Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (307)
302話 久しぶりに、4人で
「うぉおおおお!!」
「すっごぉーーーい!」
「僕、また神秘を見た……」
今回はその気持ち、凄く分かります。
ポッタ君の呟きに内心そんなことを思いながら周囲を見渡す。
降り立ったのはハンターギルドの屋上。
そこから3人の首根っこを掴んで地面に降り、ダンジョンの入り口へと向かっていく。
今回は皆にとって初めての一泊二日、国外の旅だ。
それは旅行でもありつつ、しかしハンターとしての遠征でもあるので、少しでも成長に繋げてから家に帰してあげたい。
俺が一人じゃないからだろう。
鑑定所のおじさんが顎を摩りながら興味深けに俺達のことを眺めていたが、今は気にせず無料貸し出し所で5点セットを借りて、そのままダンジョン内部へ。
そして地下1層から、すぐに地下16層へと飛んだ。
「お? なんか壁の色が変わったな」
「入り口と場所が違うの?」
「ここは少し潜った地下16層だね」
「大丈夫? 僕達が勝てるところ?」
「昨日ここに来た感じだと、16層からFランクに混じってEランク魔物も登場し始める程度だから大丈夫だよ」
「俺達が普段通ってるのはFランクなんだが」
「でも、もうだいぶ余裕でしょ?」
「まぁ、たしかにな」
「私が【探査】覚えたしね!」
「うんうん」
「ならどんどん試しちゃいなよ。こんな機会ないよ~? いざとなれば俺が助けるし」
今、自分達がどの程度の実力なのか。
徐々に同ランク帯でも強い魔物が登場し、部屋内の魔物数も増加していくダンジョン内であれば、非常に分かりやすい『数値』として本人達が自力を認識できる。
まずは現状を把握させ、次に何をどうすれば強くなれるのか。
そこまで3人に理解させれば、あとは本人達のやる気次第だ。
「籠は僕が持つよ?」
籠を背負い、ホウキとちりとりを持つ俺に、本職のポッタ君から突っ込みが入る。
「ここって解体の必要もないから大丈夫だよ。その代わり」
「「「?」」」
「メイちゃんもポッタ君も、今日はどんどん戦闘に参加してみてよ」
「でも私、解体用の短剣しかないよ?」
「それでも攻撃を加えることに意味があるからさ。ちゃんとできたら、あとで俺からご褒美をあげようと思いまーす!」
「ご褒美!」
「なんだそれ!」
「ぼ、僕も貰えるの?」
「もちろん、3人にあるから頑張ってね」
「よーし、やるぞ! Eランクでも頑張ればなんとなるだろ!」
「私大きいのは届かないからね!」
「ぼ、僕が叩く!」
さーて、まずはどのあたりで躓くのか。
ギャーギャー言いながら、それでも初めて見るであろうコボルトに立ち向かっていく3人の後ろ姿を微笑ましく思いつつ、俺は一切手を出さずに繰り返される戦闘を眺め続ける。
全フロアを回るようなことはなく、問題無しと判断したらすぐに次の階層へ。
この繰り返しの中、やはり最初に躓いたのは22層で登場したオークだった。
「くっそー倒せないことはないけど、やっぱり矢の消費が激し過ぎる」
「蟹とかカエルはそんなに強くなかったのにね~」
「でもさ、僕もジンクもずぶ濡れだよ?」
「あいつの使う水鉄砲って痛いけど面白いよな! 覚えたら川でかなり遊べるぞ」
なぜジンク君はアンバーフラッグの【水魔法】食らって喜んでるのか……
いまいち分からないが、これで予想していた通り、現状の問題は概ね把握できたな。
「それじゃあ皆頑張ってたので、ご褒美タイムに入りたいと思います。まずはポッタ君にこれを授けよう」
「えぇ?」
「おぉ~!」
「あ、盾じゃん!」
渡したのは資材倉庫に転がっていたウッドシールドだ。
円形のやや小さめのやつを選んだので、これなら盾の扱いが初心者のポッタ君でも扱いやすいはず。
「その盾は余り物の中古品だから、ポッタ君が使いこなせそうならそのままあげるよ」
「いいの?」
「いざという時、これでみんなをカッコ良く守れそうならね」
「ポッタすっごい似合ってるよ!」
「そうだな。戦士に見えるぞ」
「え? そ、そう?」
身体の軽さも相まって、ジンク君ではオークの攻撃をその場で耐えることはできない。
それにコボルトの攻撃も、ダンジョンの入り口付近より明らかに火力が増してきている。
3人のパーティはここまで潜れば攻守共に足りていないが、その中でも特に守りはジンク君の回避頼みであまりにも脆弱。
それを少なからず自覚していたのだろう。
ポッタ君は盾をジッと見据え、そしてすんなりと受け取った。
「あとは攻撃面も、色々と改善が必要だね」
「そうだな。やっぱり大型の魔物が厳しい」
「なので今日限定で剣でも槍でも、一通り鉄製の武器は持ってきてるから、試したいのあったら貸したげるよ」
「マジかよ! じゃあ、そうだな……『剣』借りてもいいか?」
「もちろん、ちょっと待ってね――ほい!」
「じゃあじゃあ! 私はお母さんが使ってるから『鎌』!」
「おっ、なかなかマニアックなとこいくね~」
「僕はもっと長い『棒』を使ってみようかな……」
「試して違うと思ったらまた別のにしてもいいから、替えたい時は遠慮なく言ってね」
メイちゃん用の防具がないのは残念なところだけど、3人を眺めれば、そこそこやりそうなパーティに見えてくるから不思議である。
「ん~3人とも、強そうな雰囲気出てきたね」
「ほんとか!?」
「私なんて両手に武器持っちゃってるしね!」
「ぼ、僕は戦士、盾で守る!」
「それじゃオークの安定討伐目指してどんどんいっちゃおー!」
「「「おぉー!」」」
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
そしてその日の夜。
サヌール中心部にある大きめの宿に向かった俺達4人は、部屋を確保したらご飯を食べに町へと繰り出していた。
「お腹すいた~!」
「だな。面白くて時間忘れてた」
「強くなったよね? ね?」
「なったなった。ポッタ君はなんだかんだで斧も使えるようになったし、メイちゃんも目を瞑らないでちゃんと攻撃できてたよ。ジンク君は相変わらず器用に武器を使いこなすし」
最初は棒を選択していたポッタ君も、メイちゃんが使っているのを見て槍を、そして最後は斧と、刃のある武器も最終的には使えるようになっていたので、もしかしたら『魔物を斬るのは怖い』という大きな障害を克服できたかもしれない。
メイちゃんも解体の必要がまったくないので、その分積極的に戦闘へ参加。
最終的には短槍を気に入っていたので、上手くいけば攻撃の幅も広がるんじゃないかと思う。
そして攻撃の要、ジンク君はスキル無しでも綺麗に武器を振り回すものだから、物は試しといくつか持ってきていた上位素材の武器を貸し出してみた。
武器のランクが上がれば火力はどう変わるのか。
実際に体験した上で、今後どのように武器を選択していくかはジンク君次第だな。
ちゃんとしたご飯屋なんて経験がなくて、結局選ぶのはベザートでも見かけるような、路面に並ぶ屋台飯。
それでも普段見慣れぬ食事に目移りしている様子を見れば、それもありかと皆が興味の示すモノを購入していく。
そして宿に持ち帰り、みんなで食事。
「うし、お腹空いたし食べよっか! あ、ここの宿、お風呂もあるからね。ごはん食べた人から入っちゃっていいよ」
「すごーっ! さっきいっぱいいた獣人の人達も入ってるのかな?」
「俺達だってロキの作った外の風呂に入ってんだろ。半月に1回くらいだけど」
「お風呂も大事。でもこのご飯も、美味しくて止まらない」
「あ、そうだロキ! スキルなんだけどさ。魔法って女神様に祈祷しなくても一応取れるんだよな?」
「あぁ、それね。俺の師匠みたいな人が言うには、【魔力感知】ってスキルを取れればだいぶ覚えが早いみたいだよ? まずは魔力の存在を認識することが一番なんだってさ」
「ねぇねぇ、私もその【魔力感知】ってやつ取ったら覚えられるの?」
「そこは努力次第だろうけど、たぶんメイちゃんは覚え早いんじゃないかなぁ……魔力の巡りが速いというか、普通の人より活発だし」
「うそぉ!?」
「ズルい……」
「ほんとズルいなそれ!」
一度は躓いた22層が安定し、そのまま半日掛けて26層まで伸ばせたことがよほど嬉しかったのだろう。
レイラードフェアリーが登場してからは、【回復魔法】のせいでまた大きく躓いてしまったけど、それでも次策として魔法という攻撃手段を既に考え始めている。
その流れは食後、お風呂に入っている間も続き――
しかし布団に入れば、一日動き続けていた疲れのせいか、あっさりと寝息を立て始めていた。
(きっと、これくらいで――多少の『調整』程度で丁度良いはずだ)
どこまでこの3人を成長させるかは、この二日の間ずっと悩んでいた。
もっと強引で直接的な手段はいくらでもある。
極端な例を挙げてしまえば、3人を拠点でパワレベするだけでも、初級ダンジョン程度ならば余裕も余裕。
余っている素材でそれぞれの装備をロッジに作ってもらい、俺が全身に【付与】を付ければ、それこそデボアの大穴にいる蟻だって倒せるだろう。
強くなれば、何かあった時に身は守れる。
しかし、それだけでは精神と知識が追い付かない。
それどころか、慢心によって逆に身を亡ぼす危険性も高くなる。
まだ子供の3人に力を押し付け、傲慢にならず己を律せよなんて、それはあまりにも無責任というもの――
「なぁ、ロキ。起きてるか?」
「……うん、起きてるよ」
――声は、ジンク君だった。
「あのさ……ロキは、なんで旅してるんだ?」
「んー、やっぱり楽しいから、かな?」
「それは、自分の知らない世界を見られるからか?」
「もちろんそれもあるし、俺は強くなっていくのがやっぱり楽しいんだよね」
「そっか。今日みたいなことを、ロキは『外』を旅しながら感じてるんだな」
「『外』に、興味があるの?」
「……ある、というか、最近湧いてきた」
分かっていて聞いたことだ。
アマンダさんから、特にジンク君がよく地図を眺めているという話は聞いていた。
9割俺のせいだと思うけど、ジンク君の場合はお父さんがハンターだったことも関係しているのかもしれない。
「でも、拠点をマルタに移すとかではなく、旅なの? そこは全然違うよ?」
「あ、そうか。そうだよな」
「本気で考えるなら、多少収入は落ちるかもだけど、まずはルルブで結果を残してEランクハンターに昇格する。そこからどうするかじゃないかな」
「何をすればルルブで安定して狩れるかは今日でしっかり分かったしな。メイサとポッタにも相談してみるよ」
「んだね。それと――」
「?」
「『外』は何も良いことばかりじゃない。ベザートは知る限りでもかなり平和な町だから、それだけは忘れないでね」
「……そ、そうなのか?」
「もし俺が『悪党』なら、【心眼】をレベル1でも取って、自分よりスキル構成が弱いと判断した弱者からは全てを奪う」
「……」
「だから大きな町は、【隠蔽】をスキルレベル2まで所持している比率が高いんだ」
これは散々人のスキルを覗いてきた俺の経験則だな。
スキルレベル2の【隠蔽】を看破するには【心眼】のレベル3以上が必要。
そうなると貢献度という名のスキルポイントは嵩むし、そもそも弱者じゃなくなる可能性が出てきて襲う側の警戒度も強くなるのだろう。
「でも、ベザートはほぼ【隠蔽】を所持している人がいない。というより平和過ぎて、
取
ら
な
い
と
危
な
い
ぞ
って教えている人もたぶんいない」
「そう、か……昔父ちゃんからは聞いたような気もするけど、そんな重要だとは思っていなかった」
「だから良し悪しはあるし、その上でじっくり相談してみたらいいよ。旅をするなら3人でって、思ってたんでしょ?」
「あぁ、行くなら絶対に3人でだ。まだどうなるかなんて分からないけど……また相談してもいいか?」
「もちろん。分かることなら教えるよ」
必ずこれが正解というのはないであろう、非常に悩ましい選択だ。
まだ手探りで自分達の『道』を探している状況なら、地力の底上げとアドバイスは間違っていないはず。
(それでも、彼らを守りたいからこそ、もう少しくらいは……)
そんなことを思いながら、ゆっくりと俺の意識も途絶えていった。