Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (438)
428話 新たな旅の開始
「それじゃ強くなってくるわ!」
「うむ、気をつけてな」
「美味しそうなご飯あったらよろしく~!」
「あたしもー!」
「俺も珍しそうな酒があったら頼むぜ!」
好き放題言っている皆の姿に苦笑いを浮かべつつ、俺はオルトラン王国の東部に位置する巨大な街『サヌール』――、そのさらに東の国境付近へ向かった。
オルトラン東部に広がる荒野は一度深い峡谷を挟み、数十メートル低くなった大地の遥か先には、既に僅かではあるが本格的な砂漠の姿も確認できる。
きっとあれが『ヘルデザート』と呼ばれる大砂漠の一端なのだろう。
「それじゃあ、お邪魔しますよっと」
崖からヒョイと飛び降りた俺は【飛行】に切り替え、砂漠の境界を辿るように町を求めて東へ移動する。
クアドの故郷である『スチア連邦』、最大規模の蔵書数を誇る『ガルム聖王騎士国』、そして視界の先に広がるヘルデザートを抱えた『パルモ砂国』と。
この三国のどこに向かうべきか、悩みに悩んで最後は鉛筆コロコロクジでもやったろうかくらいに思っていたわけだけど、ふとその先にある予定を再認識した時、俺の目的地は自然と『パルモ砂国』に決定した。
今はリルとの模擬戦に向けて、少しでも自身のステータスを伸ばしておきたい。
『クルシーズ高等貴族院』に潜り込み、そこで本を読み漁れば応用や気付きはあるかもしれないが、直接的な強さに結びつくかは不確定。
そもそも拠点に未読の本がかなりあるというのに、このタイミングで新しい本を求める必要性は薄いし、『スチア連邦』はどちらかと言うと通過点であって、その先に存在する『幻想森海』が本命の目的地だからな。
性格的にもあまりマッピング未完了のまま国を跨ぎたくはないので、そうなると向かう先は最もステータスの伸びが期待できそうな『パルモ砂国』となるわけだ。
(左はどこまでも砂漠なのに、右のスチア連邦は視界に映る全てが大森林とか、この極端な差よ)
そんなことを思いながら10分程度進むと、よくあるベザートに毛が生えた程度の小規模な町を発見。
慣れた具合でハンターギルドを探し当て、足早に資料室へと向かった。
そしてすぐに、自分の顔が緩んでいくのを理解する。
(ははっ、いいねいいね~)
期待していた通りだ。
やはり新しい系統の狩場というのは、非常に熱い。
たまに例外はあるにしても、草原なら草原、森なら森でだいたい魔物の種類なんざ決まってくるもの。
その辺りを狩場巡りの中で十分理解していたからこそ、アンデッドばかりがいる<<嘆きの聖堂>>はその特徴だけで期待が持てたわけだし、実際にいくつもの新種スキルを得られていた。
となれば、まだ足を踏み入れたことのない本格的な『砂漠』なんて、もう俺の中では期待しかない。
《ヘルデザート》 D~Aランク連結複合狩場。
パルモ砂国の西部~中部に掛けて広がる、国土の3分の2ほどを占める広大な砂漠地帯。
外周部にはDランク魔物が生息しており、内部に進むほど魔物の強さは増していくが、一帯全てが砂で覆われているため明確な境界は存在しない。
また全域に砂中を泳ぐEランク魔物『サンドフィッシュ』も登場するため、発見すれば内部で狩りをするハンター達にとっては希少な水分補給の機会を得ることになる。
ただし、大砂漠の主『ゲイルドレイク』は”全域”を移動するため、砂塵と逃げ惑う魔物の群れを発見したら直ちに避難しよう。
周囲に魔物がまったく存在しなければ、そこは安全地帯の可能性もあり得るが過信は禁物だ。
冒頭ではこのように書かれており、その次からはランク別の魔物名が記載されていた。
聞いたことのない魔物が――、全部で7種、いや、オルトランの雇われ傭兵バーシェが使役していたっぽい魔物も何種か混ざっているから、実質は5種か?
まぁそうだとしても熱いのは変わらないし、表ボスが存在してくれている時点でほぼ間違いなく俺のステータスは何かしらが伸ばせる。
問題は倒されているかどうかだけど、出現場所が絞られておらず、ランダム移動しているとなれば明らかに準備万端で挑むレイド向きではないのだ。
となれば……
(ふふふ、これは放置されていてもおかしくないよねぇ)
コソコソと情報を手帳に書き写し、前回の反省も踏まえて今回は受付へ。
より詳しい情報を得ようと、完全に猫の顔をしたお姉さんの前に身を乗り出す。
ん~背が伸びたお陰で、カウンターに肘が置きやすくなってきたな。
「こんにちは~ヘルデザートの情報を教えてほしいんですけど」
「んー君は初めて見る顔だね。しかも人間とは珍しい。魔物ハンターと遺物ハンターどっち希望かな?」
「んお? 魔物ですけど、ここは遺物ハンターもいるんですか?」
周囲を見渡すも、規模の小さな町だからなのかな?
ロビーにそれらしい恰好をした人は見当たらないが、遺物ハンターと言えば、ラグリース北部のベイルズ樹海で鎌を所持した職人たちが思い浮かぶ。
うーん、あの人達は無事生き残れたんだろうか……
「もちろん、遺物採掘はパルモ砂国の主要産業だからね。古代の魔道具狙いなら西に、特殊な武具や希少鉱物狙いなら東に。出土品は全て国の買取が前提になるけど、なかなか良いお金になるらしいよ」
「え、らしいって、この町は全然駄目なんですか?」
「駄目とかではなく、遺物ハンターを受け付けている町は決まっているからね。西で3ヵ所、東で4ヵ所、やるならそっちに行ってからパーティを組まないといけないのだよ」
「あ~なるほど」
そう言われ、かつて兵士とハンターが行動を共にしていた姿を思い出し、似たようなものかと一人納得する。
しかし、砂を掘ってお宝探しか……
なんとも砂漠っぽくなってきたが、今は何よりも魔物と表ボスの情報だ。
中心部に行くほど魔物が強くなるという、パルメラ大森林のような階層構造の特徴がある広域狩場となれば、場所による魔物の違いはヘルデザートにもあるのか。
それに表ボスが生存しているのかどうかも重要だし、資料本に書かれていた”安全地帯”という言葉も少し気になる。
「生息している魔物も、遺物と同じで西と東じゃ内容が変わるとかあったりします?」
「ううん、魔物はどこに行っても同じだよ。だから強い魔物を求めるなら、必ず砂漠の奥地に入っていかないといけないね」
「ほうほう、ちなみにボスの『ゲイルドレイク』って頻繁に倒されてるんですかね?」
「いや~、たまにどこかで倒したなんて話も出たりするけど、なんでかな?」
「さっき見ていた資料本だと、砂漠の全域を移動しているようなことが書かれていたので、もしかして今もいるのかなーと」
「いるいる、たぶんいるよ。5年とか10年に1回くらい倒されたって噂を聞くくらいで、ここ最近はそんな話出てきてないもの。滅多に外周部のDランク狩場までは来ないみたいだけど……それでも遠くから舞う砂煙を見落とすのが一番危ないから、ちゃんとパーティは組んで周囲に目を光らせた方が良いよ」
「あーそういう対策を取るわけですか。でも安全地帯っていうのもあるんでしょう?」
「”砂漠の隠道”のことね」
「?」
「ずーっと昔はヘルデザートの中を安全に通れる道があったらしいけど、今は砂で埋もれちゃって何も目印がないんだから、そんなのに期待してたらすぐ死んじゃうよ? 一応周囲に魔物がまったくいなければその隠道に入っている可能性もあるけど、元から砂の中に隠れたりしてて、他所みたいに魔物だらけっていう狩場じゃないんだから」
「そうですか……ありがとうございます」
んー、んー? んー……
お姉さんにお礼を言い、ハンターギルドを後にしながら先ほどの説明を整理していく。
今は埋もれてしまった当時の街道に、掘り起こされている古代の魔道具や武具か。
となると――、他にも
埋
も
れ
て
い
る
何
か
があってもおかしくないわな。
まぁそれは狩りでもしながら考えるとして、まずはこの国をどう攻めるべきか。
遅かれ早かれ全部回るにしても、ここはやはり不確定要素の強いボス狩りを軸に動くべきだよなぁ……
のんびりしていて、誰かに偶然狩られましたなんて事態に陥りでもしたら目も当てられない。
そうなると西側から狩りをしつつ、マッピングも埋めながらボスを虱潰しに探していくのが効率的かな?
そう判断し、国境線を辿りながらパルモ砂国の西部へ。
オルトランからの玄関口にもなっているそれなりに規模の大きい町、『ポルック』から本格的な砂漠の旅が開始された。