Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (32)
32話 職業選択
7/17 本日2話目の投稿です
はぁ……予想以上にお金は浮いてしまったけど、なんだか気分は複雑だ。
鎧は譲り受けることになったものの、その後のお代でパイサーさんとは揉めに揉めた。
「元から装備の予算はトータル100万ビーケで考えていたんです。だからこの金額を置いていきます!」
「バカ野郎が! 俺が売ったのは剣だけだ! だったら55万ビーケだろうが!」
「鎧だってこの状態なら十分価値があるでしょう! それに鎧も付与付きなんて聞いてないですよ!」
「売りもんじゃねーから引っ込めてたんだ! つまり俺の私物だ! それで金取るのはおかしいだろう!」
今まで値切り交渉ばかりしていたのに、今回ばかりはまったく逆のつり上げ交渉。
結局このようなやり取りが体感30分以上は続き、最終的には剣をかける革製腰巻ホルダーの中から、一番上等な物を購入するということで決着がついた。
それでも合計70万ビーケか。
確かに鎧は中古かもしれないし、人によっては縁起が悪い、中には気味が悪いなんて反応を示す人がいてもおかしくはないだろう。
受け止め方は人それぞれ。そんなことを仮に言われたって文句を言うつもりは無い。
ただ……不思議としっくりきて、何故か安心できるんだよなぁこの鎧。
ソッと触れれば、細かい傷が表面にいくつもあることが分かる。これが息子さんが頑張った証でもあるんだろうな。
だったら夢半ばで破れた息子さんの代わりに、俺がバッタバッタと魔物を薙ぎ払ってやろうじゃないか。
それが自己満足だとしても、なんとなく供養になりそうだなと思えば頑張ろうという気にもなってくる。
ハンターご用達の商店でポーション4個、ポイズンポーション5個、大きめの革袋、とりあえず1日分の携帯食を購入して、最後の目的地である教会へと向かった。
以前ポーションはアマンダさんに言われて1個だけ買っていたものの、パルメラ大森林では使うタイミングもなく硬貨用の革袋にしまったままだった。
どちらも5個ずつあれば、とりあえずのお試し用としては十分な数だろう。
逆にこの数を1日の狩りで使い切ってしまうようならロッカー平原はまだ早い。
ポーション1個3000ビーケ、ポイズンポーション1個6000ビーケ。
合計45000ビーケもするわけだから、1日にここまで回復にお金を使ってしまえば収入も怪しくなってくる。
一緒に買った少し大きめの革袋にポーションを入れながら、ついでに初めての携帯食である
謎
の
焦
げ
茶
色
い
物
体
を見た。
よく言えば拳の半分くらいある少し大きめなビスケット、悪く言えば馬の糞……
さすがにそっちの匂いはしないが、何かを練り合わせてカチカチに固めて乾燥させたような、まさしく謎の物体だ。
見た目だけで不味さを全開に叩きつけてくるんだから、これを作った人は色々な意味で大したものである。
一応食い物だよねコレ?
味はどんなものなのか、とりあえず食べてみようとは思うものの、あまりにも予想を下回る場合は、宿の女将さんに弁当を作ってもらえないか相談してみることにしよう……
そんなこんなでトボトボと歩きながら考えていたら教会へ到着。
今日は入口にシスターさんの姿が見えないのでそのまま中へ入ると、一般の方が数名椅子に座っており、一人は女神像の前で跪き祈りを捧げている。
神官さんが横にいないので、あれが女神様への祈祷かな?と思いながらキョロキョロ周囲を見渡すと、壁際で別のシスターと話していたおばちゃんシスターを発見。
「こんにちは~」
「あら、こないだの坊やじゃないか。まぁまぁずいぶんとハンターらしい格好しちゃって……それで今日はどうしたんだい?」
「先日はありがとうございました。おかげ様でなんとかお金を貯めることができましたので、今日は職業選択をと思いまして」
「あんたもう貯めたのかい! こりゃ驚いたね……どっかで悪さしてないだろうね?」
「そんなこと言わないでくださいよ! 毎日コツコツ頑張ってたんですから」
「はははっ、冗談だよ。さぁこっちおいで。
神官
のじいさんを紹介しよう」
そう言われてついていった先は、以前入らなかった向かって右側のドアで、中に入ると質素な執務室で机に噛り付いた神官さんが何か書き物をしていた。
「じいさん、職業選択希望の方だよ。今日はまだいけるだろう?」
「うん? まだ【神託】は受けられるので大丈夫ですよ」
立ち上がってこちらに向かってくる神官さんは、近くで見ると60歳くらいだろうか。
ギルドマスターのヤーゴフさんと同じくらいの年齢に見えるが、この人は随分と優しそうな雰囲気だな。
「私はこの町で神官をやっているトレイルです」
「ロキと申します。今日は職業選択をお願いしに来ました」
「ふむ……まだ小さいのにもう職業選択とは。一応確認しますがお布施は大丈夫ですかな? 少しばかり希少なスキルを使うもんでしてな」
「最低限の50万ビーケですが貯めてきましたので、大丈夫ですよね?」
「ほほぉ……結構ですよ。その歳で大したものです。それでは早速準備をするので先に礼拝堂で待っていてください。メリーズ、受領と案内を頼みますよ」
「あいよ。それじゃ行くよ坊や」
そう言われておばちゃんシスターメリーズさんと礼拝堂へ戻ると、女神様への祈祷は早いのか、順番待ちをしていた人が残り一人になっていた。
「それじゃあお布施は先に頂くよ。その後はあの椅子で待っている人の横に座って待っときな。ボーッとしてると抜かされちゃうからね」
うーんこうやって準備の工程が何回も入ると、年甲斐もなくドキドキしてくるなぁ……
言われた通り50万ビーケを支払い、椅子に座りながら前方に立つ6体の石像をなんとなく眺める。
(石像だけあって皆同じような顔……昔教科書で見たギリシャの彫刻みたいだ。あれよりだいぶ雑だけど)
まるでテンプレートの人型のような物があり、そこにカツラや服を着せてちょっと個性を出させているような感がある。
この文明だとこんなもんなのかな~とポヤッと考えていると、待っていた人が石像の前に跪き、10秒くらいして黒曜板の置いてある部屋へと入っていった。
(なるほどね……祈祷は無料だけど、結局その結果がどうだったのか正確に知るためには『ステータス判定』が必要なわけか。教会も上手いやり方を取るもんだ……)
普通は新たにスキルを取得したいと思ったり、取得スキルのレベルを上げたいと思えば、その結果がどうなったのかは誰でも知りたいものだろう。
そのために祈祷をしに来ているわけだからね。
そこをグッと堪えて感覚だけでレベル上昇や取得の結果を予想するか、お金でちゃんと自分の能力を把握するかとなれば、俺だったら20000ビーケ払って把握しようとしてしまう。
教会の大元はファンメル神皇国だったか……
なんだかとってもお金持ちな国の予感がする。
そんなことを考えていたら神官さんの準備ができたようで声をかけられた。
少し派手な上着を羽織り、手には希少と言われている古そうな本を携えている。
「お待たせしましたね。それでは始めましょうか」
「宜しくお願いします」
「ではこちらに」
そう言われながら手で誘導された先は、先ほど祈祷していた人達と同じ石像の真ん前。
足元をよく見れば円形の別の色をした石がはめ込まれており、この場所がお祈りする定位置なんだなと視覚的になんとなく分かる。
「それでは女神様へ向かって跪き、祈りを捧げてください。私も女神様へあなたの意志が通じるよう祈りますので、ただただ
望
む
職
業
に
就
き
た
い
と念じるだけで結構です。念が通じれば【神託】によってあなたの就ける職業が私に下りてきますから、その中から選び、再度女神様へ祈れば新しい職業に就くことができますよ」
「祈る女神様はどなたか選ぶのでしょうか?」
「いいえ。特定の女神様に対して祈るのではなく、全ての女神様達へお願いする気持ちで祈ってください。中には予想外の職業に就ける方もいらっしゃいますからね」
「なるほど……分かりました」
そう言って俺は跪き、前に手を組んで黙祷する。
(望む職業に就きたいです……望む職業に就きたいです……できれば筋力と防御力が伸びやすくなるような近接系の職業に就きたいです……しまった邪念が……お願いしますお願いします……)
なんだか後頭部に気配があるのは、以前目にしたように神官さんが俺の頭の上で手をかざしているからだろう。
(望む職業に就きたいです……望む職業に就きたいです……望む職業に就きたいです……)
(……界…………だ……ぶ……かし……?)
(…人……張ってい……ら……だいじょ…………)
(呼…わよ……準備…て……)
(なんだ? 声が聞こえる……こんな説明受けてないぞ……?)
(…………)
(…………)
「……もう大丈夫ですよ。目を開けてください」
(へっ?)
聞こえたのは目の前から。
明らかにおばちゃんシスターのメリーズさんとは違う、透き通った、聞いているだけで心が洗われるような声。
自然と鼓動が早くなるのを感じながら、恐る恐る目を開ければ――
長閑な自然が広がる視界の中央で、三人の女性が俺を見下ろしていた。
誤字報告ありがとうございます。
ランキングに入れたお礼も兼ねて、本日まだまだ投稿します。