Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (421)
413話 嘆きの聖堂
皆の前でリルと再戦の約束をしてから約2週間。
「おぉっ、とうとうそれっぽいのが来たか」
ジュロイ北西部に存在する中規模の町『スウィロー』。
その中にあるハンターギルドの資料室にて、ようやく新スキルが得られそうな雰囲気のする狩場情報に胸を高鳴らせる。
ジュロイの王都『フォブシーク』から真っすぐ北に向かい、そこから時計回りにグルリと、残りを埋めるようにマッピングを進めてきた。
しかし道中は既知の低レベルスキルを所持した魔物しか存在しておらず、その間に得られたスキルは一つも無し。
傭兵ギルドがないので悪党討伐も進まず、本格的な旅の再開とは言ったものの、立ち寄れる場所が何も無ければ、サンドバッグことロイエンの配送と、ひたすら魔力を無駄遣いした移動中の修業くらいしかすることがないわけで……
途中でオルトラン王国のサヌールに行き、月一のギルドオークションに毎度の代理参加。
今回も『技能の種』5個をゲットしつつ、スキルレベルが全体的に上がったことで、どう【付与】付きのゴミ防具を出品するか。
少し悩みながらも、いくつか到達しているレベル9はまだ早いかなーと。
白目を剥いていた鑑定屋のマグナークさんを揺すりながら相談しつつ、レベル8までの耐性系を全て2セットずつ出品しておいた。
そう、次回からは2セットずつだ。
オークション担当のアランさんから、マリーの奴隷であるビクターの落札総額が今回で増加したと。
そんな情報が出てきたことで、マリーの資産を奪う計画は次の段階に移行した。
2回連続で過去に類を見ない付与付きガラクタ装備が出てきたとなれば、3回目も続く可能性があると予想するのは当然のこと。
そのうちオークション予算を増額させてくることなど目に見えていたので、ビクターの落札総額が50億ビーケを超えてきたら教えてほしいとアランさんには伝えていたのだ。
動かす金を増やしてくるなら、それでも他の落札に金が回せないよう、こちらはガラクタ装備の出品数を増やすだけ。
これでマリーから奪い取れる資産は増加し、ギルドに預けっぱなしの俺用オークション運用資産も勝手に増えていくだろう。
それに今回の調整で、例えばレベル9の【毒耐性】をレベル8に抑えて【付与】する、みたいな。
レベルを下げた【付与】ができることを知れたのも大きい。
偶然試したら成功しちゃっただけだけど……
これで出品内容にランダム性を加えられるので、ちょっとは身バレ防止や予算対策に繋がるかもしれない。
そしてフレイビル王国のロズベリアで話が進んでいた転送配達も、この移動中に無事初回を終わらせることができた。
今回だけは食糧問題を抱えている地域が多かったので、一応旧ヴァルツとラグリースの事情を伝えた上で、
「5日後に取りにくるから、それまでに配達希望の品を纏めておいてください」
このようにギルマスのオムリさんへ伝えれば、当日には大小様々な倉庫50個分くらいの、途方もない量の品が準備されていた。
さすがにこのギルマス頭おかしいんじゃないかと思ったけど、中身は食料や日用品といった生活に直結するモノが多く、人命救助であれば話は別だと。
今までのような商人然とした雰囲気から一転して、裏のない真っすぐな顔付きをしていたし、配達先は話の通っている町のギルドなら、食糧と日用品の配分は現地の状況を見ながら俺に一任するとのことなので、マジで金儲けのことは考えていなかったのかもしれない。
となればどうせだし、とことんやったるかと。
次々に案内される倉庫の中身を空っぽにしていくと、オムリさんもまさか全部いけるとは思っていなかったらしく、ここでも白目剥いた変な顔のおっさんを見ることになってしまったが……
届けた各町のギルドマスターもすぐに生活物資を回していくということだったので、ここまでくれば俺の無償配給はストップさせても問題無さそうだな。
リルに打ち止めって言うと悲しい顔しそうだから、暫くはベザート用のお肉として、教会の敷地にでも置いておけば誰かしらが食べるだろう。
(大した量じゃなかったけど、ジュロイの王様から俺が持ってない分の書物関連は貰えたし、オーバル領にも人が出入りし始めたし……)
あとはリルとの模擬戦に向け、できる限り己を強くしていくだけ。
そう思いながら今までとは系統の異なる内容に細かく目を通し、狩場のある西部へとすぐに向かった。
そして、飛び始めてから10分程度。
すぐにその巨大な狩場の全容を上空から視界に収める。
「んー……この辺りがE-Bランクの連結複合狩場ってやつかな?」
全体的な狩場の総称は《嘆きの聖堂》となっていたが、実際は3つの狩場が繋がるように存在しているとギルドの資料本には書かれていた。
「入り口は――、たぶん、あれか」
森と草原の境界付近に建っている、いくつかの小屋――と呼べるほど小さくはなさそうな建物。
その奥には鬱蒼と生い茂る山の谷間が長く続いており、手前側にはチラホラと籠を持った人の動きも確認できる。
きっとこの谷間がE-Dランク狩場 《悲嘆の廃道》で、先の方にある開けた広間と、多くが朽ちたようにも見える人工物の広がるエリアがD-Cランク狩場 《廃棄された祭場》。
そしてその奥――、ほとんど山と一体化したように見える、宮殿のような石造りの入り口が存在している辺りが、Bランク狩場 《忘却のファルマン聖堂》という場所で、その最奥には名前しか書かれていなかった表ボスが存在しているのだろう。
上空から全体像を眺めれば、クネクネと奥深くまで続く谷を越えなければ奥地には入れなさそうだし、出現する魔物の系統からしてもあまり人気のある狩場とは思えないが……
空いているならこちらにとっては好都合。
「さーて、早速魔物調査を始めますかね」
そう一人呟きながら、上空からでも目立つ建物付近の森に降下した。