Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (286)
282話 俺は俺らしく
あれだけ巨大だったガルグイユが綺麗に片付き、今はタプタプの血の池プールのみを残した拠点の解体場。
その近くで寝そべり、ペットの豚と一緒に空を見上げていたカルラにお仕事を頼む。
「ヘイ! 素材持ってきたよ!」
「おー? 次はなに~?」
「今回はデカい猫だね」
そう言ってドバドバドバ~っと収納している死体を吐き出せば、目を丸くしながらも猫の死体をサワサワ。
「これ良いね~触ってて凄く気持ちいいよ。もしかして、上のアノ人も喜ぶやつじゃない?」
「いやいや、アーシアは死んだ猫に興味無いと思うけど……でも服は作ろうとしてるっぽいからなぁ。渡しておけば、そのうち俺達の服を作ってくれるかもね」
「おぉ~! なら解体しておくから今度お願いしといてよー!」
「オッケ~」
豚に今日初めて見かけたサツマイモっぽいのをあげたら、お次は資材倉庫へ。
中央には巨大なガルグイユの皮が干されており、その他にも骨やら牙やら、とりあえず硬そうなモノが一角で山積みになっていた。
それらの素材を横目に見ながら、ゼオに作ってもらった木箱にジャラジャラと、今日のゴブリンファイターからゲットした魔石を放出していく。
ここの拠点は光源用魔道具が色んなところに設置されているからね。
まったく消費量と回収量が見合ってないけど、いざという時用のストックがあるに越したことはない。
あとはー……
相変わらず棚作りが止まらない整頓好きなゼオと、ガルグイユの素材を見て唸っているロッジに声を掛ける。
「ただいま~お土産だよー」
「む? それは」
「色が毒々しいな!」
「キノコの魔物。こんな色でも焼いたら美味しいんだよ? お酒のおつまみにもなりそうだけど、もしかしてゼオは知ってたヤツ?」
「うむ。森によくいる魔物だった。たしかにソイツは、酒の肴にしていたな」
「どれどれ。んじゃ早速炙ってみっか」
最近ゼオもロッジのお酒貰ってよく飲んでるからなぁ。
見た目がオヤジの二人にはちょうど良いお土産だろう。
「あとDランクだけど、黒い猫の魔物を大量に狩ってきたから、素材欲しかったらカルラに言っといてね。今あっちで解体してるからさ」
「おう分かった。まぁDランクなら、木箱1個分くらいの素材ストックでもあれば十分だろ。それよりロキ、コイツはどうする?」
そう言われながら指で差された先は、もちろんガルグイユの素材で。
当然とばかりに考えていた言葉を口にする。
「まぁ、鎧はとりあえず欲しいよね。フルのレザーアーマーでカッコ良いヤツ! ちなみに、この素材はロッジの今の力量で扱える代物?」
「どうだろうな……解体ん時に触った感じだと、皮が思いのほか切れた感触はある。だからコイツはSランクの上位素材だと思うが、これは予測でしかない」
「我の【鑑定】でも判別できるのは4等級であるAランク相当までだ。SかSSかは分からん」
「だよね~。まぁお金の調達はだいぶ目途も立ってきたし、ボス素材を無理に現金化する必要なんてないから、バンバン練習しちゃっていいよ? 上手くいったらみんなの分も作っちゃえばいいし」
「へへっ、そうこなくっちゃな!」
ロッジも希少素材であることが分かっているから、一応了解を得られるまで我慢していたんだろう。
ここからはどれだけ上位素材に触れ、加工し、実績を積めるかだ。
勿体ないなんて言っていたら、いつまで経っても素材のポテンシャルは活かしきれない。
せっかく【鍛冶】スキルを合算10まで引き上げたのだから、できればSSSランクの素材まで扱えるようになってほしい。
そうすれば――たぶん、バルクールにいるSS素材を扱えるっぽいドワーフを見返すことだってできるはず。
まぁロッジがそんなこと望んでいないかもしれないし、俺の仲間の方が凄いんだぞっていう、ただの自己満足でしかないけどね。
『収納』がスッキリしたら、お次は上台地へ。
聞けばそろそろ皆が降りてくる時間帯とのことなので、寄ってくる猫に小さいお肉をあげつつ、竈の前でフライパンを振ってるアリシアを眺める。
結局フェリンが作っていたレンガはこんなところでも役立っているようで、下台地には今のところ無い技術だ。
「料理してる期間が結構長いね~気に入った?」
「記憶から知識が多く得られることもあって凄く面白いです。人種は皆、試行錯誤しながら改善と改良を重ね、日々の食事を進化させてきたのですね」
「かたっ! ビックリするくらいセリフが硬いよ! 人は美味いモノ食べたいから頑張る。そのくらいで良いと思うよ?」
今更神様っぽくしたって俺は騙されないぞ。
口はへの字に曲がり、ジトリと猫を追いかける視線は、あっさり俺のところへ寄っていった姿にショックを受けている顔だ。
なぜか誤魔化そうとしているけど、フライパンを振っていた手が完全に止まってしまっている。
「アリシア、お肉、焦げるよ?」
「あぁああああああああっ!?」
はぁ。
何気に手料理まだかなって、楽しみにしてるんだけどなぁ……
その日の晩は結局俺が調達してきたサツマイモで焼き芋パーティーとなり、ついでに多くはないがキノコも火で炙りながら隣のリアに相談事を告げる。
「そんなに規模が大きいの?」
「町全体を【探査】で確認した印象だと、間違いなく数十人って規模じゃないね。ハンターギルドとか商人の中にも悪党の一味が混じってたし、町全体が汚染されてる感じかな」
「他でも聞いたことのある話ですね」
「え? そうなの?」
「時代に関係なくですよ。武力で支配し、そのまま新たな国が生まれることもあるのですから」
「ふむ。悪党どもならば全てを始末して、綺麗に浄化すれば良いのではないか?」
両手に食いかけの焼き芋を持ったリルがあっさり結論を出しているが、そう簡単にはいかないから困っているのだ。
「地球でも同じように侵食して汚染するような悪い組織ってあったりするけど、この手のパターンは罪の大小が人によって全然違うんだよね」
野盗連中であればこんな悩みを抱えることもない。
ボスも子分も揃って武器を握り、荷物や金を奪おうと殺す気で向かってくるのだから、こんなの揃ってギルティで一発解決だ。
命乞いからくるその場限りの反省や改心など、心底どうでもいい。
しかし個々によってやっていることが違う組織の場合、親玉であるバーナルド兄弟と、末端の構成員とじゃ罪の重さはまったく違うだろう。
それこそ顔パスで関所を通過していた商人が、仮にバーナルド兄弟から事情も知らず運搬の仕事を貰っているだけという話なら、さすがにそれは執行対象としてどうなんだとも思ってしまう。
こんな時に心を覗くスキルでもあれば違うんだけど、あれって人間が取得できるようなタイプなのかも分からんしなぁ。
自分や他者に明確な殺意を向けてくれればブレることもないのに、ちょっとした変化球が飛んでくるだけですぐ土台がガタつくのだから、やっぱり俺はまだまだ甘い。
そんな俺の気持ちを見透かしたように、リアから突っ込みが入る。
「ロキがこういう変な顔をしている時は危ない」
「私も思った! なんか嫌な予感がするんだけど!」
「へ、変な顔……どうやったら上手く解決できるかな~って、段取りを考えてただけなんだけど」
「怪しいですねぇ~」
「もしロキ君の身に何かあれば、私がその町を消滅させますから」
「ぇ」
「や、止むを得ないことですが、それでも必要最小限にですからね? あまりやり過ぎると世界が混乱しますから」
「そうは言ってもだなアリシア、よほどの実力差でもなければ、その手心であり油断がロキを苦しめることに繋がるのだぞ?」
「それでこの前も私の判断を待つために、ずっと殴られて血だらけになってた」
「「「「「「……」」」」」」
いくら法があっても最終的に人を裁くのは人で、どんな事案であれ、その結果に喜ぶ者もいれば不満に思う者もいて。
特にこの世界であれば、酷く判断基準が曖昧な、金や身分が強く絡んだ貴族の裁量に委ねられてしまう。
でもだからと言って、俺が好き放題やっていい理由にもならない。
それこそやり過ぎれば、自分が嫌う『悪』に成り下がってしまう。
ならば、リアは何か思うところもあるようだが……それでもとりあえずは以前決めたルール通りに。
決めごとに沿いながら、俺は俺らしく、嫌いな『悪』を潰していこう。
「本当に大丈夫だよ。もう絶対中途半端なことはしないって、決めてるから」
一応やるべきこと、やりたいことを正直に告げ、こうして翌々日。
ギニエ浄化作戦が決行されることになった。