Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (311)
306話 表オークション
サヌールにある宮殿のような規模のハンターギルド。
その中央入り口は、いつもと違った賑わいを見せていた。
ギルド前には時折豪勢な箱型の馬車が止まり、中からは豪華なドレスを纏った貴婦人が、手を添えられて降りてくる。
チョビ髭を摩る、服は綺麗だけど顔は汚いガマガエルようなおじさんも多くいた。
そんな人達に混じってゾロゾロと。
入り口から正面に向かって進んでいけば、やがて見えてくるのは会場入り口。
昨日アランさんに見せてもらった目録の木板が掛けられており、その横には『武器の携帯禁止』と注意書きが大きく記されている。
『オークション主催国 その規模と傾向について』の本で予習してきた通りだ。
ハンターギルド主催のオークションは”表オークション”とも呼ばれており、高い身分の連中が堂々と入れる数少ない場でもあるらしい。
「緊張してくるねぇ~!」
「そうですか? 凄く楽しそうに見えますけど」
「いやーオークションは楽しみなんだけど、周りのお金持ちオーラが凄くてさ」
決して全員ということではない。
が、周囲を見渡せば、ちょっとお金持ちっぽい人、かなりお金持ちっぽい人、凄くお金持ちっぽい人の代理人。
ほぼオークション会場はこれら金持ち3種族に固定されているようで、俺はといえば最上級に
御粧
ししてきたものの、それでも代理人枠から片足ずり落ちるくらい。
つまり、”やや浮き”の状態になっていた。
なので本人の強い希望と俺の事情もあり、本日はリステも参戦だ。
面倒事を避けるためにリステは仮面付きだが、これで足して2で割れば丁度いいくらいだろう。
なんせ初めてのことだし、本日はリステの代理人という
体
で猛威を振るう予定である。
入り口で名前を伝えたら大きな木板の番号札を渡され、そのまま会場内に入っていくと、あっさり中退した大学の講義室を思い起こさせる空間が。
段差のある大部屋の中央には教壇のような机が置かれており、上等そうな椅子が数百という数で扇形に並べられていた。
なんとなく、身形の良い人ほど下段の見やすい場所に移動しているので、俺は空気を読んで最上段へ。
できればメモを取っていきたいこともあり、あまり周囲に人のいない隅の方へ着席する。
そのままソワソワしながら待っていると、9割近く椅子が埋まったところで進行役が中央のステージに現れた。
簡単な挨拶の後、すぐに1発目のオークションが始まるらしい。
「それではオークションを始めさせていただきます。1品目、『叡智の切れ端 23-16』 開始は8億ビーケからでございます」
「「「おぉ……」」」
場のざわめきには俺の声も混じっていた。
目録はあくまで品名と出品される順番のリストで、それぞれの開始価格までは書かれていない。
が、この反応とこの値段……たぶん1発目が今回一番の大物っぽい。
「8億」
「46番――8億」
「8億5千」
「102番――8億5千万」
「10億」
「51番――10億」
落札してお金がありませんではお話にならない。
なので事前にオークション窓口へお金を預ける仕組みだったが、俺が今回預けたお金は約19億ビーケ。
いつの間にかジェネラルマスターオルグさんに以前卸した、パルメラ産の大量素材分も入金されていたので、その辺りのお金も可能な限り引き出した上での現金総額だ。
正直な話をすれば、今開催分くらいはある程度欲しいモノが落とせるくらいに考えていたが――いやいや、これはヤバいな。
叡智の切れ端が番号によって高いとは聞いていたけど、23番の時点でこうもあっさり10億を超えてくるとは想定の斜め上だ。
「リステ、残念だけど叡智の切れ端は諦めよう。今の段階で手を出せば俺が破滅する」
「そのようですね。今回は相場感を得るための場と割り切りましょう」
「51番――15億2千」
「「……」」
「他、おりませんか? ――――51番、15億2千万で落札です」
パチパチパチ……
湧き起こる拍手に、俺も自然と乗っかってしまった。
20番以降は国家などの集合体が金を積み上げて集めるものだと言っていたが……
なるほど。
これを集めるとなれば、尋常じゃない覚悟が必要らしい。
その後もシルバー素材で【付与】が比較的優秀なダンジョン産装備や、薄い技能の青書など、金を出してまでは不要というモノが続いていき――
そしてようやく、お目当ての品が登場した。
「22品目、『技能の種』 開始は6千万ビーケからでございます」
「6千」
「10番――6千万」
「7千」
「66番――7千万」
次々と入札される中、俺は改めて膝の上にある『85』と大きく書かれた札を見る。
(うし、いくか……)
「1億」
「85番――1億」
札を見せながら金額を伝えた瞬間、近くに座っていたおばちゃんがビックリしていたけど、ここからが勝負だ。
レア物買取の一覧に表示されていた1個1億ビーケは、オークション開催を待てない即金希望者向けの現金買取価格であって、実際の相場よりも安いはず。
どこまで伸びるか分からないが、できることなら『技能の種』は全部落とす!
「1億1千」
「66番――1億1千万」
「1億2千万」
「85番――1億2千万」
「1億3千」
「66番――1億3千万」
そして、やや場がざわつく。
たぶん、通常の相場は超えている、明らかに。
だが。
「1億5千万」
「85番――1億5千万」
「おぉ……」
「……」
「他、おりませんか? ――――85番、1億5千万で落札です」
ふぅ――……
やっと1つ、落札しただけ。
にもかかわらず妙な緊張感で喉はカラカラ。
自然と口から空気が漏れ出る。
相場よりもかなり高くなってしまったっぽいけど、その数千万を稼ぐのに要する時間と入手難度を考えれば、俺にとっては価値ある落札だ。
しかし、問題はあと5個もあること。
(同様に粘られるとさすがに痛いが、どうかな……)
一抹の不安。
そして3時間後――、それは見事に的中することとなった。
(あの、66番め……)
昼休憩を挟むために区切られた午前の部。
その前半で出品された『技能の種』は3つあり、その3つ全てを俺が落札してきた。
しかしその落札合計額は4億7千万ビーケ。
これはもう破格も破格のようで、会場も、近くのおばちゃんも、皆がビックリしている時点ですぐに分かった。
報告に行った鑑定屋のマグナークさんが、茶を吹き出すくらいに驚いてたし。
「値を吊り上げ、ロキ君の予算が尽きるのを待っているのでは?」
「その可能性もあるんだけどさー」
1つだけ譲れば、あとは引くかもしれない。
そんな展開が予想できる一方、まったく逆の展開も想像できてしまう。
「年々レア物の相場が上がってるのって、たぶん主犯はマリーとかいう転生者なんだよね」
「なるほど……」
「そうなると弱みを見せたら、全部いかれる可能性の方が高いかなって」
根本的な財布事情で言えば、それこそ天と地ほどの差があるだろう。
だが……
(66番は男、ならばあっても代理人だ)
入札のための発声でそれはすぐに分かったし、要人警護でそれなりに強そうな者も会場内には混じっているが、少なくとも【洞察】で警戒反応が出るような強者はこの会場にいない。
この時点でリステのように、マリーが実はどこかに座っているなんて可能性はなくなる。
つまり今日に限って言えば、極端に無茶な入札はできない可能性が高いのだ。
(66番がマリーの代理人かは分からんけど、2つ目からあからさまに俺のこと睨んでたしなぁ)
まぁいいか。
睨まれようがやることは変わらない。
午後の部も残り3個を全部落とし、ついでに別のレア物相場を把握しつつ、安そうなら競り落とす。
「そろそろ戻ろっか」
「そうですね。このままご一緒してもいいですか?」
「魔力は余裕だから大丈夫だよ」
余計な面倒ごとに巻き込まれないため、わざわざ小さな隣町まで転移して昼飯を食っていた俺達。
リステが仮面を付けたのを確認してから会場に戻れば、やはり複数の落札は目立つ行為だったのか。
好奇の視線に晒されるも、こればかりはしょうがないと椅子に座って目を瞑る。
邪な気持ちで話しかけてこないだけマシ――そう思っていたが。
「少し、よろしいか?」
何度も聞いた声に、深く溜息を吐きながら視線を向ける。
「どうされました? 66番さん」