Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (416)
408話 サンドバッグ
何がきっかけだったのか。
気付けば【地図作成】で表示される国境線が、ラグリース領土に戻っていたオーバル領。
その中心地『テロイア』で、以前にも訪れた屋敷に向かうと、炭を使って廃材に何かを書き込んでいるトーラスさんを発見した。
「こんにちは~」
「あ、ロキ様!」
「おぉ、自分達でも簡易の地図を作ってるんですね」
「町の中心に店の残骸が残っていても、品物も無ければ家主もおりませんから、その辺りをどうしようかなと」
「なるほど」
人がだいぶ消えて今はベザートくらいの規模感になっちゃってるけど、ここって元々は領都だもんなぁ。
どうせ復興作業をするなら、ある程度計画性を持って動いた方がいいだろうし……
なら早いうちの方が良いか。
そう思ってトーラスさんに渡すモノを渡し、ヘディン王に伝える前だがここ数日で進展があった部分を順番に伝えていけば、その度に居合わせた人達から歓声が上がり、その声に釣られて周囲から人が集まってくる。
「こ、ここっ……これほどの、お金を……」
「元々この地にあったお金もそれなりに含まれていますし、皆さんの奪われた品をお金に換えている部分もあります。僕はこの国の王でも管理者でもないので、上手くこのお金を使って『テロイア』だけでなく、領地全体の復興や個人の保障に充ててください」
「ち、ちなみに領主は――、オーバル侯爵やご家族は……?」
「見つけましたよ。自分達の命と資産を最優先してこの地を真っ先に捨てておきながら、いざラグリースが勝ったことを知れば当たり前のように戻ろうとするクズだったので、ご希望通りちゃんと地獄を見せておきました」
このためにオーバル家の死体は収納したままにしておいたからな。
言いながら捩じ切った全員分の死体を表に出せば、静寂はほんの一瞬で。
苦しみ抜いたその死に顔にすぐ歓声が沸き、狂ったように周りの兵は喜び抱き合う。
恨まれて当然とは言え、こんなに自分達の死が喜ばれるとは哀れなもんだ。
「本当に……本当に、ありがとうございます……!」
「いえ、その代わり悪さをすればこのようになるという見本でもあるので、皆さんは同じような目に合わないよう真っ当に生きてください。お金をまともに使う場所がなければ、当面は心配もいらないでしょうけどね」
「もちろんです。カルージュの商人達は、かなり早い段階で動いてもらえるのですか?」
「ですね。そちらがまず先に来て、後からジュロイ王国の指示で多くの物資や資材、それに人材も入ってオーバル領の復興作業を一気に進めるよう、向こうの王に話しています。ジュロイが国として動く方に関しては全て向こうの負担になりますから、上手く相談しながらやってください」
こう伝えるも、やはり反応は微妙だな。
交易があるのだから他国の商人程度なら問題ないのだろうけど、ジュロイから多くの人材が入ってくるという段階で難色を示す者達が増えてくる。
西の仕業だと踏んでいる者達にとっては、家族や私財を奪われた敵国。
おいそれと受け入れられないというのも当然の話だ。
だからある程度の人が集まったこの段階になってようやく、オーバル領が襲われた経緯について説明していく。
全ての企みは、出世欲と金銭欲に塗れた腹の黒い一人の貴族から。
その貴族に唆された対岸レイムハルト領の領主も金に目が眩み、ジュロイの仕業とバレたくないために兵を賊に偽装してまでオーバル領の蹂躙を行なった。
なのでジュロイに住む人々はオーバル領が襲われたことすら知らず、ジュロイの王も謀られた側であると。
このような事実を伝えれば、先ほどとは一転して静まり返る場。
オーバル家の死体で溜飲を下げた者もそれなりにいるだろうが、アレは領主として有るまじき判断をしたという話で蹂躙の首謀者ではない。
眉間に深い皺を寄せ、怒りの矛先をどこに向ければいいのか分からない。
そんな表情をした者達も多くいるとなれば、やはりこの男の出番である。
ゴツッ――
「ウッ……!」
優しく蹴ると、呻きながら男が起きたようなので、
新
し
い
住
人
としてしっかり紹介しておこう。
「えー横にいるのが全ての元凶であり、今もまったく反省していない男――、ジュロイのロイエン子爵こと”サンドバッグ”と言います」
「「「??」」」
本人も、トーラスさんも、周囲の兵達も。
全員が何も理解できていない顔をしているので、説明を続ける。
「皆さん家族を亡くされ、私財を奪われ、散々な目に遭っている中で、今後ジュロイの人達と多く接点を持つことに抵抗を感じている方もいらっしゃると思います。ただ先ほどもお伝えした通り、ジュロイの人々はほとんどの人間が何も知らないのです。なので怒りの矛先は全てこの男にぶつけてください」
「え、えっと、どうやって……?」
戸惑いながらもトーラスさんが疑問を口にするので、実践とばかりの目の前で試す。
――【結界魔法】――『燐光』――魔力『10000』
――【回復魔法】――『ゆっくり、癒せ』
――【神聖魔法】――『ゆっくり、癒せ』
まずは、継続的な回復効果が望める3種の重ね掛けを。
そして――。
「あがッ!」
皆の目の前で手足を斬り飛ばせば、傷口の出血は10秒もかからずに収まり、部位再生はせずに皮膚が形成されていく。
うん、イメージ通りだな。
「このようにここから大きく動かさなければ、殴る、蹴るはもちろん致命傷に繋がらなければ斬る、刺す、剥ぐ、削るでも問題ありません。皆さん順番は守って、存分に溜まった鬱憤や恨みをこの男に向かって晴らしてください。この町の復興のために来てくれるジュロイの人達に当たったのでは、その人達がかわいそうですから」
「あ、あの、本当に、いいんですか?」
「もちろんです。この男はハンターで言えばCからBランク程度の実力はありそうなので、だいぶ実力差があるという方は素直に武器を使った方が良いかもしれませんね」
そう告げれば兵士の一人はすぐに腰の短剣を抜き、鬼の形相で腹部をメッタ刺しにする。
「うぉおおあああっ!! 娘をッ! 妻をッ!! 返せぇええあぁアアアアアアッッ!!」
「おごァ! ぐっ……、ごあッ! あがッ!!」
大粒の涙を流しながら短剣を振るう兵士は、きっと実力が足りていないのだろう。
3分の1程度しか刺さらない刃の傷はすぐに塞がり、出血さえまともに出ないのだから、これなら相当長くこの男を活用することができるはずだ。
一人の行動でタガが外れたのか、空いた場所に短剣を刺そうとする者、脇腹の肉を削ぎ落そうとする者、顔面を何度も踏みつける者など様々だが、俺はその横でまだ当分は大丈夫だろうと今後のために看板を作る。
行く先で一々”用法”の説明をしていくのは面倒だからな。
サンドバッグを転がし、あとは看板を立てておけば、これからを生きるために必要と思う人達が勝手に使用していくだろう。
「お? ゴリッゴリに踏まれまくってますけど、ボコボコだった汚い顔も随分綺麗になったじゃないですか」
「うぐッ! ぐぅうッッ! いざ…が……ッ!?」
「ん? 何言ってるか全然分からないんで、特別に今だけ口の布を取ってあげますよ」
「は、やぐ……ッ! ごろ、ぜぇ……!!」
「ははっ、何言ってんですか。あなたにはずっと生きてもらいますよ。オーバル領に残された兵士達の憂さ晴らし用にね」
「ッ!? ぐ、おっ……正気、か……?」
「もちろん。あなたが死にたがっていたことなんて分かっていましたから。だからジュロイ王や僕にも挑発していたんでしょう?」
「ぅぶっ……」
「だからあなたは殺さない。これから1日置きにオーバル領の各町を回って、その後はここテロイアがあなたの新しい居場所になります。反省も謝罪もできない生ゴミは、その動けぬ身体で人の糞でも食らいながら、寿命が尽きるまでひたすら苦痛を味わっていればいい」
「はっ……はッ……ぎざ、まは、がっ! に、人間…じゃ、ない……」
おかしいな。
『燐光』は精神の回復にも効果があるはずなのに、殴られ過ぎてもう頭がおかしくなったのか。
俺が常に張り付き、魔法を掛け続けられるわけじゃないのだ。
寿命とは言うも、まず間違いなくどこかでやり過ぎたことによる致命傷を受け、治療が間に合わずにこいつの命は尽きることだろう。
だからこそ、歯痒い気持ちでいっぱいになる。
「人だからこそ、この程度のことしかできないんですよ。僕がもし神様なら、あなたのような真正のクズは、寿命を弄ってでも未来永劫苦しませますから」