Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (31)
31話 餞別
7/17 本日1話目の投稿です
解体場主任のロディさんはいつもと変わらず、奥の作業台で何かの皮を剥ぐ作業をしていた。
「ロディさん、おはようございます」
「おうロキか。籠ならそこから好きなの持っていっていいぞ」
「いや今日は籠じゃなく、聞きたいことがあって来たんですよ」
「ん? なんだ?」
そう言って作業を止め、ロディさんが布で手を拭きながらカウンターまで歩いてきてしまったので、これは申し訳ないと手短に用件だけ話す。
「作業中すみません。明日からロッカー平原に行こうと思いまして、換金可能な素材部位などをお聞きしたかったんです」
「ほぉ……もうロッカー平原か。まぁあれだけ安定してパルメラの魔物を狩ってくるんだからな。誰も文句は言わんか」
「ははは……まだ早いと思ったらすぐ戻ってきますけどね」
「まず問題は無さそうだが無理はするなよ? んでロッカー平原の魔物だが種類は2種、ポイズンマウスとエアマンティスだ。そしてここで素材として買い取れるのはそれぞれの魔石とポイズンマウスの頭部だけだな」
「うーん……資料室の本にも書いてありましたけど、素材としての需要があるのは頭だけですか。となると実入りが少なくなりそうですね……」
「そこはハンターによってくるな。数をこなせるやつはパルメラよりも稼ぎが良くなるし、ルルブにいかずロッカー平原に留まるやつらもいる。考えてもみろ? ロッカー平原は片道1時間くらいはかかる。素材を大量に抱えて1日何往復もできるか?」
「あーなるほど……素材が小さいのは逆に利点になるってことですか」
「その通り。ロッカー平原の肝は、1回行ってどれだけ籠の中身を埋められるかだ。それにエアマンティスの魔石はそれなりに買取額が高いぞ?」
「属性魔石だからですか?」
「あぁ。氷属性ほどじゃないが、風もそれなりに人気はあるからな。エアマンティスの魔石1つで8000ビーケだ。1日行って10匹でも倒してみろ。他の素材なんかも合わせればパルメラの収入なんて超えてくるだろう?」
「確かに……それだけ倒したって籠はいっぱいにならないから1往復だけで済むってことですね」
「ただあそこはポイズンマウスの毒を食らうと厄介だからな。致死性は無いが手足が重くなって身動きが取りにくくなる。だからポイズンポーションをどれだけ飲まずに数をこなせるか、ロッカー平原に通うハンター達の腕の見せ所ってわけだ」
その後もなんだかんだで詳しく話を聞いてしまったところ
ポイズンマウス:常時討伐依頼で1体1200ビーケ その他魔石で1500ビーケ 頭部(毒袋)3000ビーケで解体後に頭部は持ち帰り推奨。討伐部位は尻尾。
エアマンティス:常時討伐依頼で1体1800ビーケ その他魔石で8000ビーケ 討伐部位は頭。
ただしポイズンマウスは繁殖力が凄くてすぐ増えるらしいので、緊急討伐依頼があった場合は最高2倍くらいまで討伐依頼報酬が増える可能性も有り。
このようなことが分かった。
パルメラ大森林と違って、朝一の依頼ボードは要チェックということだな。
聞きたかったことが一通り聞けたので、ロディさんに仕事の邪魔してすみませんと謝りつつお礼を言い、アマンダさんに会うと厄介なので裏口の解体場からそのまま出る。
そして武器屋へ向かいながらも考える。
ポイズンマウスで1体おおよそ6000、エアマンティスで1体おおよそ10000……ポイズンマウスの方が数は多いみたいだから、1日行って10体の5体としてこれで11万ビーケ。
丸薬を飲んだパルメラ大森林の収入よりちょっと落ちるくらいか。
いや、ポイズンポーションがいくらか分からないけど、ちょくちょく飲むことを考えたら1日20体の10体くらいが目標か?
というか、緊急討伐依頼が出てなかったら無理に常時討伐依頼を達成させないというのも手だよな?
いやしかし、鼠のしっぽを大量に宿へ持ち帰って寝るというのもさすがに……
中型の籠を買ったとはいえ、そんなの突っ込んだままあの4畳半程度の空間で一緒というのは気味が悪すぎるし、臭いもキツそうだからやっぱり無しか。
そんなことを考えていたら、いつの間にか武器屋の中にまで入っていたらしく、パイサーさんが怪訝な表情を浮かべていることに気付いた。
「おまえ、店の中で立ち尽くして何やってんだ?」
「す、すみません……考え事に没頭するという悪い癖が出てしまいました!」
うーむ……近い、近過ぎる!
裏口から出てもあっという間に着いてしまった。
まぁ時間が限られているから気にしないで話を進めよう。
「とうとうお金が貯まりましたよ! 武器と鎧売ってください!」
「ん? 武器は聞いていたが……鎧だと? どんなやつがいいんだ?」
「ロッカー平原と、できればルルブの森でも立ち回れるくらいのやつがいいんですよね」
「予算は?」
「大体30万ビーケ前後くらいだと良いですね」
「となると金属製は無理だから皮製の鎧だな。胸や胴回りを守れるから、頭さえしっかり守れば致命傷にはなりにくい。そんなに良い魔物の皮は使えんが……ルルブくらいまでなら問題無いだろう」
「おぉ! 良いですねなんかそれっぽいです!」
「それっぽいってなんだよ……まぁいい寸法計るからちょっとこっち来い」
「……ん? 寸法? ここに在庫って無いんですか?」
「アホか! 武器なら在庫でもいいが防具だぞ? 身体にしっかり合わせたもん作らにゃ動き難くて戦闘に支障が出るだろ。それに在庫はあったって大人用だ。おまえの背丈だと多少の調整程度じゃどうにもならん」
「な、なんですと!? ちなみに……出来上がりはどれくらいで……?」
「皮なら在庫があるから5日……いや4日あればいけるな」
マジかよ……やらかした。
やらかしたやらかしたやらかしたぁあああああー!!
ついつい服と同じような感覚で、それこそゲーム感覚で買えると何故か勝手に思い込んでしまっていた……
あぁ……俺の馬鹿野郎……
先に準備する時間はちゃんとあったじゃん……
折角明日にはロッカー平原行けると思ってたのに……
「アァーアァーアァー」
「なんだ? 前からおかしなやつだとは思っていたが、余計におかしくなったか?」
「うぅ……僕のこの涙を見てくださいよ! 自業自得とは言えショックで倒れそうなんですけどっ!」
「ちっとも泣いているようには見えんぞ……まぁショックを受けているのは確かなんだろうな。なぜそんなに早くロッカー平原へ行きたい? パルメラでも金は稼げているんだろう?」
「お金だけの問題じゃないんですよ……その場所が自分の成長に繋がると思えば早く行きたいんです。それがハンターってもんなんですよ!……たぶん」
「チッ……息子と同じようなこと言いやがって」
「あ、息子さんいたんですか。お話からすると僕と同業、ハンターみたいですね」
「そうだな」
「はぁ……でもしょうがないですね。とりあえず採寸をお願いします」
そう言って胸回りなどを計ってもらっている最中、お目当ての剣を眺める。
「そういえば予約していたあの武器、サイズだけで買おうとしちゃいましたけど、魔力上昇なんて付与が付いていたんですね」
「あぁ……おかげでちっとも売れねぇ武器だった。やっと買い手がついて清々するぜ」
そういえば他の武器よりも値段が安めなんだよなぁ。
てっきり短いから材料費が安いくらいに考えていたが……
「もしかして魔力上昇という付与があまり人気無いんですか?」
「まぁな。魔力上昇なんて本来魔術師用だ。普通は主武器の杖に付けるもんだし、この町なんて精々Eランク止まりのハンターしかいないんだ。わざわざこのくらい値の張る予備武器なんて持ちはしない。いいとこ解体用も兼ねた短剣程度だろ」
「でもあれ作ったのってパイサーさんですよね? 魔石屋のお姉ちゃんが言ってましたよ。パイサーさんは付与もできるって」
「あのバカ……そうだな。確かに俺が作った」
「ん? 売れにくいのに作った?……あっ、もしかして息子さん用とか?」
「……」
ここまで言って
し
ま
っ
た
と思った。
なんで息子さん用の武器が飾ってあるんだよ。
ある程度使ってお古になったっていうなら樽の中だろ普通。
あそこにあるのはわざわざ壁に掛けてあるくらいだからたぶん新品……
「すみません。マズいこと聞いちゃったかもしれませんね……」
「……いや、構わん。あの武器を買おうとしているやつなんだからな。おまえの想像通りだ。だから大事に使ってやってくれ」
「……もちろんですよ」
その後寸法も計り終わり、ちょっとした要望も伝えたところで、とりあえず武器は買おうとパイサーさんに伝える。
「とりあえずあの武器は今日買っていきます。安心してください。今回は値引きどうこうなんて言いませんから」
「そりゃ結構なことだが……まさかおまえ、鎧ができる前にロッカー平原行くつもりじゃないだろうな?」
……誤魔化すのは簡単だ。
鎧ができるまではパルメラ大森林行ってますよと言えばいい。
それを実行すれば尚更に問題無い。
だが、もうパルメラ大森林は余裕過ぎるんだ。
ノルマをクリアした以上、あそこで狩りを続けるには別の目標や目的が無ければ苦痛になる。
そしてレベルの要素と魔石の売却価格を考慮すれば、ロッカー平原もまず問題は無い。パルメラ大森林であそこまでレベル制限がかかって経験値が増えなかったんだ。
たぶん今のレベルでロッカー平原に行っても、既に適正をやや超えているくらいだろう。
ならあった方がより安全なのが鎧であって、必須ではない可能性が高いはずだ。
はぁ―――……
ここで嘘は吐いちゃ駄目だな。
「すみません、慣らし程度ではありますけど行くつもりです。パルメラ大森林が余裕過ぎますので」
「やっぱりか。パルメラと違ってロッカーは鎧無しなんてほとんどいないぞ? 油断すればエアマンティスの魔法で腹がパックリだ。それでもか?」
「そうですね。できるだけの準備はするつもりですけど、行ってみないと分からないこともありますから」
「……もしだ。鎧ができるまで剣を売らないって言ったらどうする?」
「ここで買わせてもらったナイフで行くでしょうね。間違いなく。もちろん無理をするつもりはないので、僕の予想よりも強いと感じれば大人しく引き返しますが」
「だろうな……あのバカも同じことを言っていた。……そしてこっちが丹精込めて専用の武器作ってやってる最中だってのに死んだんだ」
「……」
「ハンターってのはどうしてバカが多いんだろうな? 自分の力を過信してるとは思わないのか?」
「どうでしょうね。ただ少なくとも、自信はないと足は前に出ませんよ。そうやって何かしら理由を付けて、道を自分で作ってるんですから」
「はぁ……ちょっと待ってろ」
そう言って店の奥へ入ったパイサーさんは、何かを抱えてすぐに戻ってきた。
「こいつは餞別だ。中古だが大して使用はしていないし、サイズも多少の調整程度で済むだろう。息子はおまえと似たような身長だったからな」
「……形見、ですよね?」
「あぁ。息子はルルブの森で死んだ。パーティ組んで、俺は後衛だから防具があれば大丈夫だっつってな。そん時生き延びたやつがうちに運んできたんだ」
「なら受け取れないですよ……大事な物でしょう?」
「アホか。俺は防具屋でもあるんだぞ? 良い装備てめぇで作って寝かせとくやつがあるか。装備は使ってなんぼだろう? それでそいつが生き延びれば一番だ」
「……僕はその鎧が無くても生き延びる自信がありますけど、本当に僕が譲り受けてしまって良いんですか?」
「ケッ、生意気なことを言うじゃねーか。だったらこいつ着て意地でも生き延びてみせろ。途中でひょっこり死にやがったら俺がもう1回ぶっ刺してやるからな」
「それは魔物より怖そうです……これは息子さんの剣と鎧に守ってもらって生き延びるしかないですね」
受け取る意志を確認できたからか、パイサーさんは無言で俺に防具を合わせサイズを調整する。
確かに最初からそれなりにしっくり来るので、少し胴回りを絞めればサイズ的にはバッチリだろう。
――本当はあの剣を購入する人待っていたのかな?
――それとも息子さんと重なる人を探していたのかな?
ベザートの町の武器防具屋はこのお店だけだ。
嫌でも上を見るハンターはこのお店を訪れる。
その中にはジンク君達のように子供だってそれなりにいる。
今までにもたくさんいただろう。
サイズだけ見れば合う人なんていたはずだ。
この状態なら売ろうと思えば売れただろうし、装備を託せる人はいたはずなんだ。
笑いながらショートソードを持って、「ちょっと握ってみろ」なんていうパイサーさんを見れば、俺は心の中で誓いたくもなる。
パイサーさん。
――俺は絶対に死なないよ。
作者の創作意欲に直結しますので、ぜひ続きが気になる。
楽しくなってきたと思って頂いた方は、広告下の【☆☆☆☆☆】から率直な評価を頂ければ幸いです。
本日も複数話投稿していきますので、ブックマークされるとスムーズに追えるかと思います。