Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (442)
432話 裏ルート
対象を見つけたら視界を閉じ、【魔力感知】の反応だけを頼りに、砂の球体から魔石を素早く抜き取る。
ザシュッ――
『【陽炎】Lv6を取得しました』
ふぅ。
ようやく目先の目標にしていたスキルのレベルが上がり、掴んだ魔石を収納しながらすぐに詳細説明を確認した。
【陽炎】Lv6 本来とは異なる位置にその姿を映し出す 魔力消費:1分ごとに10消費
「ん~レベル6で日中の使用制限が消えて、魔力消費は変わらずか」
エルグラント王国の特使が訪れてから既に1週間以上。
あれからも連日砂漠に通い続け、今はAランク魔物も混ざり始めたBランク帯の終盤。
そこでなんとかもう1つはレベルを上げ切ってしまおうと、砂を固めた球体型の魔物。
『サンドミラージュ』だけを狙って乱獲していた。
ちなみにBランク帯の魔物と所持スキルはこのようになる。
サンドワーム:【噛みつき】Lv3 【穴掘り】Lv3 【気配察知】Lv3 【踏みつけ】Lv4
サラマンダー:【火炎息】Lv3 【火属性耐性】Lv5 【踏みつけ】Lv4
サンドミラージュ:【陽炎】Lv3 【土魔法】Lv4 【魔力感知】Lv4
予想通りの見た目で砂に潜っていたサンドワームは、新種だけどスキル構成がイマイチ。
サラマンダーもエントニア火岩洞で狩りまくったので、数日頑張ったところでスキルレベルがホイホイと上がるような段階ではない。
それでもBランクなら需要もあるかと300体ずつくらいは移動しながら狩っておいたが、やはり狙いは新種スキル【陽炎】を持つ『サンドミラージュ』に絞られていった。
まぁ日常的に使うようなスキルでもなさそうなので、ステータスボーナスを目的にしている部分は大きいが。
ちなみにこの魔物専用スキルを使用すれば俺の姿はその場から消え、近くでモヤモヤと実体を伴わない虚像の姿が映し出される。
その時目視はもちろん、本体が一切動かなければ【気配察知】の反応も断てるけど、【魔力感知】と【探査】は誤魔化しが利かず。
動けば【気配察知】にも反応してすぐにバレるので、【隠蔽】がカンストしている俺には関係ない話だが、近い系統の【透過】とどちらを好むかは意見が分かれそうなスキルだな。
【陽炎】の利点は『目』に頼った相手だと、最初のうちは特に騙されるというか混乱してくれる。
斬ろうが殴ろうが映し出された姿に実体はないのだから当然だ。
そして分かっていても、視界の端では虚像の俺が同じ動きをしているわけだから、どうしたって意識はそちらにも向いてしまうものだろう。
だが揺らめきながら姿が消えて虚像が別の場所に生まれるので、前もって仕込んでおかないと効果は薄そうだし、あくまで靄なので虚像の精度はそこまで高くないと、実験に付き合ってくれたカルラも言っていた。
スキルレベルが上がるほど本体から離れた位置に、そして虚像のモヤモヤ感も薄くなってきているみたいなので、レベル6くらいになればどこかで使えるタイミングがあるのかもしれないけどね。
とりあえず目を開けていると混乱するので、目を瞑って【魔力感知】だけを頼りに魔石を抜き取るのがサンドミラージュ対策には一番である。
そして――。
既にチラホラと見えている、Aランク帯の魔物にも目を向けた。
遠くで上空を舞っているのは、クオイツ竜葬山地の外でも多く見かけ、ベザートの上空警備も担っている小型の竜『ウィングドラゴン』。
それに雇われ傭兵バージェが【騎乗】していた『グリフォン』に、蟻地獄を作って待ち構えている、初登場の如何にも砂漠らしい魔物『オドゥン』。
【飛行】する魔物2体に、地中に潜って姿を見せない魔物とか、上も下も気にしなければいけないので、普通ならなんとも面倒そうな狩場である。
(ん~スキルの伸びが期待できるとしたら【オドゥン】ってやつだけか……)
ウィングドラゴン 【飛行】Lv5 【風魔法】Lv5 【風属性耐性】Lv4
グリフォン 【飛行】Lv3 【爪術】Lv5 【咆哮】Lv3
【心眼】で覗けば、グリフォンはよく見る獣型の大型魔物特有のスキル構成をしているのだ。
素材とレベル経験値目的でしこたま狩りまくる予定だけど、スキルレベルの上昇は期待できそうもなく、期待はオドゥンに絞られていく。
「さぁ、頼むよ~!」
あの『穴』がスキルによるものかどうか。
まずそれ次第だ。
マッピングを進めながら進路上に特徴的なすり鉢状の巣穴を見つけ、さすがに死にはしないだろうと、わざとその穴の付近に落ちてみる。
すると、
「おぉ、おぉおお?」
螺旋を描くように砂が蠢き、俺の足は中心部へ吸い込まれるように引きずられていった。
底なし沼のように抜け出せなくなるだけかと思っていたが、想像より遥かに強引で強制力のあるやり方に驚きと期待が入り混じる。
そして、中心部から姿を現す、クワガタみたいな赤黒い昆虫。
前方に長く伸びる、鎌のような形状をした大顎はそれだけで俺の背丈以上あり、全容は分からないにしても昆虫らしからぬ巨体を想像させた。
が、重要なのはそこじゃない。
姿を現したことで見えたスキル内容に笑みを零しながら、
――【飛行】――
一度浮上し、待ち構えるように動かしていたオドゥンの大顎を掴んで、空中へ強引に引き摺りだす。
すると砂に埋もれていた胴体部分も2メートル近くあり、テカテカと艶のある外殻は叩けば、その硬さを示すように甲高い音を鳴らした。
資料本には食用じゃないと記載されていたが、防具素材としてはそこそこ優秀っぽいな。
「ふんっ!」
「ギギ…ッ……」
『【流砂】Lv1を取得しました』
『【流砂】Lv2を取得しました』
【流砂】Lv1 範囲内の砂を任意に流動させる その範囲と及ぼせる効果はスキルレベルによる 魔力消費:1分毎に10消費 ※砂地でのみ発動可能
「……白文字、だけどやっぱり”砂地限定”か。まぁ使い難そうな感じは予想できていたからいいとして――……」
視線を下に向けると、オドゥンを引き摺り出した巣穴の中心部はぽっかりと開いており、しかし当然のように『穴』の底は砂で詰まっているように見える。
うーん。
「どこかにあるはずのSランク狩場は『夢幻の穴』……今は砂で覆われた隠道……埋もれた、地下……『穴』……」
フェルザ様が考えそうなこと。
ゲームの世界であれば有り得そうな、普通ではまず気付けない裏ルートか。
これが作為的なモノなのかは分からない。
けど……
「どうも怪しいんだよなぁ……」
もしかしたら地下に通じる、特別な『穴』でもあるのではないか。
そんな妄想をしながら、本格的なAランク帯の探索を開始した。