Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (226)
223話 開戦
翌日。
予定通り早朝から狩場入口に集合した一行は、ゾロゾロとエントニア火岩洞内部を行進していく。
道中の魔物は主に魔力の余っている遠距離部隊が処理しているようで、あまり近接組にお鉢が回ってくることはない。
個人的には魔力消費大丈夫なん? と心配になってしまうけれど、回復手段として魔力ポーションもあれば、念のため俺も飲んでいた魔力回復丸薬だってあるわけだしね。
率先して魔物処理をしようかなと剣を握るも、こういう場で出しゃばるのはよくないと、ヒッソリ団体の中に埋もれていた。
まぁそれでも目立っているみたいだが。
「ちょ!? ロキ君だけですよ! ボス戦で籠を背負ってるアホなんて!」
行進開始後、開口一番にジョフマンさんから言われた言葉が俺の心にグサリと刺さる。
別に道中の素材も一応回収しておこうとか、そんなセコいことも考えてはいたけど、でもそれだけを目的にしているわけではないのだ。
ボス戦をより円滑に進めるための策として、俺は真っ先に戦闘直前までいつもの庶民服スタイルでいようと心に決めていた。
たぶんもうそろそろ到着する頃だろうとは思うけど、もう既に洞窟内を歩き始めてから2時間近くは経過している。
周りを見れば当然汗だくで、この時点で体力消耗していることが丸分かりなのだ。
だから籠に鎧を入れていただけなのだが、狩場で会ったことのなかったユーリアさんには酷く怒られてしまった。
「着くまでに大きな火傷でも負ったらどうするの!?」
ごもっともだけど、【火属性耐性】がスキルレベル8までいくと、もうまったくと言っていいほど火のダメージや熱さは感じないからなぁ。
「ロキ君は普通の狩りでも鎧なんて着てませんでしたぜ?」
ジョフマンさんが冷静に事実を告げれば、ユーリアさんの可愛かった顔が引きつってブサイクに。
「今のうちに熱を逃がしておけば、ボス戦の時はきっと楽ですよ? 鎧なら籠に入れておけば僕が運んであげますから」
親切心でそう告げれば、「脱いだら下着なんだけど……」と余計にドン引かれてしまった。
そんな、防具の下のご事情なんて知らんし。
絶対ボス戦では有利に働くはずなのに、なぜ俺はこんな視線を浴びなければいけないのか、世の中はとっても理不尽である。
そしてなぜ、ジョフマンさんが脱いでいるのか。
あなたの鎧まで運ぶなんて言ってないんだけど? と、おっさんのパンイチ姿に解せない気持ちでいっぱいになりつつ、約2時間半かけてボス部屋前に到着した。
以前よりも近くで見るその部屋は、端まで300~400メートルはありそうなほどに広大で、天井も50メートル近くはありそうなドーム型。
過去の経験から、すぐさま裏ボスが出てきそうな怪しいポイントを探すも、どうにもそれらしい箇所は見当たらない。
逆に
何
も
無
さ
す
ぎ
る
という表現が適切なように感じた。
唯一、がらんどうな空間の中心でポツリとボスが佇んでおり、距離が近くなったことで分かるその大きさに暫し圧倒されてしまう。
ロキッシュよりも、あれは確実にデカい。
パンッ!
「よし、予定通り4組に分かれて壁面を移動してくれ。俺の合図で一斉に突撃だ。タンクパーティは少し先行、まずヘイト取りをしっかり頼むぞ」
「あぁ、任せてくれ」
「わ、分かりました!」
巨大な盾を持った二人の男が返答する。
レイド戦の要と言ってもいいタンクはこの2人に、主催者であるフィデル氏を加えた3名。
2人が初参加組というのは少々気掛かりだが、慣れた様子のフィデル氏もいるならまず大丈夫だろう。
ちなみに俺はパーティで言えばフィデル氏のところになるみたいだが、やることは完全ソロの遊撃部隊だな。
空中で自由に動く俺に合わせられる職なんてないらしく、でもまぁその方が気も楽だしと快くその役割を引き受けた。
四方に散り、それぞれが配置につくハンター達。
緊張感の漂う静寂に包まれた空間では、やや荒い呼吸音だけが聞こえていた。
ふいに誰かの喉が鳴り、チラリと周囲を見渡せば、数歩前に出た近接組は皆が武器を強く握り、多くが中央のボスを見つめている。
……中には、目を瞑り祈る者、震えている者も、いた。
これがゲームとは違う、生身でやるレイド。
恐怖に打ち勝ち、大きな戦果を得る戦いだ。
――不安と興奮で鼓動が高鳴り、自然と握る剣にも力が入る。
(いける。いけるぞ。俺一人ではまだ無理でも――皆で動けば絶対に、いける……)
パンッ!!
「突撃ぃいいいいいいいいいーッ!!」
「「「「ウォオオオオァアアアッ!!!」」」」
周りなど気にしていない。
ただ自分を奮い立たせるためだけに、腹の底から叫び声をあげて駆けるハンター達。
そんな周囲の様子を眼下に収めながら、俺はゆっくり部屋の中央へ向かって【飛行】する。
その中央では最も先を走るタンクに反応し、そちらに向き直りながら走り始めるヴァラカンが。
スピードは――そこまで速くない。
――【鼓舞】――
とりあえず1発目の役割を果たしたら、ここからは事前情報の擦り合わせと分析だ。
ジッとボスの動向を見据える。
おおよその攻撃パターンは既に経験者から聞いていたが、そんなもの、実際にこの目で見てみなければ感覚が掴めない。
まるで頭部の角で串刺しにするかの如く鋭い突撃――、それを必死の形相で盾を使い、受け流していくタンク。
対してヴァラカンは、ブレた軸をそのまま利用するように尾を猛烈な勢いで振り回す。
これを咄嗟に割り込み、押されて後退させられつつも、その場で強引に止めるもう一人のタンク。
そして即座にヒールが飛んだことを示すかのように、タンクの身体に淡い青紫の魔力が灯った。
(尾をきっちり止めた人の方がステは高そうか……)
タンクが潰れると、経験上レイドの多くは崩壊する。
ならば俺が優先して補助すべきタンクはあちらだと、まだ赤さの目立つサラマンダーレザーを頭部までしっかり覆った男をマークした。
その後も続々と到着し、戦闘に参加していく近接組。
得物を握り、思い思いに手の届く範囲へ攻撃を加えていく。
といっても推定5メートル超はある魔物だ。
基本的に足か、下がった時の尻尾にしか攻撃を加えられず、また鱗に阻まれ、あまり内部まで刃が通っているようには見えなかった。
(まずはどれくらいダメージが通せるのか)
負担軽減と魔力消費を効率よく抑えるための戦略だろう。
適度に、そして交互にタンクから放たれる【挑発】の合間に
――【身体強化】――
無理だろうと思いながらも急速下降し、太い首を切り落とすつもりで斬撃を加える。
――【剣術】――「力刃ッ!」――
ズブリと、食い込む剣。
なるほど、いつもより動きが良いと自分でも分かるな。
斬った感触からしても、たぶん俺になんらかのバフが掛かっているのは間違いなさそうだ。
鱗に阻まれようと十分刃は通る――が、今の一撃であっさりヘイトは俺が奪ったらしい。
大きく吠えながら上を向き、バカデカい顎を開け、視線は確実に俺へと向いている。
(早速きたな)
この目で確認したい攻撃の一つ目だ。
これは直接味わえるなら、今のうちに味わっておいた方が良い。
口内で黒いモヤを纏った炎の生成と圧縮が始まり、煌々と輝く不安定な光の玉が生まれていく光景を眺めながら、両腕で顔を覆い全力の防御態勢に入る。
(まだ、まだだ、まだ……ここッ!)
――【発火】――
コアッ―――……
検証しきれていない防御対策だった。
『火』はすでに耐性が強過ぎて、サラマンダーのブレスやファイアバットの【火魔法】をわざと受けても、熱さやダメージを何も感じない。
オーバーフレイムロックが再び登場してくれれば検証できたかもしれないが、そう都合よくは目の前に現れてくれなかったし、【白火】をわざとフレイムロックに点火させての量産にも失敗した。
だからやむを得ずの本番検証。
たぶん【硬質化】では、物理攻撃ではないブレスの防御を上げることはできない。
でも事前に【発火】で火を纏っていたら?
少なくとも自分で火を纏ったのなら、任意でその纏った火はすぐに消すことができるのだから、火に対しての防御耐性もありそうなもの。
発動準備を経て放たれた巨大なブレスは俺を丸呑みにし、そのまま上空で掻き消えていく。
一時の静寂を感じ、【発火】をすぐに解除しながら上空を見上げれば、天井を焦がしたような跡は見られない。
事前情報ではブレスの射程がかなり長いという話もあったが、俺が前面に立って壁になれば、射程を抑える効果もそれなりにありそうなことがこれで分かったな。
予兆や行動パターンが分かれば、その時だけヘイトを奪って上空へ逃がすという戦略も取れる。
目立つ【白火】を使うまでもないし、敢えて火を纏わなかった左手のダメージを見れば、このブレスなら【発火】すら必要は無さそうだし……
「ハハッ! この程度のブレスなら余裕だわ!」
そう思って獲物を見れば、ヴァラカンだけでなく、なぜかハンターの多くが目を見開き俺を見つめていた。