Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (435)
427話 明日からは
日が沈みかけ、仕事を終えた者達で賑わうベザートの町。
その中を俺とレイミーさんは二人、目的の場所に向かって歩いていた。
「すぐ銘柄って言うんですか? 種類を判別してましたし、レイミーさんってそんなお酒好きだったんですね」
「その言い方だとただの酒呑みみたいじゃないですか。美味しいご飯を食べながら飲むお酒が好きなんです」
「あぁ~それは分かりますよ。まぁ僕の身体だと、果実水の方がまだ美味しいってなっちゃってますけど」
「ふふっ、異世界の方は大変ですね。でもこれだって母の影響なんですよ、きっと」
談笑しながら向かう先は、町の中心近くに構えるお手製の教会。
それなりに広く敷地を確保していたこともあり、ここが町全体の食事を担う炊事場の役割を果たしていた。
家はある程度出来上がってきたと言ってもまだ全てではなく、開墾に精は出すも収入が途絶えたままの人達だって大勢いる。
なのでヤーゴフさんが主導し、解体場のロディさんや受付にいた若いお姉ちゃんなど、一部の人達が仮となる疑似的なハンターギルドを運営。
ハンターの収穫物や子供達が獲った川魚、それに切り倒した木材なども今は俺の買取として、お金の動きを作りつつ食料は炊事場に流すという日々が繰り返されていた。
収入を得るためハンター業をする人達はかなり増えたらしいけど、それでも作物を収穫できるサイクルが作れていない以上、まだまだ継続的な支援は必要になるんだと思う。
(ヤーゴフさんがギルド本部に送ったっていう手紙は、無事に届いているのかな……)
正式にハンターギルドを運営するとなれば本部許可が必要なことは言うまでもなく、今はその許可待ちといったところ。
国との接点を持たないハンターギルドなので、俺は書面で設立と土地使用の許可さえ出しておけば問題ないらしいが、本部の人間が近隣の狩場状況を確認したり、ギルドマスターの指名をしたり。
一度現地視察が行われるようなので、当面は1つの商店であり買取所のような、仮の運営が続くものだと思われる。
「はいこれ、毎度のユニコーン肉と、野菜をいくつか調達してきました」
「ほんといつも済まないね。でも、この草はなんだい? じいさん知ってる?」
「いや、私も見たことがありませんな……匂いは凄く好きですが」
シスターのメリーズさんに問われても、ジュロイの市場でもっさり売られていて、安いと思ったから買っただけで俺だってよく分かっていない。
神官のトレイルさんは、ずっと草の束に鼻を突っ込んでクンクンしているので、害のあるタイプではないと思うけど。
「ラルパっていう名前で、ちゃんと食べられるみたいですよ?」
そう伝えれば、横でデカい鍋を混ぜていた壮年の女性が口を挟んだ。
「そいつはジュロイで多く出回る香草だ。一応食べられるが肉や魚の匂い消しに使うのが一般的なんだから、そいつだけで食すことはまずない」
「だ、そうです!」
「まったく、王が自ら食材を調達して振舞うってのは感心だけど、食に対しての見識が随分と薄いね。いったい普段何食ってんだい」
「チャ、チャーハンを……」
「お母さん……!」
「胸糞悪い貴族連中ならこの程度は当たり前のように知ってるんだ。立場ある者同士が会食を開くなんざ当たり前だってのに、ほんとにやってけんのかい?」
「そこは何がなんでも避ける所存でございま――」
「ちょっと、いい加減にして!」
親子喧嘩一歩手前の中、俺は思わず茜色の空を見上げる。
レイミーさんのお母さん――ボーラさんってば、やっぱり怖ぇよ……
もう、迎えに行った朝から怖かったのだ。
というかそこがピークで、初対面だというのに物凄く空気がピリピリしていた。
俺が自己紹介をしたら眉をピクリと上げ、なぜレイミーさんを誘ったのか、経緯も含めて尋問開始。
服装や振る舞いも指摘され、本当に一国の王なのかと、終始怪訝な表情を浮かべながら何回も疑われる始末だった。
言っていることは正論だし、徐々に棘も無くなってきたので大丈夫かなと思ってたけど……
それでもだいぶ当たりがキツく、対面するだけで妙な緊張感に襲われる。
「ごめんなさい。お母さんこれでも心配していて……」
「それは理解していますから、大丈夫ですよ。実際自覚がほとんどありませんし」
「自覚があり過ぎても困るけど、無さ過ぎても困るんだよ」
「は、はは……とりあえずボーラさんの職場は、形だけですけど出来上がりましたので。支配人にも絶対に貴族の前に出ない人だと伝えておきましたからご安心ください」
「ハンファレストの支配人なら安心してるさ。しかし随分と大きな建物だねぇ……今のうちから使えそうな人間に声掛けて、少しずつ教育しちまうけど構わないかい?」
「それはもちろんです。ボーラさんには料理長をお任せしますから、必要な人材の数などは全てお任せします。のちほど支配人を紹介しようと思いますけど、ここに連れてきちゃって大丈夫ですか?」
「支配人はウィルズ殿だろう? 面識はあるから問題無いよ。見かけたらこちらから挨拶しておくさ」
あら、知ってるんだ。
少し意外だなと思ったけど、ミールとマルタは隣町だしな。
それにボーラさんの経歴を考えれば、それ以前から接点があった可能性もある。
……まぁ、上手くやれそうならなんでもいいか。
食材を渡し、宿の原型も出来上がれば今日の仕事は終了。
そろそろ拠点に戻るくらいの魔力は回復したし、明日からまた新しい国に突入するのだ。
やり始めたらまた忙しくなるわけで、今日くらい図書館に籠って、次の行き先に絡みそうな本でも読み直しておこうかな。
そう思って炊事場と化した教会を離れると、なぜかレイミーさんまでついてくる。
「ごめんなさい、お母さんが……」
「あぁ、僕は大丈夫ですから気にしないでください。しかし、お母さんの貴族嫌いは相当なモノっぽいですねぇ」
「ロキさんは王様っぽくないというか、貴族特有の傲慢な雰囲気がないので大丈夫だと思ったんですけど、逆に無さ過ぎるのも凄く心配みたいで……」
「”元侯爵家の料理番”ともなれば、良くも悪くも様々な貴族を見てきたんでしょうからね」
「みたいです。もう貴族の顔を見たくないって、望んで田舎に越したくらいですから」
そうなる気持ちもよく分かる。
まともな貴族だっているのは分かっているけど、明らかに常識の通じない、脳みそがイカれているとしか思えない連中がおり、しかもその比率が高いのだ。
あんな連中と連日顔を合わせようものなら、こっちまで頭がおかしくなってしまうし、立場の差があるとなれば拷問以外の何物でもないとすら思えてしまう。
でも。
「ここなら大丈夫ですよ」
「え?」
「まずアースガルドに貴族なんていませんし、僕はまぁ、こんなんですし」
「そう、ですね。あとは職場で問題を起こさないようにしてもらえれば……」
「それも大丈夫です。貴族だろうと王族だろうと、ふざけたことをすれば魔物の餌にする。アースガルドとはそういう国ですし、何かあれば僕が出ますから」
「……ロキさん、ちゃんと王様っぽいじゃないですか」
「お母さんと同じ、王侯貴族に対してあまり良い思い出がないだけですよ」
二人の足は自然とクアド商会へ。
どうやらレイミーさんは昨日差し入れをした果物の蒸留酒が目当てだったようで、仕事終わりに店前の川沿いで宴会の準備をしていた皆と合流。
俺も参加しろという声に断り切れず、秋夜の涼しい風を浴びながら店の商品を借りて釣り糸を垂らす。
横にはパイサーさんとベッグさんに、元奴隷組も数人。
焼き魚食いたい派は自分で調達が基本らしく、横では魔石屋のミザールさんと新人マギーさんに挟まれ、中心に火を焚いて肉を焼きながら、レイミーさんの歓迎会が催されていた。
話を聞いていると昨日もマギーさん相手にやっていたようなので、結局毎日飲みたいだけっぽい。
「おっしゃ! 釣れたぜ~一抜けだ」
ベッグさんが30cmほどの、食べ応えのありそうな魚を釣り上げ、木の枝を通しながら宴会の場に戻っていく。
焚火の近くにぶっ刺し、既に焼かれていたユニコーン肉と、誰かが貰ってきたのだろうか。
香草の匂いが少し混じった、ボーラさん特製スープの匂いも漂っていた。
(お腹空いたな……早く釣れないかな)
「おうロキ、今日なんだが大量の鉱物と、まだ溶かせていない鉄装備まで仕入れたいって商人が現れた。聞けば水の都ハーディアから来ているみたいだが……どうする?」
「素材も現物も両方ですか。鎧は旧ヴァルツ兵の刻印付きですよね?」
「それだけじゃなく、値付け待ちで奥に置かれていたジュロイの刻印が入ったモノも――というよりソイツを一番欲しがっているようにも見えたな。さすがに断ったが」
「現行使用されている国の鎧は悪用できちゃいますしね。でも旧ヴァルツの方は欲しいなら売っちゃっても良いんじゃないですか? 全回収して、ラグリースの規格に統一されることが決定されていますから」
「了解だ。今回は量が量だから、相当な額になるぞ。鉄相場もまた上がってきているみたいだしな」
「フレイビルの産出量が減ったとかじゃないですよね?」
「西からの商人が鉱物を求めて足を運んでいるわけだし、戦争の機運が高まってるって考えるのが普通だろ。ソイツらの話じゃ、大陸南西のそれなりにデカかった国がまた一つ帝国に呑み込まれたって話だ」
「そうですか……でもまぁ鉱物は売れるならどんどん売っちゃいましょう。ベザート用に加工する分なんてたかが知れていますし、どうせまたすぐに溜まりますしね」
「んだな。って、なかなかデカいのがきたな! お先だ」
「……」
素材を流せば戦争を煽るという見方もあるし、人を守り命を救うという見方もある。
そんなのは結局使い方次第で、あまり神経質になり過ぎても商売はできなくなるのだから、脳筋の帝国やマリーのいるアルバート王国でもなければ、現金化できる時は遠慮なくしていくつもりだ。
しかし最近チラホラと話を聞くようになった、大陸中央の大国――水の都ハーディア。
この国が西からの脅威に備えるために軍備の強化を図ろうとしているのか。
それとも同盟関係にあるジュロイ、トルメリアの人間至上主義国家に刃を向けようとしているのか。
今の段階ではなんとも分からないが……
昨日の報告会――という名のジュロイ王国料理品評会で、西部担当フェリンさんが「大丈夫そう」と。
ラム肉齧りながら報告していたので、そうなんだと思って動くしかない。
(まずはあの国から……)
動きがないなら、一先ずは東側を。
悩みながらも決めた次なる目的地に思い馳せ、気付けば俺一人となっていた釣り竿を眺めながら一人グチを零す。
「【釣り】レベル9なのに、俺だけバグってんじゃねーかコレ」
ここまでご覧いただきありがとうございました。
13章ジュロイ王国編はここまでとなります。
明後日にロキの手帳⑩を挟むんですが、キャラ一覧はあまりハイペースでやるものでもなさそうなので、気分次第でどうするか決めたいと思います。
まぁそれはさておき、14章も隔日更新のままいきますので、引き続きまったりとお楽しみくださいませ。