Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (444)
434話 砂嵐
報告会の後、二人で転移したのはヘルデザートのBランク帯だった。
「ほんとにここで置き去りにしちゃっていいの?」
「ちょっとだけ見えてるし大丈夫」
「マジかよ……」
――【光魔法】――『追尾する、光玉』
「とりあえず追尾と持続時間を重視した光源は出しといたから。人なんてほとんどいない場所だから大丈夫だと思うけど……一応気を付けてね」
「ん、ありがと」
以前した約束。
リアの火を吹きたいという願望――なのかはよく分からないけど、とりあえず【火炎息】を所持するサラマンダーが多く生息している、これ以上ないほど目立たない狩場は見つけたのだ。
【魂装】をセットしたリアは、果たしてお目当ての魔物専用スキルをゲットできるのか。
その結果には俺も興味があるし、夜間ならまず大丈夫だろうということで、そのまま置き去りにして再度転移。
Aランク帯の途中で止まっているマッピングを再開させた。
帰りたくなったら【分体】を消すだけなのだから、なんの心配もいらないのである。
ちなみにヘルデザートは昼でも内部に踏み込めば人は少ない。
Dランク帯だと魔物ハンターと遺物ハンターで人影はかなり目立つが、Cランク帯に入ればもう人はまばら。
Bランク帯以降になると、ここ数日でも一組のパーティしか見かけていない。
狩場が広過ぎるのに持ち帰れる素材や遺物は限りがあるのだから、唯一見かけたパーティのように、魔物にソリのような大型の荷車を牽かせて動くなどの応用でも利かせないと、こんなハイリスクローリターンな狩場を選んだりはしないだろう。
バーシェがここの魔物を使役していたのも、魔物を利用して空を飛べるという大きな利点を活かせたからだろうしね。
低空維持のまま【探査】で反応した魔物をバコバコと狩っていき、ついでに蟻地獄も1つ1つ踏んでは中心部を覗いていく。
目立つ怪しい穴は未だに発見できていないけど、オドゥンを狩るついでだと思えば苦にもならない。
そんなこんなで数日後――。
「あぁ、Aランク帯終わっちゃったか……」
気付けば東側のBランク帯に入ったことを示すように、サラマンダーが深夜の冷えた砂の上を闊歩していた。
Aランク帯全域でも『Sランク魔物』の反応は拾えず、これといった手掛かりは無し。
いったいどこに『夢幻の穴』はあるのか。
それに『ゲイルドレイク』もまったく足取りを追えていないし、レア種のホワイトワームだって当たり前のように見かけていない。
ふぅ――……
折り返しを越え、精神的にもキツくなってくる頃合いだ。
さすがにそろそろ、コツコツ上げてきた俺の『幸運』が仕事してくれてもいいんじゃないの?
そんなことをボソリと呟きながら、睡魔を堪えて深夜のマッピングを続けていたところ――
『ロキ、なんか大きい魔物の影が近寄ってくるんだけど』
ふいに聞き慣れた声から【神託】が入った。
その瞬間眠気が吹き飛び、すぐに俺も反応する。
――【神通】――
「ちょちょっ……、まだ狩ってたの!? ってかお願い! それ絶対倒さないで! すぐそっち行くから!」
『ん、あ、目が痛い』
「え?」
分かったような分かってないような返答。
でもたぶん、連日俺がコイツを追いかけていることは知っているのだから、意味は通じているだろう。
まだ粘ってサラマンダー狩っているとは思わなかったが……
「まさか、もっと『幸運』が高い方に行った?」
そんな予想を立てながら、以前二人で飛んだBランク帯に転移した。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
冷静に考えれば、リアがどこにいるのか分からなかった。
まずこの広いBランク帯で居場所を見つけなくては――そんな心配は、周囲を見渡したことで杞憂に終わる。
「おぉう、凄いな……」
【夜目】を通して見るその景色は圧巻の一言で、東側には天から吊るされたカーテンのように、明確な砂塵の境目がかなりの広範囲に広がっていた。
「リア! まだ聞こえる!? 砂塵の中にいるの?」
『ううん、痛いから、もう帰った』
「【分体】を消したってこと? 状況がさっぱり分からないけど助かったわ、ありがと!」
あんな砂の壁、砂漠の旅で初めて見るのだ。
中に入れば答えは見つかる。
そう思って勢い良く突撃すると、リアの言っていた意味をすぐに理解した。
「あぶっ……これは、想像以上……」
咄嗟に目元を手で覆うも砂が入り、涙目になりながら前を見据えたところでほとんど先は見通せない。
砂塵の壁を見た時に連想したのは黄砂だったが、中は強い風が吹いており、口を開けることすら憚られる。
いったいどこまで続いているのか?
――【広域探査】――『ゲイルドレイク』
それは分からないが、300メートルくらい先の地上には本命の表ボスが存在しているのだ。
状況的にも、『ゲイルドレイク』を中心にこんな災害規模の現象が起きていると思うのが自然だろう。
――【身体強化】――
――【気配察知】――
――【魔力感知】――
――【魔力纏術】――魔力『5000』
(まだ余剰分でいけるか……)
――【転換】――
『【魂装】Lv6を取得しました』
ボスの【魂装】機会は見逃せないからな。
これで準備完了。
まずはその姿を拝見させてもらうか。
手で顔を覆いながら探査の示す方角へ向かうと、その巨体を表す影が薄っすらと見え始める。
と同時に横から吹雪のように吹き荒れる砂。
次第に強くなる猛風は砂塵に突入した直後の比ではなく、ようやくゲイルドレイクの姿を視認できた時には、まともに目を開けられないほどになっていた。
――【洞察】――
――【心眼】――
(強さは概ね予想通りだが……【砂嵐】、やっぱりコイツのスキルか。ならば――)
――【結界魔法】――『防壁』
いくら強くなろうと、目に入った異物が気にならないなんてことはない。
これでようやく吹き荒れる砂の妨害が一時的に解消され、捉えた褐色の巨躯に感嘆の声を漏らす。
「デカいなぁ。トカゲ……いや、鱗があるから竜か。なんにせよ、良い素材になりそうだ」
ヴァラカンより一回り大きいその姿は、全長で20メートル近くありそうなのだ。
これなら皆の装備に素材を回したところで十分お釣りがくる。
ん~しかし、変な所に羽の生えた竜だな。
腕の周囲に羽にも水掻きに見える翼膜が備わっており、上空にいる俺をジッと見つめたまま一向に羽ばたく様子を見せないので、たぶん砂の中を移動する類であろうことが予想された。
その代わりに大口を開け、口内の炎を溜めながら馴染みのあるスキルを俺にぶちかまそうとしているが……
――【発火】――
コォオオァアアアアア――……
まぁなんでもいい。
マッピング済みの方に入り込んでいたお陰で、危うく仕留め損なうところだったのだ。
リアに釣られてくれて本当に助かった。
これでようやく、布団の上でゆっくり寝られる。
「出てきてくれてありがとう、あとはとっとと死んでくれ」