Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (400)
392話 宗教と金
酷い有様だ。
以前上空から見た時にも荒らされていることは分かっていたが、こうして地上に降りれば猶更にその被害状況がよく分かる。
戸は蹴破られたように倒れ、壁には槌や斧などで破壊された大穴が。
どの建物も中に侵入されたと分かる痕跡ばかりが続いていた。
犯人は――。
「金と食い物を寄ご、ぉッ……」
――先ほどからポツポツと現れる、野盗と化したヴァルツの残党兵だ。
存在を把握できたのは4人だから、これが多いのか少ないのかは分からないけど……
あれから10日くらい経っても隠れ潜み、こうして様子を見に戻ってきた人を襲い、町の残留物や魔物でも食って生き延びているんだろう。
国に戻ろうとしないのは、もう戻れないと諦めているからなのか。
「やっぱり、
掃
除
は必要かな」
落ち着いた今なら、害悪な存在を数十人斬ったところで何も思うことはない。
とっとと死体を回収し、まずはパイサーさんのお店へ。
建物は中も外も荒らされていたが、やはり、炉は以前見た時と変わらない状態のまま放置されていた。
持ち運べもしない炉なんて、普通は興味の対象外だろうからなぁ。
「ん~原理を考えればいけるはずだから、ちょっと地面を抉るように――『収納』」
すると岩や粘土で地面と繋がっているように見えた炉が、スポッとくり抜いたように消失する。
うんうん、やっぱり生き物じゃなければ応用が利くね。
今回は皆が作り始めているからやらないけど、これなら家を丸ごととかでも問題なくやれそうだ。
続いて俺は、目的の場所でもあった教会へ。
「おっ、どっちも問題無しか」
ここも荒らされていたが、やはり求めていた物は手付かずのまま存在していた。
黒曜板は俺の背丈くらい、神像は1体3メートル近くあるからな。
試しに持ち上げてみても、兵士の2~3人が頑張ったところで長い距離を移動させるなんてことはまず無理だろう。
これらも使う可能性があるので、一旦は回収。
ベザートに戻り、使い慣れた炉をパイサーさんに渡した後は、廃墟と化した町に潜む残党狩りをしながらラグリース東部をグルリと回り――。
抱えていた食料を放出しつつ、王都ファルメンタに向かった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「な、なるほど……食料の配給や生存者の規模まで調査してもらえるとは、毎度のことながら感謝の言葉もない……」
「いえいえ、余り気味の食料を整理しただけですから。それに今回やったのはラグリースの東側だけですし、調べ方もかなり雑ですからね」
地図を見ながら各町に転移し、【広域探査】で『ヴァルツ残党兵』と『生き残りの町民』を確認。
漏れを減らせるよう、狩るついでに【探査】でも『ヴァルツ残党兵』を確認しつつ、生存者がいればその数に合わせて10日分くらいの食い物を置いてきただけだ。
高速で次から次へと移動していたので30分も時間は掛かっていないが、大量にあったはずの食料はあっさり底を突いてしまった。
「ちなみに隠れ潜んでいた兵はどの程度だったのでしょうか?」
「東はほぼおらず、南東と北東の廃墟に合わせて100人弱ってところですかね。あと考えられるとしたら、僕も細かくは把握していない村くらいだと思います」
「となれば陛下、追い込みの成果は出ておりますな」
「うむ。だがやはり食料が問題だな……西からは依然として運ばれてこないのか?」
「多少は入ってきているものの、やはり圧倒的に少ないと、そう報告を受けております」
「ん? まだ何かやられてるんです?」
「いや、それが確定的な話ではないから対処に困っておる。利に目聡い商人が西から数多の品を売りにラグリース国内へ入ってきているのだが、なぜか今一番欲しい食料だけが異様に少ないのだ」
「少ないけど無いわけではないから、ジュロイが絡んでいるのかも分からないってことですか」
「それもあるし、仮に関係していたとしても、例年ラグリースからジュロイへ大量に輸出していた穀物類は完全に途絶えているからな。焦って高値だろうと食糧確保に動いてる可能性もある」
悪意のあるなし、どちらも有り得るとなると面倒な話だな……
まぁどちらにせよ、今はそこまで手が回らない。
俺は俺で、自分の所のためにまずは動く。
「いつまでも無償で配るなんてことは、誰のためにもならないのでしませんけどね。当面は食料が安定的に入る見込みが立っていますから、生きるか死ぬかという段階の時くらいは配っておきますよ。旧ヴァルツ領は買うお金も無さそうですし」
「本当に助かります。せめて元々のラグリース領内くらいは、備蓄食糧や西側の農作物で耐えられるようこちらで動きますので」
「ぜひお願いします。あ、それと二人にお聞きしたいことが」
「「?」」
「避難先の新しい町――『ベザート』に教会を作りたいので流れを教えてほしいんですけど、ファンメル教皇国と何かしらのやり取りが必要だったりするんですかね?」
そう問えば、シラグ宰相は分かりやすくうんざりした表情を浮かべながら答えてくれる。
「それはもう。現地に赴いて枢機卿の一人、ルクレール司教に新設書を提出せねばなりません」
「それだけであれば普通に思えますけど、その表情はいろいろと問題があるんですか?」
「問題と言いますか、提出するための謁見や、認可が下りるまでもかなり待たされるんですよ。我が国が一番最後に申請を出したのは、火事による破損があった年なので、かれこれ10年近く前だと思いますが……その時は交換の申請で約20日ほど使者が現地で待たされたはずです」
「ええ……ただの申請だけでですか」
「そこからは視察団による現地の確認、教会の規模に関する助言という名の勧告、受理から建造、神具の搬入まで、新設となれば最低でも1年ほどは期間が掛かるかと」
「うぇ」
てっきり金の話だと思っていたら、厄介なのは期間や段取りの方か。
それはそれで面倒だが、しかし――。
(そんな待てるわけないよなー)
一人そう思っていると、ヘディン王がボソッと呟く。
「それに決して大きな声では言えぬが、費用も相応に掛かる」
「ん? 如何ほどで……?」
「地方の町に見られるような、6体神像が全て1つに纏められた教会であれば約80億ほど。ここ王都にあるような、各女神様が個別に祭られている教会であれば、6体合計で300億ビーケほどは金が掛かる。それに町の規模が大きければ献金の額も大きくなるし、先ほどの時間を短縮させようとしてもまた大金がかかる」
「その献金額を決めるために司祭が下見に来ると言われているほどです」
「たかっ……え? そんな金額じゃ、小さい国とか無理じゃありません? まず僕が無理ですし」
「かと言って教会が無ければ、民の生活にあまりにも大きな影響を及ぼします。なので王家が大商会や商業ギルドから金を借りるなどはよく耳にすることなのです。我が国も現在余力がまったくないので、なんでしたら、ラグリース内の商業ギルドをご紹介しますが……」
「あ、いえ、大丈夫です……ちなみに旧ベザートにそのまま捨てられている神具を、そのまま引越しさせちゃっても大丈夫ですかね?」
「旧ベザートに誰も住んでいないのなら、こちらとしては問題ないが……」
「ファンメル教皇国がなんと言うかは、分かりませぬな」
「そこは責任を持ってこちらで対処しますので」
はぁ――……
これは、駄目なやつかもしれない。
宗教を否定したりはしないけど、金の臭いがプンプンし過ぎて、この時点で嫌気がさしてくる。
アリシアに経済観念は無かったし、たぶんこんな話になってるなんて知らないんだろうな。
さて、この忙しい時にどうしたものか……
「……ではロキ王、金にも困っているようだし、例の書物関連を今渡そうと思うがよろしいか?」
「あ、あぁ、大丈夫ですよ」
「では書庫の方へ」
書庫、か。
そう聞くと、どうしてもばあさんを思い出してしまう。
「ヘディン王、この世界はどのように埋葬するのが一般的なんですか?」
「身体は燃やし、骨は神像の前に置いて清め、その後ゆかりある土地に撒くというのが一般的な習わしだな。もちろん地域や種族によっての違いはあると思うが」
「なるほど、墓と呼ばれるモノはないのですね」
こればかりはしょうがないか。
墓があればお参りでもと思ったが、旅の中で墓に類するモノを今まで見たことがなかった。
「事前にニーヴァルから言われていてな。砕いた骨は宮殿の庭園に撒かせてもらった。本人が好きだったのでな」
「ふふっ、ばあさんらしいですね」
その後は目立つ会話もなく、案内のために前を歩くシラグ宰相とヘディン王の、少し寂しそうな背中を見つめ――。
「さぁ、入ってくれ」
そう言われて書庫の向かいの部屋に入れば、少し懐かしい気もする3人が、かつてのようにそこで仕事をしていた。