Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (253)
250話 神のやる気
5つの霧が何を生み出すのか。
呼んだであろう当人も俺も当然分かっていたが、今後どうなるかはこの場にいる誰もが分かっていなかったと思う。
ややツラそうなリルを含め、降り立った直後から6人の視線は自然と上空へ向き――数秒後、大きく息を吐く音とともに、ポツリポツリと呟いていく。
「……やっぱり、大丈夫だった」
「あぁ、心臓に、悪い」
「【分体】が大丈夫な時点で、人数はあまり関係ないはずですから」
「それでもドキドキしましたね~」
「ちゃんと報告はしてたんでしょ?」
「えぇ、ただ返答はありませんでしたが……」
「……あ、あのー」
「あ、ごめんなさい! でも賭けは成功しましたよ!」
アリシアに小さくガッツポーズされるも、まったく意味が分からない。
6人同時降臨が賭けだったということは理解できるが……
「ごめん。リルがだいぶ元気になってきたのは良かったけどさ。いきなりで驚いたし、誰かちゃんと説明してくれない?」
そう伝えれば、代わりに口を開いたのはリステだった。
アリシアはションボリしているけど、まずは状況把握が先である。
「アリシアが言う通り、私達のこの行動が神界の禁忌事項に触れるかどうかの賭けに出たのです」
「それが6人同時の降臨ってことだよね? 今まで緊急時でも二人までだったわけだし、それはまぁ分かるんだけど……なぜこのタイミングで急に?」
普通に考えれば、秘密基地会場が決定したから勢い余って。
女神様達の、それこそ駄目っぷりを考えればこれで決定のはずなんだけど、どうも先ほど見せていたアリシアの異様な覚悟を見るに、もっとまともな理由があるとしか思えない。
「タイミングはロキ君が魔王を回復させた以降であれば、こちらとしてはいつでも問題ありませんでした。この場が人目につかないから――それが私達を呼んだ理由でしょう」
「リステはよく分かっていますね」
「んん? ゼオを、回復させたから?」
それと女神様達が賭けに出ることと、いったいどう繋がるのか。
答えが分からず首を捻っていると、リステがやや重たそうに口を開きながら説明を続けてくれる。
「詳しいことは間違いなく禁忌に抵触することですので……。ただロキ君がこの世界に存在すること自体が、フェルザ様の定めたルールからは反するはずなのです」
「リステ、ちょっと違う。まだ可能性が高いだけ」
「あー……『魔人』に関係することか」
何かしらの理由があって、魔人という種が世界から消えたわけじゃないけど、姿を消してしまったのは『本当』の話。
でも眷属という強制的な種族変更で取り残されてしまったゼオを、なぜか俺は回復できてしまったことで魔人の可能性が濃厚になってきている。
ここまでは俺自身も概ね分かっていたことで、いないはずの
魔人
が自由に動き回っていることは、フェルザ様という上位神の定めたルールに反する。
それは理解できたが――
「それがなぜ、女神様達の賭けに?」
当然この疑問に辿り着いてしまう。
「リアから聞いています。ロキ君はフェルザ様から選ばれた、神使の可能性が高いと」
「あぁ、神使って言うと大げさだけど、俺のこの能力を理解して連れてきたことは間違いないと思うよ」
「そしてなぜか途中で魔力が――つまり種族が変化した。これもフェルザ様に何かしらの意図があってされたことだろうと、私達はそう思っているのです」
「へ? 犯人フェルザ様なの?」
「血の濃さに違いはあれど、生まれた時点で人間ならば人間、獣人であれば獣人と種が決まりますからね~。途中で変化するとすれば3通りで、吸血人種特有の眷属化と【死霊術】によるアンデッド化、そして魔石や魔物の血肉を食すことで極稀れに発生する魔落ちしか存在しないはずなのです~。最後は限りなく薄まった血の活性化が原因なはずですから、この世界の血脈を継いでいないロキ君には無縁のはずなんですよ~」
「つまり俺が魔人に途中変化するルートは存在しないってことか……」
「あり得ないし、私達でも途中の種族変更なんて無理」
「なのでこの世界の創造主であるフェルザ様が、何か目的があってされたとしか思えないのです」
「だから皆で相談して賭けに出たんだ! フェルザ様が定めたルールに穴を開けてでもこの世界を変えようとしているなら、私達もってね!」
「フェルザ様から返答がない以上、まず大丈夫だろうと解釈できる部分くらいしかまだ踏み込めませんけどね」
「なるほどね……って、んん? 6人同時に降りられることが分かって、世界がどう良くなるんだ?」
魔人がこの世界から消えたのは、魔道王国プリムスが神罰で消えたあとだから1万年くらい前の話だ。
となればやっぱり必要と感じて復活させるというのも、地図がこのパターンを辿っているのだからあり得なくはない。
フェルザ様に何かされたなんて実感はまるでないけど、途中の変更ルートが無いならばそういうことなのだろう。
だがしかし、やっぱり疑問は残るのだ。
危うくフェリンの言葉で納得しかけたが、3人同時だろうが6人同時だろうが、女神様達が降りて世界が良くなるとは思えない。
結局下界の人達と接するわけでもないし―――あっ。
もしかして、そういうこと?
「上から眺めるだけでは何も分かりません。そして、分からないことが『罪』だということも、先日ご報告頂いた転生者の一件で思い知りました。なのでこれより活動の幅を大きく増やし、直接見聞を広めていこうと考えています」
「お、おぉ……ってことは、フェリンの旅に出るって案も通ったの?」
「うん! ロキ君が東を旅するって聞いてるから、私は西を調べてくるよ!」
「私は北を調べます」
「えぇ!?」
なんと。
フェリンだけでなく、リステまで旅に出るとは……
その後も詳しく聞けば、既に役割分担は決めていたようで。
フェリン・・・大陸西方面の情勢調査担当
リステ・・・大陸北方面の情勢調査担当
俺・・・狩りをしながらついでに大陸東方面の情勢調査担当(マヨネーズとソース探し)
リル・・・パルメラ内部の転移者調査兼、秘密基地の治安維持担当
フィーリル・・・大陸全土の古代人種含む亜人生息分布調査担当
リア・・・神界担当兼、不穏分子の調査、監視担当
アリシア・・・神界担当兼、秘密基地管理人
まだ暫定的な内容のようだが、このような方針でいくらしく、身入りの【分体】が世界を良くするために動いていく。
こんな発表を目の前でされてしまい、俺は思わず目頭がジーンと熱くなってしまった。
どうしたのこの人達、めっちゃ頑張る気満々じゃん。
これならたしかに、ちょっとルール的にはグレーでも認めてくれそうなくらい、世界の為になるような気がしてくる。
女神様達に不足していたのは下界の知識や世情。
干渉を避けるために直接手を加えるようなことはしないみたいだけど、情報を掴んでいれば先んじて何かしらの手が打てる可能性だって出てくるだろう。
無理難題じゃなければ、俺も多少は手伝えるかもしれないし。
でもアリシアの秘密基地管理人とはいったいなんだろうか?
疑問をそのまま口にすれば、ここでやっと自分がしていた質問を思い返す。
「私だけは外へ調査に行けませんので、この場所が荒らされないよう管理しつつ、ロキ君の仲間であるお二人との繋ぎ役になろうかと思っています。さすがに一切顔合わせすらしないのでは不自然でしょうから。それにいつか機会があれば、貴重な過去のお話を直接伺いたいですしね」
「あーそっか……」
そう考えると古代人のあの二人が転生者じゃないことは確定なので、アリシアが気にする必要もなくなるわけか。
それに同様のケースが他になければ、あの二人は最古の人種である可能性が高いわけで……戦争による文明衰退を防ぎたいなら、当事者であるあの二人ほど参考になる意見は他にないだろう。
敢えて記憶を覗いたりせずに直接聞くというのは……俺の仲間だからという配慮からなのかな。
となると、一番の懸念材料はやっぱりこれか?
「スキルは大丈夫? カルラは分からないけど、ゼオなら【心眼】くらい持ってそうだし、アリシアだけじゃなく他の皆もずっと【隠蔽】のままいくんでしょ? それで外の調査って大丈夫なの?」
俺がゼオとカルラをここに連れてくるべきか、一番悩んでいた問題だ。
人の目を気にせず好きなスキルを持ち込める場所のはずが、ここでも人の目を気にする必要が出てきてしまう。
おまけに覗かれたら一発アウトだろう。
高レベルのスキル1種だけ――マルタにいた監査院のニローさんやファンメラさんのように、普通じゃないことだけはすぐにバレてしまう。
が、しかし、今回は皆が余裕というか――なぜか俺に手の甲を見せ、フェリンなんかはビックリするくらいニヤニヤしていた。
「んん?……指輪?」
「私達も【分体】のスキルが覗かれた件で学びましたから」
「【隠蔽】レベル10の【付与】が付いた指輪を作った」
「これで誰にも覗かれる心配ないよね!」
「ふぉ……?」
何を、言ってるんだ?
思わず【鑑定】を使うも、その指輪の情報は何一つ視界内に表示されない。
「せ、性能が見られない……」
「【鑑定】ですか? 装備した段階でその者の一部と判断されるはずですから……リガル、そうですよね?」
「その、はずだ。【隠蔽】の、効果は、既に、発動している」
「ですので、この指輪を地面にでも置けばスキルレベル次第で見られると思いますよ? 神界産ですから、絶対にそんなことはできませんが」
「……」
なんかゲーム内で出会った
GM
を思い出してしまった。
つーか、こんな【付与】の付け方もありだったのかよ!?
凄い理不尽なナニカを見た気がするけど……
ま、まぁこんなモノを用意してまで皆がやる気になっているのだ。
たぶんこの世界始まって以来の快挙だろうし、女神様達がグングン成長していることに感動が止まらない。
「そんなに忙しくなるなら、この秘密基地はアリシア専用の場所になりそうだね」
そうボソリと呟けば、皆が口を揃えて夕方になったら仕事は終わりとかナメたことを抜かしてたけど、きっとそれは俺が耳掃除を怠っているからだろう。
少なくとも、今までよりやる気になっていることは事実なのだ。
ならば俺があーだこーだとチャチャを入れてやる気を削ぐべきではない。
今俺が気にしなければいけないのは――
「それじゃ方向性も定まったことだし、そこら中に木はあるからとりあえず家作ろっか。誰かパパッと作れる人いる?」
「?」
「残念ながら専門外ですね」
「私は、具合が、悪いのだ」
「家ってどうやって作るんだろうね?」
「ここにお布団敷いても寝られるんじゃないですか~?」
「うふっ? うふふふっ?」
(ブン、ブン)
「……リアは、さっきから手を振ってるけど何やってるの?」
「家が、でない」
「「「「「「……」」」」」」
それは神様なのに家を作れる人が誰もいないという、その事実についてだった。