
数匹のポイズンクラウドを霧状にし、少し離れて様子を見ながら他の魔物を狩り続けるも、特に変化は見られない。
ポイズンクラウドはその場から動かない――というより動けないので、ただその場に漂っているだけだ……って、あれ?
少し目を話した隙に、起き上がらせたポイズンクラウドは、いつの間にか全て消えていた。
(これはもしや、魔石の魔力残量を消化しきったってオチ?)
そう思って再度近づけば、間違いなくさっき起こしたと確信できる魔石が再度霧を纏う。
どうやら謎解きの回答はこれじゃないらしい。
(となると、あとは経過時間くらいか)
大きくならずに消えてしまうのは予想外だが、小さくなる原因が分かったとなれば、お次は大きくなる可能性を実践していく。
と言ってもこれを試すのは簡単だ。
ポイズンクラウドが霧状になったところで、その場に倒した別のポイズンクラウドの魔石を投げ込む。
すると投げた魔石の欠片は溶けるように消えていき、代わりに霧は先ほどよりも一回り大きくなっていく。
うん、これは予想通りの展開だな。
となれば、次にトカゲかサソリか分からないが、どちらかの欠けていない魔石を放り込んでみた。
(……ふーん。一応識別してるんだ)
いけるかと思ったこちらには反応無し。
これでポイズンクラウドの魔石だけを食っていることが証明された。
ならば、やることは一つでしょう。
目の前のポイズンクラウドに魔石の欠片を、様子を見ながらどんどん食わせる。
幸い欠片は特製籠に入れると隙間から落ちそうだったので、別の革袋に入れて持ち歩いていた。
だからゴソッと掴んではポイポイポポーイと、投げながらも本体が変化する様を注視していると、霧の色――というより濃度が僅かに濃くなり、中央の魔石も明らかに先ほどよりは大きくなっていることが確認できる。
途中で魔石をあげなくてもさらに膨れ上がったタイミングが何回かあったので、たぶん霧状になった範囲に偶然別のポイズンクラウドが存在していれば、そいつも吸収していき巨大化。
これが自然とポイズンクラウドが成長してしまう時のパターンなんだろう。
となると、時間経過で小さくなられてしまえば食わせ損だし――
とりあえずは人生経験と。
【洞察】で俺より弱いことがはっきり分かっているため、一度大きく広がった毒霧を軽く吸い込んでみる。
すると。
(フゴッ!? 目と鼻がぁああああ!!)
これは死ぬようなタイプじゃない。
それは自然と理解したが、まるでワサビを大量摂取してしまった時のような、強烈なツーンとした刺激に襲われる。
もうこなったらついでだとそのまま涙目で突っ込み、肥大化した魔石を剣で一閃。
すぐに晴れていく霧を確認しながら、俺はステータス画面の数値を確認する。
(うーん、残念)
この大きさだと、経験値やスキル経験値の伸びは通常と変わらず。
でももし、もっと成長させて……【気化】がスキルレベル6や7に昇格でもしたら?
発生する霧も、以前食らったカズラ血毒のような致死性が高いタイプじゃないし、いざとなれば霧の範囲外から魔石を破壊する術だっていくつかある。
それに倒した後の大きな魔石量を見ても、食わせて損をしているという雰囲気もないのであれば、試す価値は十分あるだろう。
そう考え、裏技的な考えに思わずほくそ笑みながら、ポイズンクラウド、もしかしたら昇格できるかも作戦に向けて動き出した。