Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (313)
308話 煩い男
66番も衆目の中で、あからさまな恫喝をするつもりはないのだろう。
ハンターギルドはかつて、マリーに対しても強硬な姿勢を貫いたのだ。
代理落札という抜け道がある以上、オークション使用の制限を掛けることは不可能だろうが……
少なくともここで暴れれば、66番個人が出入り禁止などの制裁を受けることは必至。
だからこそ、男はまずこの会場から離れようと似合わない笑みを湛えながら、会場出入口近くにあるオークション専用カウンターへ。
そこで札と引き換えに落札物を受け取り、俺を睨みつけながら顎でカウンターを指す。
言われなくてもやるが、”今すぐお前もやれ”と男は言いたいらしい。
「これ、お願いします」
「はい、85番様ですね。落札された品は全部で9点、こちらになりますのでご確認ください。残金を引き出す場合は少しお時間かかりますから、明日以降に改めてお越しくださいね」
「ありがとうございます」
(一応警戒くらいしておくか……)
お礼を言いながらも俺はポケットに手を突っ込み、『収納』から一つの麻袋を取り出す。
そしてその袋に落札物を全て放り込んだところで、66番はわざらしいセリフを並べた。
「それじゃあ打ち上げだ。良い店を紹介するからついてきたまえ」
スタスタと、まるで俺がついてくることなど当たり前のように、一人ハンターギルドを去っていく男。
このまま見送ったらそれはそれで面白いけど……さて、どうしたものかと考えを巡らす。
この男は俺とリステの死をチラつかせ、野盗もビックリな10億越えの落札物を脅し取ろうとしているのだ。
本来であればもうこの時点で余裕の『執行』対象。
昨日のハンター達と同じ流れになるわけだが、しかしマリーとの繋がりを考えればそこまで単純な話でもなくなってくる。
(掃除をするだけなら簡単だが……)
――【気配察知】――
――【魔力感知】――
――【身体強化】――
――【探査】――『マリー』――
結論は出ないまま、俺は素直に従ったフリをしつつ66番の後をついていく。
男は正面の大通りを我が物顔で歩き、ほどなくして一本路地に入った先の大きな建物の前で俺に視線を向けた。
看板は見当たらないし、たぶん、店ではない。
しかし家にしては妙に大きく、空き店舗を何もせずにそのまま使っているような、そんな雰囲気の漂う得体の知れない建物だ。
(もしかして、ここがマリーのサヌール用拠点か?)
【空間魔法】による転移は、一度足を踏み入れた記憶の鮮明な場所か、目視できている場所を指定する必要がある。
つまり物を受け取りに来るなら必ず決まった転移先がどこかにあり、唸るほど金のある強欲女なら、その指定先は別宅か、自らが経営する店である可能性が高いと思っていた。
少なくとも俺のように、『屋根の上』を指定するなんて野暮なことはしないだろう。
知ったところで、今何かできるわけじゃないが……
この建物は相手のテリトリーである可能性が極めて高い。
俺の【探査】が【隠蔽】で阻害されているだけで、既にマリーは今開催分の品を受け取るため、この建物の中で待機している可能性だってある。
そんな場所にわざわざこちらから足を踏み入れる必要はないし、まだこの程度の弱い段階でマリーとやり合うのもリスクが高すぎるしな。
暫し、思考を巡らせ――。
俺は男の視線を外し、そのまま目の前を素通りしていく。
するとこの状況に66番は焦ったのか。
人目も憚らずに叫び散らしているが、その内容は応援を呼ぶものではなく俺への罵声。
ならば問題ないだろう。
用があるなら俺についてこいと言わんばかりに、人目の少ない場所を探しながら彷徨く。
そして案の定、男は俺を追ってきた。
「はぁ……それで、まだ何か用ですか?」
「き、貴様ぁ! 私を舐めているのか!? マリー様の使いであるこの私を!」
四方を建物で覆われ、視界の遮られたこの立地。
ここならば、マリーがいきなり目の前に現れる心配はない。
が、この男。
少々どころではないほど煩いな……
「聞こえてますから静かに喋ってください。まず舐めているとかそういう話ではなく、オークションのルールで競り合った結果でしょう。落札できなくて怒る気持ちは分かりますけど、だからと言って僕に直接文句を言うのはお門違いでは?」
「だとしても6度だ! 6度も私の入札に被せたマヌケは見たことがないッ! これは私とマリー様に対する明らかな敵対行為だぞ!? どれほどのことをしでかしているのか理解しているのか!?」
「いえ、まったく。あと本当に煩いです」
「き、貴様……まさか、アルバート王国のマリー様を知らぬのか……?」
肩を震わせ怒り散らしていたのに、一転して今度は驚愕の表情を浮かべている男。
俺の静かにしてっていうお願いを、やっと聞き入れてくれたのかもしれない。
「聞いたことくらいはありますけど。【空間魔法】を使う強欲ババアですよね?」
「そうだ……っ、って違うッ! なんと無礼な! 加えて全てを見通す眼を持たれた大陸一の大富豪! つまり大陸の覇者で在られるおか――あがッ……!」
「へぇ……」
全てを見通す眼ってなんだろうな……
【鑑定】か【心眼】、それとも他に何かあるのか?
上位互換の【神眼】は神様限定のはずだし、たぶんこのどちらか、もしくは両方ってこともあり得るか。
この程度の男が情報を口走ってるということは、本人も公にしている事実と判断して良さそうだな。
まぁ、そんな確認は後でもいい。
今は先にやるべきことを。
「これで3度目。あなたさっきから煩過ぎなんですよ」
「んがッ……ンンッ!」
「なので
少
し
移動しましょうか」
――【睡眠】――
――【睡眠】――
――【睡眠】――
――【睡眠】――
男の鼻と口を覆い、呼吸を無理やり止めた上で【
睡眠
】を唱え続ける。
眠るのが先か、窒息で落ちるのが先か。
どちらにせよ、動かなくなればそれでいい。
まずは――この煩い男を攫う。
話はそれから。
次第に男の眼は虚ろとなり……
強制睡眠が約20秒ほどで発動したことを確認した俺は、男を抱えてこの場から転移した。