Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (265)
261話 ドワーフの町
(おっほっほー!)
屋根から見える大通りは、ドワーフ率が今のところ50%!
小さいおっさんやおばさんがそこら中を歩いており、俺もその場に混ざって歩けば、なんだか自分がちょびっとだけ大きくなったような気さえしてくる。
大通り沿いには今まで見たことのない、トンカチマークが描かれた木の看板や、インゴットのようなマークが描かれた立て看板もあり、なんというかこのファンタジー感がもうたまらない。
降り立ったのは商業ギルドだったので、まずはウロウロと周囲を散策しつつ目的の場所を探せば、すぐに見えてくるのは今までで一番デカいと感じるハンターギルド。
3階建てで高さは変わらないが横に大きく、多くが狩りに出ている日中の時間帯だというのに中の喧騒が外まで聞こえていた。
(この活気、いいっすなぁ~)
ローエンフォートでは嫌な思い出になってしまったが、中に入ればあそこと同じような光景だ。
パーティ募集や打ち合わせのようなことをやっている人達が多く、そんな光景を横目に見ながら、俺はスタスタと資料室に向かって恒例の魔物情報を読み漁っていく。
――《クオイツ竜葬山地》――
長大な北部エイブラウム山脈の山間に存在する広大な竜の巣。
狩場構成は地上と地下という2階層に分かれており、地上では上空を舞う亜竜ワイバーンと飛行型のウィングドラゴンが。
地下では水陸を自由に移動する小竜クエレブレ、地下空洞の穴から水中へと引きずり込む蛇型のミズチが出現する。
上空と地下では求められる装備や編成がまったく異なる上、地下で比較的安全に狩れる狩場はかなり限られてくるので、基本は地上での狩りが推奨。
対空攻撃手段が無く、また素材価値を求めて地下に行く場合は、万が一に備えて光源やロープなどの緊急脱出用具も必須になる。
なるほどなるほど……
想像していた狩場とはだいぶ印象が違う。
山地というくらいだから、当初はこの説明で言う『地上』だけかと思っていたけど、まさか『地下』も存在する二層構造とは。
それにこの文章を読む限りでは『地下』の方が難易度は高く、そのまま素材価値も高いように思えてくる。
そしてボスなどの特殊な魔物情報は無しと。
Aランクにしては説明が些か簡素だなと感じるが、資料本は作成者によって情報の質が異なることは経験から分かっている。
(グロムさんがここにいたら話も聞けたんだけどなぁ……)
ロビーを見渡しても彼の姿は見当たらない。
そう都合良くいくものでもないので、ならば詳しい話は受付に聞くしかないと、一番情報を持っていそうなおばちゃんのところへ突撃した。
「こんにちは~《クオイツ竜葬山地》について聞きたいんですけど~」
「その装備だとローエンフォートから来たのね。何が聞きたいの?」
んーやっぱり良いね。
まともな装備を身に着け、顔も半分フェイスアーマーで隠していると、背丈の低さと年齢で舐められる可能性が激減する。
「今資料室で勉強してきまして、ここの狩場は地上より地下の方が難易度高いんですか?」
「難易度……そうね、難易度とも言えるわね。魔物の強さで言えば大きな差はないはずだけど、『死亡率』が全然違うって言ったら分かりやすいかしら?」
「ん? んー意味は分かりますが、それは地形の問題でってことですかね?」
「そういうことね。地下は一言でいえば『奈落の底』なのよ。クエレブレに一度谷へ落とされれば大半は這い上がれない。水場ならまだ落ちても死にはしないけど、それでもミズチという魔物がすぐに地底深くへと引きずり込もうとするから、絡めとられてやっぱり簡単には戻ってこられない。加えて内部は光も通さない場所が多いし、足場もかなり悪いと聞くわ」
竜葬山地だから竜の墓場かと思っていたが――人が死んでも遺体が上がらず、そのまま墓場になるような場所という意味もあるのか。
グロムさんの言っていた《《狩って狩られて》》っていうのが、嫌でもしっくりきてしまうな。
「……そんな地下で、好んで狩ったりする人なんているんです?」
「今はもう、内部までいく人なんてまずいないわねぇ。だから地下でも限られた比較的安全な地帯は順番待ちになりやすいの。供給が足りていなくて素材価値は高いからね」
「ほっほー」
そのまま詳しい素材価値や素材部位まで確認していくと、この狩場はバラさず丸ごと死体を持ち帰るのが基本らしい。
魔石や皮、牙に爪などはもちろん、肉もミズチだけは多少質が落ちるみたいだけど、どの素材も上質で需要が高い。
加えて骨や血まで高値で取引されるらしく、おばちゃんに現場での解体は可能な限り非推奨とはっきり言われてしまった。
でも資料本には大きさも書いてあったのだ。
一番小さそうなミズチでも体長3メートル、普通に考えたら大きいクエレブレやワイバーンだと5メートルくらいにもなるという。
となれば俺は良いとしても、他の人達はいったいどうやって持って帰んのよ?
当たり前に感じる疑問を問えば、ここのハンター達はどうやら籠ではなく、大型の荷車を活用しているとおばちゃんは教えてくれた。
倒した魔物を3体くらい積み込み、Aランクハンター達の筋力で押しながら帰ってくる。
もしくは力自慢だけど、死のリスクは極力避けたい荷運び専門の人達なんかもいるらしく、これも狩場が山にあり、帰りが下り坂だからできることと言われると、思わず納得してしまった。
まぁそれでも重さや積み荷調整などの理由で、結局何部位かに分けてしまうことも往々にしてあるみたいだけどね。
「ちなみに、ここはレアな魔物とかボスはいないんですか?」
言った後に、レアじゃさすがに伝わらないか? ってちょっと焦ったけど、しっかり【異言語理解】が仕事をしてくれていたらしい。
「珍しい魔物っていうのは聞いたことがないけど、ボスは地下の奥地にいるわよ? ただ最後に倒されたのは――どのくらい前だったかしら。もう10年以上前なのは間違いないわね」
「へぇ、いるんだ……」
話を聞く限り、隠しではなく表の通常ボスだ。
しかしあまりにも討伐率が低く、しかも失敗時の生還者がいないため、危険過ぎると判断してハンターギルド側が情報の公開を取り止めてしまったらしい。
おばちゃんも『
窒
息
さ
せ
ら
れ
る
』という、先人からの恐ろしい言葉を聞いたことがあるくらいで詳しい情報は知らず。
となればもう、これは倒すとなると命懸け。
いやまぁ他のボスでもそうなんだけど、余計にそう思えて”心が滾ってしまう”のは、やっぱり俺が大馬鹿野郎だからなんだろうな。
狩場情報は一通り聞けたので、ついでにオルグさんからの紹介状を渡して実績がしっかり反映されるようにしておく。
あとはAランクへの昇格を認めてもらうまで、素材をひたすら卸すのみだ。
そう意気込み、どうせ今は受けられない依頼ボードを一瞥したのち、お次の目的である鍛冶屋さんへ向かった。