Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (405)
397話 久しぶりにあの地へ
「うーん、久しぶりだなー」
仙人が住んでいそうな高く険しい岩山が聳え立ち、雲のかかる上空を大小さまざまな生物が飛んでいる。
そう、ここは過去に1度だけ訪れた国。
俺はハンスさんの治めるエリオン共和国を訪れていた。
地理的になんとなく予想はしていたけど、エリオン共和国の西側はパルメラ大森林に隣接しており、つまりはアースガルドとお隣さんの関係だ。
ヘディン王以外で他に唯一知っている国のトップなわけだし、強国相手にそのうち訪れようなどと悠長なことは言っていられないだろう。
(視線は相変わらずか……)
装備の大半はロッジに渡しているため、今はゴテゴテとした戦闘衣装に身を包んでいるわけではない。
にも拘わらず距離を空け、怯えながらも様子を窺う者達が多いのは以前と変わらず。
それでも襲ってこないだけマシだろうと思いながら階段を上り、上から眺めるように見張っていた獣人の兵士に声を掛ける。
「すみません。ハンスさんとの面会を希望しているんですが、謁見の予約とかって必要なんですかね?」
「それは当然だが……願えば誰でも通せるわけではない。まず貴殿は何者で、ハンス様にどのような用件があって謁見を求めるか?」
「えーと、アースガルドという国を興しまして。それで新しい隣人として挨拶に来たんですよ。僕は異世界人ロキ、そう伝えてもらえれば知り合いですから、ハンスさんはすぐ分かると思います」
「い、異世界人……? それに、国、ですか……?」
反応からすると、たぶん事情はまったく把握していない。
それでもこの言葉に委縮した様子を見せた兵は、道の反対側に立つ兵士に目配せをし、その兵はすぐに奥の宮殿へと慌てた様子で駆け込んでいく。
特にこの国は、異世界人という言葉の影響力が強いだろうからなぁ……
そして待つこと暫し。
兵に連れられ宮殿から現れたのは、見覚えだけはある狼頭の獣人と、もう一人は特徴的な帽子を被り、黒い布で目元を覆った女性だった。
「あ、メイビラさん。お久しぶりです」
「………やはり、以前に連れられてきた子供姿の者でしたか」
「ふむ、ボスの知り合いであり、あの知らせにあった本人となれば『挨拶』というのも頷ける。新たなる王よ、我らが案内させていただこう」
はぁ。
王として名を表に出すと決めたのは自分なのだから、いい加減この畏まった対応にも慣れていくしかないのかな。
普通にしてほしいとその都度対応することに面倒さを感じつつ二人の後をついていけば、この国の重鎮であり重要戦力と思われる面々が興味深げな様子で俺を眺めていた。
なぜか、以前にも見た銀毛のデカい獣は半身を起こし、牙を見せてグルグルと低く唸っているが……
様々な視線を浴びながら向かった先は、この建物にしては珍しく、やや煌びやかな印象を受ける広めの部屋。
そして大きな机を挟んだ奥には、目の覚めるような青い髪をした目的の人物が座っていた。
「よう、久しぶりだな。元気そうじゃねーか」
「お久しぶりです。ハンスさんもお元気そうで、急に訪ねてしまってすみません」
「カカッ、んなこと気にすんなよ。来た理由はコイツだろ?」
そう言いながら、手でヒラヒラと振ったのは一枚の羊皮紙。
あれが各所に送ったという、ヘディン王からの手紙だろう。
詳しい中身は知らないけど、既に届いているのであれば話が早い。
「ええ、パルメラ大森林を領土とする国を興したので、それでまずはご挨拶にと」
「まさかロキが異世界人の王を名乗るとはなぁ。つーかパルメラなんて、どこまで行ったって森しか見たことねーけどよ。あそこに人が住めるような場所なんてあんのか?」
「いや、僕も領土とか言いつつ一部しか把握してないんですけどね。当たり前のように魔物が周囲をうろついている中で開拓してますよ……」
「くははっ! 今更原始人みたいな生活とか、おまえもモノ好きなやつだな」
いきなり大笑いされているが、傍から見たらその通りなんだよなぁ。
まぁ何もないからこそ、自由で楽しかったりもするが。
「あぁ~腹いて……んで、ロキはなぜ国を興し、王を名乗ることにしたんだ? 当然理由があるんだろ?」
「もちろんです。守りたいと思う人達を自分の手で守れるように、あとは外に対しての威嚇も込めて、自分の名前を表に出したってところですかね」
「俺と似たようなもんか」
「そりゃそうですよ。きっかけはラグリースの王から受けた打診ですけど、決断に至ったのはハンスさんという手本になる人物を知っていたからですし」
「おいおい、俺のせいってか?」
ハンスさんは頬を掻きながら苦笑いしてるけど、これは紛れもない事実。
考え方に共感できる人が行動に移し、実際に守られている人達と会えたから、俺もという気持ちになれたんだ。
「ちなみによ。自国に手を出したらタダじゃおかねーぞっていう意味での威嚇は分かるが、ここに書かれているもう一つも本気なのか?」
「えーと、中身までは詳しく把握していなくて……もう一つというのは?」
「『地図』を悪用したからヴァルツ王家は吹っ飛ばされた。今後も同じように『地図』を軍事利用する国があれば、”異世界人ロキ”がその国の中枢をふっ飛ばすって書かれてるぜ?」
数秒前とは打って変わり、ハンスさんの表情は真剣そのもの。
自身がまさにその中枢なのだから当然のことだろう。
ならばと俺は、予め決めていた答えを大真面目に答える。
決してハンスさんと敵対などしたくはないが、だからと言って馬鹿正直になんでも答えるわけにはいかない。
ここにはハンスさん以外の人達もいるわけだし、ベザートのリスクが増すような行動――俺が転生者ではなく転移者であることだけはしっかり伏せさせていただく。
「潰した理由はそれだけじゃないですけどね。地図は皆が幸せになるために利用してほしいですから、自分だけが得をしようと悪用し、周囲に害を与えるような国のトップは見せしめにと、程度にもよりますけどそう思っています」
「なるほどな……いろいろ突っ込みたいところも多いが、やはり地図を生み出していたのはロキだったか。どうやって、存在に気付けた?」
「スキルですよ。職業加護で得られる恩恵の一つに、【地図作成】という特殊なスキルがあるんです。長く所有者はいなかったっぽいですけど」
「かぁーマジかよ……ここ最近まで、頭ん中にしか地図が無いことに疑問を感じなかったのは、そのスキルが絡んでやがるからなのか……?」
この言葉でどちらか不確定だった転生者も、”世界の縛り”にしっかり巻き込まれていたのは確定かな。
マリーも勇者タクヤも地図は所持しておらず、ハンスさんのように俺の作った実物から存在を認識したとしても、精度の高いモノを自ら生み出すことは相当困難だろう。
「それはなんとも。ただ個々が頭の中で思い描く独自の地図しかなかったせいで、この世界は物流も情報の伝達もボロボロだったわけですから、僕はそれを地球のような正常の流れにしていきたいなって」
「それで地図の良いところだけを活かそうとしているわけか」
「そうなります。簡単なことじゃないのは分かっていますしやり方は乱暴ですけど、それが自分達の国を守るための脅しにもなり、最終的には多くの人が幸せを掴めるやり方だと思っていますから」
「……だってよ?」
警戒されているのか、それともこの程度なら緩い方なのか。
ハンスさんの背後を定位置と言わんばかりにメイビラさんが。
その脇に山羊の獣人が立ち、先ほどの狼頭獣人含め、明らかに雰囲気から戦闘を得意とする者達が俺の背後に数名控えていることは分かっていた。
その者達へ意見を求めるように、ハンスさんは周囲をゆっくりと見渡す。
が、周囲が何かを言葉にすることは無かった。
ハンスさんが先に口を開いたからだ。
「悪い、うちの幹部連中にもこの手紙を見せていてな。内容が内容だから警戒っつーか、ロキがどんな考えを持っているのか興味を示すやつが多かったんだ」
「なるほど」
「が、蓋を開けてみりゃ俺の思想と大して変わらなかった。手の上から零れ落ちるような守り方をするくらいなら、しっかり掴んで握りしめろ。ついでにその拳で敵は思いっきりぶん殴ってやれってな」
そう言いながら拳を強く握って突き出すハンスさんに、思わずクスッと笑いながら同意を示す。
「その通りですね。今回の戦争で自分の考え方では温かったと痛感しましたから」
「それに地図があることの利点は、俺が異世界人だからこそ余計に理解もできる。そろそろ、アイツらも次の段階に進んでもらわなきゃならねーしな」
「アイツら……もしかして、人間に怯えていた人達ですか?」
「あぁ、人間だから全員が全員悪ってわけでもねーんだ。うちの地図が広まれば人の出入りだって必然的に増える。なら良い機会だと思って、少しずつ接点持たせて克服に繋げていかねーとよ」
「ふふ、僕は政治なんてさっぱりですけど、それでもやっぱりハンスさんは見習うべき為政者に見えますね」
「ったく、褒めたってなんも出ねーぞ……たんぽぽちゃん、抱いてくか?」
「待ってました、その言葉」
エリオン共和国のような領土拡張を主目的としない、誰かを守るための国なら俺が敵対するなんてことはまず有り得ない。
そのことが分かったのか、部屋にいた人達は幾分緊張が解れ、表情が和らいだ様子だった。
その後は癒し場でお互いモフモフしながら近況報告も兼ねた情報交換をしつつ、俺は俺で気になっていた【魔物使役】の重要な仕様をいくつか確認し――。
(知らせの『青』と、緊急の『赤』か……)
――最後に、【洞察】を使用してからこの国をあとにした。