Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (221)
218話 エントニア火岩洞
狩場だというのに、洞窟の横を守るように立つ兵士が2名。
その人達に軽く会釈をし、怪訝な視線を向けられながらも内部へ突入していく。
それなりに広く、通り道をしっかり確保された岩盤の通路。
そして20メートルも進めば見えてくるのは、高さ20~30メートルくらいはあるだろうか。
場所によってマチマチではあるも、窮屈さを感じさせない巨大な空洞が出現し、要所要所で地面と天井を岩盤が繋げていた。
小学生の時に遠足で行った鍾乳洞。
あの雰囲気に近いが、遥かにスケールが大きく、内部での活動も問題ないくらいに動ける場所が確保されている。
そして何よりも目を奪われるのは脈動する岩だ。
まるで岩盤の中を血管が巡っているかのように明滅しており、放たれる淡いオレンジの光が洞穴内を広く照らしていた。
全てが同じタイミングではないので、ここが”巨大な生き物の中”なんてオチでないことも理解できる。
そして魔物は――
(うぉぉ! かなりMMOのダンジョンっぽいじゃん!)
入口付近では5~6人程度のパーティが適度に散り、それぞれがそれぞれに役割を自覚し、卒なく動きながら魔物と対峙しつつ素材回収をしていた。
(おっ、あの弓師とタンクの連携上手い! 時間の隙間を作らないようにすぐ次の魔物釣ってるし……んん? あの杖持ち、見ないで別方向のブレスに水膜のバリア合わせたぞ? 【気配察知】であんなことできるのか?)
なんというか、FランクやEランクと違って動きに無駄がなく、見ていてちょっとカッコイイとすら思ってしまう。
いけない、これは興奮が止まらなーい!
俺も俺もー! と剣を片手にダッシュを決め、空いていそうな狩場を探し回る。
道中、漏れなく目の合ったハンター達からギョギョッとした視線を浴びるも、まぁこればっかりはしょうがないだろうな。
燃やされるの覚悟でボロ服着た少年が、剣を片手に一人で奥地へ向かって突っ走ってるんだ。
大概の人が、「あ、この紛れた子供死んだわ」って思ってることだと思う。
――【気配察知】――
――【身体強化】――
――【探査】――対象は『ファイアバット』。
でもそんなこと気にしない、気にしていたらこの世界ではやっていけない。
うっひっひー……せいっ!
ちょっと奥に入れば、ノソノソ歩くデカい四足歩行の真っ赤なトカゲがいたので、一発で首を落とせるか試す意味で力任せに斬り落とす。
「よーし、全然問題無し!」
『【火炎息】Lv1を取得しました』
『【火属性耐性】Lv1を取得しました』
『【火属性耐性】Lv2を取得しました』
『【火属性耐性】Lv3を取得しました』
『【火属性耐性】Lv4を取得しました』
「はい、サラマンダーは【火炎息】Lv3と【火属性耐性】Lv5確定~っと……フンッ!!」
今まで活躍する機会はほぼ無かったが、魔法防御力はボーナス能力のお陰でそれなりにある。
上空から放たれたファイアバットの【火魔法】。
顔面を超える大きさの火球をモノは試しと、以前のリルを真似するように腕を振り抜き地面に弾く。
(これも、問題無し)
早速【火属性耐性】も仕事をしているのか、服は焦げるがあまり熱さを感じない。
弾いた火球の残り火が地面の岩盤に触れ、その部分だけが引火したように燃えていた。
飛ばしてきた犯人に視線を向ければ、飛んだ後を示すように火の粉を舞わせながら天井付近の岩陰へと向かっていく。
なんせ羽が燃えているんだ。
当然あのファイアバットも【火属性耐性】を持ってるんだろう。
――いいねぇ。
思わず笑みが零れながらも上空へ飛ぶ。
すると予想外だったのか、急に挙動不審な動きをするファイアバット。
移動速度はそこまで速くない。
ならば――動きを止めるように体長30㎝ほどの身体を鷲掴みにし、勢いよく岩壁へ投げ付ける。
『【火魔法】Lv3を取得しました』
ん~?
これは【火魔法】レベル4と5どっちだ?
落下していく蝙蝠の死体には目もくれず、住処だったのか。
飛んで初めて分かる岩壁の陰から、一斉に【火魔法】を撃とうとしてくるファイアバットに向かって――
『――――ッ!!』
【咆哮】を使えば、詠唱をまとめてストップさせることができた。
オーガから得られた前方の範囲威圧効果。
消費魔力は多めだが、実に効果的だと感じつつ、剣を薙ぎ払ってファイアバットの集団を地に落としていく。
『【火魔法】Lv4を取得しました』
『【火属性耐性】Lv5を取得しました』
「ふーん、【火魔法】はレベル4か。あとは飛んでるし、そこまで高くはない【飛行】持ちって感じかな? んでー……」
下からぶっ飛んできた、硬球ほどのゴツゴツした岩を咄嗟に掴み取る。
そこら中にあるモノと同じ、脈動してオレンジに光る岩。
【土魔法】で形成後に飛ばしたというより、力任せにそこらの岩を投げたという印象が強い。
犯人がフレイムロックということは見れば分かるのだが――まだ燃えてはいないな。
となれば両パターンを判別するかと急降下し、やや人型の上半身を模ったように見えるその胸部を、剣を持たない左手で殴りつける。
「痛ッ……」
やはり、【身体強化】を使ってもちょっと痛い。
防御面がまだ足りていない証拠だ。
ただまぁ、脈動していた身体がバラけるように後方へ吹き飛び、Bランクというだけあってピンポン玉くらいはありそうな魔石が音を鳴らしながら地面へ転がる。
『【結合】Lv1を取得しました』
『【結合】Lv2を取得しました』
『【結合】Lv3を取得しました』
『【結合】Lv4を取得しました』
『【分離】Lv1を取得しました』
『【分離】Lv2を取得しました』
『【分離】Lv3を取得しました』
『【分離】Lv4を取得しました』
『【発火】Lv1を取得しました』
「わぉ。【結合】と【分離】がレベル5、【発火】がレベル3と。一番美味しそうなのはコイツかな?」
すぐに解体作業へ入り、魔石だけを抜き取りながら何が効率的かを考える。
「途中で地上へ抜け出せるような穴でも無ければ、あまり奥には入らない方が良いよなぁ」
どちらもやらなければいけないことだ。
しかしスキル収集とお金稼ぎの両立は、バランスを取ろうと思えばなかなか難しい。
それでも――まずはそれぞれ20体くらいだなと。
今日は準備運動とばかりに色々試しつつ、ハンター達の分布状況を確認して回りながら感触を掴んでいった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
その日の夜。
反省点を色々と抱えながら宿へ戻り、得られた情報を手帳に纏めていく。
【火炎息】・・・魔力
【火属性耐性】・・・魔法防御力
【結合】・・・防御力
【分離】・・・技術
【発火】・・・魔力
新種スキルのボーナス能力はまずこれで問題無いだろう。
初期値スキルレベル5が3種。
これはレイドまで時間もあるし、ぜひレベル8まではもっていきたいところだな。
これで敏捷はやや弱いままだが、防御力はフレイムロックが持っていた【物理攻撃耐性】レベル4と合わせて多少マシにはなるはずだ。
それにBランク狩場であればと思って試した【魂装】も、ここなら粘る価値はある。
フレイムロックの防御力が早速1つ上回れたので、粘れば2個で50以上は防御能力値を上昇させられそうだ。
しっかし、今回はその他枠のスキルが多いなぁ……
新スキル5種のうち4種は魔物専用。
そしてそのうちの2種が予想外に俺でも使えるという――この結果に戸惑いを覚える。
嬉しい誤算でもあるけど、どう使いこなすべきか……
――【発火】――
心の中でスキル名を唱えれば、魔力が内部消化されて表に出ないまま炎が俺の腕や手に纏わりつく。
これは俺がその範囲に【発火】するよう意識したからだ。
ちなみにほんのり温かみを感じる程度で熱さはなく、これが【火属性耐性】のせいなのか、スキル使用者という立場だからなのかは分かっていない。
たぶん指先マッチで自分の指が熱いと感じたことはないので、後者だからじゃないかと予想している。
そして今はとてもじゃないが試せない【火炎息】。
これもまさかの使用可能スキルだった。
過去にリアとブレス吐きたーいなんて冗談言ってたら、本当にできちゃったってオチである。
ちなみにこちらも熱さは感じず、口の中がベロベロになるなんてことはない。
ただ【火魔法】と違い調整がほとんどきかず、使うと前方をミディアムに焼くか、ウェルダンに焼くかの2段階くらいしか調整できないのだ。
なんというか、魔物専用ということもあってたぶん性質が【精霊魔法】に近いんだろうな。
魔力消費も初期値が大きいので、リアに今度会った時自慢しようと思うくらいで、実際に使う場面はほとんどないんじゃないかなと予想している。
範囲も前方広範囲5メートルって感じで、そんなに射程が長くないしね。
なのでロマンがあるのは、やっぱりコッチなんだよなぁ。
……ボロ布を手に巻き、再度【発火】を唱える。
(やっぱり燃えず、所持物にも影響が出ている。つまり――)
一度消し、ショートソードを持ちながら使えば――ははっ。
ボッ……ゴオッ……
持ち手を含め、剣全体が炎に包まれる。
性能云々は別として、これでかつて俺が憧れたフレイムソードの出来上がりだ。
狩場でたまたまこの現象を発見した時は、思わず興奮で失禁しそうになってしまった。
《エントニア火岩洞》で使ったらただのアホだけど――というか興奮して使いまくった俺はアホ過ぎたけど、相応の場所で使えば火力向上には繋がりそうな一手だ。
素材回収目的なら火は厳禁だろうけど、今は魔石のみの回収ばかりなので素材が焦げようとお構いなしだしね。
まぁ将来性とか拡張性って話なら、本来物凄く先がありそうなのは【結合】と【分離】なんだろけどなぁ……
主語が抜けているだけで、
俺
が
と付け加えれば一気に現実味が失われていく。
分離! って言って首や手が遠くに飛んでったら、いくら結合でくっ付くってなっても俺自身が嫌だし。
フゥ~……
作業終了とばかりにポールペンをコロコロと転がし、椅子に深く腰掛ける。
今日得られたスキルはこんなところ。
スキルを得られただけで俺にとってはプラスにしかならないし、その中で場面によっては使えそうなスキルが一つでもあるならラッキーと思っておこう。
なのでどうするか真剣に考えるべきは反省点の方だな。
油断すると服が燃える、というか新しい情報がバンバン入ってくる新狩場で興奮してたら、サラマンダーのブレスに燃やされた。
これが目下最大の問題点だ。
危うく今日も、久しぶりのフルチンモードをしてしまうところだったし……
途中からはマズいと思って、適度に【水魔法】で生成した水を頭からぶっかけていたからなんとか死守できたようなもの。
バケツ程度の水でもレベル1の範疇でできるので、未だに用途は限定的だがやっぱり【水魔法】のコストは優秀だ。
【火属性耐性】があるので、防御面で言えば今のところ要らないのだけれど、衣類を守るために耐性防具を買うべきかどうか――
どうしようかと悩みながら目を瞑れば、走り回った疲れもあって、俺はあっという間に深い眠りについてしまった。