Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (433)
425話 若い女性と、老紳士と
投稿ミス失礼いたしました!
懐かしいなぁ……
場所はほんの少しだけ立ち寄った、ラグリース中部の小さな町『ミール』。
マルタと王都の間に位置しているためか、一見すれば目立つ戦争の影響は感じられない。
しかし寂れた雰囲気は以前と何も変わっておらず、果たしてあの時の言葉通り、この小さな田舎町にいるのかどうか。
少しばかり緊張しながらハンターギルドのドアを開ければ――。
(あっ……)
受付ではなく、その奥の事務スペース。
そこで机に向かって何かを書いている、かつて誘拐事件で旦那さんを亡くした受付嬢――レイミーさんがいた。
まだ来てくれると確定しているわけではないが、とりあえずはいてくれて良かった。
そう思いながらツカツカと向かっていけば、以前にも見かけた暇の極致に達していそうな受付嬢が反応を示す。
「あ、あら? 若い男……」
が、この人に用はないのだ。
受付の前に立ち、未だこちらに気付いていないレイミーさんへ届くように声を掛けた。
「レイミーさん、こんにちは」
「え?」
「は?」
すると声に反応して、こちらに振り向いたまま、目を瞬かせること数秒。
「ロ、ロキ王、様……?」
「はぁああああああ?」
なぜか目の前の受付嬢――、というよりおばさんが大声で騒ぐ。
なんだよ煩いな……
「えっと、以前の約束、覚えてますか?」
「え? もしかして、私が必要になった、ということでしょうか?」
「はい。それで、可能であればと、迎えにきちゃいました」
「も、もちろんです! あの時の御恩も約束も忘れておりません! 私でよろしければ!」
「はぁああああああああああああん!!?」
マジで煩いんだが……
でもいい返事が聞けて本当に良かった。
職業加護も乗っているのか、レイミーさんは【算術】がレベル6あるし、【暗記】もレベル5となかなか高い。
事務のエキスパートといった感じなので、クアド商会の会計業務を担当してもらいながら、余裕がある時はクアドの値付け作業も覚えてもらえたら最高である。
頭を抱えて絶叫しているおばあさんを放置し、未来の事務長レイミーさんを引き連れギルマスの部屋へ。
そこで俺からも事情を説明すると、意外や意外。
「英雄王の頼みを無下に断るなどできようはずもない。それにこの町のギルドはクッソ暇じゃしな!」
そんな尾ひれの付きまくったような呼び名を持ち出しながら、快く国を跨いだ引越しを承諾してくれた。
なんなら受付で騒いでいた発狂おばさんに後はやらせるから、今から準備に入ってもいいらしい。
「迎えにきたとは言いましたけど、そんなすぐのすぐじゃなくても良いですからね。荷造りの準備もあるでしょうし」
「あ、いえ、荷物なんて大してありませんから。ただ母も一緒に、というのは難しいでしょうか?」
「ん? お母さんはこの地を離れてしまっても大丈夫なんですか?」
「はい。リプサムの時と違ってそこまで近くはないと思いますし、母一人を置いていくというのも少し心配で……それなら一緒の方が良いかなって」
「なら構いませんよ。あーそっか、レイミーさんってお母さんと二人暮らしなんですかね?」
「ええ」
「ん~それなら家ごといっちゃいましょうか?」
「はい?」
まだやってはいないだけで、できることは分かっているからな。
案内されるままに人通りの少ない町を歩くと、一軒の中規模な木造平屋に到着した。
このくらいならベザートの家と似たり寄ったりだし、家ごと引越しさせてしまっても問題ないだろう。
となれば、後はお母さんに事情説明か。
そう思って身を正すも、なぜか焦ったような素振りを見せるレイミーさん。
発端が俺なのだから、お母さんには一緒に説明するのが筋だと思うが……
一人でちゃんと説明すると強く断られれば、「そうですか」としか返しようがなくなる。
「それでは、また明日」
「分かりました。世界一大きい商会だっていう新しい職場、楽しみにしていますね」
「ははっ、自称ですけどね。でも日用品から貴族が身に着けるようなモノ、それに魔物素材までいろいろと置いてありますから、忙しいけど楽しいと思いますよ」
「ふふっ、では忘れ物が無いように荷物を纏めてお待ちしています。ちゃんと母も貢献できるよう説得しておきますから」
「?」
そんな貢献とか考えず、楽しく暮らしてもらったらそれで良いんだけど。
最後の言葉に妙な違和感を覚えつつ、明日の朝に改めて迎えに来ることを伝えて一旦はここでお別れ。
俺はそのまますぐにマルタの上空へ飛んだ。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
飛んですぐ、眼下に広がる光景を眺めながら一つの感想を漏らす。
「あれ、こっちは復興が遅い?」
もちろん以前に足を運んだ時よりかは多くのガレキが撤去され、街らしくなってきたのは間違いないが……
建物と呼べるようなモノは少なく、マルタの街は大通りの整備もまだまだといったところ。
一から町を作り始めたベザートと比較しても、だいぶ進みが遅いように感じられた。
「でも、まぁ当然か」
冷静に考えれば理由は分かる。
そもそも街の規模がベザートの比ではないし、マルタは木材だけでなく、石材も多用された都会的な街だ。
それに木材にしろ石材にしろ、すぐ近くで天然資源が豊富に採れるわけでもないので、視線を街の外に向ければ、今も馬に牽かれて多くの資材がこの街に運び込まれていた。
ここで初めて、周囲を森に囲まれたベザートだからこそ、あの速度で町が作られていることを理解したわけだが――。
(ん~マズいなぁ……)
そんな思いを抱きながら中心部に降り立ち、かつてお世話になった高級宿――ハンファレストを目指す。
貴族も満足する宿と言えば、どこよりも真っ先に浮かぶのはあの宿だったし、支配人を知っているというのも大きい。
ベザートの宿を作るにあたって、できればウィルズさんに監督、監修をお願いしたい。
そう思っていただけに、この復興具合じゃ他所のヘルプなんてまだ当面難しいのでは? と不安が募る。
そして――、どうやら不安は、予想以上に的中してしまったらしい。
「えぇぇ、何も進んでないし……」
いくら景観が異なろうと、大通りに面していたのだから場所を見間違うわけがないのだ。
しかしかつて街一番の大きさを誇った建物は、破壊された上に未だ多くのガレキを残し、代わりとなるような建物の建造にも入っている様子がなかった。
跡地には転がる岩に腰掛け、たぶん、初めてかな……
いつもはピンと真っすぐに伸びていた背中を丸め、一人空を見上げるウィルズが。
なんとなく話しかけづらい雰囲気を感じつつも、この人に用があって来たのだから、意を決して声を掛けた。
「ウィルズさん」
「おや、ロキ王様。マルタの様子を確認しに来られたのですか?」
「それもありますが、今日はウィルズさんに会いに」
「私に、ですか」
「ええ。ハンファレスト、直さないんですか?」
他は少しずつ作り直しているのだ。
言葉を選び、もう少し回りくどく確認するべきか悩みながらも、ここはストレートに聞いた。
「直したいのは山々ですが……費用の面もありますし、何より今は資材不足で手を付けられないというのが一番の答えになるでしょうか」
「え? でも一応外から資材が運ばれてますよね?」
「近場の森や山を切り開いていると聞いております。ちなみにロキ王様は、当館の石材にどのような印象を持たれていましたか?」
「え、っと……高級感があったと言いますか、白を基調に青い筋の紋様が入っていて、壁も床も凄く綺麗だなって記憶がありましたけど」
「そう思っていただけたのでしたら嬉しゅうございます。当館は私の拘りで、旧ヴァルツ領から取り寄せた『青紋石』を多用しておりましたから」
「あぁ、それで……」
「ただでさえ資材調達で馬や馬車の多くは埋まっております。そんな中で大きさもある当館の復旧を優先させれば、他の建造に相当な遅延が発生いたしますし、何より町民の『住』も確保できていない状況下で『宿』を優先させるなど、私自身も、そして伯爵様や周囲も納得しません」
この話を聞いて、確かにそれはそうだろうと俺も納得する。
ただの宿ではなく高級宿となれば、マルタに住む人達にとっては必須でもなんでもない。
あくまで外からの利用者に向けたモノであり、今はその外からの来訪も街が機能していないのだから、ほとんど期待できないだろう。
それに、費用面か……
建築資材にまで拘った大きな建物に、相当数の調度品や高級そうな家具に浴槽。
上層階には複数の魔道具もあれば、値段がまったく分からないストレージルームまで存在していたのだ。
それらが全てガレキに変わったとなれば、戦争によって破壊されたハンファレストの損失額は如何ほどのものか。
少なくとも個人が安易に再起を図れる程度の金額で済むとは到底思えなかった。
そう、個人ならば。
「もし――、もしですよ。ウィルズさんが再びハンファレストのような高級宿を運営できたとして、その時はこの地に拘りますか?」
では国が全面的に協力したらどうだろうか?
物事には優先順位があるのだから、ゴリラ伯爵は無理だろうし、ヘディン王も今のマルタに高級宿という投資はしないだろう。
でもうちなら――、俺なら、全力で後押しさせてもらう。
「そうですね。私はマルタが生まれですので、拘りが無いと言えば嘘になりますが……」
一度言葉を切り、視線を俺に向けながら、ウィルズさんはここにきて初めてにこやかに笑った。
「もし、その故郷を救ってくれたお方が、別の地で特別な宿を求められているということでしたら、私は恩義に報いるためにもその地で富を運ぶ者達を出迎えましょう」
「では、ベザートの町に来ていただけませんか? ウィルズさんの知識と経験、それに卓越した人を視る眼が僕は欲しい。もちろん宿の建設に関わる費用はこちらで全て負担しますので」
「これほどの条件は間違いなく他にございません。謹んでお受けいたしましょう」
1日でも時間を貰って現地で監修。
欲を言えば別店のような扱いにしてもらい、宿が出来上がった後も定期的に見てもらえれば理想かなと思っていた。
それが、まさかの本人を得られるとは……
少しマルタには悪いけど、いざとなればこちらに別店を出すことだって可能なのだ。
どの道資材不足で動けないのなら、今はこちらに注力してもらうとしよう。
俺は俺で、動ける時に準備を。
ウィルズさんに場所を確認し、なぜか固辞する旧ヴァルツ領の領主に代金を支払ってから、山の石切り場で大量の青紋石を調達。
ベザートでも木材や石材の調達ついでに建設予定地の整備を黙々と行なっていき――。
こうして翌日、
3
名
の優秀な人材を新たにベザートの住人として出迎えた。