Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (447)
437話 おい、俺の幸運
皆で興奮しながらゲイルドレイクのお肉を堪能し、ついでにお礼も兼ねて、上台地にも肉の塊をお届けした後。
昨日まで進めていたAランク帯とBランク帯の境目付近に転移したら、マッピングを開始する前に【広域探査】の対象を確認していく。
――【広域探査】――『魔道具』
「おお? Bランク帯は無数に埋まってるけど、Aランク帯はほとんど無しになるのか……」
今まで興味はあっても、自分で探そうとまでは思わなかった魔道具。
だが最低限望む水準までスキルレベルを上げられたので、ここからの探査はコイツが中心だ。
ゼオが何気なく呟いた、”辿り着くのが面倒”という情報。
これを普通に解釈すれば、狩場は当時存在していたダークエルフの町から大きく離れていたのではないかと予想できる。
もしくは砂の下に埋もれた隠道か。
安全な砂漠街道から大きく外れた場所となると、それこそ辺鄙な砂漠の外れにあってもおかしくはないが……
少なくともかつてダークエルフが住んでいたであろう地域に、Sランク狩場の入り口は存在していない可能性が高い――こういう結論に至った時、砂しかない砂漠のどこに町があったのか。
その判別は『魔道具』が最も適していると判断した。
ゼオはダークエルフが人間の知識や技術を貪欲に取り入れていると言っていたのだ。
となれば魔道具を多分に活用していたと考えられるわけで、地中に眠る魔道具の少ない地帯が”辿り着くのが面倒”な場所に繋がるのではないかと思っている。
――まぁ、これは言葉通りにそのまま受け止めればの話だが。
なんせゼオは【空間魔法】が使えるのだ。
そうと分かって誰かがアドバイスをしたのであれば、まったく意味は異なってくる。
「最悪、狩場の入り口がランダムに変化する可能性もあるよなぁ……」
同じ【空間魔法】持ちの立場として、どうなれば”辿り着くのが面倒”かを考えれば、狩場の入り口が固定されておらず、かつ周期性もなく《《動く》》ことが一番煩わしいと感じてしまう。
どんなに僻地であろうと一度辿り着ければそこからはフリーパスのはずが、いちいち探すところから始めなければいけないのだから当然だ。
では、狩場内部に直接飛べばいいのではないか?
そうは思うも、そこで出てくるのがカルラの言っていた”ダンジョンみたい”という情報で。
四六時中光が灯り、壁もぶっ壊せないような、明らかに神様が作ったであろう創造物に近い存在となると、どんな特殊ルールが敷かれているのかも分からない。
まず《夢幻の穴》という名前からして怪しいわけだしなぁ……
どちらにせよ、かつて人の多く住んでいた地帯に存在する可能性は低い。
ならば魔道具の少ない場所を絞り、ついでに――
――【精霊魔法】――
意識しながら『水の精霊』に求めれば、以前ベザートの開拓で使用した時とは違ってほぼ反応を示さないことが分かる。
『土の精霊』を意識すれば一瞬だけ空が茶色く染まるのだから、その差は歴然だろう。
――【広域探査】――『天候操作魔道具』
「……」
おおよそ原理は分かっているのだ。
以前ばあさんから受け取ったラグリースの史書には、動く古代遺物の一つとして『雨を降らす魔道具』を王家が所有していることも記されていた。
たぶん【精霊魔法】を組み込み、『水の精霊』に呼びかけ雨を降らす――そんな仕組みだと思うが、似たようなモノが地中のどこかで延々と稼働し続けているのなら、極端に水の精霊が少ない理由にも説明が付きそうな気がするのだ。
ついでにソイツも見つけられれば見つける。
そのつもりで『魔道具』、『天候操作魔道具』、『Sランク魔物』、『ホワイトワーム』の4種に絞り、残るヘルデザート東部の高速マッピングを開始した。
――が、翌日。
「……え?」
なぜか、最も期待していなかった『Sランク魔物』の反応を【広域探査】が拾ってしまう。
読んでいた本を落としそうになりながらも慌てて停止。
周囲を見回すとそこはまだBランク帯で、反応を示す1ヵ所にゆっくり近寄ってもその数が増えることはなかった。
この時点で《夢幻の穴》でないことはすぐに理解したが。
「たぶん、ウィングドラゴン、だよな……?」
遠目から見えたその姿に、思わず口角が吊り上がる。
知られていないレア種の可能性もあるけど……
これはもしかしたらもしかするかもしれない。
――【獣語理解】――
堪らず猛加速。
目の前に躍り出ると、問題のウィングドラゴンと思しき魔物は、サラマンダーを捕食している真っ最中だった。
通常サイズはおおよそ4メートル程度、体表は深みのある緑色をしていたはずだが、目の前にいる竜はどう見ても6メートル以上あり、手足の一部を残して竜鱗の多くは黒みが強く混じっている。
それに、
「ガァッ!」
「ちょっと待ってて」
振り向きざまに打ち下ろしてきた腕を千切れない程度に強く掴み、逃げられないようにしながらジッと見据える。
「【飛行】がレベル6……?」
経験上Aランク魔物であろうとスキルのレベルは5が最上限。
それを超えるのはボスのみという認識だったのに、この魔物はそのルールから逸脱していた。
本来所持していないスキルが備わっているというわけではないが、やはり何かが違う。
これは間違いなく――
「ねぇ、オマエ、覚醒体でしょ?」
やっとだ。
やっと、俺の幸運が仕事をし始めた。
その事実に打ち震えながら問い掛けると、
「なんだ、貴様……! 食い、殺してやるわ!」
相変わらず反抗的というか、最初はなぜか激高していて会話にならないけど、コイツらを大人しくさせる方法はベザートの警護要員を集める時に学習しているのだ。
――【魔力纏術】――魔力『2000』
パコン。
「いいから、黙って、俺の仲魔になれよ」
「…ぁ、いだ……ッ、魔王、様……? 仰せの、ままに……」
軽く小突いたあとは、黒い魔力を見せた上で高圧的に。
最初のうちは、これが何よりも一番効く。
「名前は、そうだな……ウィン、いや、ウィグにしようか」
「有難き……有難き……ッ!」
「で、ウィグは覚醒体ってやつなんでしょ?」
そう問うと、長い首を微妙に曲げて考える素振りを見せる。
「覚醒体のその手前、になるかと……」
「ん? どういうこと?」
「まだ覚醒していないことは分かりますので」
「えーとそれは、新しいスキルが発現していないからってこと?」
「そういうことになります」
「なるほど……」
となると、覚醒体は初めから覚醒体として生まれるのではなく、通常個体の中の特異型、もしくは進化型ということになるわけか。
そして、覚醒体になる手前でも既存スキルに成長が見られ、どういう判定かは分からないけど、AランクからSランクに昇格も果たしている。
考えられる原因は――、ハンスさんが使役しているロキッシュの行動を考えればコレだろうな。
「ちなみに、今食べているソレは、生きているのを捕食したの?」
「そうですが」
「やっぱりそうだよね。この世界に生まれた時から?」
「いえ、最初は興味もありませんでしたが、ある時から急に、ですね」
「急にか……きっかけは分かったりする?」
「そこまでは……」
「あーいいよ、ありがと」
得られる情報は酷く断片的だ。
しかし内容は非常に面白く、興味をそそられてしまう。
魔物が魔物の死体を食らうことは分かっていたし、直接見る機会は無かったものの、格下の魔物を捕食するような話も以前にアマンダさんから聞いた記憶はあるが……
覚醒体予備軍に切り替わる、何かしらの
設定
がこの世界には存在しているのか。
超低確率で発生する単純な個体差の特徴という可能性もあるので過度の期待はできないけど、上手くいけば望む魔物のランクを昇格し、覚醒体まで持っていくことができるのかもしれない。
(ん~Sランクでコストは『60』か)
まぁコスト上限がある以上、仮に判明したとしてもそう多くの魔物を使役することはできないけど、だからこそ厳選のしがいもあるというもの。
また一つ楽しみが増えたなと。
そう感じながら、経過と今後の実験のためにウィグを下台地へ連れていった。