Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (258)
255話 素材換金
目の前にはズラりと並べられた各種魔物の素材。
それらを一つ一つゼオに見せ、【鑑定】の結果を教えてもらっては手帳にメモしていく。
「このデカい牙は?」
「ギリメカラの牙だ」
「この青い翼は?」
「アイスホークの羽根、らしい」
「この毒々しい尻尾は?」
「これはマンティコアの毒尾だな」
「あ、やっぱりマンティコアなのね」
いったいなぜこんなことをやっているのか。
それは現代人の感覚を持ったまま、何も考えずに素材を換金をしにいった俺が一度やらかし、泣いて帰ってきたからである。
ネットが無いこの世界の現実を突きつけられてたと言ってもいい。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
収納のロストを防ぐため、回収した素材は拠点へ戻るたび一度外に放出していた。
なんせ俺達と神様しかいない場所、盗難とか余計な心配をする必要もない。
皮がフサフサして使えそうなやつは丸々そのまま、象とかデカいやつは素材になりそうな部位や魔石だけと、多少は無駄が省けるように考慮していたつもりだったが……
えっちらおっちらと、収納で魔力消費が目立つようになってきたら拠点に帰還というのを1日何十回も、そして10日間以上やり続けていたら、そりゃ拠点は魔物の死体だらけになるわけで。
カルラは血の池が作れるよ~とか危ないこと言いながら狂ったように解体していたけど、さすがに上台地にお裾分けしようが消費できる肉の量でもないし、素材は消化されることなく溜まり続けていくわけだし。
「いい加減、金に換えろ」
このようにゼオ師匠からお叱りを受け、意を決した俺はゴリゴリ魔力が減っていくほどの量を収納して久しぶりに町へと転移したわけだ。
ちなみにその時の移動場所は、換金したお金を預けられるからという理由で王都ファルメンタだった。
さすが周囲にFランクしかないギルドだよね。
解体場にいたのは腰の曲がった爺さん一人だし、寂れているというよりは、ほとんど解体場が稼働していないような雰囲気を感じてしまう。
俺はここじゃ難しいかなと内心思いながら、奥で一人黙々と書き物をしていたその爺さんに向かって尋ねた。
「あのー、この魔石は買い取れますか?」
手には拳より一回り小さい
大
粒
の
魔
石
だ。
爺さんの眉がピクリと動き、焦ったように「この付近で採れた魔石か?」と問われたので、当然のように「違う」と答える。
あそこが近いなんてことはまったくない。
すると爺さんはホッとしたのだろう。
俺にギルドカードの提示を求め、シゲシゲと眺めたのちに確認してきた。
「この魔石はどの魔物から得たのじゃ?」
……いやいや、知らんし。俺が聞きたいくらいだし。
その後は誰もいないのをいいことにあれこれ聞いてみたところ、管轄と言うか、付近に生息していない狩場の魔物素材でも買い取れることは買い取れるが、いくらで買えばいいかが分からないため換金までに時間がかかるとのこと。
しかも見慣れない素材であれば、<鑑定士>なる専門の人間を呼ぶことになるので、高ランク素材ほど換金にお金がかかることを教えてもらった。
魔物の名前を把握していれば、鑑定結果との照らし合わせで素材の信用度が高いと判断されるため、1個ずつ調べるなんて手間を掛けなくて済む分、手数料が大きく変わってくるらしい。
ちなみに俺が【鑑定】を使っても『魔石』ということしか分からない。
そのことも突っ込めば、物の多くは『等級』というものが存在し、特に魔物なんかはその等級の影響を大きく受けるらしい。
つまりはBやAといった『ランク』ということになるわけだが、その等級と【鑑定】のスキルレベルは密接に関係しているため、高ランク素材ほど高レベルの【鑑定】も必要となり、だからお金がかかるという話だった。
俺であれば【鑑定】レベルは2なので、10等級――Gランクと、9等級――Fランクのモノしかまともに鑑定できないってわけだな。
いやー我ながらしょっぱいわ。
おまけに【鑑定】のレベル次第で、仮に等級をクリアしていても見通せる内容が変わってくることは把握しているので、やっぱり奥が深いというか、高レベルじゃないとあまり使い物にならない気もしてくる。
まぁこの爺さん曰く、世の大半は8―10等級のモノばかりだし、そもそも普通に生活していく中で等級を気にするような場面はあまりないらしい。
普段から気にするのは、嗜好品やら調度品なんかに金を掛ける貴族や王族くらいだと笑いながら言っていたので、たしかにそう言われればその通りだなと思ってしまった。
普通に使えれば、机や椅子が何等級だなんてどうでもいいしな。
「ちなみに魔物一体を丸々持ってきちゃってもいいんですか?」
このように挑発的とも受け取られかねない大真面目な質問をすれば、「ほほっ」と肩を揺らしながら持っていた杖を上空に向け、円を描くようにクルクル回して元の位置へと戻っていく爺さん。
なんか挑発し返された気もしなくもないが……
気になってスキルを使えば、どういうわけかこの爺さんかなり強そうなので、解体できませんってパターンはまず大丈夫そうな気がする。
そんなわけで、せっかく王都に行ったものの換金作業は一旦取り止め。
クソほど素材があるのに1個1個鑑定なんて掛けられたら勿体ないと、王都付近の地中に素材を全部埋めて翌日戻ってきたのである。
それでも地中に埋めていた盗賊絡みの戦利品をいくつか回収できたし、皆から出ていた欲しい物リストをある程度買ったり捕まえることもできたし。
どうせ一往復で済む素材量じゃないので、これはこれで無駄にはならなかったはずだ。
そしてこれから、通常キャパの何倍か不明なほどの素材を詰め込んだ状態で、俺は再度旅立つ。
魔力消費量を考えれば時間との勝負。
収納すれば最初に魔力消費の判定が入り、その後は”毎分”という判定で収納量に応じた魔力が減少していく。
ならば収納――転移――即取り出しのコンボを素早く行えば、魔力がパンクしての資産ロストという事態は防げるはずなのだ。
相当な額になるはずなので、緊張で手が汗ばむ。
「……さぁ、いくぜ」
ゼオとカルラが見守る中、視界に広がる魔物の素材や死体を見据え、俺は拠点に残る全てを回収する勢いで収納を開始した。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
カラカラと。
大きめの荷車を引き、俺は解体場に続く裏口からヒョッコリ顔を出す。
まだ朝のこの時間。
ハンターなんていても籠を持っていくくらいで、こないだ色々教えてくれていた爺さんが一人、カウンターや床を掃除していた。
奥を見れば……ふむ。
やはり前日の素材が残っているなんてこともない。
広さは似たようなモノなのに、マルタなんかと違ってずいぶんスッキリしていらっしゃる。
「お爺さん、素材持ってきましたよ」
「ほぉ、こないだの。魔物の名前を確認してくるなんて言うとったが……分かったのか?」
「全部バッチリです。なのでいっぱい持ってきたんですけど、運んじゃって大丈夫ですか?」
そう伝えれば、杖の先でチョイチョイッと、まるでどこぞのばあさんのように誘導される。
ならば遠慮なくいっちゃいましょう。
ドン、ドン、ドン、ドンッと、次から次へと素材をカウンターに移動させれば、爺さんはヒョイヒョイと分別しながら奥の作業台へと置いていく。
想像以上に身軽だ。
やっぱりこの爺さん、普通じゃない。
「これがAランク魔物『カトブレパス』の目と皮です」
「ふむ」
「で、こちらがAランク魔物『フンババ』って魔物の角ですね。何が素材になるか分からないので、6本セットの頭部をそのまま持ってきました。あとこれはAランク魔物『キュウキ』です。丸ごとで魔石も抜いていません」
「ほう」
「あとはBランク魔物『ユニコーン』の角と、こっちがAランク魔物『ギリメカラ』の牙です」
「たしかに」
「ん……? えーと、これ『マンティコア』の毒尾、ですね」
「そうじゃな」
「……あの? もしかして、今【鑑定】してます?」
なんかこの爺さん、さっきからおかしい。
素材を見せれば、まるで分かったように頷いている。
もしや爺さんが<鑑定士>ってオチ?
「違うわい。昔倒したことあるやつが混ざっとるなーと思うての」
「あ――……そういうことですか。って、少なくともAランクハンターってことですよね?」
「昔はじゃぞ? とうに現役なぞ引退しとる」
「いや、そうだとしても、なんでこんなところに――」
言いながら、自らの失言に気付く。
久々にやらかした……
そう思うも、既に言ってしまった後でどうにかなるものではない。
その焦りが顔に出てしまっていたんだと思うが、爺さんは俺の顔を見て肩を揺らしながらクツクツと笑い始めた。
「何を勘違いしとるんじゃ。どこの国でも、王都を任されるというのは名誉なことじゃぞ?」
「え……いやでも、ここの解体場って、かなり暇じゃありません? 近くにまともな狩場もありませんし、お爺さんもここで一人ですし」
「たしかに、解体場は暇じゃな。だから儂がここを兼任しつつ仕事場にもしておる」
「ん? ……うん。ん……?」
「ワシの知らぬ魔物まで混ざっとるとは、ニーヴァルのばばあが可愛がってるだけあるわい。ホレ、いいからどんどん持ってこい。まだあるんじゃろ?」
「え? あ、はい」
んんん???
兼任ってことは、解体場以外にも仕事があって、王都を任されてて――
おやおや?
これはもしや、爺さんってば王都ファルメンタのギルマスなのでは……?
しかも任されるというくらいだから、もう一つ王都にあるはずのハンターギルドも含めてトップな可能性もある。
おまけにばあさんとの繋がりまで把握しているということは、余裕で俺が異世界人であることも把握済みだろう。
だから、どこの狩場で狩った魔物なのか、詳しいことは一度も聞かれなかったのか?
絶対に聞かれると思ってどう躱すかの答えも用意していたのに、これでは逆に違和感を覚えてしまう。
異世界人ならなんでもありだと思っているのか、それともまさか、【空間魔法】のことまでもう知られているのか……
俺が転移で王都近郊の素材置き場に戻り、荷車に詰めて戻れば、解体場はその度に人が増えていった。
デカい素材はどんどん別の場所に運ばれ、素材の数をカウントする専用のお姉さんまで登場し、木板の印だけがどんどん増えていく。
背後では魔石を分別している人もおり、渡せば渡した分だけ籠や木箱に放り込まれていった。
その光景を、爺さんは「ほほほっ」と、肩を揺らしながら眺めているだけ。
でも現場は円滑に進み、素材置き場の素材がみるみるうちになくなっていく。
そして一通り放出し終えた頃。
解体場は入った時と同じ綺麗なままで、既に爺さんはカウンターを小奇麗な布で拭いていた。
「素晴らしい素材数じゃな。さすが今一番の有望株じゃ」
「……どこで、狩ったとか、どうやって持ってきたとか、そういうのは聞かないんですか?」
「なぜ、聞く必要がある?」
「……」
「儂らの仕事は地域に根付き、民の生活を豊かにすることじゃ。このクラスの魔物が突如として王都付近に出没したとなれば根掘り葉掘り聞くが……そうではないんじゃろ?」
「え、えぇ」
「ならばどこで狩ろうが関係ないわい。この素材で誰かが生かされ、様々なモノが生まれ、民の腹も満たされる。加えて少年も、ギルドだって潤うんじゃから、皆ハッピーってなもんじゃろ?」
「ハ、ハッピー……でもまぁ、たしかにそうですね」
「だからまた持ってきてええぞ? 次からは鑑定費用もなく、同じ素材なら買取費用もはっきりしとるじゃろ。必要なら時間はかかるが、需要のある素材部位をコチラで調べることもできるしの」
「お、おぉ……じゃあそれぞれの魔物の素材対象部位はお願いしてもいいですか? 分かれば次からは考慮して持ち込みますから」
その後、爺さんが知っていた魔物の素材部位はその場で教えてもらい、報酬は割り出しが完了したら預けておくということで、二枚の同じ内容が記載された木板のうち一枚を渡される。
特殊なケースなので、これが素材の預かり証代わりということになるのだろう。
うーん、果たしていくらになるのか、まったく想像もできないな。
まぁこれで気兼ねなく拠点周辺の素材をここへ持ち込めるようになったので、ギルドの預け機能を王都から動かしにくいというデメリットは抱えるけど、金銭収入はこれで安定するようになるだろう。
最後に。
「お爺さんはファルメンタのギルマスなんですか?」
こう問えば、「ほほっ」と肩を揺らしながらこう応えてくれた。
「儂はラグリース王国の
統括
マスター、オルグじゃ。よろしくの、ロキ君」
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