Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (223)
220話 遭遇
エントニア火岩洞 3日目。
服が焦げることはほぼなくなり、狩場にもだいぶ慣れてきたが、それでもこの暑さだけはどうにも回避できない。
コソッと陰に隠れ、周囲に誰もいないことを確認し――
「みずーっ!」
天井に向かって放たれる叫び。
でもこの一言で、魔力8を消費したバケツ2杯分ほどの水玉が頭上から降ってきて、額に浮かぶ大粒の汗を流し、絡みつく熱気を幾分冷ましてくれる。
「あぁ~ぎもぢぃ~!」
よくあるゲーム世界のようにマグマが洞窟内を流れていますとか、そこまで恐ろしいフィールドトラップはこの狩場に存在しない。
可燃性の脈動する岩盤がただひたすら奥へ奥へと続いていく――それだけなのだが、なぜか奥へ行くほど気温が上がっていった。
そのため混雑を避けるように奥へ入ってきたパーティの多くが長くはもたず、また混んでいる入口へと戻っていく。
そんな人の出入りを遠目に眺めつつ、俺はひたすら奥の一角で粘っていた。
結局のところソロは効率が良いのだ。
5人のパーティがいたら、いくら【水魔法】や【氷魔法】を使える人がいても、結局その5人に魔法を使って暑さの対処をしなければいけない。
戦闘面でもその手の魔法は適時使用しているのに、休憩の時も振舞っていればあっという間にガス欠だろう。
でも一人なら、レベル1の【水魔法】を自分の頭にぶっかけとけばとりあえずは落ち着く。
俺はまだ通気性が良過ぎるくらいの農民服だしね。
水を被れば布がしっかり吸ってくれるし、ちょっと重くて動きづらいところはあったとしても、それでもこの環境なら濡れた服は気持ち良さの方が遥かに勝った。
それにここだと【魂装】である程度納得できる数値を引き当てた後は、ファイアバット用の【飛行】と、適当に気が向いたら使う【身体強化】くらいしか魔力を使う場面もない。
だからレベル1の【水魔法】に使う消費魔力くらい余裕も余裕で、その程度ならあっという間に自然回復しちゃうのだ。
かつてルルブで魔力回復の速度を測ったこともあったが、明らかに今の方が魔力『1』当たりの回復速度は速い。
というか段違いで、正確にはカウントしていないものの、今は1分で魔力が3くらいは確実に回復している。
魔力1の回復時間が固定で決まっているというより、魔力全体の回復時間――つまり全快までは魔力総量関係無しに何時間とかが決まっているんだろうな。
前にポイズンクラウドで魔力がガス欠寸前だった時でも、結局寝て起きたら全快状態だったと思うので、魔力総量を上げる意味合いはどんどん大きくなっている気がする。
つっても、レベル上げがしんどすぎるので、魔力ボーナス該当のスキルをコツコツ上げていくしかないんだけどね。
(あとは【付与】で稼ぐかだよなぁ)
ドワーフのおっちゃんは、アクセサリー屋にレベルは知らないが付与師はいると教えてくれた。
なのでたぶん【魔力自動回復量増加】を一つ付ける程度なら楽勝だろう。
問題は【魔力自動回復量増加】1つに100万ビーケ支払うべきかなのかどうか……
1,600万ビーケ突っ込んで2重付与を目指した俺が言うことでもないが、それでも近々行くフレイビルなら、Aランク狩場の素材で当面の間は使えそうな本気装備を作れるわけだから、どうやったって今作ってもらっている装備は繋ぎでありおまけだ。
ある意味ここでのレイド用と言っても過言ではない。
そのレイド戦で役立つなら1日の戦果を突っ込むくらいの価値はありそうなもんだが――――、ん? というか。
そのボス――ヴァラカンって今湧いているのだろうか?
ふと浮かんだ素朴な疑問だった。
クイーンアントは周期に合わせて強いハンターが訪れると言っていた。
資料本にも書かれていた通りで、俺は勝手にハメられたと勘違いしていたが、半年くらいの湧き周期ということがある程度認知されていたっぽいのだ。
しかしここのボスは周期情報が載っていなかった。
未踏破ボスという線はさすがに無いだろうし……
ランダム性の強いボスがたまたま湧いていて、メンバー集めのために日数の余裕を持たせている?
それとも一部では規則性のある周期情報が出回っていて、分かっている人達だけで上手に回しているから、タイミングを合わせるための日数を待っている状態?
でもそうなると、あのメンバー募集の発起人はAランクハンターだった。
より強い力を持つSランクハンターだって存在しているだろうに、わざわざメンバー募集の告知までして、ボスを狙う他の強者達を抑え込めるものなんだろうか?
んー……ん~? ん……。
わ、分からん。
分からんが、今確実に確かめられそうなことは一つある。
(い、一応確認だけはしておくべきか?)
遠目からでも存在が確認できればそれでいい。
俺が今心配しているのは、わざわざレイド用とも言える装備を買い、【付与】まで整え、いざやったりましょうとなったら
レ
イ
ド
が
流
れ
ま
し
た
っていうクソみたいなパターン。
こうなるのは正直キツい。
でも今ボスがいるのであれば――
それでも先に食われる可能性はゼロじゃないだろうけど、現時点でいないよりは”本当にレイドをやるんだな”と俺自身が安心できる。
うーん――……
考えながらも自然と足は動いてしまう。
危ないからボスのところにはまだ行かないと、そんなことを言っていたのはマジでどこのどいつだろう。
(このゲーム脳、もうダメかもしれない)
そう自覚しながら、全力で警戒しつつ奥へ奥へと進んでいく。
そんな緩い覚悟が。
リスクが高いと自覚しているゲーム脳が。
時として――
不幸を
齎
すこともあれば、幸運を
齎
すこともある。
今回はたまたまコチラに傾いたらしい。
(一回り、いや二回りはデカいな……)
視界に現れたのは、フレイムロックが巨大化した存在。
体長は3メートル近くありそうな魔物。
オーバーフレイムロックがそこにいた。
これをレア種と呼ぶべきか、上位種と呼ぶべきか、それともネームドということになるのか。
この世界だと上位種くらいしかメジャーではなさそうなので、結局俺の匙加減次第なわけだが――
他の魔物に紛れてただそこにいるだけなので、少なくとも共食いしてどんどん強くなる、ロキッシュのような上位種タイプではなさそうである。
そこまで気構えることもなく、スタスタと対象の下へ。
ビュッ――……
身体の一部を切り離すように岩が飛来し、スッと避ければ背後の岩壁に衝突して砕けた。
が、今度はその砕けた岩が背後から勢いよく飛んでくる。
【分離】と【結合】の使い分け。
今までにも見たパターンだし、スピードに差があるとも思えない。
(【洞察】の判定通りデカいだけで、スキルや強さには影響がないのか……?)
だとしたら悲しいお知らせだ。
いずれ戻って狩ろうと思っていたボイス湖畔の黄金カエルも、これでは期待がどんどん薄れてしまう。
岩が衝突した音でこちらに気付いたのだろう。
数匹のサラマンダーとファイアバットが戦闘態勢に入っているので、地上のサラマンダーから始末していくが――
後回しにしていたファイアバットが【火魔法】を放った時、やっと違いを理解することができた。
「へぇ……」
人型の上半身を模した岩であるオーバーフレイムロックに火が引火し、目や口を形作ってよりその姿を鮮明にさせる――これは通常のフレイムロックでも同じこと。
この岩の塊を【発火】した状態にしても、所持スキルが変わらないことまで確認していた。
しかし違ったのはその『色』だ。
纏う炎が今までとは違って白く変化しており、明らかに俺へ届く熱量も増している。
まぁ、それでも結局
雑魚
いことには変わりないけど。
白熱した状態でさらに岩を飛ばしてくるので、【魂装】使用後に俺も壁面から岩を何個かもぎ取りぶん投げる。
炎は纏っていないが、筋力全開フルスィングなので速度と威力は段違いだ。
まるでボウリングのように、身体を構成する岩が弾け飛び、あっさり纏っていた炎が散っていく。
『【白火】Lv1を取得しました』
「敏捷が74か。【魂装】の引きは大外れだが……」
それよりも、このスキルが気になってしょうがない。
が、まずは上空で魔法を撃つだけ撃ってまったく降りてこない、セコい蝙蝠野郎をぶっ潰さなくては。
俺は黙々と付近の魔物を掃除し――
初めてとなる、レア種専用っぽいスキルの概要を確認しつつ、さらなる奥地へと進んでいった。