Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (401)
393話 新たな住人
「あ……」
「こんにちは」
真っ先に反応したのはエニー。
その声に青みがかった皮膚をしたケイラちゃんが顔を上げ、すぐにエニーは顔をくしゃりと歪ます。
「うぅ……ロキ、大ばあちゃん、死んじゃったよぉ……」
ポロポロと溢れ出る涙。
間違いなく、責めるような言葉ではない。
それでも、最後は俺が手を下したことで土に還ったのだから、ズキッと胸に痛みを覚える。
「俺が見届けたから。国と皆を守るために戦って戦って……本当に最後の最後まで立派に戦い抜いたんだよ」
「う゛ん……教えでもらった……ひぐっ……国の英雄だって……」
「そう。だから悲しいのは皆一緒だけど……誇りに思って強く生きなきゃ」
鼻水を垂らして号泣するエニーは、まだまったく心が癒えていない。
肉親であり、宮殿内で一緒に暮らしていたのだからしょうがないか。
「アルトリコ、頼む」
気付けば一人手を動かし続けていたアルトリコさんも顔を上げており、シラグ宰相の言葉に頷いた後は背後の扉へ消えていく。
「まだ作業中でしたら、今じゃなくても構いませんよ?」
「いや、そんなことを言っていたら、いつまで経っても渡せなくなるからな」
「そうですか……」
「それに3人が『本』の書き写しをしているということは、あちらの写しはもう終わっているはずだ」
言われて視線を向ければ、確かに3人とも本の複製品を作っていた。
ばあさんがいない以上、指示を出したのは王か宰相か。
この場から無くなる前に少しでも複製を――、きっとそういうことなんだろうけど、終わるのを待っていたら今までの取引と変わらないペースになっちゃうもんなぁ。
「お待たせいたしました。まずはこちらが『源書』の完品1-16と18番、そして小箱の中には未完の『叡智の切れ端』と、その一覧を纏めた用紙が収められております」
「済まないロキ王。ラグリースは代々『源書』より、遺物の発掘や収集に金を回す傾向が強くてな……お世辞にも多くを集めているとは言えないのだ」
「いえいえ、ヴァルツ王家からの押収分も頂いているので、こちらとしては十分ですよ」
楽しみはのちほどに。
その後も次々と運ばれてくる『本』を一通り収納し、これで全てとなったところでヘディン王が意外な言葉を口にする。
「それでな、ロキ王。できればこの3人も、一緒に連れていってはくれないか?」
「え?」
一瞬戸惑うも。
その理由をすぐにエニーが教えてくれた。
「大ばあちゃんが、私達3人に、ひぐっ……ロキを頼れって」
「ばあさんが……」
「不躾な願いであることは重々承知しております。ただ私とケイラは外で人並みの生活をすることが難しく、この場で書物の管理や作製をすることで居場所を与えられてきました。できればロキ王の下、引き続き書物の仕事に携われればと」
「お、お願いします……」
考えてみれば、当然か。
書物の類がこの場から綺麗になくなれば、ここでの仕事だって同時に無くなる。
お礼に書物をくれるというから喜んで受けたけど……そうか。
アルトリコさんとケイラちゃんは、ここだけが居場所になっていたのか。
視線をヘディン王に向ければ、やや慌てた様子で弁明する。
「もちろん、こちらで別の仕事に就かせることだって可能だ。書物も礼として引き渡したからと言って、今後一切収集しないということではない。あくまで本人達の希望なのだ」
「本人が希望するなら構いませんが……えーと、エニーはこれからどんなことがしたいの?」
「大ばあちゃんを超える魔導士になりたいから、ちゃんと勉強して、それで、ロキにも教えてほしい」
「なるほど、魔導士として強くなりたいわけね。アルトリコさんは――、書物に関わることか」
「はい。新しい知識に触れることで、既知の情報が広がりを見せる瞬間が堪らなく好きでして……できればそのような環境で仕事をしたいと考えております」
「はは、なんか自分と近い感覚持ってますね。ケイラちゃんは、何がしたいとかあるかな?」
「えっと、ごめんなさい……まだ見つけられていなくて、だから、その、見つけたいなって、そう考えており、おります」
「そっか。あ、アルトリコさんもだけど、喋り方はそんな畏まらなくていいですからね」
うーん。
3人の要望、抱える容姿の問題も考えれば、ベザートじゃなく拠点だよなぁ……
いちいち相談しなくても、この3人ならまず問題はないだろう。
「了解しました。では3人ともこちらで引き受けます。あぁヘディン王、生死に直結する話でもないのであげたりはしませんが、本の重複分や複製品は必要があればお売りすることもできますからね?」
「ふはは、逆の立場になってしまったか。残念ながら今は買う余裕がまったくないゆえ、最低でも3年ほどは待ってほしいものだ。必ず国を回復させるのでな」
「ですって、アルトリコさん」
「それでは、頑張って複製品も作っていかないといけませんね」
こうして引越しの決まった3人が僅かな荷物を纏める中、俺は俺で王家の抱えていた羊皮紙を大量に購入。
多少ラグリースに金を落としつつも皆で庭園に立ち寄り、各々がお別れの挨拶をしたあとに拠点へ転移した。
――が。
「ここがパルメラ大森林の中にある俺の拠点だよ。住民はこれから紹介するとして、ここに来た以上は皆さん俺の仲間と見なしますので、もう敬語は使いませんからそこんとこよろ―――」
「ヒッ……」
「ん?」
真っ先に悲鳴をあげたのは、横にいたアルトリコさんだった。
一歩二歩と、後退る中。
「あ、ロキお帰り~その人達だれ~?」
血染めのナイフ片手に走ってくるのは、口回りを中心に赤く染めた、男か女かも分からない赤目の子供。
その後ろを、全身血だらけの浅黒い男とデカいゴブリンが、真っ赤なノコギリを持って歩いてくる。
ジェネに至ってはぷらぷらと、人の片足まで握っていた。
「ぎゃあああああ!! たた、たっ、食べられるぅー!!」
「私美味しくないですから! ちっとも美味しくないですから!」
「私のお肉なんて硬っ……ちょ、待って……はやっ……!」
叫びながら物凄い勢いで逃げていく、3人の向かう先が魔物のいない崖の方であることに安堵し。
その後、未だ大量にある裏庭の死体を見つめ、ボソリと呟く。
「あぁ、まだ作業中だったのね……」