Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (430)
422話 新しい試み
誰もいない、深夜のファルマン聖堂。
その中心部で、半分くらいは腐肉で埋まった穴が不気味な音を奏で始める。
ボキ……バキッ……グチュ……グチャ…ボギギギッ、グチュ……
そして穴の素材がほぼ無くなりかけた頃。
「あの肉の量でも、上半身の多くはまだ骨のままか」
【広域探査】の反応箇所に視線を向ければ、前回とは違い、腹回りや下半身が黒く染まった、半受肉型のグリムリーパーを視界に収める。
――【洞察】――
――【心眼】――
「なるほど……スキルはレベル含めて変わらず。強さは――、結構上がったのか?」
壁面を這いずる速度は明らかに速く、それこそ骨の時に比べれば倍ではきかないくらいになっていた。
スケルトンとグールの差を考えれば、おおよそ能力差は見当がつくも――、うん、問題ないな。
この程度で済むなら、
ま
だ
弱
い
という印象しかない。
「はっはー!」
素材として活かせるよう、飛びついたそばから両腕を捥ぎ取り、脚も丁寧に丁寧に、少しずつ千切っていく。
その時、骨の強度は変わらないように思えたが、肉は以前よりも硬くなっているような気がした。
例の如く、手足を失ったグリムリーパーを【土操術】で貼り付けにし、完全受肉体を目指すなら必要かと、前回できなかった実験をこの場で試す。
「ホレ、喰え」
強引に捕まえてきたのは、首を飛ばしてもまだ動きのあるトロルデッド。
ソイツを口の前に持っていけば、グリムリーパーは貪るように捕食していく。
すると受肉した部分が頭部まで少し近づき、千切られ欠損していた脚の一部が生えるように復活した。
「ホイ、次」
そしてすぐにもう1匹を口の前に出すと、確認していたパターンを崩してまで再度の捕食に入る。
なるほど、【恐怖】を挟まなくても目の前に食事があれば、ちゃんと食ってくれるらしい。
ならば強制的な食事で、すぐに完全受肉体へ持っていくことは容易だな。
オッケーオッケー。
これが知れて良かったよ。
――【魂装】――
「……ッ!?」
「お疲れ様」
『レベルが61に上昇しました』
『【恐怖】Lv6を取得しました』
「おっ、久々のレベル上昇――、って、やばっ……ここで切り替わるのか」
【恐怖】Lv6 自身を見ている存在全てを、強い恐慌状態に陥らせる 魔力消費90
このように【恐怖】の詳細説明を確認すると、対象が『一人』から『全て』に変化していた。
見られていることが条件とは言え、今までにないほどの広範囲型。
これでようやく消費魔力に見合う効果が見えてきたな。
それに【封印】も目標としていたレベル5までは上げられたし、【魂装】だって数値は低めだけど、被っていない『幸運』を引き当てられたのだからまずまずの結果だ。
あとはリルのテストを通過できるのかどうか。
次に来る時は、裏ボスを倒すつもりで――
皆が集めた骨を多めに穴へ戻しながらも一人決意を固め、俺はほどよくお世話になった聖堂を後にした。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
丸めた羊皮紙を片手にズンズンと階段を上り、求めている七三頭はどこに隠れているのか。
多くの机や棚が並べられたフロアをゆっくりと見回す。
「あ、いた。ワドルさーん!」
「ぬほぁ!? ロ、ロキ王! 直接来られたんですか!?」
「え? そりゃ僕が作ってるんですから当然じゃないですか。あ、あと今まで通りでいいですからね」
「えぇぇ……念のため確認しますけど、ロキさんって新国アースガルドの王になったんですよね?」
「ですね、一応なりました」
「一応ってなんでですか、一応って……ちなみに次はどこの国を旅してきたんです?」
「今回はお隣のジュロイですよ」
そう言って出来上がった地図を見せれば、ワドルさんは眺めながら軽く頷く。
「確かに、多くが記憶にある配置通りですね。戦争でご尽力いただいたというのにこの速度、相変わらずロキさんは仕事がお早い……それに描き方が綺麗になっているような?」
「それはもう5ヵ国目ですから、慣れもしますよ」
「ははっ、そこはお互い様ですね。ではこちらも早急に動きましょう。ジュロイならば話も早いので、一月とかからずあちらでも販売開始されると思いますよ。ちなみに他国でも売れ行きは好調、羊皮紙のみの高級路線でもまだまだ問題ありません」
そう、これで5回目だ。
お互いがやり取りにも慣れ、地図の信用度は増し、精度の確認というこの件に限って言えば無駄な工程を挟むことなく商品化が進んでいく。
最近は連絡を取る前から、既に他国の商業ギルドも『地図』の存在を知っていて話が早いと。
そんな軽い世間話を挟んですぐに用件は終わるわけだが、今回は少し違う。
様々な環境が整ったことで、もう一つチャレンジしてみたいことを俺から切り出した。
「ワドルさん、一つ相談なんですが」
「はい?」
「とりあえず二つ、商業ギルドを通さずに、新しい形で別種の地図を販売してもいいですか?」
「え? えーっと……作られているのはロキさんなわけですから、私共商業ギルドに止める権利などありません。あるのは『商業ギルドの専売』としてやらせてもらっている、これまでの地図に対してだけです」
「もちろん今までも、そしてこれからも、各国の地図を独自に売るようなことはしませんよ。以前もお伝えした通り、目的は『収益』と『拡散』の両立ですから、複製問題にかなり効果がある商業ギルドの専売方式で今後もお願いしたいと思っています」
「ならばこちらとしては何も問題ありませんけど……気になりますね。”別種”とは具体的にどういうモノなのか、聞いてもよろしいので?」
「それはもちろん、試作品も持ってきましたから」
言いながらカウンターに並べると、やや大きめな羊皮紙に描かれた地図を見て、ワドルさんは目を見開きながら顎を摩る。
「なるほど……
い
つ
か
は
と内心思っていましたが、ロキさんはもう動くわけですか」
「ええ、まだまだ未完ではありますけど、『大陸図』もあった方が何かと便利でしょうから」
5ヵ国を繋げた地図は王都などを含む主要都市や、それら都市に繋がる主要街道のみを描いており、大陸図の特徴として明確な国境線を記していた。
今までの地図を強引に繋げたところで、国の大きさが違うのだから縮図だって違う。
しかしこのような一枚の大陸図にすれば、どの国がどのように隣接しているかなど一目瞭然。
国主導で俺の作成した地図を基に、各貴族が持つ領地の境界線を引いた地図や、更に細分化して村まで記載された地図も少しずつ出回ってきているようだが、大陸図を精度重視で作るとなれば、まず現状では俺にしかできないことだろう。
「それはもう、間違いなく需要はあるでしょうね。しかし懸念されていた複製の問題は大丈夫なのですか?」
「いや~大丈夫ではないでしょうねぇ……羊皮紙のみの販売にして、売る時に複製品の製造しやがったら”必ず死罪”と忠告くらいするつもりですが」
「ブッ!」
「ただあくまで
未
完
ですし、1ヵ月2ヵ月すれば新しい
未
完
の大陸図が出来上がるわけですから、少なくとも大陸図が完成するまではウチの専売として、僕の求めている目的が果たせればいいかなーくらいに思っています」
「ふむ、ではこちらも同じですか。狩場と魔物情報……ふふ、ロキさんらしい」
「ハンターが外の世界に目を向ける良いきっかけになるでしょう? 商人だって狩場情報は商売をする上での参考になるでしょうし」
「間違いありませんね。魔物素材の仕入れだけでなく、最寄り町に卸す品の質や量にも強く影響します。得てして上位狩場を管轄とする町は、人と金が多く集まるものですから」
もう一つはかねてより作りたいと思っていたハンターマップだ。
国別の地図を改良し、おおよその場所、狩場ランク、出現魔物を付け加えつつ、狩場が周囲に存在しないような町は地図から省いておいた。
はっきり言えば大陸図なんかよりも遥かに作るのは面倒だったが、自分用に収集していた情報がだいぶ手帳に残っているからな。
それに一度作ってしまえばあとは複写するだけなので、環境さえ整えれば俺でなくとも製造は可能だろう。
「これらを売る場所は、ロキさんの抱えるクアド商会で?」
「その予定ですけど、もう知ってました?」
「私共商業ギルドの人間は当然として、王都で活動する商人や富裕層にも噂は広がっていますよ。アースガルドの入り口に、とんでもなく巨大な商会ができたと」
「ふふ、それは良い傾向ですね」
「……はぁ。この2種類の地図は呼び水――、専売をすることで商会の『宣伝』にでも活用するおつもりですか?」
「もちろん、うちの収益の要ですから」
「『収益』と『拡散』という目的だけであれば、この2種も商業ギルドを利用された方が効果的だと、説得を試みようかと思ったんですけどね。『宣伝』という目的まで追加されるとこれは厳しい」
そう言って肩を竦めるワドルさんに俺も苦笑いを浮かべる。
実際どうなるかはやってみないと分からないけど、うちでしか買えない限定地図の噂が広まれば、十分足を運んでもらえる切っ掛けになるはずだ。
リステとジュロイの王都を調査したことで、羊皮紙の入手に一定の目途が立った。
製造も書庫の仕事に携わっていた3人は当然として、俺も、それに上台地にいる6人も確実にやろうと思えばできる。
そこまでしなくても、ベザートで仕事を求めている人に【自動書記】や【写本】のスキルを取ってもらえれば、生産が追い付かないなんて事態にはまずならないだろう。
「それじゃよろしくお願いしますね。次は東のどこかだと思いますから」
そう告げつつも、地図の件は一応クアドにも相談しておこうかと。
なんだかまともに足を運ぶのは久しぶりな気がするベザートに向かった。