Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (269)
265話 トレジャーハンター
想像以上に、深い。
もちろん場所によって違いはあるものの、拠点にある台地の高低差以上に落ちていることは確実であり、それは200~300メートル程度では済まない深さということ。
もし【飛行】が無ければ絶対に登ってこれないだろう奈落に、恐怖を感じながらも期待は高まってしまう。
落ちれば死体はまず回収できないのだ。
ならば間違いなく、何かは底にある。
『割れぬ、光玉よ、飛べ』
生成した4つの玉を下方に飛ばせば、まるでスーパーボールのように岩壁を弾みながら先々まで照らしてくれる。
これはゼオに教えてもらった魔法の使い方だ。
何があっても割れないというほどのモノじゃないだろうけど、こういう時は内部構造が把握しやすく使い勝手が良い。
弾かれながら落ちるボールは、どれも似たような方向へ転がっていく。
その間も見落としが無いよう、俺は念入りに【探査】を掛けながら降りていった。
そして、約10分後。
いったいどれほど降りたか分からない谷の底は、たしかに存在していた。
特別な広場があるわけでも、隠し通路のようなモノがあるわけでもない。
両側を岩壁に挟まれ、普通のコウモリが飛び交う本当の谷の底。
そして目的のモノはない代わりに、落ちたら存在するはずの人骨すら見当たらなかった。
ならばまだ結論は出ていない。
長年この付近には落ちていないという、それだけのこと。
(さっきハンター達の声が聞こえたのは……あっちか)
方角を意識しながら谷の底を移動する。
そして【探査】で小まめに調査物を変更していた時、とうとう反応を拾った。
魔物は今のところ見当たらないが、何があるかは分からない。
慎重に谷の内部を移動していけば、
(おぉ……)
見つけたのは、光で白く照らされた骨。
たぶん……この辺りから上が落ちるポイントになってくるのだろう。
そこから先は人骨の数が増え、かなり先には積み重なっているように見える地帯もある。
そして――少し先に、目的のモノを発見した。
素材は【鑑定】のレベルが低すぎて俺には分からない。
でもそれはたしかに鉱物で作られた武器だった。
錆もなく綺麗なもので、白骨化した上に砕けたモノも多い遺体とのギャップは現実感を失くさせる。
そんな武器を少し眺め、
「ありがたく、使わせていただきます」
俺は収納した。
ここで無駄な感傷に浸り、死者の装備を持っていくことに禁忌感を覚えたりなんてしない。
そんな地球っぽい感覚はもう捨てたし、そんなことをしたところで結局誰も得はしないのだ。
ならばしっかりお礼を言い、眠り続ける予定だったお宝を
根
こ
そ
ぎ
頂いていく。
その代わり、魔物にやられて落とされたんであれば、俺がその100倍くらい
敵
を取ればいいだろう。
落ちているモノは崖の途中に引っ掛かっていたり、骨の中に埋もれていたりと様々だ。
武器だけではなく、変色した装飾品や見たことのない硬貨なんかも多く落ちている。
ただレザーの防具は全滅だな。
原形を留めておらず、岩と一体化してしまっているように見えるモノも多い。
まぁレザーはいくらでも採れるというか、Sランク相当とかでもない限りは希少でもないので、そのまま放っておいても問題ないだろう。
目ぼしい落下物を片っ端から収納していき、終わったらまた魔物を狩りながら別の谷へ。
どうせやるなら全て回収するつもりだが、あまりの量に一旦は回収物を整理しようと、まずはロズベリアの解体場へと向かった。
「こんちは~」
「アヒッ!?」
俺の顔を見てビビる解体場のお兄さん。
昨日はもっと人がいたのに、今日はカウンターにこのお兄さん一人である。
「あれ? 今日はお一人ですか?」
「み、みんな昨日からあなたのおかげで徹夜ですよ徹夜! 素材が片付かなくて倉庫から出られません!」
「おぉ~いいじゃないですか。これはだいぶギルドも儲かりますね」
お兄さんは顔が引き攣ってるけど、実際仕事なんてそんなもんだろう。
「もしかして、今日も、ですか……?」
「もちろん! でも今日は地下の方の2種ですよ。しかも昨日ほどの量じゃありません」
「ほんとに……?」
「ほんとに」
「……じゃあまた、倉庫に”
直
接
“お願いします」
昨日気付いたことだが、妙にこの町のハンターギルドは大きいなと思っていたら、半分は素材倉庫になっていた。
大きい魔物が存在する狩場の管轄ギルドだと、このような倉庫を抱えた作りになっているところは多いらしい。
そりゃ5メートル級の魔物が次々運び込まれたら、あっという間に解体場の作業スペースなんてパンクしちゃうもんね。
裏の倉庫にトコトコと向かい、体育館よりも大きいくらいのスペースに目を向ければ――んん??
明らかに昨日より人が増えているけど、バイトでも雇ったのかな?
10人くらいの人達が一心不乱に解体作業をしており、空いたところへ新たに50体くらいの魔物を放出していけば、先ほどのお兄さんは青ざめながらすぐに魔物の数を数え始めていた。
あースッキリスッキリ。
やっぱり開き直って堂々とやるってのは最高だ。
時間を無駄にしないのが何よりも良い。
なんか作業に入っている人が悲鳴と共に絶望的な表情を浮かべているけど、正直こんなものはまだまだ序の口。
谷の宝探しが終わったらもっと本格的になるので、いちいちこの程度でへこたれないでほしい。
まぁそれでも、
「一応確認しますが、大丈夫そうですか?」
そう問えば、ゲッソリしながら、それでも弱々しく頷いてくれる。
ならば、彼らの”
パ
ン
ク
“はまだ先だろう。
その後は報酬をギルド預けにしてから、すぐにロッジさんの下へ。
奥の長机で何かやっていたけど、ドアが鳴らす音ですぐこちらに気付いたらしい。
「なんだ早いな。やっぱり無理でしたって報告か?」
そう言いながらも、ソワソワとした落ち着かないご様子。
なんせロッジさんは俺が飛べることを知っているからな。
ならばたしかに可能だと、俺の提案を聞いてそう思っているはずなのだ。
だから俺は焦らさず、カウンターに1本の斧を置いた。
ミスリルは武器に使っているけど芯材で直接見えず、ダマスカスは過去に指輪の中に埋め込まれていた小さい針と、今日暗がりの中で見たグロムさんの新調された剣くらい。
素人の俺が金属を見たところで素材判別なんてできないし、それなら直接プロに見てもらった方が手っ取り早いだろう。
「これはどうです?」
あっさりした俺の問い。
それを『俺が自信がある』と受け取ったのか。
「……ロキ、残念だがこりゃミスリルだ。純度はかなり高そうな上物だがな」
悪くはないと言いながらも、あからさまに落胆するロッジさん。
なので俺はすぐに次を出す。
「じゃあ、これは?」
「え?」
「これは、どっちです?」
「こ、これもミスリルだが……何本かあるのか?」
あぁ、そうか。
ロッジさんは俺が空を飛べることは知っていても、【空間魔法】で収納していることは知らない。
だから大荷物を背負いこんだわけでもない俺を見て、そんなに判別するほどのモノがないと思っていたわけか。
ならば、言おう。
この人には今後も装備で色々お世話になりたいのだ。
もう開き直ると決めているわけだし、信用を得るためにはまず自分から。
そう思って答えた。
「本数とかは分かりませんけど、たぶんこのお店5個分くらいの装備を『
収
納
』しています」