Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (397)
389話 情報の共有
女神様達を除けば、この世界で俺が『転移者』であることまで知っているのは、かつて所持物を見せたヤーゴフさん、アマンダさん、ペイロさんのみ。
その3人も、具体的に俺がこの世界のどこで降り立ったのかまでは把握していなかったはずだ。
母親の胎内から生まれる『転生者』の存在しか知らないであろう人達は、まだ理解に及んでいないのか首を傾げる中――。
より深く事情を知っているヤーゴフさんは、意味を理解し軽く頷く。
「そうなのだろうな……あの時ロキは森からの『脱出』が目的と言っていた。となれば、元あったベザートの南側――、ここより南東の付近ということになるわけか」
「そうなりますね。内密にするべきではないと、そう思ったので敢えてこの場でお伝えしますが、その後もあの付近から、別の『遺留物』を発見しています」
「ッ!? そ、それは本当か!?」
やっぱりかな。
反応を横目で見ながら収納から取り出したのは、かつては存在を伏せたままにしておこうと判断した古城さんのバッグ。
その他にもゴミであることに違いないが、リルが拾ってきたビニール袋とサンダルの片割れも目の前に出す。
「この鞄と、靴はまったく別ですから、少なくとも他に二人、僕以外にもこの世界に飛ばされている人がいますね」
「す、凄い……凄い発見じゃないのよこれ!」
「え? ええ? ロ、ロキさん、これってなんなんすか?」
「ボスの世界にあったモノってことか……?」
「ふむ。こっちのボロっちいのは、ゴミにしか見えんのぉ」
皆がそれぞれ分かりやすい反応を示す中、ヤーゴフさんだけは少しそのモノに視線を向けたあとは、一点に俺を見つめていた。
「当然、昨日今日で見つかったということではないだろう。今、この場で明かした理由は?」
「このままだと、この町に危険が伴う可能性もあると、そう判断したからです」
「森を切り開けば、いずれ当たる……もしくは、その範囲にもう入っている可能性もあるか」
「はい。僕自身も正確な場所は分かりませんし、そもそも固定の場所なのか、それとも一定の範囲があるのかも分かりませんが、ここから近いことだけは間違いありませんから」
「でも、危険って……当時のロキ君みたいな子がいきなり現れるかもしれないってことでしょ?」
「このバッグの持ち主は大人の女性ですし、もし現れたとしても子供かどうかすら分かりませんけどね」
苦笑いしながらそう伝えつつ、言葉を続ける。
「たぶん異世界人が突如現れたとしても、この世界に来た直後であれば大した脅威にはなり得ません。気が動転して慌てふためき、危害を加えられる可能性もなくはないですが、”戦力”という見方をすればゴブリン程度である可能性が高いと思います」
「じゃったら、何を心配する必要がある?」
「それでも異世界人なので、どんな能力や所持物を隠し持っているかは分からないんですよ。なのでもし周囲と明らかに格好の違う者が現れれば、最終的には僕が対応しますから、事を荒立てずに迎え入れていただきたいと思っています」
今まではリルがやっていた見張りも、付近にこうして町ができてしまえば難しくなってくる。
ならばその役目は必然的に住む町の人達で担ってもらうしかなく、事前に伝えておかねばもし本当に現れた時、危険――というよりは混乱を招く可能性が高い。
「その程度であれば、敢えてこの場で伝えるほどとは思えないな。他にも――、あぁ……周知徹底させたいのは、外部に漏らすことの危険性か」
「はい、それが一番危険に感じていることなので、事情を深く知っていたヤーゴフさんだけに伝えるのもどうかと思ったんですよね」
「ん? どういうことだ?」
ベッグの疑問は横にいるクアドも、事情を理解していない町長も同じだな。
「どこの国も、異世界人って言ったら欲しがるでしょ?」
「だろうなぁ。凄いスキルを持っているっつー話だし……んん? でもゴブリン程度の戦力なのか?」
「ちょっと難しい話になっちゃうんだけど、魂が胎児に宿る『転生』と、身体ごとこの世界に飛んでくる『転移』と、異世界人って言っても実は2種類いるんだよね」
「でもそんなこと普通知らないっすよ? って、だからここが他国から狙われるってことっすか!?」
「そういうこと。他所はそんな事情なんて知らずに、異世界人と聞けば『何か凄いスキルを所持している』と思うわけだけど、晩成型っていうかなんていうか……こうやってモノだけが残されるくらい、飛んできた直後の転移者はか弱い可能性が高い。にも拘わらず高い確率で異世界人の現れる場所があるなんて知ったら、求めている国からすれば格好の的になるでしょ? 実際捕まえれば、戦力にならずとも高い文明の知識が得られるわけだし」
「……私に『遺留品』を伏せていたのもそういうことか」
「すみません。その時はまだ、伏せることがベザートの平和に繋がると思っていましたから」
「今は、違うってことよね?」
「ええ。南部侵攻軍の司令官から、ヴァルツがベザートを襲わなかった理由は僕に関わりがあるから、下手に刺激しないようにという……ただそれだけの理由だったと聞かされたんです」
「街道が北にしか向いておらんからと思っとったが……」
「はぁ、偶然じゃなかったわけね」
「それで、こないだの挨拶と、王という宣言に繋がるわけか」
「それが一番、守りたいと思えるモノを守るには現実的だと思ったので。なので最悪は情報が漏れても、僕の名前がある程度の抑止には繋がるはずですが……常時この町にいるわけではありませんから、余計なリスクを招かないよう、この情報をどう取り扱うか皆さんで決めてもらえればと思っています」
異世界人が現れる可能性を広く町民に知らせれば、もし現れた際は混乱を避けられるけど、多くが知ることで外に情報が漏れるリスクも増す。
逆に異世界人が現れることを町民に広めなければ、もし現れた時は混乱するかもしれないけど、外に情報が漏れるリスクは大きく避けられる。
一利一害の選択。
その中で本当に現れるかは分からないという点を考慮し、一人目が実際に現れるまではこの5人で情報を留めるという結論に、俺も納得して頷く。
銃でも持っていたら絶望的だが、そんな可能性まで考え始めたらキリがないからな。
それにフェルザ様の性格を考えれば、森を切り開けばポイントを外してくる可能性だって十分にあり得る。
が、ヤーゴフさんの目の色が少し変わったのだから、これで彼の夢は少なからず前進するだろう。
拠点と同じ、皆がやりたいことをやりながら、笑って過ごせる場にすればいい。
そう思いながら今のところの状況や問題点、旧ベザートに戻った者がいるかどうかを確認し――。
把握している限り誰もいないということなので、この開拓村の名をそのまま『ベザート』とすることで決定した後。
俺は倉庫整理をするため、一度拠点の下台地に帰還した。