Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (440)
430話 夢幻の穴
「我は上級ダンジョンに籠っていたから、その地に行ったことはない。だが存在していたのは間違いないはずだ」
この言葉に、事情も分からず呼ばれたカルラは、
「《夢幻の穴》だっけ? ボクも行ったことはないけど」
このように答えていた光景を思い返す。
たぶん、本当にあったのだろう。
彼らが生きた古代の時代には。
でも今は、DからAランクの連結複合狩場があるのみで、以前Sランク狩場の情報を教えてくれたのは――、ロズベリアのギルドマスターであるオムリさんだったか。
あの人も、文献情報含めて3ヵ所、うち一般開放されているのは1ヵ所で、ヘルデザートに関する情報は握っていなかった。
ということは、ハンターギルドもその存在を知らない可能性が高いということになる。
(埋もれているのは、狩場の中にある別の狩場……? いやいや、まったく想定していなかっただけに嬉しい誤算ってやつだが、でもこれ、見つけられるのか?)
モノは試しと【広域探査】で『ヘルデザート』を指定しても、当たり前のように一切反応を示さない。
広域過ぎるのか、そもそも特定の対象とは違うからなのかは分からないけど、常識的に無理だろうなと思ったモノは無理なのだから、《夢幻の穴》と調べたところで何も引っ掛かりはしないだろう。
かと言ってAランクの中心部にあるような、順当で分かりやすい狩場なら、ハンターギルドが把握できていないことに違和感を覚える。
【広域探査】――『Sランク魔物』
となると、今はこれくらいしか方法が見当たらない。
探査範囲は1㎞以上あるわけだし、普通であれば高確率で見つけられるやり方のはずだけど……
どうにも不安が拭えないまま、マッピング作業は進んでいった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
日が昇れば収納していた氷を抱え、日が沈めば防寒鎧を着て。
朝から朝方まで高速マッピングを進めてもう4日。
ようやくDランク帯とCランク帯の魔物が混在し始めたところで、溜め込んだストレスを吐き出すように大地へ向かって吠えた。
「ちょっと、この狩場、広過ぎるんだがーっ!?」
途中からは狙っていたサンドフィッシュの『砂泳』もレベル7に到達し、ならば割り切るかと【広域探査】の対象を『Sランク魔物』と『ゲイルドレイク』の二つだけに絞り、【風魔法】で周囲の風を制御しながらひたすら読書タイムに耽る毎日だった。
真っすぐに北から南へ、国境線にぶつかれば次は南から北へと移動するだけなので、傍から見たら半眼で空を飛びながら本を読んでいる頭のおかしなヤツにしか見えないけど、どこを見たって景色がまったくと言っていいほど変わらず砂しかないのだ。
50冊くらいは未読の本に目を通せたし、何気に上手い時間の使い方だったような気もする。
そして今――、睡魔を吹き飛ばしてくれる新たなストレス発散対象を見つけ、滑空しながら勢い良くCランク帯の魔物をぶった斬った。
「はっはーッ!」
「ピギィ!」
『【熱感知】Lv1を取得しました』
「ついでにそっちも、『風刃!』」
『【脱皮】Lv4を取得しました』
「久しぶりの【脱皮】に、使いどころが分からないけど白文字ナーイス!」
【熱感知】Lv1 視界内の温度を視覚化させる その精度はスキルレベルによる 魔力消費0
このような詳細説明が出てきたスキルを使用してみると、視界全てがモワ~っとオレンジ色に染まり、今こちらに向かってきている魔物含め、所々にポツポツと青みがかったような色が表示されていた。
2色しかないところがレベル1らしくて雑だけど、これはもうテレビで見たことのあるサーモグラフィーと同じような感じである。
ある意味すぐに受け止められる仕様でありがたい。
「キュッ!」
空から近寄ってきた魔物を斬り伏せ、このままでは戦いづらいと感じて【熱感知】を切ると、目の前には雇われ傭兵バーシェが逃走を図ろうとして足に掴まっていた時の魔鳥が。
遠くにいる、斧のような嘴の魔物も含めれば、Cランク帯の構成と所持スキルはこんなところか。
アックスビーク:【突進】Lv3 【俊足】Lv3 【斧術】Lv3 【遠視】Lv3
ヨーウィー:【熱感知】Lv2 【脱皮】Lv3 【擬態】Lv3 【噛みつき】Lv3
デザートホーク:【飛行】Lv5 【爪術】Lv2 【遠視】Lv4 【視野拡大】Lv3
ここもそれぞれ最低100体。
蛇とトカゲが合体したような、ちょっと見た目の気持ち悪いヨーウィーという魔物は、【熱感知】と【脱皮】を飽きるまで狩っておけば、Bランク帯へ突入する頃には最低ラインくらい超えてくれるだろう。
(ふふふ、少しずつだけど、着実に強くなってきてるなぁ)
そんな状況に一人ニヤニヤしながら移動狩りを再開して、すぐだった。
ふわっ、ふわっ、と。
2秒に1回ほどのペースで俺の視界を縁取るように、青い光が明滅を始める。
(あぁ、これがハンスさんの言っていた『青い方』か……)
咄嗟にステータス画面を開き、【魔物使役】専用タブを開くと一番上。
入り口を見張る黒象ギリオ君の表示部分も、俺の視界と同じようにフワフワと同じ青色で緩く明滅していた。
赤くはないので、誰かから攻撃を受けて死にかけということではないっぽいけど、なるほど。
ベザートからの呼び出し――、ギリオ君ということならまずダンゲ町長かペイロさんなわけだから、どうやら俺宛てのお客さんが来たらしい。