Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (298)
294話 全員変態でした
ロズベリアを東へ。
そこから国境線を意識しつつ外周を埋め、内部のマッピングに移行してから既に10日近くが経過していた。
目的地にしていた道中のCランク狩場含め、魔物からの新規スキルはビックリするくらい何も得られず、途中の山間部で潰した小規模な盗賊団2つからも、経験値は得られたけどスキルのレベルアップまでには至らず。
リルが転移者の湧きポイントで、なんとも反応に困る中身の無いビニール袋と、地球産だなということだけは分かるサンダルの片割れを拾ってきたというくらいで、大きな進展や成長もないままお寒い空の旅が続いていたわけだが。
「ロキ~やっとできたってさ!」
「おぉ! マジで!?」
拠点に戻ってすぐに聞こえたカルラの言葉に、俺のテンションがMAXまで上昇する。
ようやく心待ちにしていたこの日が訪れたらしい。
今回はゼオの分も揃っているらしく、3人揃ってロッジのところに突撃すれば、机の上にはカラの酒瓶や女性モノのパンツと一緒にいくつかの装備が置かれていた。
「待たせたな! 今回はロキからいくか」
言いながら早速渡されたのは、一目でガルグイユの素材と分かるフルレザーアーマーに、同素材の頭部用フェイスアーマー。
濃紺の中に所々混ざる黒の差し色が、またなんとも良いアクセントになっていらっしゃる。
「当たり前だが、今ロキが身に着けているのより完全に上位互換と言っていい装備品だ。打撃や斬撃なんかの物理攻撃に対しても強いが、何より水耐性強化でこれより優秀な素材はそうあるもんじゃねぇ」
「んお? ってことは、まだ上には上があるの?」
ふとした情報に気になって顔を上げれば、ロッジは首を捻りながらも微妙に頷く。
「俺の爺さんの爺さんが、人伝に聞いたことがあるっつーくらいだけどな。『海』にはそんな馬鹿げた魔物も存在するらしい」
「あぁ、海か。それならたしかにいてもおかしくなさそうだよね。ゼオはなんか知ってる?」
「ふむ……交易船を喰らうような、かなり大型の魔物が海にいたことは知っている。倒しても不定期に出現する魔物だったから、厄介極まりない存在として討伐隊が何度も組まれていたはずだ」
「となると、通常ボスかな」
「ねね、あとアレは? 島を消しちゃうやつ」
「「え?」」
俺とロッジの、二人の声が重なり合う。
船を襲うくらいならまだ納得もできる。
だが、島を消すとか……何それ。ちょっと規模っていうか、質が違うような気もするんだけど。
「あくまで噂だろう? 存在を確認したという記録を見たこともない。大災害によって生まれた負の感情を、魔物へ矛先を逸らして統制したという話はかつて小耳に挟んだが」
「……」
どっちなんだろうな、これは。
あの腐敗のドラゴンを見た後だと、そんな別次元の魔物がいたっておかしくないとも思えてしまうし、架空でもなんでも、分かりやすい悪者を他に作って国や町を纏めるってのも実際にあり得る話だし。
うーん。
「まぁ、そんな魔物といつか戦うならちょうど良いんじゃねーか? こいつの強力な水耐性が役立つってことだろ」
そう言いながら、ポンポンと装備を叩くロッジに深く頷く。
「うん、そうだね。ロッジの言う通り! 使いどころがあるから装備に意味も生まれるわけだし」
そう、これは喜ぶべきことなのだ。
特に耐性特化の尖った装備は用途が限定的で、少なくともMMOであれば対人戦闘向けではない。
その代わり場面によっては必須級になるタイプなのだから、そんな出番がちゃんとあるなら喜ばしいことだろう。
手間と金はかかるけど使いどころがないコレクション装備とか、嫌いじゃないけど今はそんなの求めていないしな。
そのままカルラにも、俺と同じようなレザーアーマーが渡され、次いでゼオにも――、んん?
ゼオにはなぜか鎧ではなく、『マント』が渡される。
バッサーと宙を舞わせるように身に着ける姿は、凄く様になっていてカッコいいが。
「ほんとにこれで良いのか?」
ロッジの言葉に、腕を組みながら頷くゼオ。
「少しずつ力が戻っているとは言え、まだ何かと戦えるような身体ではないのでな」
「というか、師匠って元から防具はマントしか身に着けないよね?」
「うむ」
うむって。
そんなんでいいのかって思うけど、まぁ昔は防具も関係ないくらいの強者だったんだろうしなぁ……
「あとはどうせ素材が余ってるしな。ボス素材なら魔力を通す媒体としても優秀だろうから、ガルグイユの骨を削って『杖』にしてみた」
「ほう」
「凄い師匠に似合ってるね!」
「たしかにー」
少し灰色が混じったその骨の杖は、持ち手の部分が歪に膨らんでおり、対して先端部分は動物くらい簡単に刺せそうなほど鋭利に削られていた。
今まで使ったことはないが、杖はたしか『魔法関連』に上方補正が掛かるはずだ。
ゼオは元々魔導士だし、普段は斧か工具ばっかり握ってるけど、さすが本職の武器種となれば様になるな。
「して、武器の名は?」
「「え?」」
また、俺とロッジの声が重なり合った。
武器の名とは、なんぞ?
ショートソードはショートソードだし、店先に製作者の名前は書いてあっても『武器名』が表記されていることなんて一度もなかった。
まぁゲーム的には、装備に『固有名詞』があるなんて当たり前のことだが……
チラリとロッジを見れば、唖然としながら固まったまま。
ゼオの言葉を飲み込むのに時間が掛かっているらしい。
「装備に”名付け”なんてしたことはないが……?」
「そうか。ならば、我が名付けよう。『灰骨の竜杖』と」
「「……」」
カルラはキラキラした瞳でゼオを見上げ、ロッジは口を半開きにしたまま意識を遠くへ飛ばしていた。
この拠点で、一番の常識人は間違いなくゼオのはずだ。
だがしかし、これは――
思い返されるのは、俺が中学生の時。
どこかから湧き出てきた謎の刀にカッコいい名前を付け、夢の中で何かと戦っていた記憶が蘇る。
(もしや、ゼオもなかなかのヤベェやつなんじゃ……?)
ふとそんな疑惑が頭を過るも、こんな秘境も秘境の森の中につれてきているのだから、今更どうしようもない。
ならばここは同志として、俺もこのビッグウェーブに乗っかっておくしかないか。
「ゼオ、俺の鎧も命名してくれない?」
「!?」
「鎧にまで名を付けるのは珍しいな……まぁいい。『蒼竜の鱗鎧』、我ならそう名付ける」
「いいね。それ採用」
「……あーその、なんだ? ゼオやカルラの生まれた時代は、そうやって装備に名前を付けるのが当たり前だったのか?」
「名の付いてる装備が多かったから、無いモノも付けてた感じだよね?」
「そうだな。親や仲間から装備を引き継げば、その名も引き継ぐというのは当たり前だった」
「種族特有の文化ってやつか」
「当時のドワーフは分からぬが、人間でも『家宝』などと言って家督と一緒に引き継ぐ風習はあったはずだぞ?」
「神様が名付けてる装備も多かったしね」
「ん? んん??」
途中からカルラが意味の分からないことを言い始めたおかげで、まったく話の中身が理解できない。
そのことを二人に伝えれば、古代の装備事情というのをもう少し掘り下げて教えてくれた。
まずゼオのような強者は、特殊な補正や能力が付くダンジョン産の武器と装飾品を身に着けることが多かったらしい。
これにはロッジも納得しているので、かつて『本』で予習した通り、武器と装飾はダンジョン産で、防具だけは鍛冶師頼み。
だからこそ、バルクールの防具製作費用がボッタクリかと思えるくらいに高かったということにも繋がってくる。
そしてダンジョン産の現物武器や装飾というのは、能力に応じて最初から固有の名称が存在しているモノもあるらしく、これは鑑定のスキルレベルが満たしていれば誰でも確認することが可能。
だからゼオやかつての仲間にとって、武器と装飾に『名』があるというのは、無ければ付けるくらいには普通の感覚なんだそうだ。
まぁそうは言ってもレアリティが高く、しかも優秀な能力や補正の付いた装備なんていうのは、手に入れれば一生モノのお宝。
死期が近づいたり老いれば、子に託したり仲間に託したりと、誰かに引き継いでいくのが一般的だったみたいだけどね。
「一部のダンジョン産装備にとんでもない需要があることは知ってたが、まさか神様が名付けまでしてるなんてな」
「ん――……」
ロッジの言葉を聞きながら、天井を見上げて暫し思考を巡らす。
この仕事はまず女神様達が担当じゃないだろう。
知っていたら始めから自分達用に隠蔽MAXの指輪くらい創っていたはずだ。
ということは、そのような”設定”を組んだのはフェルザ様。
……だからこそ、やっぱりダンジョンは楽しみだな。
「そうだロキ。例の武器はもう少し時間をくれ。作ったことがない類だから調整に時間が掛かる」
「すぐ必要なわけじゃないし、全然大丈夫だよ~」
「あと、一応言われていたコイツは作ったぞ」
「おっ? どうだった? 簡単だった?」
「この程度作るのは簡単だが、おまえの言っていた螺旋のような”巻き”は俺じゃ無理だな。そっちは【鍛冶】より【加工】に強いやつの方が向いているはずだ」
「了解。これでも十分だよ、ありがとね!」
ふーむ、コッチは作るのが簡単か。
ならば相変わらずの丸投げだが、ヤーゴフさん達に伝えれば何かしら役に立つ可能性もあるだろう。
「それじゃ、早速使用感を確認してきますかね~。あ、【付与】の希望があったら今付けちゃうから言ってね」
出来上がった見本を収納し、自分の分も含めて新米付与師のお仕事を。
それが終わったら新装備の慣らしも兼ねて、俺はパルメラ南部のマッピングを進めながら夜間の狩りへと向かった。