Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (449)
439話 改装、クアド商会
「おぉ……すごっ」
入った瞬間に零れた感想はソレだった。
商人っぽい人が一番多いけど、庶民的な服の人もいれば、腰や背に武器を所持しているような人達もチラホラといる。
なんにせよ、視界に入るだけでお客さんが50人くらいおり、こんな僻地なのにだいぶ繁盛してきていることは間違いなかった。
(会計カウンターは――……)
人だかりの隙間から覗くと、元魔石屋のミザールさんと元受付嬢レイミーさん、それにヘルプから従業員になった雑貨屋の娘マギーさんの他に、見覚えのない女性もカウンターで計算をしている。
それぞれに一人の元奴隷組が付いた8名体制でどうやら頑張っているらしい。
そして横にあるパイサーさんのカウンターも、いつの間にか知らないおばちゃんと元奴隷組の一人が加わり、3人体制で対応していた。
あそこは武具や鉱物の他に、装備に転用可能な魔物素材も一括して取り扱ってるからなぁ……
パイサーさん一人だと手に負えないだろうなと思っていたので、人が増えてちょっと一安心だ。
お客さんが増え、売れていると言ってもまだほんの一部。
溜め込んでいた在庫の量は尋常ではなく、多少減ってきているとは言っても、奥にはフロアを大きく占有する形で値札の付いていない品が眠っていた。
その近くで相変わらず棚を作っていたベッグさんに声をかける。
「こんにちは~クアドはどこにいます?」
「おうボス、店長はあっちの高級店にいるぜ」
「あ、もう稼働してるんですね。それじゃ新しい売り物、ここら辺に置いておきまーす」
「うおっ……」
隅の方に持ってきた魔物素材を放出していくと、ベッグさん達だけでなく、背後のお客さんからも僅かに悲鳴が上がる。
「ま、また、すげー量だなこりゃ……」
「でも今回は量が多いだけで、10種類くらいの魔物素材ばかりですから、管理はかなり楽なはずですよ」
「あ、魔物素材って言えば、店長が肉とかの食料を腐らせねぇようにって、町の大工仕事が得意な連中に頼んで食料保管庫作ってたぜ?」
「ほほぉ。どこだろ?」
「入り口の正面奥、店長のいる高級店と入り口の間だ。在庫の冷蔵魔道具大量にぶち込んだ部屋を作ってあるから、食い物はそっちに持ってってもらえると助かる」
「了解です。それじゃそっちの様子もついでに見に行ってみますね」
うーん、考えてみれば食料関係はギルド売却か無償配給をしまくっていたので、頭からすっぽ抜けていたな……
少しずつ落ち着いてきているし、オルグさんのところと、ヴァルツ領のギルドには不定期に卸しながら、ここでも外向けに食材を売ったっていい頃合いだろう。
「おぉう、さぶっ……」
言われた場所に向かうと、石を積み上げて作られた50畳ほどの大きな部屋が。
すのこのような木の板が地面に並べられており、10基以上の冷たい風を放出する冷蔵魔道具と、僅かながらの食料やお酒が無造作に置かれていた。
どう見ても売り物というよりは皆の晩御飯といった感じで、ホテルの宴会場くらいあるのに中は閑散としていて物寂しい。
んーしかし……
積まれた石は歪なため隙間から冷気が漏れているし、棚がまったくないので床に直置きっぽいこの状況はなんとも不衛生。
それにこのままでは高さもまったく活かされておらず、スペースが非常にもったいない。
「ふーむ。少しだけ、テコ入れしておくか」
そう思い、一度旧ヴァルツ領へ。
北部エイブラウム山脈で硬そうな石材をゴッソリ調達後、黙々と食糧庫の加工作業を進めていった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
クアド商会入り口から入って正面の最奥。
と言っても今は食糧庫が道を塞いでいるが、その一番奥に店長クアドが店番をする高級店が存在していた。
その区画はカウンターと俺がなんとなく作った石壁で遮られており、許可された者しか立ち入りを許されていない。
しかしニューハンファレストと裏口を繋げたせいか、予想以上に身なりの良いお客さんが中をウロウロとしていた。
「よっ、クアド。ここも結構お客さん多いね」
「ロキさん! そうなんすよ! 宿の方から入ってくる『VIP』が多くて……へへっ」
そう言って頭を掻きつつ顔はニヨニヨしているのだから、嬉しい悲鳴ってやつなんだろう。
ちょこちょこと接客を挟みつつも店の状況を聞き、今回の補充品と、売上や売れ筋の品なんかを確認していく。
全体的に動いているようだが、まだ道が整備されていないこともあって大型馬車の出入りは少ないらしく、小物の日用品とこの辺りでは手に入らない魔物素材が好調とのこと。
逆に大型の家具が一番不調みたいだけど、どうせタダで手に入れたモノだしな。
邪魔になるほど売れないなら、その時はベザートの人達にプレゼントしちゃえばいいだろう。
「あ、それと前言ってた『地図』の件っすけど、本気でやりたいって人が二人いたんで作業に入ってもらってるっすよ。まだ作業場が用意できていないんで、今は自宅で内職っていう形にしてもらってるっすけどね」
「おぉ、スキルは大丈夫だった?」
「ダメ元で教会寄ってもらったら、それぞれ【自動書記】と【写本】をレベル2まで取れたみたいで。出来上がったモノを見ても、十分売り物にはなりそうだったんで少しずつ売っちゃってるっす」
「なら全然問題なしだよ。地図の売り場はココ?」
「っすね。それなりに高価なモノですし、買う層も限られてるっすから」
「了解。それじゃ宣伝がてら、それぞれ2枚ずつくらい飾っておくか……」
まずは知ってもらわなければ、売れるモノも売れないしな。
高級店のカウンター上面に、【土操術】で少し壁を加工して貼り付けると、精算の時に必ず目に付くから良い感じだ。
これをお店の正面入り口にも飾っておけば、世界の広さに興味を示す人もきっと増えるだろう。
「あーあと、食糧庫も少し改装して、売り物補充しておいたからね」
「え?」
「一応分かりやすいように魔物の名前書いて種別に分けといたから、あとは上手いこと値付けして売っちゃってよ。これから冬に入れば、食料は遠方からも買い付けしやすくなるだろうしさ」
「そりゃもちろんっすけど……」
ん~!
本当はアマンダさんが所長の『新奇開発所』も覗いてみたいと思ったが、ついつい食糧庫の加工に時間を掛け過ぎてしまったな。
ニューハンファレストの建造でウィルズさんに扱かれたおかげで、妙な拘りが生まれてしまったらしい。
が、そろそろ息抜きは終了だ。
最後に店内側の入口上部にも地図を張り付け、まだまだ大量にある肉をオルグさんや旧ヴァルツ領のギルドに卸した後、再びヘルデザートの探索を再開させた。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
営業が終わった夜のクアド商会。
そこで晩御飯の食材を取りに来たミザール、クアド、ベッグ、パイサーの4人は放心したように固まっていた。
「これ、うちの王様がやってったの……?」
「っすね。商品の補充にチョロっと寄って、”少し改装した”なんて言ってたっすけど」
「いやいや、どこが少しなんだよ。ここだけ隣の高級宿みたいになってんじゃねぇか」
「それにこの肉の量……数百匹分はあるだろうな」
田舎町に魔法を扱える人間などほとんどいないため、しょうがないと言えばしょうがないのだが……
元々は、まだ木材よりマシという理由で積み上げられていた石壁。
素人がただ積み上げたわけではないにしても、隙間から冷風が漏れることも止む無しといった状況だったものが、今は妙に高級感のある平面の石壁に切り替わっていた。
隙間どころか石材の切れ目すらなく、それは同素材で綺麗に並べられた15段ほどの棚も同様で。
その上に所狭しと並べられた魔物の肉は、区画ごとにそれぞれ木板で魔物名が記載されており、10メートルほどの高さがある上部まできっちり並べられていた。
「わざわざハシゴまで作ってるのか」
「こっちに並べられたデカい壺はなんだ?」
「んーウィングドラゴンの血って書かれてるわよ」
「それ、相当高く売れるっすね、少量でも」
「「「「……」」」」
「ふぅー……とりあえずまた人を雇わなきゃいけないっすね。肉を捌いて量り売りできる人を」
「そうだな。ギルドの解体屋ロディも肉にはそれなりに詳しいはずだが、より専門ってなると肉屋のペンゼ夫婦か」
「あの夫婦なら鍋の蓋と包丁持って森の中にいたくらいだし、教会が食事を用意しているうちは暇してるわよ」
「じゃあ、とりあえずその人達を誘ってみて――……」
少しずつ変貌を遂げていくクアド商会。
ロキの思い付きに振り回され、その度に人を雇い入れてと大忙しであったが、目の下に深いクマを作ったクアドの尻尾はその感情を表すかのように勢い良く揺れる。
世界一の商会は果たしてどこまで大きくなり、想像の常に上をゆくボスが、次はいったいどんなモノを仕入れてくるのか。
「へへっ……俺っちがなんだって売ってやるっすよ」
日中は店に立ち、終わればゴールのまったく見えない値付けの日々。
とうに体力の限界を迎え、寝不足は顔にも強く出ていたが、それでもクアドはこの現状を楽しむように、鼻を擦りながら笑っていた。