Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (453)
443話 2等級の可能性
何に気を掛ける必要もなく、一人狩場を占有できることがどれほど幸せなことか。
「独占じゃ~い!」
【集敵】効果のある邪魅の乱槍を片手に徘徊しながら、未知の魔物を見つけてはスキルを覗き、その内容を手帳に書き込んでいく。
いくつか魔物情報を纏めた書物はあるが、ランクや特徴、あとは詳しくても素材転用部位や食した時の味が表記されているくらいで、各魔物が所持しているスキル構成まで載せているようなモノは一つもなかった。
となれば、自分で調べ、纏め上げるしかない。
ちなみに城下町エリアのDランク帯はこのような構成になっていた。
・Dランク
キャスパリーグ:【跳躍】Lv3 【噛みつき】Lv2 【忍び足】Lv2
ジャイアントワーム:【踏みつけ】Lv3 【突進】Lv2
グロウハウンド:【俊足】Lv3 【嗅覚上昇】Lv2 【忍び足】Lv1
フォムスラッグ:【粘液】Lv2 【分裂】Lv3 【踏みつけ】Lv1
マトン:【突進】Lv3 【昼寝】Lv1 【逃走】Lv2
キャスパリーグはラット君の治めるギニエの狩場に。
ステーキが美味いジャイアントワームと小汚いドロ塗れのグロウハウンドは、ラグリース中部の町リプサムの近郊にある《ビブロンス湿地》にいた魔物だな。
ジャイアントワームは草原にもいたし、この辺りは素材販売用に100体もいれば十分といったところだが、魔物素材の売れ行きがだいぶ好調みたいだからね。
フラフラしていれば勝手に近寄ってくるし、草原エリアと同じく鉱物が必ずくっついているので、一応パパッと身体を切断して収納するようにしている。
そして今、目の前でツンツン突いている『フォムスラッグ』という魔物。
コイツが未所持スキル2種持ちで、この城下町エリアでもっとも熱い魔物に認定されていた。
姿はどの角度から眺めても気持ち悪いナメクジで、謎の穴から粘着性の高い【粘液】を飛ばしてくるが――
ぷるるっ、ぷるっ、ぷるるるっ。
殺さない程度にツンツン刺激すると、小刻みに身体を震わせ、身体を分けるように【分裂】してくれるのだから面白い。
何度試しても、【分裂】は本体から数えて3度だけ。
でも所持スキルに変化はないのだから、1体見つければすぐに8倍の経験値を得られる計算だ。
どちらもグレー文字で使用不可は残念だけど、生息数はやや少ないので、見つけたら即行でツンツン推奨だな。
『【分裂】Lv4を取得しました』
そしてこの『フォムスラッグ』と【昼寝】する『マトン』を探しながら、新規スキルは持っていなかった他の魔物もついでに狩っていく。
なお、CランクとBランク魔物は、このような構成になっていた。
・Cランク
ロックタートル:【土魔法】Lv3 【土属性耐性】Lv2 【硬質化】Lv3
サデュザーク:【突進】Lv2 【回復魔法】Lv3 【俊足】Lv2
アンフィスバエナ:【毒耐性】Lv4 【噛みつき】Lv3 【脱皮】Lv2
ハイオーク:【捨て身】Lv2 【踏みつけ】Lv3 【槌術】Lv2
カルノタウラ:【投石術】Lv3 【射程増加】Lv2 【体術】Lv3
ロックタートルとカルノタウラは、横のオルトラン王国中央の《サザラー魔物生息地帯》にもいたからまぁいいだろう。
ハイオークも《ベイルズ樹海》の深層など、Cランク帯の山中や森にそこそこ出没するのでそう珍しくないが、『アンフィスバエナ』と『サデュザーク』という魔物はここが初見だ。
『アンフィスバエナ』は双頭の5メートルくらいはある細長い毒蛇。
『サデュザーク』は角の代わりに2本の木の枝が生えた鹿の魔物で、珍しく【回復魔法】を使ってくるらしい。
全部スパスパ首を落としているので、そんな場面一度も見てないけど。
・Bランク
魔樹:【気配察知】Lv3 【不動】Lv3 【光合成】Lv3
青飛竜:【飛行】Lv5 【氷結息】Lv4 【氷魔法耐性】Lv3
コカトリス:【石眼】Lv3 【火炎息】Lv3 【噛みつき】Lv3
ウガルルム:【爪術】Lv4 【跳躍】Lv3 【噛みつき】Lv3
ズラトロク:【光魔法】Lv3 【光耐性】Lv3 【突進】Lv4
魔樹と青飛竜はパルメラのBランク帯で見慣れているからいいとして、『ウガルルム』とここで出会えたのは予想外だった。
ハンスさんの抱える覚醒体ペット『ロキッシュ』の基となる魔物で、大陸南東にいるような話をしていたので、これでたぶん、ハンスさんもこの狩場を把握していないのは確定と言ってもいいだろう。
ちなみに元は3メートルに満たない、2足歩行する狼みたいな姿をしていた。
そう考えるとロキッシュは倍近く成長していることになるんだよなぁ。
あと『コカトリス』は頻繁に目を光らせる体長1メートルくらいの黒っぽい鶏で、『ズラトロク』は光の矢をピュンピュン飛ばしてくる角が金色の山羊だった。
ふーむ。
ツンツンと、ナメクジの分裂作業をしながら思う。
(ここって、めっちゃ資源豊富だよなぁ……)
大半は食用になる魔物だし、衣類や装備など、生活に転用できる素材だってかなり多いように感じる。
草原エリアもここよりは劣るが、人の生活に必要な素材は食用含め豊富に揃っていたので、だからこそ砂漠なんていう生活のしづらい環境に身を置いてでも、『オーマ』と呼ばれる広大な根城を築き、ダークエルフ達はこの場所を上手く活用していたのだろう。
そして、ここまでくれば、もう間違いないな。
草原エリア・・・F~Dランク魔物
城下町エリア・・・D~Bランク魔物
このような流れできているのだ。
となれば、《夢幻の穴》がSランク狩場である以上、B~Sランク魔物の配置されたエリアがあって然るべきで、それは視界の先に大きく聳え立つも入ることのできない『城エリア』になるだろうと。
そう感じさせる一方で、確信めいた予感があるからこそ、到達するまでの困難さに頭を抱えそうになる。
たぶん、かつてゼオに進言した人も、このことを思って『辿り着くのが面倒』なんて伝えたのかもしれない。
だって爆速飛行でオドゥンのいない蟻地獄を探せる俺が。
『幸運』の値だって絶対低くはないはずの俺が、このエリアに到達するまで12回チャレンジし、8日も掛かっているのだ。
試行回数が少な過ぎてまともな確率なんて割り出せないけど、暫定的には城下町エリア突入でザックリ10%程度なのか?
そう考えると、目指す城エリアはいったい何%の突入率になるのか。
下手をすれば、数ヵ月探し続けても余裕で空振りする可能性だってあるだろう。
「いや~マジで悩むなこれ」
転がってきたマトンに槍をぶっ刺しながら、眉間をグリグリと揉む。
Sランク狩場がもしココしかないとなれば、突入できるまでエンドレスモードは当然だけど、ゼオが言っていたように他にも狩場はあるのだ。
まだ上級ダンジョンに行こうとは思わないが、大陸北東のアイオネスト王国に行けば、開かれたSランク狩場で確実に狩れるだろうし、その気になれば帝国が占有しているという西側のSランク狩場にだってこっそり潜り込むことくらいはできるだろう。
ここに全力を注ぎこむべきか、それとも後回しにすべきか。
「うーん、んん――、んん……?」
唸りながら、ホイホイと魔物を倒して収納していたら、突っ込んできたウガルルムの脇腹に視線が向く。
そこには黒い鉱物が付着していた。
俺がその素材の長剣を長く扱っているのだから、見間違えるわけもない。
「あれ? 出てくる魔物はBランクが上限なのに、ここで
ダマスカス
?」
気になって乱獲に切り替えながらそれぞれの鉱物を確認していくと、すぐに城下町エリアは
ブロンズ
からであることが分かる。
つまり取得可能鉱物はこうなるわけだ。
草原エリア・・・
鉄-アイアン
~
銀-シルバー
城下町エリア・・・
青銅-ブロンズ
~
黒鉄-ダマスカス
となると、この規則性のまま次の城エリアがあったとすれば――。
「最上位は、
S
に該当するアダマントではなく、
SS
のオリハルコンの可能性も出てくるのか?」
G~SSSまでに分かれた10段階のランクと、【鑑定】に影響が出てくる10~1という数字で分けられた等級は常に連動しているモノだと思っていた。
だからSランク狩場と聞けば3等級となり、自然とアダマントが入手できる鉱物の上限くらいに考えていたけど、この法則通りにいけば結果は異なる可能性が高いということになる。
まだ
アダマント
は極少量でも鉱山から採れるようだし、上級ダンジョンでも低確率で鉱物や現物装備がドロップすることは分かっていたからどうとでもなるが……
オリハルコンとなると、これはかなりヤバい。
【採掘】で得られたという文献情報が存在していないため、入手方法といったらそれこそ、砂漠などの地下に眠る遺物の中から極小確率で見つかるのを期待するしかないと。
いくつかの書物にはそのように記載されていた。
だから一部の上位傭兵のような、金で解決できる人間が裏で流れたオリハルコンを入手できるものだと思っていたが、低確率であろうと《夢幻の穴》で入手できるとなれば話は変わる。
まず俺が今後のためにどうしても欲しいのだ。
多重付与の要件には素材ランクも絡むのだから、3種付与を目指すならこのクラスの素材は必須だ。
いずれは特殊付与で身を固める可能性もあるだろうが、どう考えたって今はその段階にない。
それに特殊付与が存在しない防具に関しては、1等級鉱物がまったく分からない以上、オリハルコンが最終装備になる可能性もあるわけで。
そうなると相当な量が必要になってくる。
「《夢幻の穴》はSランク魔物というより、オリハルコンのために行く必要がある場所なのか?」
可能性が濃厚である以上、これは覚悟を決めた方がいいかな。
そんなことを考えながら、黙々と城下町エリアの魔物を狩り続けた。