Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (220)
217話 燃える展開
時刻は17時過ぎ。
遠目からでも存在感を示していた灯りに吸い寄せられ、俺は『ローエンフォート』の町上空へと到着した。
【夜目】を使って眺める景色はやはり町の規模として大きく、そして今まで訪れたヴァルツ内の町と違い、あまり造りが複雑な雰囲気はない。
ただ町という巨大でやや歪な円から、一部分だけ光が外へ大きく伸びており、まるで水差しのような姿を形作っていた。
そんな不思議な景観を眺めながら、修練場の併設された大きな建物を探して降り立つ。
もう的中率は9割くらいだな。
特に大きな町ではハンターギルドも大きいので外すことがなくなった。
早速ハンターギルドに入り――
「アイスウォールが使える【氷魔法】持ち、もしくは【水魔法】レベル4以上でウォーターウォールが得意なやついねーか!」
「氷属性付与の武器持ちグラディエーターと、火属性耐性完備の盾持ちヴァンガードだ! 明日参加可能のパーティがあったら言ってくれ!」
――今までにない活気で思わず足が止まる。
(すげぇ~赤や黒、派手な装備をしたゴツい人達がいっぱいだ)
受付ロビーを見渡せば、装備や佇まいなどの雰囲気で、あぁ強そうだねって感じる人達がわんさかいる。
時間が丁度狩り終わりの換金時というのもあるからだろう。
同じBランクでも、デボアの大穴とは狩場の質が違うことをすぐに感じ取れた。
だからこそ、ソッと細く、深く息を吸い、止める。
そして覚悟を決め――使った。
――【洞察】――
(…………いた、怪しいのが二人……ばあさんよりは弱いか)
ハンスさんの時とは違い、どう足掻いても敗北する未来しか見えない絶望的な差ではないので、この場をすぐに逃げだしたいという気持ちにはならない。
どちらかというと、ロキッシュの時のような――あぁ、これは相当良い勝負になりそうだという、恐怖より高揚感が先立つような、そんな感覚に襲われる。
(人間と獣人の男か……)
まぁそれでも大勢いる中の極一部。
Bランクで動いているハンターとなれば、推定レベルは40前後とか40台といったところだろう。
ということは予想通り、今の俺ならBランク狩場は問題ないはずだと、軽い足取りでいつもの資料室へ。
目的の資料本をじっくり読み込んでいく。
――《エントニア火岩洞》――
北部エイブラウム山脈の地下に存在する巨大な洞窟。
内部は大半が火岩石で構成されており、非常に燃えやすく、そして暑い。
存在するのは体長3メートルほどの火炎ブレスを吐くサラマンダー、滞空しながら火魔法を放つファイアーバット。
そして魔石を核に火岩石を操り、自身も発火するフレイムロックと、全て火を操る魔物で構成されている。
エントニア火岩洞で金属鎧は厳禁、できればサラマンダーの皮を素材にした耐性防具で身を固めておかないと地獄を見ることになる。
また稀に需要の高い種火魔石を有するオーバーフレイムロックが。
火岩洞の王、ヴァラカンの生息域も最奥には存在する。
ヴァラカンは単体でSランク下位、中途半端な戦力で挑めば全滅必至なので、よほどの自信がなければ不必要に奥地へ足を踏み入れるべきではない。
(なるほどなるほど)
どうもパーティ募集が活発な印象を受けていたが、狩場内容を見て納得してしまった。
加熱しやすいから金属製の鎧が厳禁――つまり全体的な防御力が削がれ、かつ軽装ともいかず全身を覆うから敏捷も削がれるような環境だろう。
いくら耐性の強い装備を着ようが、肌の出ている部分に影響がないのは、すでに超合金リルの太ももチェックで検証済みだからな。
そして魔物構成は地上、上空、斬撃が厳しそうなタイプとそれぞれに分かれており、魔物それぞれが遠距離攻撃の手段を持っているようにも思える。
――つまりこの狩場で求められているのはバランス編成。
革鎧でも攻撃に耐えられる盾持ちタンク、回復をしつつ魔物の遠距離攻撃手段に対抗、もしくは和らげるヒーラーやバッファー、斬撃、打撃、対空というそれぞれの攻撃手段を持ったアタッカー。
たぶんだが、こんな編成をある程度慎重に組んでいかないと、場面場面ですぐ厳しい状況に置かれるような――そんな狩場なんだろう。
デボアの大穴とどっちが良いかというと微妙なところだが、暗闇の迷路で対処の難しい酸を吐き散らしながら一斉に襲ってくる蟻って考えたら、俺ならまだこちらの方が癖も弱くて良いのかなと思ってしまう。
そして、上位種――というより黄金カエルと同じ類のレア種っぽいのとボスか。
通常ボスの存在なんてすっかり忘れていたけど、Bランク狩場以上くらいになれば高頻度で登場しちゃったりするのかな?
隠しボスの存在がチラつくので、安易に見学しようなんて気持ちは
ま
だ
湧いてこない。
Sランク下位となれば、なんとなくレベル的にもまだ厳しいような気がするし……
まぁ最奥なわけだから、行かなきゃいいのだよ行かなきゃ。
内心、そんなこと言いながら絶対行くんだろ? って自問自答しつつもとりあえずはそう判断し、ついでに依頼ボードにも目を通し――
「へぇ~……これはこれは」
得られた情報にニヤリと、ちょっと前の覚悟なんぞすっかり忘れて傭兵ギルドへ向かった。
そして翌日。
「ん~まだ大丈夫そうかな?」
少し余裕を持って宿の朝食を摂り、宿屋の自室で一人武器を眺めながら劣化状況を確認する。
プロじゃないから詳しいことは分からないけど、とりあえず刃毀れや怪しい亀裂が無ければまぁ問題無いだろう。
昨日布団に入りながら考えた今後の予定。
一度今日偵察に行ってみて、熱や暑さというものがどれほどのものなのかをまず味わう。
その結果耐性装備が必須と感じれば、どうも狩場にいるサラマンダーの皮を耐性装備として使っているようなので、1匹はしばき倒して素材持ち込みで防具を作ってもらい、そのついでに武器のメンテナンスもしてもらいつつサブ武器で悪党退治に専念する。
そして無くてもなんとかなるようであれば、そのまま中でスキル収集とお金稼ぎ。
どちらにしても最低約8日間はこの町で待機というのが当面の予定だ。
【募集】
ヴァラカン討伐メンバーを募集。
8日後、昼からギルド内修練場でメンバー選考を行う予定なので、腕に自信のある者はぜひ参加してほしい。
職は選考時に調整するのでとりあえず不問。ハンターランクは最低『B』ランクから。
募集人数は約50名ほど。報酬は素材を全てギルドで売却後に人数割り分配。
Aランクハンター フィデル・マークレント
理由は依頼ボードの横に設置されていたパーティ募集関連の掲示板。
そこに書かれていた『レイド募集』の予定を見たからだ。
こんなことなら他のDランク、Cランク狩場で先にスキル収集してからこの町にくれば良かったという気持ちと、そんな回り道をしていたら今回の募集に間に合わなかったという気持ちと。
どちらもが混ざり合い、結果”
ど
ん
な
も
の
か
参
加
し
て
み
た
い
“という気持ちに変化していった。
もしかしたら、俺一人で倒せるのかもしれない。
そんな考えもほんの少し湧いたが、この掲示板を見た時にふと【聞き耳】スキルを使ったのだ。
するとギルド内で唯一拮抗していそうだなと感じたあの二人からは何も聞き取れなかったが、近くにいた女性から人間の方が『フィデル』と呼ばれていることを知り、この時点でソロ討伐の線はすぐに消えてしまった。
似たような実力と思われる人間が、わざわざ50人というパーティ募集を掛けているのだ。
ならば俺一人で倒せる理由を探す方が難しくなる。
話していた内容からすると、たぶんもう一人の獣人も参加するんだろうしね。
宿の屋根から上空へ舞い、昨日見かけたジョウロの先へ。
山へと続く一本の道は、歩けば30分程度なのでは? というほどの近場で、朝からハンター達を送迎しているように見える複数の馬車が緩い山道を登っている。
道の横には明らかに出店と分かる複数の飲食店。
狩場の洞窟方面からは、同じ素材で山積みとなった馬車が町へ下っていくので、狩場近くの大きな建物は素材の買取屋なんかもきっと含まれているのだろう。
元は森であっただろうに、狩場へと続く広い道で綺麗に分断され、まるで《エントニア火岩洞》専用の町と言わんばかりに整った環境。
そんな規模の大きそうな狩場に心躍りながら、俺は馬車を追い抜き近場の森へと降り立った。